broadsnowさんの「天使のいない12月」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

欝ゲーとして名高いが透子と雪緒の2人はハッピーエンドだったと思う。テーマは「生きる意味・目的」、「心と体」、「永遠と理想」 2013年1月16日追記
<栗原透子>
求めていたのは肉体だけセックスだけ、シナリオ中散々繰り返されている言葉。果たしてそれは本当なのだろうか?しのぶが指摘したように主人公は真剣に透子のことを想っていた。温もりが恋しくて仕方がない。触れたくて堪らない。一緒に居たい、という願い。それは恋と言って差し支えないのでは。


<榊しのぶ>
その強過ぎる正義感、性的なものへの嫌悪感ゆえに自身の汚らしい肉欲と親友への裏切りという罪の意識に苦しみ断罪と贖罪を求める。己を傷つけることでしか心の平穏を保てない。常に自身を痛めつけなければ生きることすら叶わない。あの瞬間に彼女は完全に壊れてしまった。あまりの痛ましさに優しくしたい主人公の想いは届くわけがない。彼女が欲しいのは誰かの愛情じゃない。自分を傷つける拷問器具なのだ。それが偶々主人公であったに過ぎない。そして彼女は最後には心を閉ざし、残ったのは偽りの「スキ」という感情。それは彼女を救えなかった主人公にとっての罪の証。これからも主人公は心が繋がらないセックスをし、しのぶはスキでもない男に抱かれ続ける。


<麻生明日菜>
愛情が注がれなかった幼い日々。与えられる愛情を信じない彼女が求めるものは、彼女が愛情を注ぐことで彼女を肯定してくれる人形。そこに相手を想う気持ちはなく、「いま」の自分を肯定し、過去のすべてに復讐するための儀式でしかない。結局彼女は主人公を愛さない、恋人のような振る舞いは全て男を飼い馴らす手段。彼女を肯定するための存在として、彼女が世話をしなければいけない存在として物理的に存在してさえいれば、彼の心など気にも留めない。主人公の生きる道は己を捨て、人形として彼女に飼われること。そこにあるのは偽りのみ。果たして彼らに幸せは訪れるのだろか。


<須磨寺雪緒>
悲しみを忘れる方法は2つある。1つは悲しみの原因である出来事を忘れること、もう1つは心を無くすこと。雪緒は後者を選んだ。この世界には、永遠に傍にいてくれる存在が居ないことに気付いた彼女は心を閉ざし、誰も近づけないようにした。大切な誰かが居なくなってしまったら生きられないから、と。彼女が強く孤高だったのは大切な存在との別離を認めることができない弱さにあった。あまりにも弱すぎてそれ以外の道を模索することすらできなかったから。自ら選んだ1人で生きる道にしがみ付くしかなかったから。だからこそ最後ふたりで屋上から飛び降り、助かったのは彼女にとっても主人公にとっても良かったと思っている。共に居たいと思える相手ができ、死への憧憬を失ったのだから。


<葉月真帆>
好きだから体を求めた功と好きだから体を拒絶した真帆。相思相愛なのにすれ違うふたり。知ってしまったから戻れない。妥協と変化を嫌ったふたりは変化せず別れることを選ぶ。もう笑い合うことはできないのだから。だが、真帆が選んだ道に希望はない。主人公と真帆の間には何もない。して欲しいばかりでしてあげたいがない関係。互いに「ひとりではないよ」と慰めてくれる存在程度の存在でしかなく、だからこそ絶対に相手を容認するほど強い絆、それは歪で空虚で幸福には程遠い。


<主人公>
彼はしのぶと同じで純粋で完璧主義者でとてもロマンチストだったように感じる。自分の善意を一切肯定できず、激しい自己嫌悪の念を抱いている。手を差し伸べても救えなければ唯の無責任、助けることができても助けたことで心が安らいだら唯の偽善だ、と。だが見捨てることができず、救いの手を伸ばし子供ゆえの無力に苛まれ、理想を叶えることができないことに絶望し、けれども死ぬ切欠がないから生きている。自分に関する何もかもが己を否定させる出来事でしかない。恋愛をする最低条件は自分のことを好きでいること、自分を肯定できること。なぜなら、嫌悪している己に好意を寄せる相手など受け容れることはできないから。だから彼は恋愛ができない。相手の好意を受け容れることができないのだから。そして好意を寄せた相手ができてもそれを言葉にできないのだから。彼はスキという感情は持ってないと作中で何度も言っているが私には好きという感情を彼が美化して自分には分不相応な代物であり、絶対に自分の中には存在しないと思い込んでいるように思えた。だからこそ自分の中にあるのは本能的な性欲だけと自分を卑下し、そんな自分を見て絶望する。そんな悪循環を彼は作り上げたように思う。

