TsukimiyaYukitoさんの「あやかしびと」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

 主人公がヒロインとの大切な日常を護るために戦う、ただそれだけのお話。愛と友情と 努力による勝利でした。
1. 作品全体について
1.1. 世界観設定と登場人物が魅力的
 人妖という病が存在する現代日本で繰り広げられる学園ノベルと異能力バトル。妖怪を
題材に面白い世界が作り出されていたと思います。分かり易いテキストで綴られる物語に
は、たくさん笑い、心が燃え、そして涙を流しました。(整合性にいくぶんの都合良さを
感じるところもありましたが、)ルートごとに最後の敵や味方となる人物が異なり、キャ
ラクターもシナリオを引っ張っていってくれて十分楽しむことができました。30名以上い
る登場人物たちは、その誰もが強烈な個性や感動させる輝きを見せつけてくれます。


1.2. 好感の持てる心優しい主人公
 無邪気な主人公である如月双七は、ささやかな喜びに感動して涙を流す心優しい青年で
す。自らの弱さを認め、自分の出来ることを実行する精神の強さは称賛に値します。率直
に言って、織咲病院という劣悪な環境で育った双七がこれほどの好青年に育つとは考えに
くいです。しかし、これも薫お姉さんが育て、九鬼先生が鍛え、すずが家族として過ごし
た成果なのかもしれません。


1.3. 頭身の高いCGと物静かな曲が良いBGM
 目が大きく描かれるいわゆる萌えキャラ絵とは異なり、頭身が高く描かれた登場人物達
は凛々しく格好いいです。それでいて女性ヒロインの可愛らしさは失われておらず、制服
を着たすずの頬を膨らませてそっぽを向いた表情やトーニャの照れた立ち絵にはきゅんと
します。

 BGMでは「五位鷺」を初めとした静かに悲しむ曲が秀でていました。ただ、プレイ時間
が50時間と非情に長かったため、もう少し楽曲にバリエーションがあれば良かったと思い
ます。また、登場キャラクターのセリフは主人公を含めてフルボイスでありとても嬉しか
ったです。


1.4. 演出
 ディフォルメされた挿絵がどれもこれも面白くていいですね。コートを被ったすずや釣
りで照れた会長が可愛いです。戦闘シーンで入るカットインや効果音もバトルを演出して
いました。セーブしないと分からないのが難点ですが、イベントタイトルに面白いものが
多かったのも良かったです。

 演出面で惜しかったのは、OPムービーがネタバレを考慮していないCG集だったことでし
ょうか。(プレイする上で大きな障害ではないですが、)エンディングムービーが飛ばせ
ないなどのシステム面での不備も勿体ないです。




2. 個別シナリオやヒロインについて
 双七がすず(あるいは他のヒロイン)との大切な日常を護るために戦う、ただそれだけ
のお話。皆が自分の誇りを賭けて、胸を張るために戦って戦って戦い抜いて得た、愛と友
情と努力による勝利でした。


2.1. アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ(7/10)/ どうか幸せな未来を
 照れたりふわふわしたり頭を抱えたりと、とても可愛いトーニャ。すずは陶器女と呼び
ますが、優しい彼女はとても感情表現が豊かです。日常パートでの活躍(面白さ)は彼女
が1番でしょう。冷静な切り返しや腹黒い笑みと、藤野らんによる独特なイントネーショ
ンのCVとの組み合わせが絶妙でした。

 このルートでは九尾の狐という本線には言及せず、ロシアという外部勢力のお話です。
逃走したトーニャの電話、学園でのチェルノボルグ迎撃、いじめのような最悪のタイミン
グで現れたドミニオン、九鬼先生との師弟対決など、見所がいっぱいありました。妹のサ
ーシャを失ったトーニャは、エンディングから2年後、双七達と共にロシアによる人妖研
究の停止に成功することが示唆されます(『パヴェーダ(勝利)』)。復讐を果たした彼
女が(他のヒロイン達と同じように)幸せの日常を歩めることを、心から願います。

 ところで、このシナリオで不自然に感じるのは、チェルノボルグ戦以降における八咫鴉た
ちの不在です。九尾の再封印に駆け回っていたのは分かりますが、すずの護衛に鴉天狗か
虎太郎先生のどちらかを護衛に残しておくべきだということくらい気付きそうなものです
よね。


