BGMや音にこだわったゲームはたくさんあると思うけど、やっぱりストーリーと合わさったところにノベルゲーの音楽の良さがあるよね、ということを再認識させてくれたゲーム。特にシリアスな場面において、BGMがしっかりハマっていてグッと感動させてくれる。心の欠片、魔女、代償といった設定が登場人物の心情や成長を自然と描く形で効いていて、声優の演技を生かすことに拘りを感じるゆずソフトがストーリーまで良かったら、そりゃ最強だろ、となるに決まってる。キスシーンの絵が抜群に良い。どのヒロインも可愛いのに、因幡めぐるがそれに輪をかけて魅力的。何この理想の距離感。後輩キャラでこんなん反則じゃん。ただ、ネタキャラやエロさも含めるとMVPはやっぱりーー
RIDDLE JOKERと比べると、エロシーンはそこまででもないかなと思っていた。絵は構図も塗りも相変わらず抜群にいいし、キャラの魅力も負けていないし不満はないのだけど、あちらの方がキャラの普段とのギャップをより感じたというか、テキストがやたらエロかった。後年のゲームなのだから改良されていて当然ーーそう思っていた、綾地寧々√をやるまでは。
ゆずソフトのエロさに驚かされるのは、萌えや可愛さとのギャップ。
立ち絵からキャラ設定から、コミカルで、くすっと笑える部分も含めて丁寧に可愛らしく作っているかと思えば、エロシーンになると実はこんなに性欲があったんです、と言わんばかりに乱れてくれる。
絵やテキスト、声の演技がいかに良くても、直接的な表現を見せつけるだけならこのエロさは出ないはずで、可愛らしさの裏に隠されているからこそだと思う。(例えば、凌辱モノにある快楽堕ちなんかに似ている。酷い目に遭うヒロインに、簡単に墜ちてほしくないというコメントが見られるのには理由がある。初めから堕ちていては成立しないし、快楽に抗うからこそエロい。)
キャラが可愛く、その内面も含めユーザーを夢中にさせてほしいし、それをエロさに結び付けて欲しい、そういう願望を叶えてくれる。ここのバランス感覚が優れていることが、このメーカーの強みなんじゃないだろうか。
しかし、純愛ゲーだから、キャラの可愛さとのバランスをとる必要もあるから、そこには限界がある。キャラ崩壊するほどの「快楽堕ち」はしないし、そうすべきでもない。ネタ的にそういう発言をしてもエロ売りはしない。恥じらってほしい、と同時に、本当はエロいという内面も全て暴きたい。こうした倒錯的な願望は、キャラを楽しめる範囲においてのみ不十分に充たされる。本来、そのはずだ。
ここに、本作の、綾地寧々√の真の価値がある。
以下は、ルートごとの印象に残ったシーンや感想です。
※ネタバレを多分に含みます。
ようがす先輩√
特徴的な口癖。「ようがす」はそんなに回数はないけど個別でも他√ でもちょくちょく出てくる。斜めから見た立ち絵が可愛く、顔が少し赤くなる差分は、普段の表情とほんのちょっとしか違わないのに、そのちょっとが可愛い。
「わたしも、好きです。お付き合いして下さい」
一つ前のセリフの語尾から、ちょっと声量が落ちて、少し押し殺したような声に感情が込められる。息づかいが、吐く息が、わかるこの感じ。特に重要な場面で出てくる、この演技が本当に堪らない。(名義が違うのでアレですが、声が似ていると言われる方が出ているゲームを何作か前にプレイしていて、とてもハマった演技。まさかまた聞けるとは思ってなくて、この√は本当に嬉しかった。)
「そういうの、わかっちゃうくらい、一緒の時間を過ごしてきたんだよね……なんで、なんでだろう……なんで忘れちゃってるんだろう」
「ゴメンナサイ、本当にゴメンナサイ……わたし、何も思い出せなくて」
記憶を失っていく自分に戸惑いながら、自分を責めて、別れを切り出す先輩。話の流れとBGM『叶わぬ願い』だけでもグッとくるのに、声がこもった、感情の乗った演技がさらに何倍にもしてくれる。
「わたしってね、欠陥ばっかりで。空っぽで、目標もなくて、おまけに記憶まで……色々、足りなくてゴメンね」
