くるくすさんの「D.C.P.C. ~ダ・カーポ プラスコミュニケーション~」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

美春編について。萌芽し成長した彼女の人間性が、綺麗に摘み取られてしまった。残ったのは切り花のような美しさで、もちろん観賞されるべきなのだろうけど、どこか生気を欠いている。
(シナリオ素点の内訳は次の通りです。音夢編:60(点/満点100、以下同様)、和泉子編:70、さくら編:65、ことり編:60、萌編:60、眞子編:55、美春編:70、アリス編:65、環編:60、ななこ編:60、叶編:60、頼子編:70、香澄編:60)

 美春編について感想を記そうと思います。ネタバレ注意。












 本稿では美春の影武者となったロボット「HM-A05型」を単に「A05」と表記して、(人間の)美春とは区別します。なお引用箇所に関してはオリジナルのままにしてありますので、各自読み替えてください。


 さて、あくまでもA05はA05であって、美春ではありません。本編は一貫したスタンスを取っています。
 音夢にとって、「A05≠美春」ですから、A05を気味悪がって拒絶していました。誕生日会(3月16日)を中座した音夢は、追いかけてきた純一にこう言っています:

音夢「あの場にいたのは……本物の美春じゃないのに……」
純一「…………」
音夢「あそこにいたみんなが、あの子を美春だって思いこんでいた……」
音夢「本物の美春が、どこでどうしているか、それすらも知らずに……」
音夢「それで私、本当に怖くなって……」
寒さを堪えるように、その身に何かを留めるように、音夢が両肩を掻き抱く。
音夢「私の知っている美春が、いなくなっちゃうって……」

ちなみにこれは音夢が自称「美春」の正体を知ってから2週間ほど経った頃の出来事です。自称「美春」が実は影武者であることを知って、音夢はどれ程ショックを受けたのでしょうか――音夢はA05を美春だと思って、ずっとA05に接してきたのに。(ですから私は、音夢たちを騙そうとした天枷教授が好きになれません。)
 あるいは純一もA05と美春とは違うと確信しています。誕生日会を抜け出した音夢に、彼はA05と美春とは異なると訴えたうえで、「あいつは、あいつだってコトだな」と結論付けています。
 そしてA05も、自分が美春とは異なった存在であることに気づいています。割と早期から差異を認識していたようです。証左として、3月2日に犬と遊んだ時の場面を引用できます:

純一「それにしても、よっぽど犬が好きなんだな。ずーっと嬉しそうな顔をしてさ」
美春「はい。あのわんちゃん、とってもいい子だったから」
美春「それにデータ上そうなってるとはいえ、美春自身が犬を大好きということがよくわかりました」

3月15日、差異の認識は最も表面化します。美春を模倣しようと努めてきたA05は、この日、オルゴールの記憶を「取り戻し」(※註1)、一層美春に近づけたはずですが、何と思い出探しをもう止めると言います:

美春「――思い出探しはこれっきりにします」
純一「俺もそうして欲しい。いくら美春の願いだとしても、これ以上苦しんでいる姿は見ていられない」
美春「そうじゃないんです。『美春さん』の記憶を思い出して、わかったんです」
美春「思い出は誰かに作ってもらうものじゃないんです。思い出は自分で作るものなんです」
美春「どれだけ、記憶を思い出しても、美春は美春なんです。何も変わらないんです」
美春「周りの人のために『天枷美春さん』の記憶を思い出そうとしましたけど、それで周りの人達の目が変わる訳じゃない」
美春「さっちんも洋子も美春の友達です。『美春さん』じゃなくても、それが変わる訳じゃない」
美春「だから、思い出なんかなくたって、美春は『美春さん』でいられるんです」

不完全にコピーされた状態こそが、完全な自分なのだ、ということ。A05は影武者の任を務めるにあたって、当初美春の完全なコピーで在ろうとしました(「周りの人のために」。ロボロボしくていじらしい)。しかし現代の技術水準では力及ばず、A05は不完全なコピーでしかなく、従って自分の構成要件を満たせませんでした。A05は執拗に美春の過去に拘り続け、完全なコピーを目指しました。自身の思い出を作るよりも、影武者として模倣対象の思い出を拾い集めて対象に成り切ることを望んだのです。そしてA05は15日にオルゴールの記憶を獲得して、既に自分は完全であったことにようやく気づいたのでしょう。美春の記憶を欠いている状態であっても、A05は確かに生きていて、級友と会話を交わし、個として認められていたではありませんか。
 私たちはA05に人間らしさを見て取ることができます。A05は美春のコピーのようで、美春とは違う何かです。


