shindai_alteenさんの「この青空に約束を―」の感想

ネタバレ感想を見たくない場合、文字を背景色に設定することが可能です。 → 設定変更

**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

昨年の夏に神津島に聖地巡礼をしたこともあり、久々に再プレイしたので投稿。設定、背景、登場人物、作品の中で一貫する白と黒といった要因が掛け算の如く『青さ』を引き立てるギミックがこの作品の最大の魅力。本作での肝となる『卒業』や『別れ』への執着は、沙衣里と同じ年になってしまった今だからこそ見えてくる部分も多く、プレイした当時とはまた違った観点でこの作品を見つめ直す転機にもなった。

● 前置き

南栄生島こと神津島、とてもいいところでしたよ。夕焼けに染まる海岸で空を見上げると、ふと「風のアルペジオ」が流れてきてもおかしくないような光景が広がっていて、涙を堪えるのに必死でした。つぐみ寮跡地のような場所がある高台で星を眺めていたら号泣してしまいました。(ダイマ)

今回のレビューは再プレイ後の感想になります。初回のプレイはアニメ化騒動前後でプレイした記憶があるので、2007年頃だったかと記憶しています。当時から点数に対する大きな変動はありません。

今ではすっかり聞かなくなった「丸戸信者」というワードですが、自分がそれに該当していたのかは分かりませんが、丸戸氏が今でも他ジャンルに渡り作品を供給してくれるので、いつも手を取ってしまう程度には好きです。


● 青春ドラマとしての足掻き

日常からの乖離を起こす上で、「離島」を舞台にする事のメリットは大きいと思っています。立地ゆえの世間からの遮断がその顕著な要因ですが、日常からの束縛を嫌う思春期の人間の心理にマッチしやすいというのも大きな引力として働いているのではないでしょうか。砂浜、山の上といった開放的な場所、近隣の人たちの温かさに触れる機会の多さ、何より同じ立場にいる人間との深い絆は「島に住む共同体」という存在をより強固なものにしてくれます。

つぐみ寮という楽園の解体は、寮生にとって大きなカタストロフィになります。なので、つぐみ寮の解体という行為は最後まで「悪」として作品を通して表現されています。これ、別に解体の理由なんて老朽化が激しい、人口の減少だけで納得しますし、世間的に見れば仕方のないことなんですよね。その、仕方のないことへの反発がどれだけ主人公達にとって大切なのかを語ることが、この作品の青春ドラマとしての足掻きの一番の見所なのだと思います。本作にはやや感情的に物事を訴える部分も多く、それも若さや青さに起因していると思います。

実はここらへん、前にプレイした時はあまりちゃんと見れてなかったんですよね。作品を通してあまりにもハッキリとつぐみ寮の破壊が「悪」とされていたので、完全に流されていました。当時の自分はと言えば、もっぱら「約束の日」の合唱のようなシンプルに訴えかけてくるような揺さぶりに負けて、このゲームを一つの「泣きゲー」として捉えていました。「約束の日」に至るまでのつぐみ寮生の意地は、文化祭を成功させ、やり切った後のような気持ちになるということも、当時はあまり実感が無かったのですが時間を置いて再プレイしてようやく見えてきました。


● 一貫した作品を通してのスローガン

本作は珍しく個人の恋愛よりも友情が勝る作品だと思っています。つぐみ寮の解体、ヒロインたちとの別れという最終的に行き着く場所が分かっているからこそ、物事の考えつく場所には第一に仲間が来るというのも納得できるようなシステムになっています。また、これが本来の純愛エロゲであれば対ヒロインとの関係を重んじる風潮にある筈なので、友情が前のめりになって現れてくるという作品への違和感を上手に消化しています。ある意味、来たるべきカタストロフィが明確に分かってしまうので、まるで終末論的な物語を見ているような気分にさえしてしまいます。

丸戸作品は「仲間」や「家族」を大切にする風潮のある作品が多いですが、個人ではなく仲間全体が物語の大きな起爆剤に繋がる作品というのは少ないように感じています。(逆に言えば、里伽子のような個人√で作品を通した大きな起爆剤が無いとも取れるので、誰が一番好きというキャラクター論争には絶妙にならない作品だったりします。)確かに、海己や奈緒子のような航と個人的に特別な関係を握っているキャラクターもそれなりにいますが、どの√のシナリオも作品を通した目的は最後までブレることなく、仲間と最後までつぐみ寮を守り抜くことに絞られているのかな、と。ただこれは特定のキャラに魅力がなかったわけではなく、あまりにも仲間が抱えていた課題がハッキリとし過ぎていて、どう乗り越えていくのかという作品の見方をしていただけなので、どうしても個人のシナリオがどうこうという話にはなれなかったという感想から来ています。

 ここで言いたいのは、やはり方向性のハッキリしているエロゲはプレイしていて実に心地良いなということです。これは伏線を回収していくとか、物語をひっくり返すとかそういう話ではなく、作品を読み勧めていく上で、プレイすること自体が、仲間と苦難を乗り越えて行くことであるかのように錯覚できる楽しさにあると言いたいのです。本来であれば島のゆったりした日常を見ている筈なのに、血気盛んな主人公とつぐみ寮の優しい仲間、そしてあまりにも分かりやすく書かれた「悪」が、プレイヤーにも仲間意識を与えてくれるような構成になっている上で述べたような内容と繋がって来るんです。


