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latteさんのアマカノ2 ~Perfect Edition~の長文感想

ユーザー
latte
ゲーム
アマカノ2 ~Perfect Edition~
ブランド
あざらしそふと
得点
94
参照数
107

一言コメント

秋の美しさが溢れる背景やCG、雅な雰囲気を作るBGM。モデルとした土地が良いからか風情や情緒がしっかり感じられる。画が滅法強いし告白シーンの演出も素晴らしい。恋する理由が明確、ストレスフリー、甘々とやりたい方向に振り切っていて、その上ストーリーがしっかり機能している√も。ただし、妙に理屈っぽかったり恋愛感情をやたら言語化しているせいで情緒たっぷりな素材の割にはそこまでキュンとしない恋物語になってしまったような……と途中までモヤモヤしてたはずが、終わってみると黒姫結灯のことで頭がいっぱいになって他のことが考えられなくなるゲーム。これ、洗脳モノでしたっけ?純愛イチャラブゲーって聞いてたんですけど…とりあえず結灯グッズはどこに行けば買えるのでしょう?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

顔と書いて「かんばせ」って久しぶりに見た気がする。
古風な言葉遣いが特徴的なテキストで、たまに学生のセリフに出てきて若干変に感じることもあるものの、ゲーム全体としては妙にマッチしている。何も時代設定が昔なわけでは全くなくて、スマホも普通に登場する現代の話なのに。


茶屋街、古い町並み、庭園、温泉街、城跡。
「秋」を感じる画づくり。紅葉の色が映える。
BGM『四季折々』も、花が咲いたように雅な雰囲気にしてくれる。
どの瞬間を切り取ってもとっても美しいOP。紅葉が画面全体を舞うシーンが特に印象的。


風情。情緒。


背景とBGMが「仕事」をすると、こうなるのか。
ゲーム開始していきなりヒロインの添い寝から始まるだけでも強いのに、緋衣亭前の場面になった瞬間に、思いっきり画面に、ゲームに引き込まれてしまう。モデルとなった場所も観光名所として有名なところだろうし足を運んだことはないので実物はもっとすごいのかもしれないけれど、こんなにも秋の美しさや風情を感じるとは思わなかったから新鮮で、衝撃だった。名所的な場所だけでなく、夕暮れの教室の光の表現も抜群で全く隙が無い。


立ち絵も全く浮くこともなく調和している。背景の写実的な表現に負けない線と絵の強さ。デフォルメされていない、というと言いすぎだけど、ヒロインの可愛らしさと現実的な美しさが同居したような魅力がある。一つ一つの表情が丁寧で、細かい部分の差異で繊細な感情や機微が表現されているように感じる。さらにe-moteで動きをつけてくれるのだから堪らない。

これに輪をかけて感動的ですらあるのが、一枚絵。ぼかし方、色合い、景色とキャラ絵の調和、場面と表情による心情表現。例えば、ちとせと窓越しの会話で印象的だったように、絵に魅了される。なかでもあまりの美しさに衝撃を受けたのが、ちとせ√のラストの一枚。絵に衝撃を受けるゲームは稀にあるけど、ここまでのモノはこれまでやったゲームでも本当に1~2枚あるかどうかだったと思う。目をここまで幸せにしてくれるとは。素直に驚かされました。


ヒロイン以外は立ち絵はなく、旧ヒロインも吹き出しで顔を見せるだけ。主人公の名前も変更可能で、没入しやすさにもこだわりを感じる。ちなみに主人公の名前をデフォルトにするとちゃんと名前で呼んでくれるので、こっちの方がヒロインを身近に感じやすいかもしれない。この辺は痛し痒しというか判断に迷うと感じた。(まあつまりラブリーコールシステムは偉大だという話です。名前を呼んでくれるパッチ出してくれないかな。新作に同梱されたら絶対買うと思います。)

テキストのテンポがよい。各場面に目的があって、心情描写、気持ちの整理や自覚、先の流れの前振りなど、コンパクトな文量の中にストーリーに必要な要素がちゃんと書かれている。余分な話がほぼないので、先へ先へと読んでしまう。Another viewはその典型。短い中に情報が詰まっている。だからどの場面もついつい見てしまうし、ちょっとした言動からヒロインの魅力を見つけることができる。

