soulfeeler316さんの「夜巡る、ボクらの迷子教室」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

自分を憐れむという贅沢がなければ、人生なんていうものには、堪えられない場合がかなりあると私は思う。
思った通りの人生ではなくとも、良かったと思える人生を求めた。







☆推奨攻略順
小清水はやて→門倉りこ→新島きな
特にきなちゃんは絶対最後にして下さい(詳細は後述)








構成上、ルートの核心にまで触れております。
なので、まだ最後までプレイしてない方は、クリアし終えた後に読む事を推奨します。
せめて、1.の前提情報までにとどめておきましょう(1.はプレイ前に読むか、プレイ後に読むかで印象も変わるやもしれません)
また、お気に入りのキャラの分量が少ないと感じたならすみません。
恐らく私にとって語りたい事が無かっただけの話なので、どうかご容赦を…
そして最後に、これはあくまで自己満足的な一個人の解釈であり、断定できる物ではない事を予め、ご了承下さい……

























1.前提情報
本作を語る前に、大前提として重要な部分を明記しておくと致しましょう。

(1) タイトルの意味
『夜巡る、ボクらの迷子教室』
とても良いタイトルです。
しかし、ここで1つ疑問が湧きます。
なんで「ボクら」なんでしょうか?
まあ、それへの答えは簡単な話で、下記を読めばすぐに分かります。


<あらすじ>
「今残ってるウチの生徒達を卒業させろ」

教師という職に失望し、腐って生きていた主人公はとある病室で、袂を分かっていた父親から依頼を受ける。
その依頼とは、来年で廃校になる夜間学校の教師となり、残っている生徒を卒業させる事
報酬として告げられたのは、父の莫大な遺産
晴生の曇った心を動かすには十分な額であった。

夜間学校「藤原学園」
そこは、レールを外れ、ドロップアウトした生徒が集う場所
そして亡き母親が残した思い出の場所……
教壇に立つ主人公と向き合うのは、たった3名の生徒と、その中の1人の娘である少女
彼女達は「卒業」というゼロスタートを目指し、彼は手にすることが出来なかったものを求めていく。

どこにいても、みんな同じ時を刻んでいる。
だけど、皆に同じ幸せは舞い降りてこない。
そんなアンフェアな人生に僕らは――
(『夜巡る、ボクらの迷子教室』公式サイトより http://samoyed-smile.com/product/smyd-002/)


これまでの媒体で多かったような同ジャンルの有名作品と本作が決定的に異なっている点を、このあらすじは示しています。
それは、主人公自体も等身大の教師であると言う事
私がよく知ってる作品だとしたら、先生と言う者は絶対強者であり、何者にも立ち向かう熱き鋼の心持つ存在と言う印象が強いです。
どんな苦境にも立ち向かい、どんな逆境にも抗い、そして必ず勝利を勝ち取る。
俺TUEEEE系と言ってしまったら、何とも身も蓋もない話なんですが、そんな熱血教師モノの片鱗しかなければ、本作のタイトルは「私たちの迷子教室」になっていたでしょう。
しかし、いつの頃からか、その教師自体が絶対強者に描かれる事は無くなりました。
本作は、そんな時代の潮流に寄り添った作品の1つ
上記のあらすじは「ボクら」と言うのが、主人公も含んだ教室だと言う事を示しています。
したがって、このゲームでは、それぞれのルート毎に主人公の問題3つも絡んでいくという構成になっているのです。
3ルート、3ルート全てです。
1つのルートは3つの問題全てに絡みますが、その内の2つは表面的になぞった形となっています。
そして、その他2つのルートはそれぞれ、その表面的になぞった2つの問題に深く切り込んだ構成となっています。
だから、この作品のタイトルは「ボクらの迷子教室」なんです。
「私たちの迷子教室」ではないんです。
そして、ここで予め言っておきますが、彼は登場人物の中で最も弱い。
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「りこね、知ってるよ」
「何を……」
「お兄さんが、いちばん弱いこと」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 りこルート
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まずは、その事を念頭に置いて、ゲームをプレイ若しくは批評を読んで下さい。



(2) OP映像のあるシーン
さて、主人公の問題が絡むと前項で書きましたが、ヒロイン達の問題にも当然の如く、本作は言及します。
そうでなければ彼のいる意味はありませんし、そもそも教師モノとは相成らないでしょう。
彼女達のルート内容と、主人公の生き方を、ブランドの皆さんは発売前に教えてくれていました。
それは、OP映像における、ある一連の描写から分かる事
光を無くした町並みの情景
その背景がめくるめく映し出されて、父親の背中、そして母親の面影を背負って主人公が歩くシルエットのシーン
そして、ヒロイン達が登場するやいなや、母親の思い出は黒塗りに変わり、ヒロイン達が引き換えに映し出されます。
主人公の歩く道にはやてとりこちゃんがいて、主人公の歩んできた道にきなちゃんがいるのです。

分かりましたでしょうか?
勿論、意味が分からなくても大丈夫です、私の説明が下手なだけです。
結局は最後の描写、ヒロインに違いがあるという事だけ理解したなら、本項目はそれで充分ですから。
緻密に書くとネタバレになってしまうので、詳細な説明はルート感想にて言及する事と致しましょう。



(3) 主人公の立ち位置
「複数ライターの弊害」と言うのが、この業界では多く発生します。
文の読みやすさ、キャラクターの性格違い等が現れる1番の原因
まあ、エロゲにおいては、よくある事象でありましょう。
本作も、複数ライターを起用して発売された作品です。
クリア後の私が申し上げるに、もしかすると人によっては、同じ主人公の「違い」に気になる方もいるかもしれません。
主人公でありながら主人公ではないと言う、矛盾染みた現象
しかし、今回のゲームにおいてはそんなネガティブに見るのではなく、敢えて面白い見方をしてみようかなと思いました。
それは即ち、3つのルートをプレイして初めて主人公が分かると言う観点
性格が変わったと表面的に言う前に、もしかすると、それぞれのシナリオで微妙に性格が違うのは何か意味があるんじゃないかと考えました。
自分で言うのもなんですが、それぞれの個別における彼の立ち位置を見ても、それは結構的を射ているのではないかと思うのです。

と言う事で、今回の批評では主人公を、万能感を感じさせる教師としての要素が強い「教師枠」と普通の人間としての要素の強い「一般人枠」に分け、その中でも「ドライ」「ウェット」と性格をも分類して、ルート毎に語りたいと思います。
これは生徒に対しての接し方や、内面描写の感じで分けているのが特徴です。
以上の事を念頭に踏まえた上で、この先の批評をどうぞご覧下さい。
プレイがまだの方は、どうかお引取りをよろしくお願い致します。





2.共通ルート

主人公が夜間学校に来たきっかけ及び、生徒達との出逢い、交流が語られる始まりのルート
4億と言う遺産の為に、落ちこぼれ中の落ちこぼれが集った夜間学校の教室で教鞭を取る事とした主人公、藤原晴生の視点から物語は綴られます。
自らの名前に猛烈な嫌悪感を示す家出少女、小清水はやて
勉強、特に理数系がとにかく出来ず、虫に異常なまでの恐怖と嫌悪感を示す新島きな
仕事をしながら夜間学校にも通うシングルマザー、門倉綾子とその娘、門倉りこ
上記4人と主人公は幾多の試練、イベント、交流を経て、自らが「望んだもの」を見つけられるよう、前に進んでいく。

以上が大まかな概要
まず、そうですね、はやての怒髪天にびびって、プレイ当初、漏らしそうになりました。
急に大声出すんだもんで、初見時はこちらもきなちゃん状態
と言うか、最初からプレイして展開分かっていても、何故か反射的に驚いてしまいます、もう癖ですね。
しかし、あそこのシーンから、この学校に通う生徒達が何か一物抱えていると言うのが良く分かるので、最初のインパクトとしては、もう合格点の演技でした。
上記のように、共通ルートでもヒロイン達における問題の片鱗と言うのは、ちょくちょく表れていましたが、この時点で明確にヤバイと分かるのは実質1人だけです。
そのヒロインこそ、今回、最後に攻略するよう、申し上げた新島きなその人
取り敢えず、共通ルート全体を振り返って感じたのは、きなちゃんと主人公の関係が最初から、かなり重点を持って描かれているなと言う確信でした。
正直、この時点で彼女は絶対、最後に攻略するように……と言う圧力をひしひしとプレイヤーに与えてきます。
一本道のエロゲではないんですけど、真ヒロインのような感じと言いますか……
恐らくそのような形式であったなら、絶対、この娘が最後の攻略対象として抜擢されるでしょう。
その理由として「秘密の共有」「他ヒロインとの違い」が挙げられます。
言ってしまえば、この娘だけ共通ルート時点で、主人公の精神面における絡みが格段に多い。
「先生になりたかった理由」の「秘密」
「先生となっていた過去」の「秘密」
そして、「先生の弱さ」の「秘密」
そんな「秘密」の共有をしていて、主人公の苦しい時は必ず側にいて、何より、お互いがお互いを心配している。
正に真ヒロイン(仮)の構え!!
何はともあれ、個人的にはこの時点で非常に魅力的に映っていたヒロインでした。
まあ、ぶっちゃけると私、この娘目当てで買いましたので(笑)