生徒会長で勉強もできてみんなの憧れでもあるのに、出自の関係で目標もなく、自己評価が低い先輩。この√も、他の√も、足りないものを埋めること、空っぽだった心を満たすことが、ヒロインや主人公の目的として扱われる。
「足りない分は、オレが埋めます。だから、オレと一緒にいてください」
ここの柊史は本当にカッコいい。別れを切り出した先輩に、自分の秘密を打ち明ける。人の気持ちが感情が流れ込んできて、止められないこと。先輩と同じで『空っぽ』で、足りないなものがある人間だったこと。それでも気持ちを全く感じ取ることができない先輩と過ごすことで、人の気持ちを察することができない自分に気づき、努力し、自分に足りないものを埋めることできた。だから、今度は先輩の支えになろうとする。ここまでの話の要素が収束し、別れを切り出す先輩に想いを、成長したからこそのセリフを、ぶつける。この王道展開。
「諦めることが普通になると、自分にとっての大切な物まで、捨ててしまうことしか選べなくなると思う」。共通から越路さんを使って、主人公の問題や少しずつ成長する姿を描いたのを、さらに発展させる。設定と流れがうまくかみ合い、演技もすこぶるいいので、しっかり感動させられてしまった。
この√は主人公がちょっと男らしすぎるというか、強引にこられた方が好き、という先輩の設定に合わせた感がある。この後の展開もシリアスが効きすぎているのと、最後は主人公の想いを文字どおり拳で表現していて、え、そんなキャラだっけ? となってしまい、ちょっとライター(か企画者)の個性が出すぎているように感じてしまった。
なので、自分的にはこの部室でのシーンがクライマックス。設定がしっかり回収されているという意味でも十分満足できた。
紬√
男装学ラン女子。話を進めると、この格好でも十分可愛く見えるから不思議。声優の方の演技も可愛さに振っていてハマっている。主人公や周りに対する寛容など、内面も上手に描かれていて、キャラの可愛らしさを引き立てる。
男装でも可愛いのに、ハロウィン仮装や、後半の女の子服でさらに化けるのがずるい。本当にずるい。夕暮れの観覧車でのキスシーンは、作中屈指のCGだと思う。
紬が魔法で叶えようとした願いはあっさり明かされ、内容も肩透かし感がある。だから、話の本筋がアカギの問題解決と成長になっているところが印象的。
アカギの目的も共感できるし、目的のために他人には配慮しないところも、人間になる途中のアルプなら同情できるところもポイント。こう思わせておいて、自分の目的のためだけに行動できないことに、アルプとしても人間としても出来損ないだと自分を責める。
「一番、大切な約束だったはずなのじゃ!」
「なのに……なのに、他のことも大切に思えてしまうことがあるッ」
「もう……50年も経ってしまったのじゃ!もっと、もっと急がねば」
「もっと最短距離で約束を果たさねばならぬのに、迷ってしまう」
そんな姿に、人間らしさをみる柊史と紬。
最後は、集めた心の欠片たちを放棄してまで問題を解決しようとするアカギ。人間らしいその成長を見ることができると同時に、皮肉にも人化の能力も失うくらい後退してしまうところも、アカギの成長を受けて覚悟を決めた柊史の心の穴が埋まるところも、紬の欠片が集まってアカギのために魔法を使うところも、ほんとよい流れだった。エピローグでダメ押しとばかりに、紬が今後はアカギを友人として迎えるために契約をする。(寧々√と矛盾していたり、アカギの約束の人が身近にいて都合よすぎるといった)細かい粗が気にならないくらいに、いい結末だったと思う。
表面上はノリがあれな父親が実は……というのを主人公を通して見せてくるところも巧い。卑怯なくらい巧い。泣くだろこんなん。
魔法や代償がキツイものとして使われる分、登場人物たちを悪く描くことなくドラマを作ることに成功している。寧々√で主人公が想いを自覚するのに海道を上手に使うところも含め、登場するキャラの魅力を余すことなく出せている。