そして告白シーンの、オートになり曲が流れる演出も非常に巧くて引き込んでくる。主人公からとヒロインからの2種類あるのも◎。ヒロインからのパターンは、ヤキモキするシーンをはさんでくれるのがめちゃよい。

なぜ好きになったのかも明確な形で告白が見せ場をつくる。と、ここまでなら教科書どおりだけど、このゲームが優れているのはむしろここから。「初恋」を題材に1対1の恋愛を丁寧に描いたというだけあって、付き合ってからの二人の距離が、初々しさから徐々に想いを重ねていくように描かれる。

特に印象的なのが、玲との黒瀬温泉でのデート。今まで遊んだゲームの中で一番デートが上手に描けていたんじゃないかと思ってしまった。他所からきた玲に美しい紅葉の風景を案内しつつ、新鮮に反応する姿、二人で同じモノを鑑賞し、美しさに触れ、そこに相手の変化を、これまで見ることのなかった新たな顔や表情を見つける。とても自然で理想的な表現だったと思う。

初キスも、告白に劣らない見せ場として、二人の心情が、関係を深めたいという気持ちが分かるようになっている。ちとせの絵も素晴らしいのと、ここでも玲が庭園の風情を取り込んだ魅力的なものになっていて、すごい引き込まれた。生姜せんべいを差し出す絵があるように、そのヒロインらしさが大事にされている。


ただし、気になった点もある。

題材も、恋を知らないというようなコンセプトも、明確でわかりやすいけれど、恋愛一本かつ周りの人との関係も希薄な書き方のため、物語が平坦に感じやすい。序盤とのギャップがしっかり描かれてキャラゲーらしい面白さもあるが、性格や恋愛に悩む設定にそこまでの複雑さはなく、物語だけで深みを見せるのに限界があると感じた。

名探偵ばりに相手の内面を当て、論理的で恋愛マスター感の強い主人公や、理屈っぽい玲だけでなく、ちとせも言葉で感情を整理しすぎにみえた。

ちとせ√では部屋や温泉で主人公と背中を合わせるシーンがあるけど、さらっと流されていた。そういった表現がないわけでは全然ないのだけど、他の要素からはとても情緒を感じられるものだから、ちょっとした仕草や行動でもっと心情を表現しても、と思ってしまった。


と、ここまでが、黒姫結灯√をやる前の感想。

そう、何段階もの変身を残したラスボスよろしく、このゲームはいま挙げた点が気にならないくらい化けるのである。

※ネタバレ全開です。
※ゲームの感想は個人差があります。個別√のプレイ順によっても変わりそうです。念のため。




黒姫結灯√

緋衣亭で黒姫さんのためにカプチーノを淹れて、隣に座り黙って飲む場面。「……何も聞かないんですね」。無音の演出。書き方が丁寧で、カフェの雰囲気を上手く出している。言いたくないことは聞かない、と言う主人公。彼女が話し出すところで音楽が流れ出すのも〇。少し距離が縮まったようなこうした丁寧な描写が、良い意味でも悪い意味でも後に効いてくる。


「ーー聞いてましたよね?」

別のクラスの男子から告白される黒姫さん。覗き見した後に教室で鉢合わせするお約束の展開。ドキッとさせられるこのセリフ。「黒姫」らしい彼女の黒い部分が感じられる。
翌日の放課後、恋について語る主人公。理屈っぽい問答は相変わらずではある。けれど、見つめ合う二人とため息「…………」に、ホントにすぐ近くに居るような表現に、引き込まれるような良さもある。


「気安く呼ばないでくれるかしら」
「勝手に私を探して……偶然なんて言葉で簡単にねじ伏せて。
 私を暴き立ててそんなに楽しい? 本当に……迷惑よ」
 もう一度、風が吹く。
 そよ風だったのに、長い黒髪が、
 夜の帳のように広がった。
「私に、関わらないで」