 なおも使命に忠実であったからこそ、A05は泣きゲーのヒロインを演じることができました。
 3月15日以降、自意識を美春から完全に独立させたA05は、どう行動するべきでしょうか? 2つの道があります。ひとつは反抗です:天枷教授の言いつけを破り、自分がロボットであることと、美春とは異なった存在であることを公言し、純一のカノジョとして大手を振って歩いちゃう。もうひとつは従順です:教授の言いつけを守り、自分がロボットであることを隠し通し、影武者を最後まで演じ続けるのです。
 A05は従順を選び、使命を全うして機能を停止しました。A05は美春を尊敬していて、使命に燃えていましたから、A05自身も結末には納得していたようです。もっとも、どこまでがA05の意志で、どこまでが研究員の意志なのか(A05は彼らの被造物です)、判断しかねるのですが。
 プレイヤーはA05の頑張り物語に涙を流すのでしょう。決して反抗せず、死に至るまで忠実であるとは、健気なロボットではありませんか。A05は生身の少女のように愛くるしく、しかも純一との交際を通して人間らしさをさらに高めましたから、プレイヤーは一層感情移入してしまいます。さらに(私たちの大好きな)桜花の美が加わります:交際期間の短さが悲劇性をより一層高めていて、DCシリーズらしい儚さを提供しています。


 ……何だろう、この残尿感は。本当に只の泣きゲーとして、忠実や美人薄命が強調されるだけで良かったのでしょうか?
 3月15日から亡くなる日までの間、A05の心中が如何なるものであったのかと、推し量ってみてください。A05はロボットであると同時に人間らしさも備えていましたから、公的な地位(自称「美春」)と私的な地位(A05、あるいは純一の恋人)の齟齬に、さぞやストレスを感じていたのでしょう。ロボットとして従順な姿勢を貫くのが当然と理解していたとしても、密かに反抗心を湧き上がらせそうなものです(※註2)。A05は、「思い出は自分で作るものなんです」と言うほどに、自分が美春とは別の存在であることを承知していました。しかも純一の愛を受けているのは、美春ではなく、A05です。
 純一もまた、A05の隣にいて任務を理解していながらも、影武者の不条理に心を痛めていたはずです。カレシとしてそう思うのが自然でしょう。美春ではないA05として、街中を歩いてほしい、と内心では願うに決まっています。A05は実に人間らしいのですから、人間と同等の地位を与えたくなります。(やはり私は天枷教授が嫌いだ。彼は「A05=A05、美春=美春;A05≠美春」という一対一の対応を崩して、「A05=美春」と結びつけてしまった。)
 ところが作中の現実は、私たちの推測を裏切ります。A05も純一も清廉過ぎて、本編では使命に反発するそぶりすら見せません。経緯を考えれば、ちょいとプレイヤーは納得できませんわな。
 さらに、一連の計画の責任は作中で「巧妙に」はぐらかされていて、A05も純一も不満を訴えづらくなっています。
 確かに暦先生は研究所側の人間としてふたりに応対していますが、所詮は現場監督で、どうしても力不足です。暦先生は中間管理職で、立場の弱さゆえにふたりの気持ちを受け止められません。A05も純一も、暦先生の立場を理解していたようで、あまり文句を付けていません。(暦先生の描写が中々リアルでした。暦先生はA05よりも大きなジレンマを抱えていたのでしょう――影武者を立てる計画について純一に「ただ、これはもう動き出してしまったことなんだ」と冷徹に告げる一方で、A05に「まるで、自分の娘を見る母親のような目で語りかける」。)
 よくよく考えればラスボスは天枷教授ですが、残念なことに彼は作中で一切登場しません。純一とA05の激情の矛先は、一連の計画の首魁かつA05の開発者である彼に向かうはずでしたのに。ライターさんは少し狡い。読者をして美春とその父親とを悪く言わしめたくはなかったのでしょう? (美春も連座の対象になりえます。父親の計画に判をついていましたから、A05の不条理について一定の責任を問われるべきです。)
 つまり15日以降、アイデンティティにまつわる懊悩が、本来あってしかるべきなのに、作中ではゴッソリ削られています。A05の苦しみが15日以降も描かれていたなら、いよいよA05は人間味のあるロボットとして、プレイヤーの胸と股間を打ったことでしょう。ロボットは使命に燃え、人間は使命に悩むからです。そして純一も、A05に課せられた運命の過酷さをくみ取ってあげるべきでした。所詮一学生が天枷研究所を動かせないとしても、教授に食って掛かる位は、せめて不条理を嘆いてみせる位は、できたはずです。
 責任の所在が有耶無耶になってしまってスッキリしないのは勿論のこと、何よりも私が落胆したのは、ふたりが本音を吐き出すチャンスを奪われてしまったことなのです。