そして、逆に共通ルートの中だと、綾子&りこ母娘は他ヒロインと比べて影が薄いと言った印象です。
まあ、不登校且つ体調不良と言う設定の都合上、登場自体が遅めって言う事態は大きいでしょう。
はやては恐らく、最も出番自体は多いんじゃないですかね。
やはり同棲の強みは大きいと感じます。

お気に入りのシーンはサンダーチョコと天体観測
「ただのお菓子なのに、純粋な気持ちが伝わるそれは、もうただのお菓子ではなくなっていた」と言う描写は、分かっていてもやはり何処かグッと来るものがあります。
稚拙でありながらも温かい。
真心ってくだらなくも、何処か愛おしい物だったなと思い出しました。
天体観測は、只々美しい。
共に同じ時間を共有する事の素晴らしさが詰まった、見目麗しいシーンと展開の妙です。
少し切なさを感じさせる情景なのも実にGOOD

後、地味に私は「ウッカリ選手権」なるワードに思いを馳せる始末
本当にダメな奴ってのは、絶対に1位は取れない。
どんな種目であっても、1位になる奴ってのは、その時点でダメとは言えない。
と、どこぞのエロゲ主人公のような事を考えてしまいました(『蒼色輪廻』で検索ッッ!!)


総じて、個別ルートをプレイする度に、共通ルートから続けてやりたくなる程、魅力的なシーンの数々ばかりだったかな…と。
ただ、たまに首を傾げたくなる部分もあったのは玉に瑕
例えば、天体観測を終えたきなちゃんと2人だけの語らいのシーン
彼女の台詞に「昨日言ったこと」なんて言っていましたが、会話の内容見る限り、明らかに昨日ではないです。
読んでいくうちに恐らく、先週の事を話してるんだろうと推測できましたが、描かれていない昨日の出来事をつらつら述べているので、正直、結構混乱致しました。
色々、シナリオ構成、書き換えがあったのかもなあ……
OPに至った頃には、既に私は製作作業現場に思いを馳せていたのでした(笑)




                       
3.はやてシナリオ
主人公の立ち位置:「教師」「ウェット」
テーマ:機能不全家族、父親と言う存在

(1) 家族の再起(再帰)は可能か?(はやてルート)
ヒロインの着実に紡がれる性格豹変に、共通の頃を考えずにはいられないルートです。
無論、冗談ではありません。
主人公も作中で言っていますが、「ホントここまで変わるとはなあ」って感じです。
行為後のピロートークとか、その翌朝の可愛い生物とか、「誰だお前!?」と叫びたくなりました。
性格的に、猫から犬へと別種に変化を遂げていると言う未知の現象を描いたこのシナリオはまあ、確かにはやてシナリオと断言出来る事態でしょう。
その結末へと至る過程にあるのは、彼女の家庭が招いた問題
由緒正しい家柄故の柵に囚われたはやてを、先生が邁進していく様は教師モノとして正しく、王道と呼べる展開です。
小清水家とはやてを仲良くさせるために行った頑張りは、ちゃんと先生やってるという感じで、最初にプレイしたルートとしては、最もオーソドックスに展開されていました。

しかし、その後のプレゼントを買ってきたはやてに対する先生の応対は、まあ、気持ちは分かりますけど、ちょっと戴けませんねえ…
確かにイラつくのも分かります、損害の数に頭を抱えるのも当然でしょう。
しかし、素直に反省している相手に更なる追い討ちを与えて、心遣いに「バカ」と返すのは自身も言っていますが、確かに大人気ない。
ただ、ここで分かるのが、彼自身も普通の人間であると言う事
この描写で伝えているのが、主人公の立ち位置だというのに気づいた時には、この喧嘩にも意味があったのかもと感じました。
はやてルートと言うのは、何だかんだ「教師」として、温かく接している描写が全般を占めています。
そんな「教師」として基本はやてに接している彼の「一般人的部分」と言うのがこのシーンで最初に描かれていた訳ですね(本ルートにおいて見せるのはここの部分だけなんですが)
まあ、無事に仲直りできて何より何より
取り敢えず、付き合い始めてからの先生は、もっと警戒心を持った方が宜しいと思いました(笑)



(2)父帰る(主人公ルート)
さて、そんなお悩み解決の前半とは打って変わって、後半は父親の話に突入します。
ただ、それ以上に感じたのが、この展開は主人公に対しての周りの愛が全面に出たルートでもあるんだなと言う事
父親と彼に関係した人々の話と言うのに後半は見事変わり、あまり好印象でなかったキャラクターに新たな側面を見せていました。
昔あった情熱を主人公がなくしている事に気づいていた、ハードボイルド藤原
死後に主人公が見た父親の日記で、自分の事をきちんと見ていてくれた事、最後に申し訳ない気持ちを綴っていたと言う展開は、これまたオーソドックスながらも良い物です。
そして、全てを知った彼が、卒業式前に交わした管理人との会話
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「……俺、最初はとりあえず卒業させればいいんだって、教師は勉強を教えるだけだって授業をしてたんです。でも違った、ここの生徒たちが求めているのは勉強を教わる事だけじゃない……人との繋がりだったんです」
何をやっても、どう頑張っても上手くいかない世界
ままならないこの世の中を一緒に生きる人間として……だから母さんはこの学校を作ろうと思ったんだと、今なら思える。
「同じ世界に生きている同じ人間として、共に生きるって事がどれだけ大切か学ばさせて頂きました」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』はやてルート
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この成長こそが、父が態々呼び出して「言いたかった」真理だったのかもしれない。
そう感じさせてくれる展開は見事であり、終盤へと至るストーリーの方が正直言って、好みに感じました。

ただ、このシナリオは全体的に、整合性の面において、少しばかり気になる箇所があったように思います。
例えば、最初に4億がバレて事情を説明するシーン、その過去を語るのは初めてって言っていました。
でも、その前に、共通ルートできなちゃんに話してるんですよねえ……
詳しくは語ってないと言う意味で発言したんでしょうか?
後、先生と家でどんな事をしているのかと言う会話の際に、きなちゃんが「んー、じゃあ先生の好きなモノとか知ってたりする?」とはやてに尋ねるのも可笑しいですよね……
共通ルートで貴方、もう知っているでしょうに!!