だから自分と同じく「誰かに必要とされたいと願う透子」に惹かれ、
だから自分と同じく「自分は汚いと思い込むしのぶ」を救おうとし、
だから自分と同じく「何もかもを否定したい明日菜」の生贄に自らなり、
だから自分と同じく「死にたがっている雪緒」を忌避しつつも受け入れ、
だから自分と同じく「心を繋げたい真帆」を否定できない。


我々は体を繋ぐことはできても、心を繋ぐことはできない。なぜなら心は物理的なものではないから、触ることができないから。だから人はみんな真の意味では繋がれない、絶対に孤独なのだ。だがそれが、なんだというのか。そんなひとりぼっちが2人共に居たいと思えばそれで充分なのではないか?そう思える相手が存在する、そんな存在が自分の心に出来る、それは充分に幸福なことだ。

タイトル「天使のいない12月」とは天使のように綺麗な存在はおらず、主人公もヒロインもみんな生きることに懸命な汚く醜い人間だったということを指していると思っている。



2013年1月16日追記

久方ぶりに自分のレビューを見たわけだが、なかなかに良く書けているな手前味噌ながら思ってしまう。ただ幾つかの点について書き加えておこうと思い至った。

1、明日菜について
このルート、処女厨・独占厨である私にはなかなかにダメージを与えてくれた有難いシナリオだったので、数年前にプレイしたのにも関わらずまだ印象に残っている。このシナリオの肝は明日菜の内面であるのは当然なわけだが、その内面を叔父に教えられることで主人公(と私)は多大なショックを受けている。そして明日菜は飼い犬の気持ちについて‘知りたくない。餌やり機としか思われていなかったら辛い’という趣旨の発言をしていた。これは間違いなく意図して書かれていたのだろう。傷つくことを覚悟してお前は明日菜の気持ちを知ろうとしたのか、とライターに問われていたのだろう。

2、タイトル「天使のいない12月」について
既に‘タイトル「天使のいない12月」とは天使のように綺麗な存在はおらず、主人公もヒロインもみんな生きることに懸命な汚く醜い人間だったということを指していると思っている。’と記載しているが、何故この考えに至ったのかの根拠を示そうと思う。

まず何より注目すべきは本作の中で‘天使’という言葉が使われているシーンがある。おそらくこのシーン以外では使われていないと思う。そのシーンとは雪緒がギターを弾くシーンである。ギターを弾く雪緒の姿を恵美梨は天使のようだと形容しており、偶然その姿を見た主人公もその形容について賛同している。

だがしかし、この時ギターの演奏中の雪緒は何も考えていない。ただギターを演奏するという行為に専念することで他の事柄を忘却する術として利用しているに過ぎないのだ。

すなわち、
何も考えず、純粋にその行為に没頭し、思考を停止している、
そんな状態を本作では‘天使’という言葉を使って形容しているのだ。
そして‘天使’という形容はこのシーン以外にはおそらく存在しない。

ゆえに私は、己の事を精一杯考え苦悩しているキャラクター達は天使などではなく、天使など本作中にはいないということをタイトルで表現しているのだと解釈した。

3、5人のヒロイン各々の結末
鬱ゲーと主張する人もいる本作。5人のヒロイン各々の結末はハッピーエンドかバッドエンドかを考察するに、私は一言感想に記したように透子と雪緒はハッピーエンドだったと思う。