和奏√
共通の冒頭から海道とともにつくる友人の空気感がいい感じ。「うひひ」が癖になる。なんだよ、うひひって。この変な口癖が、言い方だけで魅力になってるんだからすごい。この√のためのライブ映像、告白を見守る他のヒロイン、このキャラらしいくっつき方などがよかった。「ブレイブマン」を和奏が言うところがツボ。
めぐる√
「それにだ。あっちは正直、今日お前を見て驚いた」
「千穂子から聞いた印象とまるで違っておったからの。そんな洒落た服を着こなして、こう、なんじゃ、いけておるとはな」
「これは、この格好はね……」
「うむ。わかっておる。あっちと、千穂子は、わかっておる」
うんうんと、大仰にうなずいて。
そしてアカギは、あっさりとした調子で言った。
「お前はーー」
「このままじゃダメだと、ちゃんと立ち上がったのじゃろ?」
魔法の代償をベースにした話は、この√でもしっかり重い。
アカギがいい仕事をしている。使い方が本当に巧い。ちーちゃん本人が忘れてしまっても見届ける役割を用意することで、願いが本当の意味で叶ったことの証人として機能している。共通でのめぐるがオカ研に持ってきた相談がここはそのまま繋がっていて、めぐるの努力や頑張りを肯定し、そこに『意味』を持たせてくれる。めぐるのキャラも相談内容も一見すると軽いように思えることもあって、ちーちゃんの願いと頑張りとのギャップに感動させられてしまった。
この√はシリアス展開が(ほぼ)ここまでで、後はひたすらイチャラブに浸ることができる。
めぐるの魅力は、何といってもその距離感。マジエロセンパイ!と言いながら、一応恩を感じて、慕ってくれるこの感じ。この後輩キャラを生み出したのも、理想の距離感も、主人公への好意が無自覚なのにダダ洩れの描き方も、天才としかいいようがない。
遙そらさんの自然な演技は手放しで称賛できる。有名な方だし、今更すぎるのもわかっているが、なぜ二条院羽月のときにこの魅力に気づくことができなかったのか、自分の耳や認識能力を疑うくらいに、ハマってしまった。
柊史を抱きかかえた一枚絵の、めぐるの表情の柔らかさも、良質なCGが多い本作の中で抜きんでた一枚だと思う。
めぐるのボッチ設定が象徴的だが、オカ研に集まるみんなはどこか「一人」というか、人付き合いに一歩引いているところがある。この共通要素によって、キャラもバラバラなのに統一感やまとまりが感じられ、心の欠片という設定が生きるし、物語を通じて付き合い方の変化、本音が出せるようになるなど成長を描くことに繋がる。魔法がシビアで都合よくいかないように描かれているところも、むしろそうすることで、心の成長によって本当の意味で願いが叶うということを表現できていると感じる。
綾地寧々√
「ーータ、ターイムッ」
「アリです! アリアリです! 前半2回、後半3回、延長は1回までアリなんです! アリじゃないと困ります。そもそもいきなりすぎますよぅ」
SD絵からの告白シーンは、真剣ながらどこかコミカル。二人してアンケートの最後の設問の今好きな人がいますか?にどう書くか悩みながら、お互いを見て赤くなってしまう。この何とも可愛らしい構図からの流れ。
意を決して告白する柊史に、テンパる綾地さん。「ーーぽッ」「ーーーぽんぴあッ」「ちょ、あ、え、その、えと、うええぇぇぇ……」「え? なんですか?」「あっ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」。発情しちゃうんですよと、自分は普通じゃないからと、断ろうとする綾地さん。自分も普通じゃない、自分の能力がダメってこと?と柊史も引き下がらない。
ここは、綾地さんの抱える問題、内面に両親の離婚が影を落としていること、簡単に恋人になると決断できないことが明かされる重要な場面でもある。これが告白を盛り上げるだけでなく、物語を動かしていく。
