gggrrrさんの「徒花異譚」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

美しい物語。ただただ美しい、という他に表現のしようがない。
この物語は、確かに万人受けはしない話かもしれません。

しかし、私はこの物語が大好きです。素晴らしい、本当に素晴らしい。この物語を構成している要素全てが、私の好みに合致した稀有な作品。こんな作品に出会えた幸運に感謝を。

私の評価の起点は「美醜」であり、美しい物語は評価が高く、周囲の評価が高かろうと、私が「醜い」と判断した作品は低くなります。その点、この点は美しく完成されている。

単に美しいといっても、それはヴィジュアル面だけではありません。水彩的なタッチで描かれた大石女史独特の画風の美麗さは無論のことですが、なにより美しいのは登場キャラクターの精神性です。

花咲おじいさん、乙姫様、瓜子姫、桃太郎。作中のおとぎ話の案内人は、現実でそれぞれ投影元となった人物がおり、祖父、家庭教師の先生、妹、婚約者でしたが、彼らの誰にも卑小な精神を持つ者がいなかった。特に気に入ったのは桃太郎を担った婚約者の男性です。これが安易な物語ならば、確実に悪役になりうる立ち位置でも、高潔な青年としてしっかりと描かれ、主人公の女性と恋ではなくとも強い縁で繋がった人でした。その彼が桃太郎として彼女を助けてくれたシーンは、涙が出ました。

美しい話を徹底して描くのは、非常に困難です。分かりやすい悪役を配置して、それを主人公が踏み潰す方が客受けが良いし、簡単に話を作れます。その悪役には人生設定など作る必要はなく、ただ「悪役」という役割のみの舞台装置ですので、簡単に使い潰せますし、替えも効きます。けれど、人格をもったキャラクターとすればするほど、難易度は上がる。少しは毒を持たせたほうがいいのでは、とかそうした思いつきが浮かぶのを振り切り、完結させるのは、本当に至難の業のはずです。それを見事にやりきった、本当に見事な物語です。

いや本当に、すべてが私の好みのど真ん中すぎて、自分脳みそを見られたんじゃないか、と思うくらいでした。EDは2種類ありますが、どちらも好きです。でもやはりよりハッピーエンドの方が、私は好きです。

確かに万人受けの作品ではないし、他の人から見れば欠点となる箇所もあるのでしょうが、私にとっては大好きな、とてもとても素晴らしい作品でした。

シナリオ内容についても語りたいところですが、本当に素晴らしいものに出会うと「凄かった」「素晴らしかった」以外の感想が浮かんでこないんですよね…… 究極的になればなるほど、物事の形容が陳腐になる、とはよく言ったものです。

とにかく、ヴィジュアル。キャラクター、シナリオ、雰囲気、どれをとっても最高の作品でした。おそらく今後なんどもやり直すんだろうな。



追記

・白姫と黒筆について
 この物語の主人公は白姫です。話は終始白姫視点で描かれており、黒筆視点になることはありません。しかし、この「少女視点」ということが、この物語に彩を与えている大きな一因です。大石竜子氏の幻想的な絵柄には、やはり似合うのは少女の思いであり、

それが幻想の世界に十重二十重に綾なり、完成された世界を構築しています。そこに、黒筆という内に熱い、熱すぎるほどの一途な情熱を抱きながらも冷静さをなくさない青年を添えることで、物語の「語り手」の白姫と、「進行役」である黒筆という役割分担を

明確にして、スムーズに話が進んでいきます。

 白姫と黒筆の正体は、現実世界で出会った華族の少女と庶民の青年の、秘密の逢瀬を重ねた2人で、少女の祖父が遺した書蔵のなかで絵草紙を読みながら描いた夢の世界での姿です。まだ少女と少年だった2人は白紙の書面を前に、あれこれと2人で想像し、2

人だけの絵草紙を綴っていった。そしてその2人の分身とも言える、その物語の主人公が「白姫」と「黒筆」となります。
 しかし、現実ではその白紙の絵草紙を綴る行いは、2人の関係が唐突に終わったと同時に止まりました。この時点で「白姫」と「黒筆」は絵草紙の中に置き去りにされたのです。そして、それは書蔵にしまいこまれたまま、少女は大人の女性となっています。
 話は、そんな放置された「白姫」と「黒筆」がもういちど綴られることから始まります。