また、プレイ当初は前提情報を知らなかった事もあり、シナリオの最後まで、はやての家庭問題は続くと思っていたので、解決が意外に早かったのは正直、驚いたと言うか拍子抜けと言った感じでした。
それ故か、別の理由か、既に述べている方もおりますが、御都合主義感はこのシナリオが1番強い。
世間は狭いですし、はやての母親消滅しますし、猫は便利ですし、閉校も頓挫します。
恐らく気にならない方もいるかと思いますけどね、展開の運びは下手過ぎると言う訳ではないので(個人的感想)

そして、はやてに対して、主人公が真に心を許せているのかな…と言うのは、正直謎です。
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「誰か相談相手とか居ないの? 話せば気が楽になったりとか……」

「相談できる人、信頼できる人はいないの?」

「……あたしには、相談できる?」

「まあ……そうだな」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』はやてルート
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しかし、自身のルート中において、主人公は父親が死んだ時、彼女に対して「相談」をしていません。
最終的に、はやてを頼る事は終ぞしませんでした。
まあ、最後には話に付き合ってくれましたし、それで良しと言う事なのでしょうか。


とまあ、こんな感じで色々ありましたが、最初にプレイする物としては、全体的に無難ながらも満足の行く出来だと思います。
そして、そんな中でもキラリと光る物は多くあって……
このシナリオにおける見所と言えば、やはり「小清水はやての慟哭」が挙げられる事でしょう。
月野きいろさんが出演していたエロゲと言うのは運悪く、邂逅の機会に巡り会えず、未だにプレイ出来ていなかったのですが、この演技を見て是非、他の作品も手に取ってプレイしたくなりました。
新開拓と言う点においては、非常に大きな役割を全うしたルートです。
取り敢えず、『シルヴァリオシリーズ』を近々買おうと思った、プレイ直後の感想なのでした。





4.りこシナリオ
主人公の立ち位置:「教師と一般人の間」「ドライ」
テーマ:社会と現実、母親とは、愛するということ

(1)母子復調(りこルート)
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症候とは抑圧によって阻止されたものの代理物である。

ジークムント・フロイト『精神分析入門』
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今回のシナリオを表すにおいて、作中で登場した上記の言葉は実に相応しい。
症候に色々な意味を含ませたならば、りこも、主人公も、この言葉に沿った人生を生きているのですから。
そこにあるのは大人びた子供故の苦悩
聞き分けが良く、我儘を言えなかった人間の悲哀
子供時代に、子供らしく振舞えなかった人間の哀愁が際立つシナリオです。

前半は門倉母娘の問題
仕事と学校の板挟みでどうしようもない綾子さんと、その影響によって心身に支障をきたしたりこちゃんの不協和音が色濃く光る展開です。
綾子さんの心情描写が多く描かれているルートなので、私としては綾子さんの方に感情移入してしまって、きついなあ、悲しいなあと思ってしまいました。
「上げ底の話」も中高生時代、『人間失格』の主人公に共感出来た身としては、よく理解出来ましたね。
綾子さんからしたら分かってないと思われるかもしれませんが、自分のつたない価値観で理解出来たと言う事にしておきましょう。
まあ、彼女は勿論、りこちゃんも大変なんですけどね。
自律神経失調症になる程のストレスを抱えながらも、母親を気遣って自分は無理を重ねていく女の子に、心を寄せられない訳がありません。
ただ、この娘の場合、この後の主人公の問題に対しての態度を見てもそうなんですが、とにかく心情を読むのが難しい。
まあ、その点は後々触れていくとして、このルートでお気に入りと言えば、シーン毎の美麗さと言うより文中表現に多いです。
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満たされない望みを言う。
無いものをねだる。
けれど――この子が持たないものはあまりにも大きい。
理解できる欠落だからこそ、人は厭う。

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 りこルート
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理不尽であるということは、不自由であるということでもある。
無理な状況から、自由に抜け出せないということだから。
今は、小さい頃に感じた理不尽さのいくらかを自分で受け止められるようになった。
でも、りこちゃんはまだまだ子供だ。

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 りこルート
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「心の器が壺みたいなものだとしたら――喜びとか、嬉しさとかは水みたいなもので」
瞳が見上げてくる。
俺が喋ることに純粋に期待している視線だった。
不安を強く感じている。
だから誰かが自分に話しかけてくれることで気が紛れる。
その純粋な期待。
「悲しさとか、苦しさは石みたいになってる。石を乱暴に入れられたら壺は割れて――ひびが入って、まず水が流れ出してしまう。そして水が全部流れ出しても、石は残る」
「……そっか。そうだよね……」
「石は残って、どんどん壺のなかにたまっていく、石がいっぱいになりすぎたら、もう壺を壊しちゃいたくなるかもしれない。でもどれだけ石でいっぱいに思えても、水が入る隙間は必ずあるんだよ。ヒビさせ直ればまた水でいっぱいにできる」
「あ……」
「だからどんなにヒビだらけに思えても、自分の壺を大切にしよう」
りこちゃんは頷いた。
俺がこんな話をすること自体、悪いことが起こりそうだという予感を強める結果になる。
だが――目を逸らしても仕方がない。
それに何度もヒビを直した箇所はきっと勲章になる。

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 りこルート
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シーンを挙げるとしたら、添い寝しりとりが地味にお気に入り。
子供はやっぱり、子供らしくが1番だよね!!
後、忘れてはいけないのが母娘の語らい&慟哭シーン
親子の絆は簡単に断ち切れるものではないと、切に感じさせてくれました。



(2)母帰らない(主人公ルート)
ここで1つ大事な事を。
このシナリオにおける主人公は、他とは何処か異質です。
共通ルートにおいて、綾子さん達と会話をしている際、彼は必ず遺産の事を考えていました。
体の良い事を言って、腹では黒い事を考えている自分に嫌気がさすという自己嫌悪
その状態が共通ルート最後まで続き、個別に至っても引き摺っている故か、このシナリオの主人公は他と違い、結構な「ドライ」です。
原義的な意味で「冷酷」と言う程でもないんですが、少しばかり冷めていて、発言と心情描写がやけに「現実主義的」で「クールぶって」います。
まあ、小学生に甘える辺り、あくまで「的」で「ぶってる」のですが(笑)
それこそ、綾子さんや生徒達には「教師」として振舞っていても、りこちゃんには「一般人」として接している描写が際立っていました。
「他のシナリオでもそんな感じじゃね?」と思われた方もいるかもしれません。
ですが、それは少し違っていて、他シナリオの主人公って言ってしまえば、一貫してるんですよ。
生徒に対してもヒロインに対しても、主にどちらかの姿勢で対処しています(勿論、扱いは格段に違いますけどね(笑))
ただ、このシナリオの彼は「俺」と「僕」を見事に使いこなす二面性を持ち合わせている通り、「教師」としても「一般人」としても、何処か曖昧な存在でした。
これはもう、描写とストーリーの問題にあるのでしょうね。
ここにおいてのみ、主人公の二面性が目立ち、尚且つ、そういった曖昧さを追及するシーンが多かった…
端的に言ってしまえば、それだけの話なんですから。

要するに、このシナリオにおける主人公の立ち位置は、何とも中途半端で曖昧模糊
中途半端な事はしないという母親の行為を振り返りつつも、彼自身は中途半端に行動している有様です。
それを踏まえた上で明言します。

非常に衝撃的な展開でした。
まさか、主人公が共通ルートで語った事が全て否定されるとは思いもよらなかったです。
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思わず自分の母親と比べてしまう。
母親に関しては俺は恵まれていたと改めて思った。

『夜巡る、ボクらの迷子教室』共通ルート
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この根底を覆す事に終始するとは、プレイ当時は考えもしなかったでしょう。
ちょっとした描写が皮肉的展開に至ると言う凄まじさは、このシナリオが1番であり、構成が非常に上手かったと切に感じます(上記の例の他に、りこちゃんの抱擁シーンにおける言及が、小清水の家賃のシーンで既に明言されていたり等)

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「あの子たちはね、みんな、母さんの子供みたいなものよ」
「晴生もそう思って接してみて。みんなあなたのお兄ちゃんやお姉ちゃんなの」
「みんなみんな……可愛い教え子よ」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』共通ルート
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「晴生。あなたならきっと立派な教師になれるわ」
「だって晴生は努力家だもの。努力は必ず報われるの」
「ほら、もう少し胸を張って……背筋を伸ばして」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』共通ルート
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「もうだめだ、一歩も動けないって思ってもね。生徒を想って、足を前に出したら……あと一歩、あと一歩だけって、進めるものなのよ」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』共通ルート
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ここまで、プレイ前とプレイ後で印象が変わる台詞群も中々無いですね……
「母さんならどうした?」
「母さんなら、きっとこうした」
その価値観で動いていた彼が、門倉母娘と付き合っていく仲で、母親と呼べる存在に疑問を抱き、そこから始まる噛み合わない過去と目的
愛して欲しかった存在にレッテルを貼られて、そうする、そうなるしかなかったと気付いた瞬間
彼は目標を見失い、自身の存在をも見失い、何が正解で何が失敗かも見えぬまま、「好きなもの」や「生きる意味」も分からなくなって、ただ生きる事と相成りました。
残るのは自立していると言う強みを重ねた右往左往存在
憧れていたものが、自分にとってそこまでの人物では無かった事に気付いた時、主人公に与えられたのは、もういない母親に対しての幻滅と後悔と渇望
1番「迷子」だったのが「主人公」だったと言うのは、何とも笑えない冗談です。

