くるくすさんの「もしも明日が晴れならば」の感想

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**ネタバレ注意**

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明穂編のエピローグには感心できなかった。辻褄が合っていないし、「夏の残照」を退色させてしまったし、そして私たちの価値観に合致していない。特に後ろ2つが大きい。……とはいえエピローグに強い拒絶反応が出ただけで、作品全体からは割と好印象を受けた。お気に入りはつばさ編。
 (シナリオ素点の内訳は次の通りです。つばさ編:70(点/満点100、以下同様)、珠美編:70、千早編:65、明穂編:60)

 ※ネタバレ注意!



 明穂編について。

 少なくとも途中までは、エロスケさんで叩かれている程に酷くはないと思います。
 まず、第2章で明穂が千早を赦しているシーン。もちろん明穂の菩薩様じみた慈しみは、一見するとどこか不自然な感じがします。私も正直なところチョット変だなーと思っちゃったんですが、しかし明穂には赦せるだけの事情が少しならあります。読者はただ不自然さを批判して済ませるのではなくて、何故明穂が千早を赦せたのかを推し量って、明穂の境遇を噛みしめるべきでしょう。幽霊となってからの明穂は、霊的存在の孤独を身に染みて理解していて、千早の不遇と嫉妬心にも一定の理解を示せたはずです。そして明穂にとって、千早は自分を見つけてくれる数少ない人間です。しかも本件はあくまでも過失です。むしろ冷静でいられる一樹やつばさの方が不自然に思えちゃうくらい。
 エンドロールまでの展開も、それほど悪くはありません。学園祭から消滅までのダラダラした生活は、ふたりにとって、死を受容するための大切な期間です。もっとも、学園祭の夜の葛藤をズルズルと工夫もなく引き延ばしているだけで、読み物としてあまり面白くはありませんが。

 問題はエピローグです。話の顛末を簡単にまとめておきましょう。ふたりは転生後の再会を願いつつ、別れの挨拶を交わします。10年後、明穂は幼女として転生し、元の記憶を保ったまま一樹と再会します。実質的に死人が蘇ったようなものです。
 エピローグの問題点を3つ指摘できます。
 (1)技法でいうところの御都合主義に当てはまります。明穂を蘇らせる手筈など無かったからこそ、ふたりは当惑していたはずなのに、幼女明穂(心は生前のまま)を登場させるとは何事か。転生の過程について何らかの冒険譚なり苦闘なりが、ある程度のテキスト量によって、かつ一定のルールに従って展開されて初めて、プレイヤーも納得できるんです。
 とはいえ御都合主義だけなら、まだ許容できます。一応ふたりは悩みまくった末に別れを受け入れたからです。「メルクリア」(Hearts、2010)の感想文でも書きましたが、頑張った子には御褒美をあげたくなります。よく「因果応報」とか「信賞必罰」と言うでしょう?
 (2)儚い雰囲気が損なわれています。エピローグに入る前の作中風景は儚げでしたのに。本編は明穂に終わりを義務付けたからこそ、美しかったのです。彼女と愉快な仲間たちのどうでもいい日常は、終わりがあるから濃密で、尊くて、終わった後はなお一層尊い。恋愛も、家族愛も、友情も、極々ありふれたものではありましたが、終わりの運命から常に脅かされていて、したがってプレイヤーには貴重なものとして映ったのです。そして私たちは、秋の到来とともに、あの日々を「夏の残照」として懐かしむことができました。学園祭の後、「ああ、夏は、死んでしまったんだ」とボヤく彼女が印象的です。彼女がここまで後ろ髪引かれるほどに、夏は活力に漲っていました。
 (3)エピローグに入った途端、作品の主張は私たちの死生観から外れてしまいました。エンドロールまでは私たちのものと合致していて馴染み深かったのです。死に関して明穂と私たちが相似をなしているからこそ、本編は私たちに訴えかけて共感を誘ってきました。終わりを義務付けられているのは、明穂だけではなくて、読者全員もそうでしょう。明穂のロスタイムはあくまでもロスタイムであって、死そのものは不可逆的なものとして描かれていました。同様に私たちの周囲にも死はあふれていて、動かしようも覆しようもありません。父母兄弟も配偶者も友人も、私たち自身も、いつかは土に還ります。そして元には戻らない。

 「ああ、夏は、死んでしまったんだ」――明穂の嘆息を、最後まで大事にして頂きたかったのです。途中までなら楽しめますが、エピローグでガッカリしてしまいました。シナリオの整合性、テーマの深度、そしてテーマの普遍性が、一挙に失われてしまいました。評点から半グレード分(5点)差し引いておきます。