飾り紐が解けて、口元を映す演出と、BGM『Luna nueva』。画面も音楽もガラッと変わり、ようやく本性と、周りと壁を作るための笑顔で覆われていた「素顔」と対峙する。主人公の理屈が炸裂して他の√なら告白かという流れで、思いっきり拒絶する。別に主人公の言うことが間違っているわけではなく、むしろ黒姫さんの内側を言い当てているからなのだけど、それでもこの名探偵ぶりを思いっきり否定するかのようなセリフに引き込まれた。

Another viewで思わせぶりなことを言わせて「わたし」を知ろうとすることを拒絶する、全く甘くない、真逆の、理屈っぽい部分が裏目に出たような書き方。独白では主人公に自分のことを知っほしい素振りも見せるから、彼女の性格描写は他二人と違ってより一層の複雑さがある。ここがよい。単に性格が悪いキャラではなくて、笑顔で壁を作ったり、黒いところ、悪ぶった口調も出しながら、でも根は素直で丁寧で思いやりがあるのでは、と思わせる書き方が上手。この性格の少し複雑なところが自然と伝わる。

惜しむらくは、このやたらとイケてるBGMはココのシーンだけ、「あんた」と呼ぶカッコいい黒姫さんも終盤まで出てこない。ただし、彼女の罵倒ボイスは、相手を蔑むような表情とともにアマカノグラフで聞くことができる。「大嫌い。私に近づかないで」。甘え度-100%なんて少し笑ってしまった。もうある意味ご褒美みたいなところがある。終盤まで待てずに罵倒成分を摂取したい人は、この東屋「紅葉山」のシーンの後でセーブ推奨。


「私の心の中を掘り起こして!
 私のことなんて、何も知らないのに言い当てて!!」
「本当に、迷惑ーー大嫌いよ!!」

黒瀬温泉に押し掛ける(ちとせと玲も一緒なので緩和されているが)少しストーカー気味の主人公。蛍雪楼の前で話す二人。黒い部分を思いっきり出して、土足で心の内に入り込んだことに、否定し、拒絶する。

ここも後の神社の場面も、主人公がまた理屈っぽく内面をズバズバ当てるのだけれど、あえて言い当てて、否定させて、そこを突破口にして内面に切り込む話にしているように感じた。振られてしまった隣のクラス?の男子君が象徴的なように、表面的な会話だけで距離を縮めているように書いても表現できないモノのために、このヒロインの彼女らしい内面を描くために、あえて主人公を全√ともこういうキャラにしたんだろうか。他の√では、少なくとも自分には欠点に見えるくらいだったのに、もし全体の設定からわざとやってるならかなり攻めているし、√ごとに主人公がブレないのはプレイヤーの没入に効果ありそうだし、純粋にすごいと思ってしまった。

「……嘘、ついた」
「なにが、嘘つきみたいな言い方はやめて、よ」
「私が……一番嘘つきで、おばかさんのくせに」

直後のAnother view。拒絶しながら、している自分に、葛藤する。
「嫌いよ。嫌い」。甘え度1%に回復する。自分で自分の感情が整理できてない、拒絶しようとしてるのに、心のどこかで甘えたいと思ってることの表現だろうか。胸が、ドキドキの代わりにズキズキする、という記述。期待しないようにする自分に対して、嘘つきという自覚的な描写。黒姫さんの黒姫さんらしいところが詰め込まれたようなシーン。




「そうしたら『「わたし」じゃない。思ったのと違った』
 そう言われるだけ……」
 少しだけ俺の背中に体重がかかる。
 黒姫さんの髪が首をくすぐり、ふっと彼女の甘い香りがする。

夕暮れの教室。寝ている主人公を暖めようと後ろから抱きついたのがバレて、思わず頬を叩いてしまう。とても顔を見せられないと座り込んでしまった黒姫さんと、背中を合わせて座る。「なんで座ってるのよ」。彼女の怒気を含んだ抗議の声に、黒姫さんが自分の事を責めないならこの場から立ち去るという主人公。
そうした流れから自分のことを語るセリフは、背中に少し体重がかかるといった記述によって、背中越しだからこその些細な動きによって、発する言葉に込められた心情の繊細な部分が表現される。