藤原晴生は行動していました。
「母親」の悪因を遠ざけて、ひとまず無かった事にして、仮初の強さを手に入れてから彼女に近づいて、崇拝する事にしました。
「教師」と言う強さの勲章を得てから、彼女を崇拝する事としました(「崇拝」って、最も遠くから拝謁した、本質を見ない行為の証明ですけど)
そんな行いに至った背景にあるのが、下記における母親の発言
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「いい先生になってね。晴生ならきっと見つけられるわ。かけがえのないものを――」

「先生になって……見つけて。あなたの支えになるものが、きっと――」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 共通ルート
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中途半端且つ人間らしい彼は、それを目標として据えて「先生」になるしかなかったんです。
「崇拝」を損なう否定だけは、してはいけない事だから。
それが彼の「生きる意味」として、機能していなければいけなかったから。
「教師」になれば見つけられると彼女が言っているのだから、それは絶対に正しい事なのです。

しかし、上手くいかない過去、予定通りにいかない予想図、タイミングの悪い現在
そんな人生に支配されていた彼の胸中には、少し経ってこんな疑問が生まれます。
「俺の母親って、どんな人だった?」
「崇拝」からの「葛藤」
自身の母親への疑惑がこのルートで積み重なっていく中、彼女を無理に否定する事も、中途半端且つ人間らしい彼には出来ませんでした。
「教師」なんて強くも何ともないと、母親を否定する事なんて、当然の事ながら出来ませんでした。
それは偏に、強くあり続けた「目標」である「彼女」の「真の喪失」に繋がるから。
亡くしてしまっても、無くしたくなかった。
だからこそ、彼は自身を「強い存在」であると、無理にでも鼓舞し続けていたんです。
「母親に愛されなかった自分なんていない」と隠し続けて、守り続けるしかありませんでした。
愛されなかった事を認めてしまったら、彼女が「母親」として未熟で弱い存在だった事の証明となってしまうから。
そして何より「教師」として、これまで強くあろうと生きてきた自分の「全否定」へと繋がってしまうから。
彼の「生きる意味」をこんな酷い形で無くす事は、彼自身が1番赦せなかったのです。
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「もうだめだ、一歩も動けないって思ってもね。生徒を想って、足を前に出したら……あと一歩、あと一歩だけって、進めるものなのよ」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』共通ルート
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強くあろうと生きてきた過去の原点を否定されたくないが為、無くしたくないが為
強くならないといけなかった、強くならなければ生きていけなかった主人公
しかし、中盤になって限界が見えてきた時、徐々に真相がわかってくる過程は、私も「うわああああ、きつい」と、心情描写に一憂ばかりしていく始末でした。

また、このルートは生徒2人と口論を交わすシーンもきついんですよね……
主人公の「見つけようとする」原動力と、生徒2人の「見つけようとする」原動力ってのは、言ってしまえば、
「『母親との約束』から生まれた遺志」と「『母親との約束』を受け継いだ『主人公』によって生まれた意志」
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「いい先生になってね。晴生ならきっと見つけられるわ。かけがえのないものを――」

「先生になって……見つけて。あなたの支えになるものが、きっと――」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 共通ルート
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「母親との約束」があったからこそ生まれた志が、主人公の原動力
その「母親との約束」を受け継いだ主人公と接していく中で生まれた志が、彼女達の原動力
ほぼ同一の存在でありながら、主人公が「真相」に気付いてしまった事で、この事象は噛み合わなくなってしまうのです。
その「真相」と言うのは、自らの「醜悪な本性」もそうなんですが、何より、根底にあった「母親」と言う存在が揺らいでしまった事にあります。
先生が「目標」を持って、教師という仕事をやり続けているのを知っていたから、応援してきたし、自身も頑張ろうと思って来た生徒達
ただ、その先生が「目標」
つまりは母親から受け継いできた遺志を、託された物を揺らがせてしまったら、同じように目標を持って生きてきた生徒達の頑張りも揺らいでしまいます。
あの共通ルート最後に交わした約束が全部、反故になってしまうからです。
先生からこれまで貰ってきた物が、全て、無駄になってしまうからです。
(母親と/先生と)「交わした約束が解消されないのは嫌だったから」見つけようと思った。
(母親から/先生から)「沢山、大切なものを貰ったから」生きようと思った。
しかし、母親への疑惑は、これら全てを否定する。
それ即ち、「見つけようとなるまでに至った過去」と「見つけようとする未来」の全否定へと繋がる。
この真実に気付いてしまう展開は、非常に苦しい。

しかし、主人公はりこちゃんとの抱擁で気付きました、いや、再認識しました。
憧れていたその存在は、思っていたよりずっと「弱い」人だったと。
自分から逃げようとする位には、母親は「弱い人間」だったと、認識を改めるのです。
それを知った時、彼女への「崇拝」は崩れます。
しかし、りこちゃんと言う支柱がいたから、彼女の「真の喪失」には繋がりませんでした。
どうなったか。
彼は彼女を通した自分を振り返って、母親を「人間」として対等に見る様になります。
そして、りこちゃんに愛された自分の中にある、周囲の存在への対応を振り返って、自らはどうしたかったのかという明確な自己意識をも見定めるようになるのです。
まあ、結論を言えば、最後の選択肢が、彼が考え出した末に生み出した2つの答え
この二者択一はある意味、どちらも正解
「愛されたかった」し「愛したかった」んです。
教え子にかかりきりの母親に愛されたかったし、そんな生徒に優しい母親を愛していたかった
生徒に愛されている自分を実感したかったし、それを踏まえて教師として生徒を愛したかった
結局は、どちらを重視するかと言う話(エーリッヒ・フロムの『愛するということ』を思い出しました)
だからこそ、片方のルートでは藤原パパも彼と同様の選択をします(父親と主人公が似てると言った綾子さんは実によく見ていましたね)
父も同じ。
認めると言う事は、愛すると言う事
彼もまた誰かを認めたかった、だから、最後の質問は変わるのです。
「何か言って欲しいのか」→「何か言いたい事があるのか」に変わる
主人公の言葉を認め、対応しようとする。
父も母を愛していた事、そして主人公をも愛している事に繋がる一連のシーン
彼もまた、遅ればせながら一歩前へと踏み出せた証なのでしょう、凄く良い場面でした。
そして、最後の生徒とのシーン
「見つけられなくても、得る事は出来る」と言うのは、正直、論点のすり替え感が否めませんでしたが。
雰囲気と展開、良いんですよねえ…
見事に押し切られてしまった感じでした、満足です(笑)


さて、ここからはシナリオの総括
「愛する」と言う事の難しさと尊さを描いたこのシナリオですが、前述したように、りこちゃんはとにかく心情が読めない。
なぜなら、しっかり者を演じなければ生きていけない環境に生まれ、その対応術とした「えんぎ」が既に植えつけられているから。
「愛する」がテーマで、真意の分からない女の子をメインヒロインに据えている、地味に驚くべき事です。
ある意味、綾子さんを主軸に置いていたら、無難ながらも良く纏まった物になっただろうなと感じます。
心情描写は母親の方が遥かによく描かれていますし、理解できますからね。
しかし、ライターさんは敢えてりこちゃんをメインとして起用しました。
これを挑戦と取るか、無謀と取るか、意味不明と取るか……
まあ、プレイしたユーザー次第でしょう。
私は「挑戦」として判断し、その結果、まあまあ良質なシナリオに仕上がったと感じました。
裏を返せば、これは好みが分かれると言う事
好きな人は堪らなく好きだろうし、響かない人には恐らく何も響かない。

万人的批判としては、表現が婉曲的で分かり難い部分も多々あるので、しっかり熟読して読まなければ、内容が不明瞭になってしまうと言う事
正直にぶっちゃけると、自分でも正しいかどうかわかりません(シナリオに引っ張られて、自分の批評も婉曲的になってしまった次第)
寧ろ、間違っている可能性の方が大です(笑)
訂正ありましたら、いつでもお待ちしております。
ホント、キャラクター達が何故その発言をするかまで考えないと、これはちょっと意味不明になってしまう可能性が大きい。
ただ、裏を返せば、熟読してじっくり読みたい方には、結構合っています。
いや、そもそも、分かっている人の方が多いんでしょうか?
分からなかった方も多いかと思って、こんなに緻密に書きましたが、もしかして杞憂?
もしかすると、私が馬鹿なだけかもしれません、それならそれで良いんですがね。

