TsukimiyaYukitoさんの「この青空に約束を―」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

 前作『パルフェ』のテーマを「言葉にして、初めて伝えられることもある」と表すならば、本作『こんにゃく』では「言葉にしても、伝わらなければ意味がない」でしょうか。彼らの拒絶とすれ違いの物語を、素直に紐解きましょう。1年後に約束された仲間たちとの別れには、万感の想いが描かれているのですから。// この星空には思い出を。そして、この青空には約束を―。どこまでも続く空を見上げ、あの頃の笑い声を思い出せるように。
1.1. 星野航 / かっこいい主人公
 物語の舞台は本州の少し南にあるという南栄生島。主人公こと星野航は、その島の高台
にある高見塚学園(生徒数100名弱)に通う2年生。彼は美形で、スポーツ万能で、楽器も
弾けて、勉強も(その気になれば)できるという、かなりずるいくらいに多才です。ここ
までくると彼が女性から人気があるのは仕方ないでしょう。一方で、直情的で子供なとこ
ろがあったり、仲間のために(ひいては幼馴染・海己のために)有言実行する行動力があ
ったりします。そのため、嫌味なく彼を好きになれると思います。相手の好意に気付かな
いような鈍感ではないところも高ポイントです。


1.2. すべてはつぐみ寮のために……?
 航と寮生たちは、新しい仲間を迎えつつ、彼らの楽園である「つぐみ寮」を守るため学
園側と闘っていきます。これが物語の本線で、個別シナリオに入ってからも寮の存続問題
や卒寮の寂しさなどについてたびたび言及されます。(彼ら自身も分かっているが)ただ
の寮生たちのわがままでしかないのに、ここまで彼らを応援したくなるのはうまく出来て
いると思います。彼らの別れには涙なしには見られません。だからこそ惜しいと思うのは、
寮生たちのモラル意識があまり高くないこと。揚げ足取りばかりしても意味はないのです
が、(人前での)飲酒が常態化している点だけは何とかしたほうが良かったと心から思い
ます。


1.3. みんなの中の2人
 本作のテーマは「仲間との別れ」であり、各ヒロインとの個別シナリオも「みんなの中
の2人」が意識されています。彼女たちの焼きもち具合は絶妙ですし、みんなで(大抵は
自分たちで勝手に起こした問題ではあるが)障害を乗り越えていく姿はやはりいいもので
す。しかしながら、2人の物語としては弱く、特に恋人関係になるきっかけ(過去のエピ
ソード)がやや曖昧であり、恋愛のお話としてはいくぶん物足りなさを感じるかもしれま
せん。ただ、書くべきことと書かないことの選択はなかなか考えられていると思います。


1.4. 言葉遊び
 丸戸さんの文章は比喩表現や対句表現などを効果的に使っており、いつも読んでいて楽
しくなります。相変わらずシリアスを笑いで落とさないと気が済みませんし、さらには落
ちを解説するヒロインという落ちも面白かったです。また、階段の段数に代表される「数
える」という行為や、熱いお茶でむせるなど、繰り返される表現にヒロインの性格が見え
てほっとしたりもしました。だいぶ前のエピソードで使われていた表現を「かわいい意趣
返し」として持ってくるところなども好きです。


1.5. ノベルゲーム初心者におすすめ
 雅文や紀子など同級生、隆史さんや滝村さんなどの大人たち、さらには祖父の一誠や悪
役の学園長まで愛すべき脇役にあふれていました。システムインターフェイスはこれ以上
のものはなく、演出はタイトル画面や音楽にまで神経が行き届いていました。シナリオは
あっさり、ヒロインは可愛く、世界は優しい予定調和と、ノベルゲーム初心者にこの上な
くお勧めです。




2. 個別シナリオやヒロインについて
 前作『パルフェ』の「里伽子シナリオ」なみの期待をもって、伏線の有無ばかりに気を
取られていると、大きく損することになります。つぐみ7と共に1年間の学生生活を素直
に追体験しましょう。


2.1. 羽山海己(7/10)/ 恐ろしく煩わしい幼馴染
 航ハーレムの正妻でありながら、異常なまでに煩わしい幼馴染の海己。彼女の「ごめん
ね」が、航との距離の取り方が、1人きりになると泣き叫ぶ姿が、どうしても許容できま
せんでした。確かに、過去に何かがあったことは早い段階から十分に仄めかされています
し、そこまでやるかと言いたくなるような人間関係が原因であったことも明らかになりま
す。しかしながら、彼女の葛藤が分かったところで、それまで抱いていた彼女に対する悪
感情を帳消しにするところまでは、残念ながら至りませんでした。

 なお、海己ルートですが、(海己を好きになれるかは置いておいて)お話は決して悪く
はなかったと思います。みんなとふたりの関係しかり、文化祭における海己の演説にて、
航のおばあちゃんが拍手した際には思わず泣いてしまいました。惜しむらくは、星野家親
戚一同に航が納得させる場面がないこと。この日の婚約から数年後の結婚式までにあった
はずのそのシーンは、カットしてはいけないものでしょう。

 ここで、他5名のシナリオでは彼女の想いを垣間見ることになります。画竜点睛を欠い
た海己ルートを顧みると、そのために伏線を積み重ねるよりも、彼女の真意と成長をその
場で味わう方がおそらく有益でしょう。その点において、海己ルートはぜひ最初にプレイ
するべき物語だと思います。


2.2. 沢城凛奈(8/10)/ 南栄生島のピーターパン
 本作のメインヒロイン。仲直り後に見せる彼女の可愛さは格別でした。12年前の逢わせ
石のエピソードで、単純な解答を持ってこない答え合わせは大正解だったと思います。電
話イベントを挟んで、その後の大会報告と海岸での告白は、もうここでエンディングに入
ってもいいと感じたくらい綺麗な場面でした。