「今……絶対、振り向くなぁ……」

主人公が言い当てる「自分」に、言葉が詰まる。黒姫さんからの答えはない。ただ、黒姫さんが小さく震えていることは背中から伝わる。という記述。面と向かって話しても伝わらなかったモノが、背中を伝わる反応によって届いているよう。顔を見ていないのに、そこに「素顔」が感じられる表現。見せたくないのに見てほしいと期待してしまうその「素顔」が、顔を突き合わせないことによって、零れてくれる。ここのセリフは、この場面を作中でも1、2を争うくらい好きなシーンにしてくれた。ここまで溜めてきた、ずっと素直になれなかった彼女の本音がようやく「姿」を見せる瞬間。

このゲームを評価するのも、結灯√が特別好きなのも、このセリフと、上に書いたように、ちとせ√で「背中合わせ」がテキストに出てきながら全然印象的に使われていないところが大きい。表現を被らせず差をつけるため意図的にやっているのだろうか。もしそうなら最高に納得できる。「背中合わせ」の会話はそれだけでドラマチックになりそうだけど、ちとせや玲でやっても意味が全然違うだろう。ここは「顔」を見せていないのに、それによって「素顔」が伝わることに、ずっと「素顔」を隠している結灯が隠したまま吐露するところに、特別さを感じてしまう。

場面の重要度からいったら絶対一枚絵を付けそうなのに、このセリフのところは教室の背景だけ。でも顔を描いてしまうくらいなら、ここはいっそ絵がない方がずっといい。絵がないからこそ、お互いが相手を見ていない、声と背中から伝わる重さや熱だけということが表現されるんじゃないだろうか。

「嫌い、に決まってるわ」。甘え度が60%になる。アマカノグラフが好感度ではなく「甘え度」になっていることにも理由がある気がしてしまう。好きの反対が無関心のように、甘えの反対が拒絶ということだろうか。嫌いと言いながら、拒絶しようとしながら、どこか期待している自分がいる。甘えようとしている、甘えてしまっている、そうした表現に感じる。




「楽しかったわ。ここ数日はずっと楽しかった。
 引っ越してきて……良かった」

神社での問答、準備と文化祭本番を通じて心を開いてく結灯。メイド姿も強いのだけど、付き合う手前の二人の距離を丁寧に描いてくれるのも魅力的だけど、さらにこのセリフが結灯の物語としての意味も足してくれる。心情表現や恋愛描写に隠れて目立たないが、ストーリーが機能していると感じられるのもこの√が好きな理由。


「当然よ。もっと知って欲しい。
 あなたに私をぜんぶ知って欲しいもの!」

放課後の教室で結灯から告白されるシーン。偽物の自分を演じていた彼女が、自分を曝け出すのを恐ていた彼女が、このセリフを言うまでになる。これまでの話の流れを活かした結灯だから感動するセリフ。鼓動を使った気持ちの証明も印象的。「……あぁ……ほ、ほんと……?」という、主人公に付き合ってほしいと言われて聞き返すセリフの声も凄まじく良い。


ゲームセンターでのデートも素晴らしい。玲のように風情を感じるといったことこそないものの、初めて遊ぶ結灯の新たな一面、可愛い一面をたくさん見せてくれる。
レーシングゲームで揺れる座席にお互いの身体が触れる描写。スマホの連絡先交換で、慣れてないから返信遅くなっても嫌っているわけじゃないと言い訳しておく、自分を受け入れてほしいという気持ちの表現。クレープをちぎって食べさせ合うのも。初心だから、どうするのが正解かわからない、でも嫌われないように、上手に、正解をやりたくて、謝る。性格や内面がこんなに伝わる書き方。トドメとばかりに、頭を撫でられるのを子供扱いしないでほしい言いながら、やめないでほしい、ホッとした表情をみせる。下の名前で呼ばれて照れる。何度も呼ばせる。
素直じゃない、なかなか素直なところを見せられない、という結灯の内面をこれまでのストーリーを通してプレイヤーが分かっているからできる、自然であまりに魅力的な場面だった。