また、個人的批判としては、綾子さんが途中でフェードアウトしてしまうのが、ちょっと戴けないですねえ…
そのせいか、このシナリオでは作品全体のテーマである「卒業」が他シナリオと比較すると、見事なまでにぶれてしまっているんですよ。
主人公の、母親からの「卒業」は良いんです、悪くない。
ただ、生徒達の「卒業」にフォーカスが当たらず終いだったと言うのはちょっと…
幾ら中途半端な主人公でも、ストーリーに中途半端はいけません。
りこちゃんが純粋な生徒じゃない故、しょうがなかったのかもしれませんが、それなら無理にでも、綾子さんの「卒業」シーンを描いてぶれないで欲しかったと言うのが正直な所です。
だからこそ、EDもいまいち。
主人公とりこちゃんがどうなったのか不明瞭だったので、疑問が結構占める感じでした。
生徒達2人から「卒業後、どうするのか?」と訊かれておいて、詳しいその後が分からないと言うのは、正直あんまりだと思いましたですはい。
主人公が「ロリに逃げた叛逆の徒」に見えましたからね。
てっきり「卒業から逃げた逃亡者」かとも思いました。
後、地味に重要な事なんですが、逢魔刻モードがこのルートではまるで機能していません。
そこら辺もまあ、減点と言う事で。
やっぱりシステムあっての物語ですし、しょうがない。


とまあ、こんな風に愚痴愚痴言いましたが、しかしながら、このシナリオは意外に作品全体で重要な事を挙げています。
例えば、作中で出てくる4つの窓(ジョハリの窓)
主人公の立ち位置に重要な意味を示し、それはきなシナリオでも見事なまでに言及されています。
例えば、主人公の描写
今回の描写があったからこそ、きなシナリオにおける対応が凄く映えると言うのは、もう見事な出来でした。
例えば、母親に対する考えの変化
今回のシナリオがあったからこそ、主人公が過去に「ちゃんと愛されていたと言う情景」をきなシナリオで思い出すシーンに、安堵の溜息を零すのです。

って、結局、きなシナリオの事しか言ってねえ……!?
まあ、長過ぎの戯言はこれ位にして、さっさと次に向かいましょう。
取り敢えず、りこちゃんルートは個人的にも楽しめたので良かったです。


「そういえば、りこちゃんの行きたがってた大型スーパーって結局、行ったのかな?」
と、疑問に感じたクリア後の情景





5.きなシナリオ
主人公の立ち位置:「一般人」「ウェット」
テーマ:いじめ、後遺症と過去、「生きる意味」←最重要

(1)全体から見た特異性
さて、私が批評を書きたくなったきっかけのシナリオが、満を持しての登場となります。
その点につきましては、ここまではやて、りこと語ってきた段階で、私の点数は70~75点の間だった事を予め、申し上げておく事と致しましょう。
2ルートの平均でこれを高いと評するか、低いと評するかは個々人の判断による物でしょうが、私としては悪くないけど少し物足りないと言った印象
良作且つ無難に纏まった優等生的な作品ですが、少しの大きな爆発力、スパイスが足りない。
言ってしまえば、特筆すべき所がない作品
光る物はあれど、そこが中々、心の奥底にまで結びつかないと言った展開が多かったのが正直な所でした。
もしかすると、批評も書かずに埋没していたかもしれません。
そして、最後に残ったのが、個人的に最も期待していたきなシナリオ

自然と、涙が流れていました。
どうして流れているのかも理解出来てないまま、私はさめざめ泣いていました。
いや、よく考えてみると、理由は明白でした。
辛くて、切なくて、悲しくて、悔しかったからです。
そして、どうしようもなく、彼女の事が愛おしくなったからです。
私はいつもセーブデータを全ルート、良いシーン均等に入れているのですが、このゲームに限っては、きなシナリオが殆どを支配してしまいました。
前代未聞の事例と言えるでしょう。
正直、文句が出てきません。

まず客観的に見て、このシナリオは結構、画期的だと思うのです。
そもそもにして「いじめ」を題材にしたエロゲと言うのは、実に数多くあります。
有名所の名前を上げていくとすると……
『いたいけな彼女』
『ユメミルクスリ』
『終の空』とそこから決別した『素晴らしき日々』
後は『H2O FOOTPRINTS IN THE SAND』なんかも、部分的にはそうでした。
ただ、上記のエロゲって、皆、いじめが現在進行形で行われていましたよね?
本作は違います。
「いじめ」と呼ばれる行為は既に終了していて、彼女だけがその終わった「今」に苦しんでいる。
恐らく、業界始まって以来の「いじめ後遺症」をテーマとしたエロゲと言えるでしょう。
「いじめ後遺症」をテーマとして据えたエロゲなんて、少なくとも私は聞いた事がありませんし、やった事もありません。
そもそも出てきた概念が実に最近の事
2014年に日本の精神科医である滝沢龍先生が出した自身の研究論文で、精神医学的に確立されたその概念を、早3年で、自身のメッセージに取り入れる本作に、まずは純粋に凄いと思いました。

そんな、明らかに気合入りまくっているきなシナリオですが、業界全体の作品における「違い」以外に、内容全体から見た「違い」についても、ここで明記しておかないといけません。
それ即ち、このシナリオと他シナリオにおける2つの「違い」
1つ目は、他のキャラ自体が極論を言うと、助けなくても問題がないと言う結果です(シナリオと言うより、キャラクターと言っても良いのかもしれませんが)
実を言うと、はやてを選ばなくても、彼女は家に帰って仲良しせっせします。
りこちゃんを選ばなくても綾子さんは免許取得しようと思い立つまで成長出来ましたし、彼女も協力していました。
そこに主人公の助けは勿論無し、皆が自力で辿り着いているのです。
しかし、きなちゃんだけは違います。
3ルート全体を俯瞰すると、藤原先生がいなければ、彼女は真の意味で「卒業」が出来ていません。
夜間学校から卒業する事は出来ています。
しかし、それは彼女にとっての「卒業」じゃない。
大学へ行くと言う彼女の目的、それが満たされていないのですから。
他の2ルートでは恐らく、大学へ行けていないでしょう。
とどのつまり、言及がまるでされていませんので。
そして、これは即ち、彼女だけがこのシナリオ以外において、救われていない事の証明となります。
だって、彼女の「やり方」は「大学へ行く」という前提の元に成り立つ代物なのですから。
それはこのシナリオをクリアした皆々様なら、充分理解出来る事でしょう。

さて、もう1つの「違い」と言うのは、きなシナリオでは主人公とヒロインの問題が分かれていないと言う事です。
これまでのルートは、ヒロインの問題解決後に主人公の問題が発生、そして解決と言う手法が取られてきました。
しかし、今回は同時並行と言う形で、問題2つが同じく進んでいきます。
それは何故か。
簡単な話で、根幹となる原因が同じだからです。
きなちゃんと主人公と言うのは、共通ルートから「私と先生が同じ」なんて発言も既に生まれている程、良く似ていました。
OP映像において、彼女だけ別の場所にいた事
主人公の歩く道にはやてとりこちゃんがいて、主人公の歩んできた道にきなちゃんがいる。
あの場面転換は、彼が過去の出来事で感じてきたものを、彼女自身も同様に辿っている事を証明しているのだと感じます(他にも意味がありますが、それは後程)
だからなのか、ある部分においては、性格が全くの類似
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「あはは、こんなんでいけるのかって話なんですけどね」

なによりあまり思い出したくない今の自分がこんなんだから余計に――

「わ、わたしなんかで良かったら、いつでも……どうぞ」

「ほんと俺のことなんか気にしなくていいのに」
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双方、自信が著しく低いんです。
『こんなん』とそこまで自分をけなすな、と彼女に思う主人公も、自身の現状を「こんなん」と揶揄しています。
そんな、自分の事を『なんか』と過小評価する2人
それが、きなちゃんを含めた生徒達と接する内、主人公の心境には変化が見られていく。
『教えてください』
『楽しかったです』
『すてきです』
『わたしッ!! 先生が来てくれて……ほんとに良かったと思ってます!!』
彼女の言葉が、自身を肯定できる免状を与えていく。
そんな彼と対照的に、彼女は囚われたまま…
否定するしかない現状に囚われたまま……
それを、この個別ルート終盤で向き合っていく展開はもう、非常に良く出来ていました、天晴れです。
勉強を教えながら、大切な事も教わっていて、それを返して生きていく。
他シナリオでも上手く紡がれてきた流れですが、きなシナリオはその「返し」が顕著
特に中盤、トラウマな過去を交えながらも彼女が教えてくれた事を、後半、部屋での対話において主人公が行動で返すとは、私自身、鳥肌が立った次第
非常に素晴らしい場面です。
プレイして良かったと思えた瞬間でした。