・徒花郷について
 作中の舞台となる絵草紙の中の世界「徒花郷」は、2人が逢瀬を重ね数々の絵草紙を読んでは互いに感想を聞かせあった書蔵のことです。これを名付けたのは「黒筆」の少年で、そのあたりは秘密基地に名前をつけたがる少年らしくて可愛らしい。記憶の中の少

年は、「黒筆」とは違い直裁的な発言が多く、少年らしい闊達さを見せています。反対に、少女の方は無垢な赤子のような「白姫」とは異なり、年に似合わない達観さを覗かせています。この対比も良いですね。
 2人で考えた設定は、互が「白姫」「黒筆」となって多くの絵草紙の中を渡り歩くというもの。古くなり、紙魚に喰らわれて虫食いになった絵草紙を見ながら、ここにはどんな文字が入ったののかを想像して笑いあった時間を再現するかのように、紙魚に食われ

た絵草紙を修復する2人、という物語としました。
 作中の始まりは記憶のない「白姫」が「黒筆」と再会することから始まりますが、これはそのまま現実の2人の再会を意味し、互の状態も表しています。即ち、「白姫」の元である女性は病気(おそらく結核)に蝕まれ意識が朦朧としていり、もはや自分が誰な

のか、傍にいる人物が誰なのかすら分からない危篤状態にあり、「黒筆」の元である少年が立派に成長し青年となった男性は、そんな状態の女性を死なせまいと、彼女の意識をと切らせないために、かつて2人で語り合った物語を必死に作りながら語りかけている

、という状況。
 徒花郷での登場人物や展開は、そうした青年が語りかけている内容を、朦朧とした意識にある女性が描いた夢の世界ということになります。しかし、これは彼女一人で完結する夢ではありません。そこに登場する人々は、すべて彼女が大切に思い、彼女の人生で

欠かせられない相手が、絵草紙の登場人物の姿を借りて登場します。その彼らもまた、彼女が思い描いただけの存在ではなく、本人の意志や気持ちが反映された存在であると感じられます。



1章 花さかじいさん

 この物語は全4章構成ですが、それぞれ対応する季節があり、春夏秋冬の順番通りに進みます。1章の花さかじいさんは春の章で、日本人なら馴染みのある「桜」が象徴となっています。それぞれの章には、「白姫」の中の秘められた感情や思い出の一部が強く

浮き出るのですが、この章ではそれは「死と再会」ということになります。
 「花咲かじいさん」というお話は、犬のシロは犬から木へ、木から灰となり桜へ、という具合に姿を変えてもおじいさんに対する愛情は不変であるというお話ですが、母を失った「白姫」にとって、そう思うことは出来なかった。母はこのお話のシロのように形

を変えて自分の傍にいてくれているのか。という白姫の思いが形として表れる章となります。
 それぞれの章には「案内人」という、ゲーム風にいうのであれば、NPCでありながら「第4の壁」を越えて自分がおとぎ話の登場人物であることをしっているキャラクターが一人いて、白姫と黒筆の導き手となります。1章での該当者は主人公である花咲かじい

さんであり、また「案内人」は白姫の人生の中で重要な立ち位置であった人たちが、そのアバターを被った姿で現れてきます。この章でいうならば、花咲かじいさんは白姫の祖父であり、彼は白姫と黒筆の逢瀬の場所であり、交流を深める場所となった蔵書を白姫

に譲った人物であるので、まさに白姫にとって「始まりの人」という立ち位置にあります。また、始まりという意味では、白姫と黒筆が現実で出会ったのは桜の木の前であり、この「花咲かじいさん」というおとぎ話は、多くの意味で「始まり」を象徴している話

です。春は四季の始まりであり、白姫の御伽噺への傾倒の始まりであった祖父、2人の初めての出会いなど、多くの面での「始まり」が象徴されている章となっています。しかし、始まりを象徴する章でありながら、立ちはだかるのは「死」という「終わり」であ

るのも興味深いです。「始まり」が起これば、対極にある「終わり」もいつか訪れる。その不安が形となり、また母の喪失という白姫にとっての衝撃的な出来事が、髑髏の木という形で顕現していました。ですが、母を思って桜を見上げたその時に黒筆と出会えた