*****



 他の編についても簡単に感想を記しておきます。


■つばさ編
 物語の主軸は2本あります:姉の元恋人を奪い取る罪悪感と、姉に対する劣等感です。両主軸は第3章で初めて明示され、個別パートで掘り下げられます。
 第3章は少しヘタクソ。つばさが子供じみていて面白くありません。アレじゃ泣き喚いて駄々を捏ねているだけじゃないですか。横恋慕を取り扱うにしても、もう少し大人びた感じに仕上げた方がいいと思います。JSやJCならともかく、JK(をモデルに取った18歳以上の女性)なんでしょう?
 終盤の成りすましが見どころです。おそらくつばさは、姉と同化して一樹と付き合うことによって、罪を償おうとし、ツッコミ待ちを続けることによって、彼の気を惹こうとしています。演劇部所属という設定と、4.5章の話(霊が憑依する先例)が活きています。そしてクライマックスで「夏の残照」が呼び起されて、両主軸と共に消滅します。罪悪感については、浜辺で明穂がつばさと気持ちを分かち合うことで、幾分かは解決したのでしょう。また劣等感に関しても、一樹が愛を訴えて包容したことで一応の解決をみたと解釈できます。
 しかし芝居を打ってまで両主軸を満たそうとした動機が、少し弱いのです。普通の娘はそこまで考えません。芝居がかった芝居です。
 とはいえ死ぬ死ぬ詐欺で失望させられた明穂編に比べると、ずっと面白い。よく整理整頓されています。テーマが明確になっていて、お話はそこから脱線せず、妥当な結論を出しています。結論は優しすぎず汚すぎずで、丁度いい。本作で一番好きなシナリオです。


■珠美編
 珠美は対人恐怖の合理化を図っています。単に珠美って人間関係に臆病なだけなんでしょうけど、臆病さに尤もらしい理由を付けているようです。人付き合いの脆さや有限性(これらは真理です)を引き合いに出して、「そら見たことか。だから自分は人と関わりたくないんだ、いや、関わらなくてもいいんだ」と殻に閉じこもっちゃう。きっと珠美は、幽霊明穂と一樹が情を交わしあう姿に驚いたことでしょう。まさに合理化の否定に他ならないのですから。
 主題はハッキリしています。珠美の改心、すなわちロスタイムの意義に気づくことです。第4章で明示され、終章で妥当な結論に至りました。別れを過度に恐れるべきではない、と気づいた彼女は、社会に復帰していきます。彼女の性格とその変化が明瞭で、整理整頓されたシナリオといえます。つばさ編も珠美編も、ストーリーを通してヒロインの人となりがよく伝わってきます。長所だけではなくて、短所も隠さずに。萌えゲーのシナリオはそうあるべきです。
 しかし珠美の極端なパーソナリティに、プレイヤーは嫌気が差してしまいそう。特に私は序盤の珠美には反感すら覚えました。ライターさんは「それだけ珠美ちゃんは不器用で、離別を恐れていて、人情を厭いながらも飢え乾いているのだ」と言いたげですが、プレイヤーに同情の余地を残して頂きたいのです。生死の係わる問題において勝手気ままに振る舞う彼女には、やはり共感できません。第3章のつばさのワガママとは次元が違います。
 まず第1章の珠美について。
 鬼切りとしては明穂の処遇を決めかねるのでしょう。明穂の存在が現世に多大な影響を及ぼすのだとしたら、珠美は躊躇わずに明穂を斬り捨てて、鬼切りの任務を全うするべきです。逆にさほど影響がないのであれば、むやみに殺すべきではありません。明穂がいずれのケースに該当するのかは明記されていませんが、境界例に在ると思われます。もし明穂が怨霊と化していたなら、珠美は見逃さずに必ず斬っていたはずです。例えば第4章では実を斬っていました。実って、明らかにヤバそうな感じになっていたでしょう?(←明穂と実の対比。この辺は論理的です。)
 判断に迷う事例だとしても、判断の根拠が気に食わない。幽霊が現世に居続ければ一層成仏し辛くなるからという理由で、珠美は明穂を成仏させようと考えていましたが、自分の考えを明穂に押し付けているだけに過ぎません。明穂と一樹のプライベートに干渉するべきではありません。辛くなるかどうかは、明穂や一樹が決めることです。繰り返しますが、生死に係わることなんですよ。
 また、第2章についても同様です。お守りを千早に与えれば危険を抑え込めるのでしたら、初めから問答無用で斬り掛かるべきではありません。他人の命を何だと思っているんだ! 但し千早に関しては前科がありますから、珠美の気持ちも分からんでもない。
 (あと現実的な問題を指摘するなら、神祇省が珠美のような曖昧な人物を鬼切りとして採用するはずがありません。道具が忠実に使命を全うしてくれないようでは困るんです。)
 少しヒロインの欠点が、特に序章では目立ってしまいました。立体的な人物造形は魅力的ですが、度を越すとプレイヤーの反発を喰らいます。


■千早編
 特記することがありません。



[キャラクター]
 珠美 > 明穂 = つばさ > 千早 > ※委員長(名前忘れた)
 ※食べられません

 個別に入ると珠美はかわいい。改造巫女服に日本刀って、何でこんなにキマるんやろ。珠美編に5点プラスしています。
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