(2)不自由からの闘争(共通ルート)
上記の特異性により、このシナリオだけは、共通ルートから続いて変遷を辿っていきたい……
と思ってましたが、殆ど2.共通ルートで言及していました。
共通ルート時点では先生と2回、「2人だけの秘密」をした女の子
共通ルート時点で何度も彼を救ってくれた女の子
共通ルート時点で主人公が苦しんでいる事に真っ先に気づいて、何度も働きかけた女の子
もう既に書いておりますので、だから、ここでの記述は細かい部分
先生が彼女を気に欠けていた証拠と言うのが少しばかり手薄だったかなと思うので、改めて、ここで述べさせてもらいましょう。
書く内容はほんの少しです。

さて、詳しく言及されていませんでしたが、そもそも、主人公は何故、急に天体観測を行おうとしたのでしょうか?
はやてが言う通り、普通の主人公であったなら、確かにこんなにノリ良くは絶対やらないでしょう。
私は、そこにきなちゃんが少なからず関係しているのではないかと思うのです。
虫の影響で、PTSDが起こった事故
その翌日、授業に出ても彼女は元気なし、雰囲気もどんより。
彼女の明るさが授業形成に一役買っていた事を偏に感じた次第
その最中に、りこちゃんの世間話から、突然主人公が提案したのでした。
これには生徒達の気分一新の為、と言う教師としての理由も勿論あるでしょう。
しかし、それってつまりは、その暗い雰囲気の根源にある彼女に元気になってほしかったから、彼女に楽しい授業を受けさせたかったからだと思うのです。
純粋に思った「楽しかったです」を聞きたくて……の優しい我儘
天体望遠鏡に1番夢中になる描写を加えたのも、その為かもしれません。
そして、だからこそ、イベントの終わりに、きなちゃんと主人公だけが会話をします。
彼女の第一声は「『すごく』楽しかったです」
薄々、主人公の意図を察していたのかもしれません。
もしかすると「いつものやり取り」の最中に「いつもとは違う想い」を込めていたのかもしれません。
それは、本人にしか分からない事でございましょう。
後、りこちゃん以上に心配って言われてましたし(笑)
この時点で先生も彼女の事を心配していて、彼女も先生を気にかけていたと言えるでしょう。


そして余談
最後の「死んでもいいかもしれません」と言う発言について
あれは「幸せの歪んだ解釈」であると同時に、「幸せに素直に向き合っていた過去」があったからこそ、出てきた言葉です。
もう死んでもいいなあ…と思えるような素晴らしい日、瞬間に出会えるのって、人生においては数少ない。
巡り会える事自体がとても貴重であり、中には、一生巡り会えない人もいるでしょう。
夜がどれだけ巡っても、そのような日には巡り会えない、そんな人なんてざらのざら。
しかし、彼女は会えました、死んでもいい夜に。
他人からは歪んでいると思われるでしょうが、私はその言葉が出た「心の綺麗さ」を評価したいと思いました。
普通は出ない「幸福を最大限の言葉で語った」彼女を、家族以外の連絡先に喜ぶ姿を見ながら、愛おしく思った次第でした。



(3)不自由からの闘争(きな&主人公ルート)
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実を言うと、聖書に出てくる人物のうちで、イエスの次に僕が一等好きなのは、あの気違いなんだ。
あの墓の中に住んでてさ、石で自分の身体に傷ばきしつけてる奴。
僕はあいつのほうが使徒なんかよりも十倍も好きだ、あのかわいそうな奴のほうが。

ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』
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もう、しょっぱなからグサグサ来ましたね……
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「今のままじゃダメなんです。今のわたしじゃ、生きてる価値なんてないんですよッ!!! 」

「わたしは大学に行って、いい仕事ついて……まともな人間に……ッ 」

「このままずっと生きていたくないんですよ……ッ!!」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 きな&主人公ルート
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この時点で「ああ、辛い…」ってなった位です。
そして、これはもっとキツイ展開来るだろうなと思ったら案の定でした。
いじめ描写長すぎ、惨すぎ、リアル過ぎ…
いや、正直舐めてました、すいませんでした。
2回目プレイするのかなり勇気要ったぞおい。

しかしながら、このシナリオにおいて、私が気に入ったシーンは数を挙げればきりがありません(その中には苦しいシーンも入っているドMな私ですが)
再試の慟哭や母親代弁膝枕、虫騒動にきなちゃんへの説得、公園での告白にED等々、全部挙げられない程、素晴らしい場面ばかり
後、私は地味に人生ゲームの最中語った、この台詞がお気に入りなのです。
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「情けないと思ってる奴らこそ、真剣にのめり込んでるんだよ」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 きな&主人公ルート
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ゲーム中に不意に語られた、ふざけも詰まった言葉なのですが、頑張って学校に行っていたきなちゃんにとって、この言葉は至極、響いたでしょう。
虐められている自分を情けないと思いながらも、頑張って向かっていた過去の自分
これは、そんなきなちゃんを含めたこれまでの彼女全てを全肯定している言葉に他ならないのですから。
この発言は正に、激励の返球
元気付けられた恩返し、見事果たされた瞬間だったと思います。
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「先生が情けないと思ってるのは、その事に先生が真剣に向き合ってる証。みたいな? 悔しい、変わりたいって気持ちがあるから、情けないって気持ちが芽生える……みたいな……」

「だって、自分にとってどうでもいい事だったら、情けないとか思いますか? 私は思いません」

「大切なものだからこそ、情けない気持ちになれると思うんですよ」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 共通ルート
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さて、「今を変えれば過去も変えられる」なんて、昔、アルフレッド・アドラーと言う人が超絶難しい事を抜かしましたが、このシナリオはその発言を忠実に体現した物語だと感じています。
共通ルートから言われてる通り、きなちゃんと先生は「同じ」でした。
なぜなら、これまで何度も述べたように、彼等は同じ原因で夜間学校に来て、もう解決しようもなかったから。
他のキャラクターと言うのは、現実から先の未来へと進んで生きていけます。
変えようと思えば、まだ機会は残っているし、変えられるんです。
はやては家に帰れば、現実が待っていてくれる。
りこちゃん達は現在進行形の問題なので言わずもがな。
しかし、このシナリオの2人には、その現実自体がもう待ってくれていません。
逃げてしまったから、終わった事だから、過去の産物だから。
きなちゃんがOPで他のヒロインと分かれていた理由と言うのは、主人公が過去の出来事で感じてきたものを、彼女自身も同様に辿っている証明
それともう1つ、彼女だけが他のヒロインと明確に異なっている事を示していたのだと思います。
「やり方を変えないといけない」のは皆、同じ
しかし「認識を変えなければ」どうしようもなかったのは、この2人だけですから。

そんな、きな&主人公ルートで描かれているテーマの1つにあるのは「後遺症」
過去からの柵に対してどう向き合い、どのように生きていくかと言う「生きる意味」にも踏み込んでいます。
(1)でも少しばかり語りましたが、最初に向き合ったのは主人公でした。
りこシナリオでは「母親に愛されなかった自分」であった彼
しかし、ここでは膝枕の一件により、母親に愛されていた事に気付いていて、彼女を既に「人間」として見る様に出来ていました。
それは、きなちゃんが膝枕で代弁してくれたおかげであり、自分の深層心理を理解していたからでもあり、続けてプレイすると、その凄みが実によく分かります。
また、父親の本意も作中の展開ではっきり分かり、主人公もそれを理解した節が見受けられました。
明らかに他シナリオを前提とした成長が、そこにあったのです。