では他の3人はどうか?わからないと言うのが正直なところである。

しかし、1つ確信していることがある。それは最も虚しいのは真帆シナリオだと言うことだ。


このレビューを書いた当時、主人公の考察の欄においてこう記している。

だから自分と同じく「誰かに必要とされたいと願う透子」に惹かれ、
だから自分と同じく「自分は汚いと思い込むしのぶ」を救おうとし、
だから自分と同じく「何もかもを否定したい明日菜」の生贄に自らなり、
だから自分と同じく「死にたがっている雪緒」を忌避しつつも受け入れ、
だから自分と同じく「心を繋げたい真帆」を否定できない。

これは意識的に書いたのであるが、
真帆以外は積極的肯定の表現として書き、
真帆は‘否定できない’という形で消極的肯定として書いたのだ。

つまり何だというと、主人公は真帆のことを求めていないし、自発的にどうにかしたいと思っていないと言うことだ。他のヒロイン相手では主人公は自ら関与していくのに対して、真帆に対しては真帆の求めを拒否しなかったに過ぎない。そして真帆も主人公について何か感情を抱いているわけではない。

しのぶと明日菜ルートでは、ヒロインが主人公に対して恋愛感情を抱いていないが、主人公はヒロインに対してそのような感情を抱いている。一方通行ではあれど主人公側には情があるのだ。

これに対して、真帆と主人公の間には何もないのだ。これを虚しいと言わずして何を虚しいと言うのか。

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broadsnowさんの「天使のいない12月」の感想へのレス

主人公に対する分析が特に面白い感想でした。
素直になれず、複雑な葛藤をを抱えてる人物ですね、彼。
攻略対象ではないですが、妹の恵美梨に関しての感想も読んでみたい、と思いました。
プレイしてずいぶんになるのに、未だに物語の意味について考えてみてしまう魅力を持っている作品です。
2009年12月04日14時42分10秒
レスありがとうございます。鬱ゲーは元来嫌いなのですが、どうしても好奇心を抑えられず、また非常に安く手に入るので購入してみました。するとどうでしょう、なんとも興味深い作品でした。こんな名作が中古で安価で売られていることを不思議に思います。


>主人公に対する分析が特に面白い感想でした。

ありがとうございます。この作品をプレイしてレビューを書こうとした時、主人公の考察を交えなければならないと強く心にありました。ヒロインだけでなく主人公も望むままに生きられないことを苦悩しており、またこの作品は彼が中心にいたからこそ描けた物語だと感じたからです。


>素直になれず、複雑な葛藤をを抱えてる人物ですね、彼

複雑な葛藤を抱えているという表現は賛成です。しかし私はあえて彼はとても素直だったと表現したいです。彼の年齢なら、理想と現実の折り合いをつけてることもできるでしょうし、生きる価値を見いだせなくても惰性に生きることを会得しているでしょう。けど彼はその妥協を嫌った。どこまでも素直で真っ直ぐで世界に立ち向かった。そして、けっして曲がらなかったから「折れてしまった」。ゲーム開始時の彼はこうして出来たのだと思います。だから私には彼はどこまでも純粋で素直な人物に感じられました。

>攻略対象ではないですが、妹の恵美梨に関しての感想も読んでみたい、と思いました

難しいですw力不足ですが無理して書かせて頂くと、恵まれた子だなと思いました。彼女は年の割りに子供っぽいと表現されていましたが、それは無理な背伸びをする必要がない環境にいたという意味でもあります。またとても強く優しい子だと感じました。雪緒に惹かれ助けたいと願っても雪緒は恵美梨に興味が全く無かった。心を繋ぐことが出来ない上に、体すら繋ぐこともできない。それでも一緒に居続けたのは彼女の強さの現われでしょう。


兄妹についての感想も少し書きたいと思います。

雪緒ルートで、恵美梨が自殺未遂して大怪我を負った主人公のために泣いたのを見るに、兄である主人公のこともきっと好きなのでしょう。主人公の方も、恵美梨が雪緒に付きまとっていることを知った時、普段は干渉しないのに雪緒と係わらないよう説得しました。どれだけ悪口を言い合って、いがみ合っていても2人はとても仲の良い兄妹に見えました。

こう書いていると「素直になれず、複雑な葛藤をを抱えてる人物」と言う表現は恵美梨にこそ相応しいのかもしれません。
2009年12月05日21時29分14秒

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