白姫は、母の死という「終わり」が黒筆との「始まり」をもたらしてくれたことを思い出し、一つの「終わり」はただそれだけで消滅するのではなく、新たな始まりとなっていたのを深く心に刻んだお話となっていました。


2章 浦島太郎

 花咲かじいさんが「春」を象徴した話であったのなら、海辺の村から始まる浦島太郎は「夏」の章であり、夏はもっとも生命が瑞々しく、輝いている季節です。「案内人」となる人物は物語のヒロイン格である乙姫様であり、彼女は白姫にとって優しく理解ある

家庭教師の先生が、ソノアバターを被って登場していました。この先生もおそらく恋を経験し、それを成就させた様子が見られ、同じ「女性」としてもっとも共感をもち、彼女が持て余している感情の正体を教えてくれます。
 浦島太郎は竜宮城と地上では「体感時間が違う」というのが話の根幹であり、「楽しい時間はあっという間にすぎる」ということを暗喩した話でもあります。白姫にとって黒筆との逢瀬はとても楽しく、あっという間にすぎていく時間でした。そしてそれが楽し

ければ楽しいほど、「この時間がずっと続けばいいのに」と願ってしまうのが人というもの。しかし何事も永遠に続くということはありえず、その楽しさに耽溺すると取り返しがつかいないことになるということも、浦島太郎は語っています。それが善意や純粋な

想いから発したものであろうと、溺れてはならず、いつかは終わるものである。聡明な白姫もそのことをよく分かってはいても、そう願わずにはいられませんでした。故に、乙姫はその白姫の秘めたる願いを形としていたのです。龍宮城でずっと浦島との宴を続け

る乙姫の姿は、あの蔵の中でずっと黒筆と2人で過ごしていたいという心を、乙姫扮する先生が白姫に示してくれたものでした。
 この章が「夏」を象徴したいるように、過去において黒筆と白姫の蜜月の時が語られる章であります。2人の時間がもっとも輝いていた時間、そしてそのとき白姫が抱いてた思いがなんであったのかを、乙姫を演ずる先生は、まさに人生の先生らしく教えてくれ

ます。
 また、選択肢を「現」エンドよりに選んだ場合は、複数ある「浦島太郎」を組み合わせた、浦島と乙姫の再会というハッピーエンドの形となって幕を閉じます。この改変は、のちに現実での黒筆と白姫の未来を暗喩するような形となっているのが憎いですね。



3章 瓜子姫と天邪鬼

 「夏」が終われば次に来るのは当然「秋」です。葉の色が紅に染まり、田には黄金色にたなびく稲穂が世界を黄昏色に染める、美しい季節です。「秋の夕暮れ」という句が多く使われるように、稲穂と紅葉が彩る秋の夕焼けには、見る人を惹きつけてやまない魅

力があります。3章は、そうした四季折々の絶景がある日本だからこそ見れる場所での物語。「冬」という終わりの前にある、物寂しくも美しい季節の中で綴られる、寂寥感溢れる章となっています。
 「案内人」を務めるのは主人公たる瓜子姫であり、アバターを被っているのは白姫の妹となります。この妹は大人しく家の方針に従順な姉を心配している気丈な子ですが、同時にそれは姉に甘えたい、という気持ちの反証のようになっています。妹が姉を気遣う

のは、彼女なりの「姉にかまって欲しい」という気持ちの表れだったわけです。瓜子姫というお話も浦島太郎と同じようにいくつかのパターンがあり、瓜子姫が天邪鬼に殺されてしまうパターンとそうでない場合があり、白姫が知っていた話は前者でしたが、途中

で後者に切り替わります。これは、黒筆が知っていた話と2人で読んでいた話に違いがあり、白姫はそのことをとても喜んでいました。白姫は瓜子姫と妹を重ねていたため、その瓜子姫が死なない話を歓迎した、という経緯が顕れたものだと言えるでしょう。
 この章で描かれるのは「強がりと本音」になります。まさに瓜子姫を演ずる妹にうって付けの題材と言えますが、もちろん根底に有るのは白姫自身の記憶と感情です。話の途中で天邪鬼と瓜子姫は同一の存在となり、「本当はお殿様のお嫁になんか行きたくなか

