TsukimiyaYukitoさんの「明日の君と逢うために」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

 残された者たちの孤独感を丁寧に描き、それを乗り越えることを1つの主題としています。一方で、いつも「ずっと遠い世界」を見ていた彼女たちの気持ちについては、明確な答えは示されませんでした。頭の回転の速いヒロイン達との掛け合いを楽しめれば、物語としてはそれで十分といったところかもしれません。// 過去は懐かしむべきもの。街の風景が変わるように、人は前に進んで行かなければならないのでしょうか。
1.1. 神の住まいし島
 最後の神様がいたと言われる地、御風島。「神隠し」が広く認知され、たびたび不思議
なことが起きるファンタジー世界がこの物語の舞台となります。主人公は、島にある進学
校・鈴森学園に通う2年生。友人たちとの頭の回転が速い高度な掛け合い(毒舌の言い合
い)が、見ていてとても楽しいです。お互いに冗談だといえる範囲を分かっているのも好
印象です。


1.2. シナリオよりもヒロイン
 物語の本線は、神隠しに遭った少女と残された者たちのお話となります。過去からの決
別をテーマとし、ヒロイン(ルート)ごとに対比しつつ、いくらかヴァリエーションがあ
ります。しかしながら、基幹設定があまり明らかにならずやや盛り上がりに欠け、ヒロイ
ンに萌えることを第一義とした方が無難です。

 どのヒロインにも可愛いと思える瞬間がありますし、彼女たちの視点でのモノローグや
主人公には聞こえない独り言なども、とてもよかったです。ただし、ヒロインが主人公に
惹かれる理由があまり見えてこないため、純愛物語としてはもう一歩かもしれません。主
人公のいい加減さも少し痛いところです。


1.3. 紙芝居演出としての最高峰……だが
 電車の揺れや海岸の波打ち際、台風の大雨など、特に背景の動的演出に力を入れていま
す。立ち絵も、可愛らしいヒロインが主人公のすぐ隣を歩いているように見せるなど、従
来のADV方式としては最高峰だと思います。ただし、ここまで動きが出てくると、目の瞬
きやリップシンクがないことがとても不自然に感じてしまいました。もっと、ヒロインの
可愛さを引き立てる、あるいは物語の中心と密接に関わる部分で、優先的に効果を導入す
るべきだと思います。なお、システム面については申し分ないです。

 なお、この作品で最も秀逸だったのが、橋本みゆきさんの歌う『TIME』に併せて流れる
OPムービーでした。初見時には作品への期待感が高まる一方で、フルコンプリート後に振
り返ると全てが繋がり、その良さが改めて分かります。




2. 個別シナリオやヒロインについて
 君の笑顔を見るために、止まった時計の針を動かすこと。重要なことはただその1つの
みです。過去は懐かしむべきもので、囚われるものではありません。彼らは、統一された
テーマの元、過去を抱えつつも明日へと歩みだしていきます。その前では、存在しないは
ずの教室や、神々が住まう『向こう』の世界といった神秘は、実は大したことではないの
かもしれません。ただ、あーちゃんや咲は「自分の居場所」を見つける手段として神隠し
を選択しました。やはり、自らの意志で向こうへ行ったその心持ちは、どこかで語ってほ
しかったと強く思います。


2.1. 泉水 小夜(8/10)/ 姉を10年待ち続けた妹
 明日香の手を放した修司と、咲に置いてかれてしまった小夜。小夜は彼の(同情ではな
いと感じる)優しさに触れ、徐々に他人(同級生)の輪に関心を持ち始めます。彼女らし
い可愛さが表に出てくるのは、修司が彼女に「美味しい」と言わせようと奮闘するあたり
からでしょうか。次第に毒舌の途切れ目にすっと顔を覗かせるようになっていきます。1
番のお気に入りは、修司から買い物袋を奪い、手を繋ぎながらお互いの名前を呼び合う場
面です。彼らが恋人同士となったこの瞬間に、この作品における最大瞬間風速を感じまし
た。

