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Noiminさんの鏖殺ノ乙女.の長文感想

ユーザー
Noimin
ゲーム
鏖殺ノ乙女.
ブランド
metalogiq
得点
74
参照数
99

一言コメント

期待していたものとだいぶ違ったけど、これはこれで。 序盤~中盤で少しずつ違和感とキャラクターの描写を重ねつつ、それらを終盤に解放されるシナリオで一気にひっくり返して回収するような構成。話にアクセルがかかるのはゆっくりめで、クリアした今は面白かったと言えるのだが、序盤はちょっと投げ出しそうだった。 メインのカップリングであるところのトワとディーが微笑ましく距離を縮めていく過程や、相容れない立場だった登場人物たちに絆が芽生えていく様子、熱いラストバトルなど、何か自分にとっての宝石を見つけることができれば楽しめる作品だろう。

長文感想

いくつかのターニングポイントを迎える度に階段状に面白さが増していく作品だった。

序盤は日常会話のテンポがやや古臭く感じられて面白いと思えなかったのだが、それが変わったのがトワとディーが心の距離を縮めて初めて恋愛関係となるところ。恋心を知っていく二人の心理描写が思いのほか丁寧で、このあたりで進めることが苦痛ではなくなってきた。

その後しばらくは謎が謎を呼ぶ展開を受け入れつつ3組のカップリングのお話を進めていった。しかし「先が気になる」と思い始めたのが、とあるキーパーソンの行動により主要キャラクターたちが一つにまとまり始めたあたり。ここまで来ると各キャラクターの性格的なチャームポイントも分かってきているので、それがどうぶつかり合い、調和していくのかが楽しみだった。また、この世界の綻びとも呼べる部分が見え隠れしてきて物語に推進力を感じ始めた。

最終章は積み上げてきたものをすべて突然ひっくり返された感もあったが、その前の章のラストの展開もあってこの変化の理由を見届けなければという気持ちで読み進めることができた。とはいえ、今まで説明されてきた設定とは異なる設定を次々に頭に流し込まれると、結構混乱する。今まで培ってきたキャラクターへの感情をどう持っていけば良いものか、戸惑った。このゲームに限らず、後半に何もかもをひっくり返すような物語はいつも同種の戸惑いを覚える。

しかしそれにも徐々に慣れ、最終バトルは素直に熱くなることができた。
やっぱりバトル物といえば最後の総力戦。一番盛り上げるべきところを一番盛り上げるのは、意外と難しいしとても大事。
心地よい余韻に浸りながら突入したエピローグは、セレナとエリス、レイカとイヅナのその後についてまさかの爆弾を仕掛けてきて驚いた。ちょっとちょっと、その設定もっと詳しく。
気になる設定はともかくエピローグではしっかり余韻に浸れるので、最初の印象からは予想できないほど後味が良いゲームだった。

途中で「人間とは何か」「人が生きるというのはどういうことか」に触れる台詞が散発していたのでこれが作品のテーマなのか~と思ったが、最終的には「狂った世界の理を壊す」というキャッチコピーに真っ直ぐな物語だったのも後味の良さに一味買っている。(その過程で「人間とは何か」に触れたのもそれはそれで良い)

お気に入りのキャラクターはレイカ。あんなに性格の悪いボクっ娘は見たことがないが、序盤~中盤の性悪も終盤の素直になれなさも、最終盤の成長も全部ひっくるめて好き。「こんな人間いてたまるかよ」と「人間くささ」の両方を感じるキャラクターだった。

本作は本作で楽しませてもらった。ただ、個人的には前作のようなやっぱりキツい凌辱要素や絶望感に期待していた部分も大きかった。
そのためプレイ時に前作から頭を切り替え切れていないままだったのは、少々もったいないことをしたなと思っている。
本作はシナリオや世界観、登場人物だけではなく、作品コンセプトから前作とは全くの別物と考えたほうが楽しめるだろう。
逆に言えば、前作が好きでないが今作はハマった、という人もいるかもしれない。