途中の展開では、そんな彼のはっきりと変わった描写が描かれています。
中盤で行われた「人生ゲーム」です。
「授業そっちのけで人生ゲームを楽しんだ」のは、教師としての彼だったら、絶対許可しないでしょう。
しかし、彼は生徒達と育まれていく関係で変わりました。
だから、きなちゃんに元気になって欲しいから、授業と関係ないゲームも平気でします。
昨日の出来事を引き摺っている彼女の為にも、約束していた皆の為にも、ゲームをいっぱい楽しむのです。
そして、本当に楽しい時間を過ごしたい、過ごしたからこそ、ここまではっちゃけた、これまで見られなかった性格の片鱗を垣間見れました。
それは本人も言及している通り…
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教師のくせに、大人のくせに、熱中する事なんてないと思ってたのに、こんなにはしゃいだのは……何年ぶりだろう。

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 きな&主人公ルート
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「俺自身、こんなハマるとは思ってなかったよ」
「先生の新しい自分? 発見ですかね?」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 きな&主人公ルート
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ここで気付いた方もいるかもしれません、これ、りこシナリオで言っていた、第四の窓理論を踏襲しているんです。
こういった、他ルートでは見られなかった主人公を見せてくれるのに「ジョハリの窓」を使うのは、とても上手いやり方だなと思いました。
まあ、ここに気付かなければ、単に性格変わったで終わってしまう悲しい話なのですが(笑)

そして、彼にとって最後の問題、真に主人公が夜間学校へ赴いた原因と向き合い、成長するのはこのルートだけでしょう。
はやてシナリオでは、夜間学校へと滞留する事を望みました。
りこシナリオでは、逃亡……ではなく、よく分かりませんが、元気でやっていました。
でも、裏を返せば、結局、他ルートって真の原因と向き合ってないんですよ。
この世界、この人生「逃げ」はとても大事です。
心機一転、気分を変えてというのも、非常に重要でしょう。
ただ、終わった現実を追いかけて、自らの真意と向き合い、変えていこうとするこの展開を、私は1番好ましく思いました。
また、父親の問題も、母親の問題も、言ってしまえば副因的な物
確かに父母に愛されなかったから、愛を知らない彼は私立学校でも失敗したのかもしれない。
しかし、それは曖昧な理由への責任転嫁に他ならない。
「何かのせいにする」事に他ならない。
事実、結果と言うのはきちんと存在していて、主人公はきなシナリオで唯一、それに向き合った。
だからこそ、私はこの話の主人公が結構好きと言えるのかもしれません。

そんなこんなで、最後に残ったのはきなちゃんの問題
しかし、そもそも、彼女に必要だったのは、自分を助けてくれる救世主なんかではありませんでした。
少女マンガの展開が嫌いな彼女が、望む訳もありませんでした。
自らの抱えていた問題は、もうとっくの昔に終わっています。
今更出てきた所で、自分も他人も、何も救えないのです。
では、きなちゃんが望んでいたモノとは一体、何だったのでしょうか?
只々必要だったモノ
それは、寄り添ってくれる事、普通に接してくれる事
自分と共に寄り添ってくれる誰か、自らを普通でいさせてくれる人間に他ありません。
まともさ、普通さを欲しがった彼女だからこそ、相手にもそんな人間を求めた。
だからこそ、このルートはとにかく「対等に見る」描写が目立ちます。
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「教師としてだけじゃなく、俺は新島の頑張る姿を見ていたい」

「あの時、俺はお前の気持ちを汲まなくちゃいけないと思った。教師として、一人の人間として」

「毎日新島が頑張る姿を見ていると、教師としてじゃなくても嬉しい」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 きな&主人公ルート
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この言葉達は、主人公が教師以外の一面を曝け出して、きなちゃんに付き合っていた事の証明となります。
また、かなり早くから名前で呼ぶようになった事
これも、言ってしまえば早々に、対等に彼女と接していった証明となります。
そして、きなちゃんが卒業できなくなってしまったと言う事態
これは裏を返せば、主人公も全員を卒業できなくなってしまったと言う事
要するに、2人が同じ苦しみに至っています。

そう、このシナリオは先生と生徒に分けられた関係ではなく、大人と子供で区別された繋がりでもなく、2人の対等な人間の物語なんです。
主人公の、普通の人間的な部分が多く入り込まれたシナリオであります。
そんな彼だからこそ、作中でもきなちゃんへの答えがわからず、側にいる事しかできません。
途中で彼女に「先生」と呼び名を戻され、対等である事を拒否されもします。
教師としては、もしかすると失格の部分もあるかもしれません。


でも、最後まで行くと自然、理解したでしょう。
きなちゃんにとっては、彼が彼のままで良かったんだと……
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「嬉しいって感情は水みたいに流れていって――悲しさは石みたいになって思い出として残る……。けど、悲しい喜び、みたいなものもあるんじゃないかな」
「…よくわかんないけど」
「俺もわからん」
「おい」
「でも……小清水も他の皆も……。悲しい思い出を多分人より持ってる。もし何かでそれが化けたらずっと残る喜びになるのかも」

『夜巡る、ボクらの迷子教室』 りこルート
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クリア後、私は思います。
「楽しかったです」
「俺も楽しかったよ」
一連の会話は、2人にとって救済の儀式だったんだと。
授業終了後、主人公に語られた言葉
この発言に、彼女はどれだけの思いを込めていたのか。
この想いが、彼にどれだけの安らぎを与えていたのか。
授業終了後、きなちゃんに語られた言葉
その発言に、彼はどれだけの思いを込めていたのか。
その想いが、彼女にどれだけの安らぎを与えていたのか。
それを考えると、私の胸はどうしようもなく、張り裂けそうに切ない気持ちで埋め尽くされるのでした……


きなちゃん、卒業、おめでとうございます。



(4)なぜ、この攻略順なのか?
さて、最初に私は小清水はやて→門倉りこ→新島きなの順で攻略するように念押ししました。
これまでの記述で理解した方もいるかもしれませんが、改めて書いておくとします。

まず、はやてシナリオ
これは、もう一般的な熱血教師ストーリーです。
困っている生徒達を救う、絶対強者として描かれる「教師」の姿を描いています。
案外、万人受けしやすいのはこういったシナリオかもしれません。
父親の話が最後に語られるも、それは主人公の魅力を挙げていくスパイス
最初に私が語った、昔ながらの教師像がそこにありました。
そしてだからこそ、昔のドラマや映画の様な勢いで誤魔化すテイストを少々、醸し出していると言えるでしょう。

次にりこシナリオ
これは、はやてシナリオでは強かった主人公が、教師と普通の人間としての境目に苦悩するストーリーです。
昔のドラマや映画ではあまり描かれる事のなかった「主人公教師の苦悩」
彼もまた1人の人間であり、そこに個人的問題を孕んで生きていると言う人間描写を多く加え、はやてルートで多く描かれていた「万能感」をここで意図的に消滅させています。
そして最後、答えは生まれません。
なぜなら、その個人的問題の解決策となる存在はもう死んでしまっているから。
一生出ない答えなんです(少なくとも、このシナリオでは)
それを理解した上で、大切な人と生きていく。
これは、そんなほろ苦さを持ちながらも、過去を振り返らないで未来を向いて生きていく物語
「ジョハリの窓」は、全体の中間に相応しい必須要素と言えましょう。

そして、最後にきなシナリオ
これは、そんなこれまでの主人公、全てに対しての克服を描いたストーリーです。
主人公は、自身が母親に愛されていた事に気づきます。
途中で、父親も自分を愛している事に、間接的ながら理解しました。
そして、1番の原因である私立学校時代の過去
それもまた、1人の少女によって救われます。
「何かのせいにこれまでしてきた」自分をきちんと見据えてくれて、否定しないよう懇願してくれた女の子
彼女のおかげで、主人公は真に変わろうと考えるのです。
しかし、そんな発破をかけたこの娘も弱かった。
「何かのせいにこれまでしてきた」人間だった。
そんな彼女へ「自分に与えられたものを返す」為、彼は接触します。
「何かのせいにこれまでしてきた」人間同士の対話が、2人なりの「答え」を導き出すのです。

主人公は「私立学校へ戻る」と言う、逃げでも打ち切りでもない生き方を選んでいく。
彼女は他ルートで行けなかった「大学へ行く」と言う道を選んでいく。
そして『3人』で生きていく。
この帰結に至るまでが『夜巡る、ボクらの迷子教室』のメッセージ
本作だけの魅力と言うのに、大きく心を震わせ、この順で攻略した方が良いと切に感じた瞬間でした。
人それぞれ好みはあるでしょうが、以上の観点により、私は小清水はやて→門倉りこ→新島きなの順で攻略する事を潔くオススメする次第です。