 私はA05に名前を贈りたくなりました――A05などという無機質な名前ではなく、美夏でも美秋でも美冬でも何でもいい、美春とは違った名前を。A05は……いや彼女は、美春とは異なった様相で確かに生きていたのですから。作中において、純一君や彼女にはもっと強くそう主張してほしかった。要するに、ふたりとも従順過ぎました。従順なところだけが作中で描写されていてナマっぽくない。



(※註1)
 暦先生の説明からして、A05には過去の思い出など、本来は存在しないはずです。おそらく桜の木の魔力によって、美春や純一の記憶がA05に流れ込んだのでしょう。
 私たちは美春編の内に、DCシリーズ全体との整合性を2つ見て取ることができます。ひとつは魔法の役割について。美春編において魔法は「自転車の補助輪みたいなもんさ」。結局A05にとって美春の思い出は必要なかったのですが、そう悟るキッカケになったのは思い出探しであり、思い出探しの原動力となったのは過去の夢でした。あるいは魔法の是非についても整合性を見出せます。DCシリーズは、魔法が必ずしも幸せをもたらすとは限らないと解釈していて(特にDC2)、やはり美春編に関しても同様であるといえます。美春編においては、A05は奇蹟の代償を求められています:魔法は結果的にA05の余命をも削ってしまいました。

(※註2)
 A05はロボットらしい忠実さを備えていました。ロボットは使命に燃える――任務には倫理的な問題が山積しているはずですが、A05は「周りの人のために」と尤もらしい大義名分を掲げるばかりで、任務の根本的な是非について洞察しません。哀れなことに、きっとそうプログラムされていたのでしょう。そもそも普通の少女が、「影武者をやれ」と言われて、「はいそうですか」と応じるはずがありません!
 一方でA05は私たちのイメージしがちな従順なロボット像とは異なっていて、しばしば命令に背いていました。例えば暦先生から準備室に居なさいと命じられていながら、A05は教室に行ってしまいました。もっと分かりやすい例が思い出探し。暦先生から度々警告を受けていたにも拘わらず、A05は純一と一緒に思い出探しを続行して、寿命を縮めてしまいました。いずれも天枷研究所の目指したロボット三原則に反します。
 ですから、さすがにA05が影武者を辞めることはないにしても、反抗心を育む位なら充分にあり得ます。それ程にA05は……いや彼女は、人間らしく成長し、純一を愛し、純一に愛されたのです。(繰り返しますが本編で一番気になったのは、ふたりのジレンマの欠如/隠蔽なんです。人間は使命に悩むはずなのに。)



***



 他の編についても一応簡単に書き残しておきます。和泉子編と頼子編以外はあんまり印象に残らなかったなぁ……。
 和泉子編は設定の勝利といったところ。桃色のアレの異様さと可愛らしさに笑わせてもらいました。
 頼子編は少し意外な展開を見せてくれました。あと頼子の喪失を恐れる純一君が中々リアル。また、テーマがリッカの理念に沿えていて、DCシリーズ全体との統一性を堅持できています。魔法は「自転車の補助輪みたいなもんさ」――頼子は意気地なしで、主人公にどうしても言い寄れなかったようですが、魔法のお陰で変装して彼に近づくことができ、そしてこの体験を糧として、今度は自分の力で勇気を出して彼に話しかけることができました。



[キャラクター]
 和泉子 = A05 > さくら > ななこ > その他

 A05も可哀想なんですが、美春も結構ヒドい目に遭っているような:

・頭を打ちました
・目が覚めました。また先輩とバナナを食べられます☆
・先輩はロボ萌えになっていました
・オルゴールは既に掘り返されていました(了)

……ブワッ(;ω;)

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ubu