家に帰った後で一人悩む綾地さんのSD絵。「あわわわわわわわ……こ、告白されて……しまった」「保科君が私のことを、好きって……好きって………………」「ーーコポォッ」。意味不明な擬音までここまで可愛いヒロインもそういまい。
友人としてです、と言いながら一緒にお昼を食べる。誰かのためにお弁当をつくるのが初めてで、料理を作っているとき楽しかったという綾地さん。どのヒロインも料理上手で、普段から家事をする柊史との距離を縮めるためのアイテムなのだけど、自身の想いを自覚する要素として、料理はこの√でも大事な意味をもつ。
「本当に重要なのは『好きでいてもらう努力をお互いにすることじゃないか?』って」気持ちは決まっているように見えるのに、自分が今までと変わってしまうのが怖いと思う綾地さん。変わらないための努力を、お互いに好きでいてもらうための努力をすべきと、ようがす先輩の言葉が背中を押してくれる。この言葉によって綾地さんが一歩を踏み出し、柊史の告白へ答える。
「私も、私も好きです。大好きです……っ。私と、恋人になって下さい」
柊史をソファに押し倒しながら、キスを迫る一枚絵。発情しながら、自分の恥ずかしい部分の告白を受け入れてくれた柊史に、もはや気持ちを抑えられなくなる。
「本当はずっと……告白されてからずっと我慢していたんです。気を抜くとすぐにオナニーしたくなっちゃって……」
「もう無理です。我慢できません。自分が抑えられなくて………………だから先に謝っておきますね。ごめんなさいっ」
ここのキスシーンの絵は、作中でも一番好き。可愛くて、エロい。どちらも、ぶっちぎりで。
本作はほかのヒロインもキスシーンの絵が本当に魅力的。その中でも、紬の遊園地でのカットは群を抜いている。だが、可愛いさに妖艶さが加わるという意味では、綾地さんのここの一枚絵は他の追随を許さない。
「いいんだ。嫌じゃなかった……というか、オレもよかったから。綾地さんとのキス」
「そ、その褒め方は……ちょっと微妙です」
「じゃあ、よくなかった? もうしたくない?」
「それは………………よ、よかった、です。また、したいです」
「そっか。じゃあ……する?」
「それはっ……ぁ……ぅ……します。しますけど……そんなこと訊くなんて、やっぱりイジワルですよぅ」
「ん、んん、きらい、イジワルなのは、嫌いです……ちゅ、ちゅ……んちゅ……ちゅ、ちゅる、あぁ、本当に嫌いですから……んんちゅ、じゅるる」
だらしなく垂れ流す唾液。汗ばんだ肌から立ちのぼる綾地さんの匂い。うっとりした目で、ひたすら柊史の唇を貪る、という記述。普段の姿からは想像できないくらいの乱れっぷり。
ゆずソフトがエロいことは、以前やったRIDDLE JOKERによって自分の中では証明されているのだけど、綾地さんは別格。発情に、快楽に翻弄されながら、イジワル、嫌い、と言う。身体の抑えが効かないことは自覚しているのに、自分から求めてしまうのに、認めることも口に出すことも嫌がる。契約の代償のはずなのに、借物のはずなのに、まるで本物かのように乱れる。その上で口では否定しようとする。
こんなこと純愛ゲーで起きるのって思うくらい、淫らな部分と恥じらう部分を両方とも振り切っている。共通からの綾地さんの内面の真面目さ、(本来は)清楚なキャラ設定、柊史の告白に答えるまでの真剣な悩み方など、ちゃんとシリアス面も描いていること。序盤から発情に振り回されるコミカル面を見せていること。これらの要素が、見ているこっちの頭がおかしなくるほど振り切っているはずのその姿を、キャラ崩壊しているとは認識させてくれず、綾地さんというキャラの範囲に収めてくれる。なにこの最強ヒロイン。