った」という思いが形となり、強がりな天邪鬼な瓜子姫はそのまま嫁ぎ、ずっとこの家にいたいという本音の瓜子姫は鳥となって逃げ出します。これはそのまま現実の白姫の境遇に該当し、良家の令嬢らしく縁談が進められたが、彼女はそれをこの家に長女として

生まれた自分の運命だと受け入れます。彼女の中で渦巻く葛藤を飲み込んで、それを黒筆に告げ、彼もまた(白姫の前では)受け入れ、彼女の選択を礼賛しました。この場面が私はとても好きです。よくある「身分違いの恋」を題材にした話では、その縁談の流れ

に対して憤ったり悲嘆したりするものですが、2人は強くそれを受け入れて、それぞれの決意のもとに行動します。白姫は気高く、黒筆は静からながらも烈しく。
 瓜子姫が自分を天邪鬼と鳥に分けたように、現実の白姫も縁談が決まった時に、黒筆と共に描いていた物語の中の主人公に、これまでの自分を残していきました。これからの自分は現実の黒筆と一緒にいることは出来なくなるが、2人で描いた物語の、それぞれ

を投影した2人の主人公たちは、ずっと2人でいられる。ここで現実の「少女」と「白姫」は分離し、その後経緯があって未完のままとなった2人の物語は、長いあいだ閉じられたままとなりました。


4章前半 桃太郎

 最後に来るのは、命の多くが終を迎え、死の静寂が訪れる「冬」の季節です。厳しく冷たい季節である冬で綴られる物語は「桃太郎」。瓜子姫と導入を同じくしながら、男女の違いが出たのか大きく異なる話となっているのは面白いですが、おそらく多くの人に桃太郎に「冬」というイメージはないと思います。「桃」は春の花であり、3月に「桃の節句」があるように、桃太郎に冬を彷彿させる要素は、本来ないはずです。
 しかし、この桃太郎は、白姫にとっては「冬」でした。白姫は元々、御伽話の登場人物と自分が親しい人物を重ねて感情移入する読み方をしており、前述のように花咲かじいさんは祖父、乙姫様は家庭教師の先生、瓜子姫は妹、といった具合に当てはめていました。そして、この「桃太郎」に当てはめていたのが、彼女の婚約者となった青年です。
 私は、この青年のキャラクターがとても好みです。ある意味作中で一番好きかもしれません。これが少女漫画や昼ドラなどのよくある話なら、愛する2人の邪魔をする「親が決めた婚約者」という役割は、所詮お邪魔キャラでしかないため、嫌味な人格だったり、冷たい人物像だったりとするパターンが多いと思います。しかし、彼は自分の将来をしっかりと向き合った上で白姫との縁談に承諾しています。彼には彼で本当ならやりたいこと、叶えたい夢を持っていましが、「これもこの家に生まれ落ちた自らの責務」として、悩み惑った末にその選択をします。その際に、彼の友人3人が大きな力となってくれたことが語られ、彼らと過ごした時間は、この先どんな困難が訪れようとも、自分を照らしてくれる光となる、という信念と自信を持ち合わせる、非常に高潔な心を持つ青年でした。彼の選択は白姫と同じもので、白姫は受動的に、彼は能動的に、という違いこそあれど、抱えていた葛藤などは共感できるものは多く、彼は白姫に対し「自分と貴女は恋慕を抱くことはなくとも、似た者同士の自分たちは人生の伴侶として生きていくことは出来る」と語り、白姫もそれに頷いていました。恋や愛ではなく、互が抱く「敬意」によって結ばれた関係となれる、2人はそうして縁を結びました。

 けれど、そんな彼を当時(おそらく明治末期)では死病であった結核が襲います。幕末から明治の文豪など著名者を多く死に至らせたこの病は、この高潔な精神を持つ青年を容赦なく遅い、命を奪いました。このことが、白姫の精神に深い傷を残したのです。「あれほど立派に自身の運命を受け入れていた人でも、死の運命からは逃れられない」という絶望が、彼女の心に浸透し、そして悪いことは重なるもので、この結核は白姫自身にも忍び寄っていました。
 彼女の中で「桃太郎」は死に直結するイメージを抱かせる話となり、結果として桃太郎は「冬」を象徴する話となっていました。そして表れる「鬼」とはまさに「死」の象徴そのものであり、奇しくも「鬼」とは古来より「病気」や「禍」を擬人化したものであり、元来ももたろうという存在は、邪気を祓う霊桃から生まれでた子であるため、それを打ち払う力を持っていたのですが、彼女の中で病魔によって命を散らした婚約者の青年は、それに勝てない定めとなり、そして自分もそのまま「鬼」に負けてしまうものであると、諦めていたのです。