 本題の神隠しについては、「あーちゃん」に対する修司の想いと対比させ、『向こう』
へ旅だった姉を想う小夜の心情を巧みに描いていました。終盤で咲のことが壇上にあげら
れ物語が焦燥を帯びてくるあたりも、なかなかのものだと思います。小夜は何も話し合う
ことなく修司を置いて姉に会いに行こうとします。残される者の気持ちを分かっているに
もかかわらず、この行動は確かに酷いのかもしれません。しかしながら、姉を突然失い小
夜の心にぽっかりとできた穴は、それだけ大きいものだったと感じました。

 ところで、咲が何故『向こう』へ旅立ったのかについては、明らかになることはありま
せんでした。『向こう』との境界で咲は小夜に「深い理由なんて一つもなかったのかも」
と答えます。彼女が妹を大事に思い、残していくことに幾許かの心残りがあったことも伝
わってきます。その真意が分からないまま終わってしまうのは正直残念なのですが、その
彼女の意志の強さには心を動かされました。その視線の強さは、理佳シナリオで再び描写
されます。


2.2. 夕霧 瑠璃子(7/10)/ 7年越しの初恋
 修司が明日香を忘れられなかったように、リコも7年間ずっと修司のことを想い続けて
いました。ところが、修司は呼び名のことから手作りお菓子のことまですべて忘れていま
した。修司と、小夜やリコ(初回ルート固定の2人)の中で思い出などの対比が取れてい
るのは結構ですが、あまりにも彼女が可哀想に感じました。彼女については、明日香が恐
怖に痙攣する姿を「明日香さんがマナーモードになってます!」と言うような、特殊な発
想が好きでした。また、主人公に気付いてもらえない想いを呟く恋する乙女であるところ
や、いくらか黒い発言をする場面も好みです。

 本線の神隠しでは、夕霧家の始祖が開けた扉と短命に終わる呪いについて明かされます。
無暗に叫ぶ修司はともかく、医者になった兄・直樹や見習いである瀬戸の想いは注目です。
ある程度達観できるようになってしまえるだけの長い年月や、クレープ屋企画の真意など
には結構くるものがあります。なお、夕霧家の呪いについては「扉が閉じれば病状の進行
が固定される」という解釈をしています。リコの死後の世界を描き、病気を分け合った意
味は無駄にならなくて済みそうです。生まれた娘・理子には、みんなで「おめでとう
」と言ったことでしょう。


2.3. 藤崎 あさひ(7/10)/ 世界に忘れ去られた寂しさ
 孤独感を必死に演技で隠し続けていたあさひ先輩。この「あなたは、本当に笑ったり泣
いたりしていますか」という題材には、どうしても心を深く抉られます。そのため多大な
期待を寄せていましたが、どうも結果は五分五分と言ったところでした。なぜなら、起点
が「神としての記憶からの違和感」に立脚していることから、彼女の心情を現実に持ち帰
り辛いのです。ただその一方で、誰かを好きになったことがない少女が、自分の居場所(
本当の私をさらけ出せる場所)として恋人を求めていく姿は、とても理想的かもしれませ
ん。

 あさひ先輩については、両手を握って胸に乗せている立ち絵姿が可愛過ぎてたまりませ
んでした。普段の間延びした話し方と、それとは対照的な演劇(演技)には声優(C.V.井
村屋ほのか)の実力を感じます。なお、このシナリオでの七海の可愛さは異常なレベル。
告白シーンで分岐するべきではありませんが、「ごめんなさい」というのはかなり辛いと
ころです。


2.4. 月野 舞(7/10)/ 神様を必要としない少女
 あさひシナリオの対であり、続く明日香シナリオの裏と言える舞ルート。過去に縛られ
ない新しい関係を、御風島に関わりのない彼女のシナリオで描いてきました。舞が、「独
り」で抱えるな、と修司を問い詰める場面はとても好きです。喜びも涙も、ともに分かち
合っていけることは幸せなことなのでしょう。修司が「気持ちが分かるはずがない」と周
囲を否定する場面(とその真偽)や、明日香の消失から手紙、束の間の再会などの流れも
よかったと思います。