エロシーンの絵も構図も塗りもすごくよい本作だが、ここは、裸にタイ、ニーソックス、脱いだパンツを足にかけるなど、フェチ度も全開で120点あげていい。本当によくわかっている。このほかにも、部室で変身した魔女姿、初体験2回目、目の前で自慰をさせる、目隠しローターなど、内容も濃い。特に、後半は代償もなくなるのに、柊史の前だからと相変わらず発情してくれる。どのエロシーンの絵も、彼女の発情っぷりが涎で表現される。この涎を垂らしながら乱れる姿はそれだけで本当にエロい。後半の柊史も、心の欠片をもらったからって、そんなノリのキャラだっけ?というくらい綾地さんをイジメていて、自慰回数を白状させたり辱めてくれる。そして期待どおりに毎回恥じらってくれる綾地さん。
書く順番が逆になってしまったけど、ラーメンで体調を崩した綾地さんのお腹をさするシーンも、やたらエロかったりする。しかし、ほんとに隙が無いなこの人。
閑話休題。
心の欠片が揃ったら、柊史の心に空いた穴が塞がったら、魔法によって離れ離れになってしまうことを知った二人。別れを切り出す綾地さん。自分の気持ちに正直に、一緒にいたいと、離したくないと、柊史が後ろから抱きしめる絵がグッとくる。以前の自分なら早々に諦めていたという独白があるとおり、主人公の成長と絡めて描かれる姿がかっこいい。
二人の初めてのデート。残された時間を、お互いを思いながらイチャつく様子を、丁寧に描く。
「はい、私、幸せになります。それで、柊史君のことも幸せにしてみせます」
「はい。絶対です、約束します」
「少し時間がかかるかもしれませんが……私は絶対に、幸せにしてみせますから。それで、また2人で心の底から笑いあいましょうね」
部室で迎える最後の時間。消えていく寧々。夕日の淡い色合いの中に、銃ごと魔女姿を抱きしめるCGが美しい。(不自然にお尻を見せるサービスもあるのだけど、お話がそれどころじゃないので全く気にならなかった。)
二人とも運命は避けられないと理解していて、その葛藤も描かれてきたから、柊史の、引き留めたい気持ちを抑えて、両親との問題を解決することは大事だからと笑って別れることを促すところも、寧々の、今の柊史の心にまた穴が空かないか心配しつつ、自分が過去に戻ってまた柊史を幸せにしてみせると言うセリフも、お互いを思うそのやりとりにとても心を打たれてしまう。
柊史が寧々と一緒にいて、変わることができたこと、心の底から笑うことができるようになったこと。寧々も柊史と出会って、契約ばかり考えていた頃とは変わり、「昔の自分に戻ることは……凄く、寂しいこと」だと思えるようになったこと。共通から描かれてきた二人の成長、間違った思いとそれを正すことができたことに自覚的になる描写が、さらにこの場面を心動かすものにしてくれる。心の欠片を集めてついに魔法を使う瞬間なのに、それももはや不要なくらい、魔法を超えたところにまで心が成長している、というところが巧くできていて、それなのに魔法を止められないことが、別離が避けられないことが、ただの別れではない一層深い悲哀を生んでいる。
『二人の魔法』が流れる。寧々は、魔法を使いながらそこに柊史をまた絶対幸せにすると想いをこめる。柊史も、抱きしめて銃口を左胸に当てることで、詳細は後で明らかになるが七緒の協力を得て、再度寧々を思い出すための想いを込める。『二人の魔法』はほかの√でも流れるし、魔法を誰かのために使うところに、願いが自分ではない二人目に向いているところに意味があると感じていた。けれどここの場面によって、寧々と柊史の想いが一致し二人の願いがこめられていること、それそのものが「魔法」であると強く実感できたことによって、曲も、その曲名も、本当の意味で「意味」を与えられたように感じた。作中で最も好きな場面。『二人の魔法』はここをやる前と後で大きく感動が変わった。クリア後も、聴くたびにここの二人を思い出してつい泣きそうになる。
「いってらっしゃい、寧々」
「……はい。いってきます」
手前の「絶対です」も、ここの最後の「いってきます」も一枚絵の横顔だと顔に出ている感情が読み取りにくいのだけど、セリフの脇の表情差分はちゃんと笑顔になっている。ここが笑顔であることが、柊史が促し寧々が受け入れた「笑顔」がちゃんと表現されていることが、最後の瞬間を、特別なものにしてくれる。