2.2. 飯塚 薫(7/10)/ 8年の間、彼女は何を想ったのか
 ドミニオン戦闘隊長として普段は毅然とした態度を取るも、双七君のこととなると狼狽
を隠すのに一生懸命な薫さん。彼女を1年以上にわたって陵辱していた織咲病院のゴミ共
には殺意が沸きます。ここで気になるのは、薫さんが一定の正気を保ちながら陵辱を受け
続けたのかということ。涼一を護るかどうかにかかわらず彼女は蹂躙され続けたと思いま
すが、その涼一を好きでいられるかは疑問です。教育係としての庇護欲からの昇華ではな
く、大好きだから護っているのだと思い込んで心が壊れてないようにする防衛反応でしか
ないのかもしれません。さらに言えば、病院を出てドミニオンの隊員となってから8年の
描写も不足しています。そのため、涼一を背中から撃った裏切りと人妖を殺し続けた罪悪
にまみれた彼女が、未だ双七くんの事が好きであることも説明不足でした。前述の思い込
みが関連しているのでしょうか。

 ……さて、薫さんのルートではドミニオンによる涼一の足取り捜査が描かれていました。
敵側のエピソードと主人公側を交互に描くので一定の緊張感を持って物語に熱中できまし
た。神沢市への逃亡を確定させたところで、薫さんが裏切り者扱いされるとはなかなか意
外な展開でした。

 神沢市の病院に逃げてきてからは、すずが悪役となります。他のヒロイン達に対して常
に嫉妬している彼女ですが、薫にだけは焼き餅を通り越して憎悪していました。すずが薫
を憎む理由がはっきりしている上に、双七への想いの強さがよく現れているエピソードで
良かったと思います。

 このルートで際立っていたのが加藤教諭の活躍でした。双七が彼を「先生」と自然に呼
ぶようになるのも分かる気がします。九鬼とのラストバトルでの振る舞いは、本来は双七
の立ち位置だったような気もしますが、格好良かったのでまったく構いません。

 雲野長官にはそのヴィジュアルと高圧的な振る舞いから冷徹非情な悪役を期待したので
すが、簡単に自首してしまいました。精神操作のみで実効的な攻撃力を持たないとはいえ、
もう少し足掻いて欲しいですね。そんな情けない彼は、刀子ルートでは天に出し抜かれ、
すずルートでは飛行機から脱出することも叶わず九鬼に喰われます。雑魚ですね。


2.3. 一乃谷 刀子(7/10)/ 恋人の振りから本当の初恋に
 幼少期に精神世界からあまり出てこなかったために、他人との付き合い方や距離感に少
し極端なところがある刀子さん。恋人の振りであたふたしたあげく本気になってしまった
り、常に双七の傍にいるすずを嫉妬したりします。そして、その嫉妬深さが逢難を蘇らせ
る切っ掛けとなるなど、ストーリーに密接に関わってくるところがいいですね。

 刀子さんを悩ましていたストーカーの藤原さんは怖かったですね。彼女の嫉妬と崇拝に
は影女の血が十二分に発揮されているようです。その対策として双七達は恋人の振りをす
るわけですが、楽しいイベントも多かったです。「姉川さくら先生の課外授業 ~恋のホ
ップステップダイビング!~」なんてものを開いてみたり、脚本:ウラジミール/監督:
トーニャによる茶番演技をやってみたりと、とても楽しめました。

 ただ、恋人の振りとふわふわモードの組み合わせはトーニャルートとよく似ています。
面白かったので構わないのですが、ここは芸がないと言われても仕方が無いところだと思
います。そもそも、ストーカーに対して恋人の振りとは刃傷沙汰となるリスクが高いです
し、すずの言霊という便利な能力を使わない手はありません。2人を付き合う振りをさせ
るための要因以上に藤原さんの存在理由がないのは残念です。

 それにしても、双七が逢難を自らに寄生させ刀子を助けてからの展開は面白かったです。
やや間延びしていた感はあったものの、主人公が悪役となり双七と刀子が苦悩に苛まれる
という予想外の展開には夢中になりました。

 刀子ルートは同時に愁厳ルートでもありました。現実世界に兄妹が同時に存在できず、
いずれ一方が死ななければならない牛鬼の設定は見事に使い切られていたと思います。互
いが互いの幸せを祈って消えようとする兄妹愛の物語でした。双七にとっても、愁厳との
友情を取るか刀子への愛情を取るかの選択は、一般的な友情か恋人かの選択に比べて非常
に重いものでしょう。