6.それぞれのヒロインの感想
(1)小清水はやて
ムッツリ女です。
性知識は随分と豊富そうですが、実践が伴わないはぐれ者純情派でございます。
怖いの駄目な所や、押しに弱い所等、意外に女の子していると言う描写は、結構好きな人多いかも…
しかし、地味に他のヒロイン達全員から羨ましがられている、珍しい立ち位置なんですよね。
仲良くなって、臆面もなく物事を主人公と言い合えるというのは、確かに理想的関係
クールに物事をこなせる所は、社会で確かに役に立つでしょう。

まあ、本人はきなちゃんのようになりたいみたいですが。
上手くはいかないのが世の常、無い物強請りの世の中でございました。


(2)新島きな
私にとっては特典において、あまり選ばれないヒロインがベストヒロインなんですかね……
『シンソウノ○ズ』もそうだったんですよ、あの娘だけやけに少なくて…
まあ、その話は置いといて…
おめでとう、念願のベストオブベストオブベストオブザヒロインの称号獲得です!!!!
どのルートでも一貫している女の子と言うのに、私は弱い。
まあ、この作品において、描写破綻が起こっているヒロインと言うのはいませんでしたが、共通ルート時点で主人公の事を第一に心配し続けた部分は、やはり魅力を与えた大きい要素だったと感じます。
それから進み続けて生まれたのは、傷の舐め合いから始まる純愛
慰め合いで、根幹が同じ原因を分かち合う2人でした。
きなちゃんのシナリオは、私が彼女を好きになれた分だけ、とても苦しくて……
頑張ってるのに上手くいかない自分を「生きている価値が無い」と評したり、膝枕で擬似的な母親になっても自身の辛い心情を隠しきれていなかったり、世間は誰も助けてくれずにどうしようもなく辛かったり、過去のいじめに至るまでとその最中の描写があまりにもリアルで惨すぎたり……
私も、このシナリオに限っては、悲しく切なく悔しい事ばかり感じていたように思います。
そして、だからこそ、共により良い未来を目指していこうとした吸血鬼達に、最後は涙を零したのです。

悲しいけど笑ってたあの日も、嬉しいけど涙が流れたあの日も、決して無駄じゃなかった。
全てが終わって泣いた後に見たあの朝は、とても透き通っていて、綺麗だったんですから。

これからはずっと、ずっと幸せな日々を送って下さい。
まあ、大丈夫でしょう、この『2人』なら、きっと。


(3)門倉りこ
末恐ろしい小学生です。
洞察力の高さが際立っています。
読み返してみると、りこちゃん、当初から主人公の奥底に気付いている節があるんですよね……
いやあ、ホント、何とも恐ろしい小学生です。
私個人としては、些か、聖母化をし過ぎている感が感じられ、良い意味でも悪い意味でも、人間っぽくない印象を感じました。
でも、私もそうですが、男って根底にはやっぱり、全てを包み込む母性と言うのを求めますよね。
グレート・マザーなんてアーキタイプの概念もありますし。
地母神信仰の影響の甚大さは歴史が証明していますし。
「これエロゲだから!! 人間のリアルなんて要らねえ!!」って人には文句なしのヒロイン
そう考えるとこの現代、需要高そうだなあ、りこちゃんは。
アイドルとして売り出すなんて話も作中ありましたが、中々上手くいきそうな予感が致します。


いや、冗談ではなく。


(4)門倉綾子
THE 不遇な人
シナリオもしかしてカットされたんじゃないかと思う位です。
りこシナリオの選択肢、最初のあれ、全く意味無かったですよね?
だって、私、綾子さんの方が心配って選びましたから。
そりゃそうでしょう、これまでの描写辛そうですし、ってか辛かったですし……
まあ、でも良いお母さんです。
母親と言うのはやはり、子供を第一に守ると言う精神性が最も重要だと切に感じます。
プレイしていて、私個人としてはどうだったかを思い返す事も屡々でした。

うん、恵まれてたな、自分は。





7.後記と言う名の戯言

つまらない自分語りを含みますので、「お前の過去なんて知りたくもねーわバーカ」と思った人は、どうか気になさらず、御退出下さい。
時間は有効に使いましょう。
今更ながら、私の戯言で無駄にしてはいけません。

本作をプレイした方ならば、この作品は定時制学校に通う人の闇を描いた作品……「ではない」と断言出来るでしょう。
これは、そんな分類していいような話ではなくて、悩みを抱えた「人間」全体の話です。
そこに、そんな区分けしたようなプレイは要らない。
それでは、あのモブ達と同じ
他人を勝手に下に見て、檻の中の動物の様に彼等を見る人種と相成ってしまいます。
そんな風な事を想起してしまうのは、私も過去に同じような人間を見たからに他ありません。
自分にも定時制ではないですが、日本ではあまり馴染みのない学校に通っている友達がいましたので、見慣れない光景だったと言えば嘘になるでしょう。
小学生の頃からの付き合いで、お世辞にも頭が良いとは言えなかったけれども、でもそれでも、1人で笑っているような奴でした。
中学生位になると、そのバカさ加減を呆れと偏見の目で周囲が見るようになって……
彼女にも表立っては言えない苦労があったんだと思います、詳細は聞けていません。
そこから学校に来ない日々が続き、授業終わりに度々、家に遊びに行ったのを覚えています。
そんなこんなで卒業
高校時代は都合が空いたら会って、学校の事について話すと言った感じ
学校はお互い違った私達の、休日の時間で作り上げた邂逅です。
その時、彼女は自分の通っている所をとても誇らしく語っていました。
なんでも、学校に通うのが面白い、他人と話すのが楽しい、授業が終わるのが勿体無い。
アンリ・ファーブルの講義が如く、気が向いたら何処かに出かけて勉強して、休日はクラスメイトと何処かに出かけていく。
そんな自由が通用する学校で自分はとても楽しいと、中学校時代に灰色の表情しか見せなかった彼女が朗らかに語っていました。
当時の私は酷く感銘を受けたのです。
学校自体を好きになる事が卒業まで終ぞ起こらなかった自分と違って、彼女は学校そのものを好きになって、一生懸命に「今」を生きていたのですから。
正直に申せば、とても羨ましく感じました。
はやてシナリオでは、幸せが単純な物だと語っていましたが、その通りだったなとプレイ中に思い出した次第です。
人生と言う長い時間においての大事な事って言うのも、つまりはこういうありきたりな物だと思いますから。

私は人生と言う長い期間において大事なのは、作中のような夜間学校や彼女の過ごした「場所」、そして其処で過ごす「時間」なんじゃないかと思うのです。
昔から、世界は「迷う事」を否とし、せかして、重要な選択を足早に決めさせる風潮が続いてきました。
だからこそ、そんな世界や、其処で過ごすような時間が、1番大事なのだと偏に感じてしまうのでしょう。
今回、このゲームを最後までプレイして、自分もその「迷える時間」に浸れました。
そしてプレイ後、現実で重要な分岐点に差し掛かっていた私も、きちんと「決断した」次第です。
苦難の道で、他人からしたら馬鹿だと思われるでしょうが、自身の道を肯定する事が出来ました。

「ボクら」と言うのは、プレイしている「私達」の事でもあった。
それに見事適合した本作を、私が嫌いになれる訳ありません。
作品は人を選ぶなんて眉唾でしたが、嘘ではなかった。
私が本作を「選んだ」のではなく、私が本作に「選ばれた」のだと、今なら思います。
再生回数100回未満のPVを、初めて観た、あの時から……

本作に関わった全ての方に、お礼を申し上げたいです。
出てくれて良かった。
買ってみて良かった。
プレイして良かった。
「望んだもの」
確かに私も見つけられました。


本当に、本当に、ありがとうございました。



これはスタートに至るまでの物語

ゴールにはまだ辿り着けていない者達の物語

soulfeeler316さんの「夜巡る、ボクらの迷子教室」の感想へのレス

EX.独断と偏見で選んだ、個人的嗜好によるルート毎BUMP OF CHICKENテーマソング
①共通ルート…「流れ星の正体」

②はやてシナリオ…「オンリー ロンリー グローリー」「Stage of the ground」

③りこシナリオ…「arrows」「ロストマン」

④きなシナリオ…「天体観測」「トーチ」「流星群」



そして、クリア後には是非「プレゼント」を……
2018年01月13日08時06分58秒

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