4章後半 徒花異譚

 現実での白姫は、病に冒され危篤状態の女性です。この物語の経緯は、彼女が自身の記憶をもう一度旅する走馬灯のようなものであったと言えるでしょう。しかし、ただの走馬灯なら最後に「死」に呑まれて終を迎えるだけですが、この物語は白姫だけで綴られたものではありません。黒筆と2人で綴っていくものなのです。
 白姫自身は最後の時まで自分のみで、これまでの世界は形作られてきたと思っていましたが、そうではありません。この話はその蔵で2人が語り作ったもの。それが再開されたということは、2人もまた再会したことを意味しています。しかし病魔に蝕まれ意識不明の白姫には彼を認識できるはずもなく、物語の出てくる「黒筆」も自信が作り出した「成長した初恋の人」の姿であると思っていました。ですが、彼は彼女の傍にいたのです。病気が伝染される危険性など慮外の外であり、献身的に彼女を看病し、彼女の意識が死に呑まれないよう、必死で物語を語っていたのは、現実での成長した青年だったのです。彼が白姫が魘されながら口に出していた呻き声に答えるように必死で語る物語が、白姫の深層心理に届き、彼女の精神を安定させていたのです。死に沈もうとする彼女の肉体と精神を、彼は必死になってつなぎ止めていました。

 この物語の結末は3通りあり、1つは完全なBADEND。一つは過酷な現実から逃れ、白姫はずっと過ぎ去りし日に2人で語った物語、即ち「徒花異譚」という御伽噺の中で暮らし続けるというもの。私は、この結末も嫌いではありません。この結末に至るためには、それまでの3つの物語で白姫が「夢」という文字で表される結末を迎えねばなりません。そうして初めて、彼女は自らの血で完成させた『夢』の結末へと至れます。一抹の寂寥感は残りますが、これもまた一つの結末と言えるものであると思います。夢の中なら、愛する彼と暮らしていける、という彼女の夢が権限した幸福の箱庭。白姫と黒筆はずっとそこで笑顔で在り続けるのでしょう。

 もう一つは、めでたしめでたしと言える結末を迎えるものです。どれほど過酷で苦痛であろうとも、現実へ帰る決断を白姫がするものです。それを後押しするのは、これまでの3章で「案内人」をつとめてきた人たち。何度も彼女に襲い来る「死の象徴」に対し、まるで本当の彼らが応援するするように、彼女を助けてくれます、妹と先生は現実で待っているから、早く帰って欲しいというかのように。そしてすでに鬼籍に入った祖父と婚約者は、決して彼女がこちらに来ないように、と。特に祖父が「枯れ木に花を咲かせましょう」と言いながら血の道を花の道に変えたシーンや、もっとも直接的に襲いかかってきた「死の鬼」に対して。霊剣構えし桃太郎、婚約者の彼がそれを切り捨ててくれたシーンは、私的作中随一の場面です。何度も見返しています。
 その果に、白姫は現実で昏睡状態の彼女に語りかける黒筆の声を聞きます。これまでの物語は現実にも存在する黒筆と、2人で綴ってきたものであったことを理解した彼女は、内に燃え盛る「恋」を燃料に遂に現へと帰還し、黒筆と本当の再会を果たす、というところで物語は幕を閉じます。

 

 この物語は冒頭で書いたように、私の好みのど真ん中をつく「美しい登場人物によって描かれた、美しい物語」であり、話の構成も見事に起承転結となっていたので、まさに満点の出来でした。……しかし一点、「現」エンドに至る流れで、それぞれの章の人物が現れるとき「花」「光」「鳥」と文字が浮かんでいったのに、最後だけ文字がなかったことにだけは不満があります。あそこも「桃」の文字が浮かんでも良かったのでは、と思うのです。なので1減点して、得点は99点となります。
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