● 再プレイして気づく、その後の時間

再プレイして、胸を掻きむしられるような感情に突き動かされてしまったシーンがありました。静√ラストの麦わら帽子が飛ぶ描写です。丸戸作品に通じて思うのが、ここだという場面をしっかり設けて、胸を掻きむしるような描写、セリフをパズルの如く用意して来ることなんですよね。静√、ぶっちゃけた話、シナリオ全体が静の麦わら帽子が飛ぶという部分ただ一つに絞ったお膳立てなんじゃないかと思うぐらいにキャラクターの成長と見て取れる比喩表現があまりにもハッキリし過ぎているんですよね。(この人、つい最近も桜並木の坂道で帽子飛ばしてましたよね、帽子フェチ…?)

年を取ったせいなのか、こんにゃくをプレイした当時よりも個別シナリオの後日談が全体的に胸を掻きむしられるようになっていました。何より、初回のプレイから再プレイまでの年月がそれこそ個別シナリオの後日談で語られるよりも時間が経ってしまっていて、このテキストを読んだ時に物語を回顧し、「現実」に連れ戻されてしまうという自分の作品への没入感に起因しているのかと思っています。逆に言えばそれだけこの作品が今でも色褪せずに感情移入できる作品であると自分が感じているからなのですが、この時間の操作の仕方が丸戸氏は非常に上手なんですよね。

これは静√に限らず全てのキャラクターに言えるのですが、本作は個別シナリオの後日談で、航と各ヒロインは数年後に再開するというパートが多いです。もちろんエロゲなので当たり前ですが、航も各ヒロインもその時までちゃんと相手を恋愛対象として受け入れて行動しています。どんなに熱い感情があっても、思っている以上に離れている時間が長いと忘れてしまうものなので、これだけの熱量とモチベーションを保ってもう会えるかも分からないヒロインを相手に奔走できる航は青いし、カッコいいの一言に尽きます。これは、再プレイして時間が経てば経つほど何かしら重くなるという自分の時間への捉え方と作品が上手くマッチした部分かなと感じました。


● 沙衣里先生

遥か彼方の年上キャラだと思ってたさえちゃん、気がついたら同い年、同じ社会人2年目、同じダメな大人になってました。というより、沙衣里先生は思ってた以上にダメじゃなかったんだなと実感します。職種こそ違えど、1年目から離島で教師やってたらアルコール漬けにもなりますし、その立場の収入であれば航のラブホ代を負担してあげるのは社会人2年目にはキツい。でも、持つべき思想はハッキリしていて、きっと今でも会えるような学生時代の友人がいて、一緒に卒業できた経験を持つさえちゃん先生が一番、彼らに「卒業」を迎えて上げたいという気持ちは強かったんだと感じます。その点腐っても教師を目指してきた人間なんだな、と。

これは、いつの間にか自分は「卒業」をそういう過去として捉えていたことにも驚きました。自分にとって、卒業を迎えるということは綺麗なんだと思える程度には学生時代が楽しかったみたいです。年を重ねるごとに、同年齢のキャラが減っていく立場に唯一同じ境遇の人間が箱の中にいた時の安心感ってやっぱり絶大ですよね。今こうしてさえちゃんと同じ境遇になって見えてくるのもまた然りと言った感じに心に来るものがありました。


● 思い出分け合える仲間に会えた今なら

この作品も発売してから14年ですか…。アニメ化の話があったり、丸戸史明氏本人がラノベデビューしてエロゲユーザーにとってちょっと遠い存在になってしまったりと色々なことがありましたがあっという間のように感じています。逆に言えば、今こうしてプレイできるのもパルフェやこんにゃく、ホワルバ2のような軌跡あってこそだと思うと感慨深いものがありますが、ここは素直に今でもエロゲの事をズルズルと里伽子を引きずる仁の如く心に留めている方だと思っているので、エロゲで機会があれば新しい作品を描いてくれうるのではないでしょうか。

思えば、丸戸作品を通して様々な人と出会い、いろんな事を語れる仲間ができました。KOTOKOさんのライブでこんにゃく好きオタク4人とallegrettoを聞いたのはかけがえのない思い出になりましたし、戯画ライブでさよならのかわりにを合唱できたのも幸せな記憶です。そして、笑い声溶けて行った青空を神津島で見れて楽しかったですという作品に関係しているのか微妙な感想を最後にここに記します。
新品/中古アダルトPCゲーム販売 通販ショップの駿河屋

長文感想へのレスを書くには
 ・ユーザーIDを有している
 ・COOKIEが有効である
 ・COOKIEを有効にした状態でログインしたことがある
 ・5つ以上一言コメントを書いている
 ・長文感想を書いたユーザーが長文感想へのレスを許可している
の5つの条件を満たしている必要があります。

コメントデータ

このコメントはだいたい86回くらい参照されています。