 ただ根本として、修司が足踏みしすぎてあまり楽しめなかったお話でもありました。ち
なみに、月花で舞に「あんたの料理は、まだ小手先だけで作ってるわね」と言われるシー
ンがあります。その場しのぎばかりで、将来を見通した深い考えのない修司君にはぴった
りの表現かもしれません。

 なお、以下の会話はとても分かり易く、ちょっと注目しておきたいところです。

明日香
「楽しい時間は短くて、あっという間に過ぎちゃうんだよね」
修司
「そうだな。だったら『次の楽しいこと』を探せばいいだろ?」
明日香
「そうだね。後ろばかり振り返っていたら、
 そういうことを見逃しちゃうかもしれないし」


2.5. 若宮 明日香(7/10)/ 『向こう』を求めた幼馴染
 メインヒロインとは思えない扱いを受けている明日香。その冷遇されっぷりは毎回誕生
日を忘れ去られるほど。修司のことを急に(男性として)意識し始めて、ファッション雑
誌を読んで女の子らしくなろうとするところは可愛いですね。

 7年前のあーちゃんが登場し、明日香が自分の気持ちを押し殺してまで『向こう』へ旅
立とうとする道筋は悪くなかったです。ただ、最後まで明日香をあーちゃんの代わりとし
てしか見ていなかった修司に、少々不満があります。気持ちを伝えられないだけじゃなく
て、ここまで決められないというのはちょっと許せないですね。さらに、あーちゃんとり
んがこちら側に残ってしまったことも、明日香をきちんと選んだことが際立たなくなって
います。

 ところで、もうすぐ扉が閉まるはずだった1年前に、明日香はすべての記憶を捨ててま
で修司のもとに帰ってきました。一方で、小夜との思い出を大切にし、帰らないことを決
めた咲。この2人を分けたものは一体何だったのでしょうか。思い出はまた作ればいい、
切り替えの早い明日香はきっと迷うことなく決めたのでしょう。「ごめんね、みんな……
あたし、もう帰らない……」と、伝言を受け取った場面はやっぱり見てみたいです。


2.6. 御風 里佳(7/10)/ 10年ぶりに笑顔を
 最終ルートにして、泉水咲の神隠しをもう1度捉え直す理佳シナリオ。残される者の気
持ちを理解した上で、最愛の妹を(あるいは親友たちを)置いて『向こう』へ行ってしま
いました。両親の事故死がなくとも咲はいつか長い旅に出ただろうと、理佳は言います。
聡明な彼女は、いつも遠くに何を見ていたのか、それは残念ながら明らかになりませんで
した。

 ここで、とても強い印象を受けた咲の発言があります。それは、彼女(の未練)が修司
に問いかけた「君は、無いの? もっと、ずっと遠い世界へ行ってしまいたいと思ったこ
とは?」という言葉です。心にしみる笑顔で尋ねる彼女に、思わぬところで共感してしま
いました。天秤の傾きも、彼女の真意も分かりません。しかし、そのとても強い視線(意
志)は琴線に触れるものでした。もし、咲の友人の立場として接していたら、私も彼女の
行動を認めてしまうほどには、ね。

 咲、あるいは明日香は、物事を感覚的にこなしてしまう天才です。直後にりんが言うよ
うに、彼女たちの気持ちを理解できないことは仕方がないのかもしれません。




3.1. 記憶にとどめておきたい言葉

どんな強い想いも、それが本当のことなのか、みんなわかっているのかな
わたしたちは……ううん、わたしは、
本当に笑ったり泣いたり、感動したりしているのかな
                                ―――藤崎 あさひ

純粋に人を好きになる、そんなときに特別な理由なんていらない
                                ―――七海 美菜

好きな相手に気持ちを伝える、そして……受け止めてもらう。
それはとても難しくて、どうにもできない。
想いが通じ合うということは、小さな奇跡みたいなものかもしれない。
                                ―――八代 修司

辛いなら言いなさいよ。
そばにいて欲しいなら頼りなさいよ
寄りかかってくるのなら、いくらでも支えてあげるわよ!
恋人なんだから、当たり前でしょ
                                ―――月野 舞

金の問題ごときで壊れないのが真の友情だよ
                                ―――瀬戸 和也
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