EDは、記憶から綾地さんが消えてしまった様子が描かれる。ただ、最後に再び出会うような描写があって、この世界線でも希望を残してくれる。
RESTART
「……ウソツキ………………ウソツキぃ……」
「好きになるって……出会えば、私のことを好きになるって言ったくせに……そんなこと、全然ないじゃないですかぁ」
「一体、いつになったら好きになってくれるんですか……バカ……バカぁぁぁ……」
Chapterが初めに戻って、綾地さんの物語としてやり直す。両親のことも義母のことも今度はちゃんと向き合った結果なのに、話が不安な方向に少し変わってしまう展開がなかなかにキツイ……。魔法をもう使えないが、それでも望んだ未来を掴むために頑張る綾地さん。健気さに、その前からの展開とあわせて柊史と幸せになって欲しいとグッと感情移入してしまう。共通序盤のあの「図書室の場面」もプレイヤーを引き付けるように巧く使われる。
だから、予想よりずっと上手くいかないと思わせておいて、前の柊史が持たせていたものによって心の穴を埋めて気持ちを取り戻すところは、期待を満たしてくれたことに感動させられてしまう。思い出を振り返る演出、膝枕のCG、「……ただいまっ」と表情差分の笑顔。二人の魔法が叶った瞬間。そうなるだろうと思っていても、表現の仕方が巧いから、やっぱり堪らない。
なお、オナニーネタもダークサイド堕ちも出てきて、シリアスなのにギャグっぽいところもあるのが、何とも綾地さんらしい。
EDも、頑張ってきた綾地さんに対してそれが報われたことを、綾地さんには自身の目的があってそのためではあったけど、でも助けられた側にもちゃんと意味があったことを、オカ研や学院の仲間を使って表現する。クライマックス感は柊史が戻ってきたところに及ばないけど、いい幕引きだったと思う。
オナニーマスター、ロットマスターという全然憧れない称号。序盤からダークサイド堕ちと、「え? なんですか?」によってスタートダッシュを決める。「死のう……もう、死ぬしかありません……腹を切るしか……っ」「……もうやだ、お家帰るぅ」といった名台詞(?)、スース―する、秘密兵器を複数所持、リモコンを片付け忘れる、などネタが可哀想なくらい豊富すぎる笑 回転寿司のお湯で手を洗おうとしたり、ラーメン注文時の呪文や目のハイライトが消えた「ラー……メン?」も忘れられない。
シリアスもエロもいけるのに、ネタキャラにも手を抜かない。メインヒロインの鑑だよ、ほんと。
真面目なところも、コミカルなところも、そのギャップも、自然かつ感情がしっかり乗っている演技に引き込まれる。これ以上ないくらいに声がハマっていた、というか桐谷華さんって元々こういう声でこういう性格なのかと錯誤してしまうレベルだと思う。このお方のいろんな感情の演技をこの振れ幅で堪能できる、それだけでも本作は価値があると思う。
システム面は快適で、絵も美しく(例えば、「痛いの痛いの、とんでいけ~」の綾地さんと窓から見える背景 etc.)、ヒロインの立ち絵も、声優の演技に合わせてコロコロ変わる表情差分も可愛い。演技がしっかり楽しめる流石のクオリティ。
『代償』『叶わぬ願い』『望みの果てに』『切なくて』など、シリアスな場面で流れるBGMがどれもよくて、場面に引き込むことにも、感動にも、一役も二役も買っていた。カフェ名を冠した『Schwarze Katze』も、バロック調でとてもよい雰囲気を作り出していたと思う。ゲームで流れた瞬間からのお気に入り。
各√とも、ほろっとさせる話づくりが巧かった。『二人の魔法』が流れる場面、特に綾地さん√の終盤は、音楽も絵もストーリーも演技も、すべてがかみ合った素晴らしいものになっている。まさにこういうのが見たくてノベルゲーをやっているよね、という感じ。
冒頭から書いたとおりエロ部分はある意味突き抜けているし、ネタキャラとしても秀逸。
キャラゲーとしてもシナリオゲーとしてもすこぶる楽しめる、良いところがたくさん詰め合わされたゲームでした。