2.4. 如月すず(8/10)/ 家族から恋人になるには
 耳と尻尾が生えたときの立ち絵がとっても可愛いすず。すぐに癇癪を起こして拗ねてば
かりいる彼女を見ていて、楽しいと思ってしまうことが意外でした。双七との絆がそうさ
せるのだと、納得出来たところが大きいように思います。

 ヒロインが主人を好きになる契機が見えにくい本作ですが、すずルートでは双七とすず
の関係が兄妹から恋人に変わるまでの過程をしっかりと描いてきました。手作りハンバー
グを食べ損ねた辺りからのすれ違いや、自転車での2人乗りは良かったですね。他のルー
トで、裸を見ても一緒のベッドに寝ていても性的欲求が沸かないことや、家族としてしか
見られないことを言及していたこともあり、この丁寧さはとても好印象でした。

 すずが記憶をなくしてから織咲病院に連れ去られてしまうまでの展開では涙の連続でし
た。言霊のハンデを背負ったうえでの鴉天狗戦勝利には涙ぐみます。すずを取り返す友情
パワーにも泣いてばかりでした。美羽ちゃんが九鬼に立ち向かい戦い抜いたシーンには感
動しましたし、刑二郎ともにバイクで高速道路を疾走しながらのバトルも良かったです。
七海のマルチタスクにより成功させた刀子さんの煙突飛びからの車を叩き切る場面、続い
て対一兵衛戦における「人類最速の居合い切り」も最高でした。

 とってもいい娘の姉川さくらですが、ルートの作成が見送られてしまっただけでなく、
彼女だけ人妖能力を活かした活躍が出来ていません。決戦前の不自然なえっちシーン以外
に、その意味での見せ場があればと思うと残念でなりません。

 名前に九尾の鬼となる伏線が隠されていた九鬼先生。人の形を保っている間は(たとえ
悪鬼に堕ちても)どのシナリオでも魅力的な悪役でした。道を誤り(強くなった)一奈を
殺すためだけに生きていた九鬼先生ですが、さすがにクドリャフカの体当たりで復讐の機
会を奪われては誰だって(読者だって)怒ります。せめて、九鬼先生が一奈を追い込むま
では待って欲しかったですね。


■Happy END:約束
 織天使薬を使わない選択では、成長した弟子と悪鬼に堕ちた師匠のすれ違いとしてのラ
ストバトルが描かれました。2人の別れ際の会話は、なかなかに感動的な場面です。惜し
むらくは、弱点の右目を突く倒し方は薫ルートで披露されているため、いまいち盛り上が
りに欠けるところです。

 エピローグでは、佐藤のおっちゃんとの再会をよくぞ描いてくれました。優しい彼がい
たからこそ、双七達は幸せの日常を手に入れることができたのですから。言霊の扱いにつ
いて疑問点があるものの、余韻の残るとてもきれいな終幕でした。


■Normal END:あやかしびと ふたり
 ここまでは、双七がすず(あるいは他のヒロイン)との大切な日常を護るために戦うお
話でした。熾天使薬を使うということはその信念を捨て、自らはどうなっても大切な女性
だけは護るということです。人のままであろうとしても、妖となってもエンディングが用
意されているのは良いですね。

 天達の百鬼夜行による国家転覆は失敗しましたが、九尾の狐に戻る野望は阻止できませ
んでした。最強の生物と最強の無生物の戦いは、やや呆気にとられた面もありましたが、
なかなか面白い演出でした。人の悪いところだけを見てきた幻咬と、人の良いところだけ
を見てきた静珠の争いに決着を付ける意義もありよかったです。

 武部涼一のルーツである付喪神のエピソードを挟んでのエピローグ。妖でも人でもない「
あやかしびと」の幽世で永遠に2人きりで過ごすというのは、美しく切ないエンドでした。


■True END:輝かしい日々、再び
 天照大神の遣いである八咫鴉は、顔を合わせるごとに口喧嘩していたに双七に体を強制
的に譲りました。人妖であることを、すずと暮らす日常を捨てて妖となったのに、簡単に
現世に戻れてしまうでは、やはり引っ掛かるものがあります。ここでは、娘の幸せを願う
父親という設定と、幽世でかつての伴侶である静珠と永久に過ごすという意味により、都
合の良さを打ち消したハッピーエンドになっていました。

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