houtengagekiさんの「Aster」の感想

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88Aster
それぞれのカップルが支えあって生きていく様が印象的な、切なく感動的なストーリーの群像劇。
ひとつの悲劇を中心に据え、それに関わって悲しみを背負ったキャラクターたちが、
過去を乗り越えてパートナーと共に未来へと歩んでいこうとする過程を
じっくりと描いた、感動的な群像劇でした。

奇跡は起こらない、というキャッチコピーの通り、ご都合主義的な展開が皆無でしたが、
だからこそ、命の重みが大きくなっており、喪失の悲しみは心に響く。
四組の男女がそれぞれに現在を受け止めて、絆を深め合う様は、見ていて涙を誘われました…
主人公四人はそれぞれ事件に関わった立場が異なるため、それぞれ乗り越えるべきものが違って、
視点によって色々な雰囲気や心理描写の多様性を味わうことができるのがいいですね。
各ルートを次々にプレイしていくことで、各キャラに確かな繋がりを感じることもできるようになっており、
悲劇の全容を色んな角度から知っていけるのは読んでいて引きこまれるので、いい構成だと思いますし、
同メーカーの過去作より多視点の良さは発揮されている感じがします。
群像劇として質の高い物に仕上がっていますね。

シナリオ単体で見ても、本筋である沙耶、沙希のルートや、雛のルートなどは特に質が高いと思います。
雛ルートは体に障害を抱えた人間が抱く感情を深く表現できており、
そのため色々な描写に深みがあって、すごく感情移入できました。
こういったネタを扱ったシナリオとしては出来はかなり良いほうだと思います。


惜しいところを挙げると…
欲を言えば、もうちょっとザッピング的な楽しみが多いと良かったんですけどね。
このキャラはどういう気持ちでいるんだろう、と思って
そのキャラが主人公のルートをやったら、こういう思いを抱いていたんだな、というような、
多視点から同一の時間軸を見る事のできる醍醐味が、少々足りないなと。
一応、美幸と雛のルート間などで見られましたが、もう少し豊富にあってくれれば、と感じます。
せっかく主人公が四人いて、それぞれのルートの時間軸が同じなのに
ちょっとルートごとで独立性が高すぎるというか…
もう少し完全にリンクしたイベントが多ければ、劇中での楽しみが増したと思うのでもったいないかも。

それにしても、この作品は声優さんの演技がとても印象に残りました。
特に、沙希が感情を爆発させるシーンでの、青山ゆかりさんの演技がすさまじい。
そのボイスが発せられた際、沙希の激しい感情が直に伝わってくるようで、
鳥肌が立つほどの名演でした。
その瞬間、意識がAsterの世界に釘付けにさせられてしまい…没入度は今までエロゲーを
プレイしてきた十数年の年月の中で、最も高くなっていたと思います。

声優の凄さというものを、あれほど思い知らされたのは久しぶりでした…

全体的に見ると、本筋のストーリーが最後にならないとプレイできないため
おあずけ感を覚えることになり、もどかしさを覚えるのが難ですが、
シナリオの出来は良く、スタッフロール後の演出が最高であることも手伝って
切ない余韻が残る読後感は非常に味わい深いですし、
OP、EDともに主題歌が内容や雰囲気とベストマッチであり、かつ名曲であるという素晴らしさ…
CGも浅葉ゆう氏の魅力的な絵柄で、しかも過去作よりかなり上手くなっており、
サブ絵師さんも違和感のない絵柄で溶け込んでいたり…
同メーカーの過去作に登場したキャラクターも、
サブキャラとして登場し、物語の雰囲気を味付けするのに一役買っていて、
ファンサービス的にも嬉しかったりと…
各要素の質がまんべんなく高い良作だと思います。

それだけに、発売当時のメーカーの売り方のまずさが惜しまれます…
二週間という中途半端な延期によって、月の前半という、シナリオゲーの発売日としては
あまり良いとは言いがたいタイミングでの発売になってしまったこと、
それと、いざ発売されたゲームがバグだらけで、最終的なパッチを当てないと
背景の指定ミスなど、感情移入が阻害されてしまうような不具合だらけであったこと、
これらが非常に残念。
素直に月末まで延ばして、不具合も修正された、しっかり完成した商品を最初から出していれば
もう少し出来に即した評価も得られたのではないかと思うのです。


沙希と宏がお互いを救済していく姿は、今でも強く心に残っています。
万人にオススメの作品とは言いがたい部分もある作品ではありますが、
個人的には、かなり印象的な切なさを刻み付けてくれた一本でした。
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