 『さよならネバーランド』は、南栄生島を分かり易くネバーランドに例え、その上で海
己に説得させるというところに巧妙さを感じました。殺陣での笑いと涙のハッピーエンド
のメリハリ、そしてヒロイン同士の心の掛け合い、とても良く出来ていると思います。キ
ャンプファイヤーの夜、星空には残り数か月の楽しい日々を、この青空には再会の約束を、
彼らは誓います。

 そして約束された日の3日前、「ツール・ド・南栄生」には凛奈との思い出がいっぱい
詰まっていました。「ちょろっと」の意趣返しや告白の再現、そして逢わせ石の指輪に至
るまでもう心を動かされっぱなしでした。その感動をそのままに描かれるラストは、数年
後に開かれた国際マラソン大会のスタート直前。世界記録の達成を確信させたあの笑顔、
これだけでとても幸せになれるエピローグでした。


2.3. 浅倉奈緒子(7/10)/ 贖罪を求めた支配者
 主人公に恋い焦がれる気持ちを心の奥深くに秘め、表向きは常に優位に立っていたい会
長さん。物語の中心となるのは、2年前に当て馬の悲劇から生まれた5箇条の誓約。航がこ
の制約を破ってくれることを彼女は望みますが、その(罪の意識はともかく)贖罪にはあ
まり共感できませんでした。ただ、途中で触れられる海己の想いは心を打ちましたし、新
5箇条の斉唱で締めるところは単純に楽しかったです。


2.4. 六条宮穂(7/10)/ 昔話に恋したお嬢様
 宮の「ああっ!!」って声だけで幸せになれます。……さて、50年前の祖父母の出会い
をなぞった夏休み。そのことを念頭に置いて読めば何の問題もないシナリオでした。しか
しながら、宮の(みかけの)諦めの良さに引っかかってしまい、そこから先を思うように
楽しめませんでした。校内新聞を集め終えた時の号泣にもついていけず、どうも不完全燃
焼でした。メインテーマ「記憶の宝箱にしまっても、きっとまた会える」を逆手に取った
お話というわけでもなさそうですし。ちなみに、彼女の髪の毛がきし麺であることは、(
この作品の絵はあくまでも記号ですので)あの程度では気になりません。


2.5. 藤村静(7/10)/ わがまま少女
 一生懸命ワガママ言って、やっと航を自分の方だけに向かせることが出来た静。だけど、
このつぐみ寮というぬるま湯からはいずれ卒業しなければなりません。しかしながら、い
くら何でもこの導入はないなと思いました。「大好きなひとに、側にいるなって言われて、
悲しくならない女の子なんて、いない」だなんて当たり前。静に「藤村の家に、帰れ」と
口走ってしまう航君には、流石に失笑も通り越してあきれるばかりです。ただ、その後の
経過は悪くなかったですよね。凛奈との対比だけではなく、海己の8年前の痛みや会長と
の過去にも触れていて、本筋とはややずれたところで感動できました。


2.6. 桐島沙衣里(7/10)/ ダメすぎるお姉さん
 何でも他人のせいにするこのダメ教師には相当イライラさせられました。その攻撃力は
『パルフェ』のダメ姉に勝るとも劣りません。反面教師の見本であるかのようなさえちゃ
んでしたが、十二人の怒れる職員会議だけは大いに楽しませていただきました。唯一、さ
えちゃんがまともだったのは、マラソン大会で凛奈に3つの誓いを約束させたところ。静
の「さえり、今日だけかっこい~」は読者の心情そのものですよ。


2.7. 約束の日(9/10)/ すべてを土台にしたグランドエンド
 さえちゃんの祝辞、会長の答辞、そしてみんなで作詞・作曲した約束の歌を泣きながら
歌う寮生たち。このエンディングだけで、(個別シナリオにいくらか不満はあっても)こ
の作品を最後まで読んで本当に良かったと思います。泣いてしまう彼女たちにつられて、
涙がこみ上げてきました。約束された別れの日、そして、再会の約束をした日。本来なら
6人のルートごとにあったはずの別れを、グランドエンド1つに集約したこの構成は見事だ
と思います。


2.8. 三田村茜(7/10)/ 忘れられた思い出の女の子
 バッドエンドから続くエキストラシナリオ。心の故郷を失いネバーランドから旅立てな
かった航を、茜が身を挺して復活させるお話です。ヒロインと個別の約束を結べなかった
時の、主人公の隠れた弱さを描くのは大変結構です。しかしながら、茜の元気すぎる声と
その喋り方はかなり苦手であったため、『約束の日』で受けた感銘はすっかり吹き飛ばさ
れてしまいました。最後の数十行前まで、このシナリオ無くてもよかったのではないかな、
と思っていました。

 しかしながら、このおまけは単なる蛇足ではありませんでした。最後の最後で明かされ
る『果たされていた再会』には、最大瞬間風速的に感情の制御ができなくなったのをよく
覚えています。思わずプロローグの転入のシーンを読み返して、茜のセリフ「え…? …
……」を見て叫ばずにはいられませんでした。その後の、仲間のための「つぐない」も気
にはなりますが、正直もうおなかいっぱいです。


3.1. 記憶にとどめておきたい言葉

本気でぶつかれば、崩せない壁なんかないはずだ。
少なくとも、『心が作るもの』に関しては。
                                 ―――星野 航
新品/中古アダルトPCゲーム販売 通販ショップの駿河屋

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