授業中に結灯の教科書を二人で読もうとする場面。この小声の感じ。もうちょっと、と肩を寄せることをねだる時の目を逸らす表情。なにこれ。しかもちゃんと寄ると表情がアップになる。
これだけでも相当なのに、机をくっつけてノートの端で筆談を始める。ナニコレ。「甘い」ってこういうこと?これは、甘すぎる…!シャーペンを走らせる音。丁寧な演出。スマホのチャットは2つ、3つしかメッセージを出さないのに、そっちを物足りなくしておいてノートには何個も書いていくのか。手書き感も、揃ってない感じも堪らない。これ思いついた人天才すぎる。

お互いのシャーペンを交換したりハンカチを渡す流れから、キスを意識する二人。ちとせ√と同様に放課後の教室がキスシーンに使われるのだけど、序盤の机で寝ていた結灯がまた出てきて、ちゃんとこの√らしさを演出してくれる。起きたところのカットがやっぱり可愛すぎる。瞳が、表情が、ぼかした背景の夕暮れが、射し込む光が美しい。

「こうして寝ていれば、賢一が見つけてくれるから」
「偶然……くすっ、そうね。でも運命的で私は好き」

二人だから意味が伝わるセリフ。こうしたセリフが効くのも物語があったから。




 でも、そうされてしまったら、きっと私は
『身体を捧げているから、かれが愛してくれている』。
 ーーそう錯覚しながら付き合うことになっただろう。
(何かの代わりでも誰かのためでもない。
 ただ、私を愛してくれるんだ)

結灯の家で。初Hシーン。
身も心も、主人公を受け入れる結灯。『何かの代わりでも誰かのためでもない』。この要素が行為にも表現される。ずっと周りを気にして、周りのために行動して、笑顔で偽って、本当の自分が分からなくなっていた彼女だから、「素顔」を、その人そのものであることを愛することがしっかり意味をもつ。

この√は付き合うまでに乗り越えるハードルが高くてちゃんと中身があるのに、ヒロインのほかの側面を主人公もプレイヤーもまだまだ知らないからデートシーンも生きるし、その先を、恋愛が深まることを絡めて描くことにも成功している。ただのエロシーンというだけでなく、物語上の内容があって、結灯が彼女の問題を1つ前に進めていることの表現でもある。
「私も、大好き……本当の私を……抱いて……」。本当の私、というところに結灯らしさが感じられる。これを涎を垂らしながら話すのがまたすごい…。結灯らしさとしての内面を描くことも、エロさも手を抜かない。

「嫌ぁ……」
「ぜったい、エッチな顔になってる、私……はぁっ」

本作の一番好きな場面は、ここまでの流れから丁寧に書かれた行為の中に出てくる。身体が慣れてきてソレが顔に出てしまい、手で顔を隠す結灯と、キスができないからと手をどかされることに、抗わない描写。なに、これ…。破壊力がありすぎる。エロシーンの興奮する要素なんて、構図だったり塗りだったり声や音だったりいろいろあると思うけど、ヒロインの顔の、「表情」の表現にここまでやられることがあるなんて全く予想もしなかった。あの「背中合わせ」の場面も凄かったのにある意味それを超えている。特に「顔」に意味がある結灯でやるのだから、堪らない。可愛さも、恥じらいも、エロさも、ヒロインの性格の出し方も、物語上の「文脈」の絡め方も。キャラゲーを極めるとこういう表現に行き着くのか。なぜ人は美少女ゲームに、二次元にハマってしまうのか、なぜ「嫁」という概念が存在するのか。語彙力もIQも消失した頭が理解させられてしまう。このゲーム凄すぎ。「黒姫結灯」が強すぎる。




「ーー美しい、変化だったよ」

両親との関係にわだかまりと不安が拭えない結灯。しかし、主人公の影響によるものだと、顔をみて一瞬でわかったと、父親が本音を明かす。結灯が変わることができたこと、彼女の成長を認め肯定する。『そして、いつか』が場面に非常に合う。

「良かった……私、これでいいんだ……」

部屋に帰り、涙が零れ、泣きじゃくってしまう結灯。涙を見せる「顔」の絵。ハッとするような美しさ。こんなに涙を流す絵はたしかここだけだったはず。
残りの冬休みを過ごす二人の、実家に帰る前よりいい笑顔になった、という会話。短いけどこういうエピソードを入れて大事な変化を描く。巧い。


結灯の誕生日をクラスの友達も含めて祝う。ここまでに、文化祭が終わっても楽しませると言った約束を守ってくれていること、本当は勉強ができないことをみんなに伝えたときの、勇気をもらったことについてのくだりがあって、これまでの要素が収束していく。

みんなに隠していたことを打ち明ける結灯。夕方の教室。序盤から出てきた結灯にとって象徴的な場所。でも、もう机で寝ていた彼女も、壁を作っていた彼女もいない。一歩を踏み出すのが「この場所」であることが、物語上の必然を感じられてすごくよい。

「ありがとう。今、私、自分が好きよ。
 それに気づかせてくれたのはあなたなの」

そして以前の、あんた、と呼んでいた「黒姫」を演じたご褒美感満載のHシーンも嬉しいのだけど、甘え度がMAX300%のこのセリフに、結灯が到達した先のこのセリフに、主人公への想いだけでなく「自分が好き」が出てくるところは王道だけど胸にくるものがある。


「でもね、いい子じゃないくていいの」
「自分のことを好きになって大切にできること。
 ……その方がずっと素敵なことなの」

バレンタインではなく、まさかの節分で締める流れ。少し前と違って今度は迷子の子供と向き合う結灯。彼女が乗り越えて来たもの、手に入れたものが、過去の自分を思い起こさせる少女との対話で表現される。これキャラゲーだよね?と疑ってしまうくらい、ストーリーが最後の最後まで機能していて、場面に、絵や背景に意味が与えられ、ヒロインの魅力を、内面の成長を感じさせてくれる。素晴らしい一枚絵と挿入歌の演出も相まって、しっかり感動させれられてしまった。

そして締め方がもう…最高だった。冒頭の会話を使った、ヒロインだけでなく物語としてもこんなに美しいなんて。

「何だか、とてもいいものが見つかったみたいだね」
「ええ、宝物がようやくね」
「結灯の宝物は?」
「決まってる」
「今の私が、『宝物』ーー」




声優の方の演技がとてもハマっていて、ヒロインをより魅力的にしてくれる。玲の落ち着いた声の中で、大事な場面では感情をこめられるとしっかり感動したし、ちとせは聞いているうちに声がとても自然に感じられてずっと耳が幸せだった。歩サラさんは流石だったというか、例えば、ちとせ√の商店街デートでの「恋人同士の行為だと思ったら……ドキドキ、するね……」の、するねの言い方なんかもう堪らなかった。
明羽杏子さんの声も開始直後からずっと惹かれていて。結灯の魅力と切っても切り離せないこの声とセリフに込められる表現。裏の表情も、素直になった顔も、オーバーでない、演じていることを感じさせない自然さがあって、これこそ「表現力」なのかなと思ってしまう。
あと、スタッフロールに出てきたプリント機に笑った。ボイスが出てくるところありましたっけ?

BGMがこのゲームの繊細さを巧みに表現していたと思う。静かな大人しい曲たちの中に、たくさんの表情があって、曲数が多くないことに驚くくらい多彩に感じてしまった。
タイトル画面から引き込まれる『ずっとそばで…』。『夕焼けのひだまり』『夕映え影二つ』『朝焼けを待つ君に』『そして、いつか』など、良曲ばかりな上に、場面に合うと感じることがとても多かった。特に作中何度も使われていた『想いのカタチ』は、ピアノだけでなく、サックスが非常に場面にはまっている。ピアノや弦の音がいいBGMはたくさんあったけど、管楽器という点も、サックスもとても素敵。もっと増えて欲しい。

エロシーンも相当力が入っていた。シーン数も多く、着衣、コスプレへのこだわり、ほとんど本編に入っていて物語の文脈も与えられている。絵がとにかく抜群にエロい。そして、ちゃんとヒロインの恥ずかしがる様子を引き出してくれる。エロシーンだけ飛ばせる機能もあって、いろんなプレイスタイルに配慮してくれているのが嬉しい。


これまでキャラゲーの良さってあまり分かっていなかったのですが、エロゲを遊んで幸せな気分に浸るという貴重な体験をすることになりました。ヒロインを描くってこういうことか。アマカノ2、半端ない。