nezumoさんの「カサブランカの蕾」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

失礼ながらもどうせただの抜きゲーだろうなと舐めてかかったら、終盤は衝撃的な展開に振り回されっぱなしだった。短いながらも色々な意味でかなり刺激的な作品だと思う。
エピローグひとつで圧倒的な衝撃を与えられた。
それこそ上げたように見えて落とされる展開としては自分がプレイした中でもトップクラスのインパクトがあった。
何も知らない状態でプレイできたからこそこの衝撃は味わえただろうし、多くを語らずに読み手に想像させるところも好感が持てる。
このタイプの余韻だと同社の系列ブランドから出たソラコイという作品がそうだったが、
音楽を生かし、少ない文字数で最後の最後に読み手を引き込ませるという意味ではトップクラスの完成度だと思う。
以下はそれぞれのヒロインの個別√や考え方などについて色々。


ユリ

最初はどこからどう見ても唯一の良心的な存在だったのだが、物語が進むにつれて狂人として覚醒してくる。
本来そういう性格だったのか、それともこういう状況に置かれて初めてこのような行動を取り始めたのかは分からないが、
最初のイメージとエピローグ後の落差が一番酷いヒロインで、見る人が見ればトラウマになりかねないレベルだと思う。

特に後半について、ユリの行動パターンとして一貫してるものを推測してみると、「主人公の気を引きたい」という部分。
個別√では写真を貼ったのは自分だと公言しているが、ミク√でもミクが同じことを言っているので、真実がどちらなのかは分からない。
しかし、早い段階で主人公が浮気(?)をしているのは知っていたと思うし、ユリの行動についての悪い噂も他のヒロインが時々口にしている。

主人公の気持ちが他のヒロインに揺れ動いている時、身体を使って必死に繋ぎとめようとしてくる。
結局朝の待ち合わせ場所に来てしまったりするのもそうだが、主人公に自分を意識させたいという気持ちを強く持っているのだと思う。
主人公がカナに遊ばれて命令されている時は微塵もこんな雰囲気持ってなかったのに……。

彼女が本当に恐ろしいのはここからで、主人公の気持ちが「自分にはユリしかいない」と定まった時、あえてそこで遠くに行ってしまう。
「主人公の気持ちは完全に私の方を向いていて揺れ動かない」という確信がどこかにあって、彼のことを更に振り回そうとしているのかもしれない。
結果的に主人公は見事に振り回されて、会うまでに5年の歳月、ボロボロになるまでユリを探し続ける羽目になる。

この時の主人公は既にユリがいないとどうしようもない状態で、散々気を引いて自分に告白させておきながら、当の本人は別の彼氏を作っている。
更にこの先主人公の気を引けていると彼女が確信を持っているだろうから、ユリは適度に主人公に構いながら今の生活を続けるだろうし、
主人公の側は更にボロボロになって潰れてしまうのだろうと本当に怖い。約束という言葉がとにかく重い。

もしこの彼氏作りから再び出会うまでの一連の流れが、主人公に対する制裁的な意味合いが込められているなら残酷という他ないし、
単に偶然あの場面で主人公に出会ったと仮定しても、あの約束の話を笑顔でサラッと言ってのけてしまうあたりが完全に普通ではない。

この一連の展開が今作で一番インパクトがあったし怖すぎるのは間違いないのだが、
ユリと付き合っていながら他の女に揺れてしまった主人公が招いた悲劇と言えなくもなく、そう考えると自業自得な部分も大きい。
こう考えると、ユリが純粋(?)だった物語序盤からの展開全てがこの一瞬のための舞台装置であるような気がしてきて、更に残酷に思えてくる。


ミク

自分としては、ユリに比べたら若干主人公に対する認識はマシだが、それでもこの女も相当恐ろしい。
まず「彼女がいる状態の主人公にしか興味がない」し、「自分に気が向いた瞬間全く興味がなくなる」という性格そのものがもう凄い。
エピローグで彼女の言葉で少しだけ語られているが、完全に恋に潰れて退学になってしまおうが、その後の彼については全く興味がない。
つまりは彼そのものには実は全く興味がなく、たまたま彼が自分に好意を抱いていて、その彼が彼女を作ったというそれだけの理由で近づいているのである。

しかし彼女はそこまでしても満たされることはなかった。また違う三角関係を求めて旅に出るのだろうということは想像できる。
この作品の内容全てが彼女が遊んだうちの1回に過ぎないとかなってくると、それはそれでまたかなりダメージを受けそう。

ミクの出番としては、カナとユリとの三角関係を継続する中で中盤からちょくちょく介入し始めて終盤一気に本性を現してくるタイプだが、
カナはそもそもミクの掌の上で完全に踊っていて、ユリも途中までは純真無垢(なはず)だったので、実質ミクが全ての舞台を作り上げたということになる。
おそらくミクにとっては、自分が告白して主人公の感情が揺れ動くのも、3人の女をフラフラするのも、全て計算済みの行動だったのだろう。

裏という裏はこのくらいなのでこれ以上は特に掘り下げたいと思えるような内容はないが、
カナとユリだけではおそらくこの物語は回らなかったのではないかというところだけ付け足しておきたい。
そのくらいミクは場をひっかきまわす才能に長けていて、グループの人間の感情をまとめてコントロールするのが上手い。
優柔不断すぎる主人公の性格もミクに振り回されていたから仕方がないと考えるとまあまあ納得がいくし、不思議と嫌いになれなくなった。


カナ

最初は一番狂っているかのように見えたが、終わってみれば一番まともだったというよく分からないヒロイン。
この子だけ終盤の展開がバッドエンド風の終わり方をしておらず、友達エンド的な立ち位置に止まっている。
反社会的な展開だがかなり後味はよく、(この作品の中に限って)綺麗すぎて浮いているように見える。

「今まで努力していたものに対する興味がスッと消えてしまった」という展開自体はありがちだが、その後の解決方法がなんとも独特。
それがいじめに発展してその逃げ道として主人公を利用していること、そして自分はもう一度バスケとは向き合おうとしないこと……
しかしやっぱりバスケを忘れられずに思い出のシューズで繋ぎとめているところは非常に人間らしい。

最終的にいじめがエスカレートし、思い出のシューズがズタズタに引き裂かれることを持って反社会的な行動に踏み切るのだが、
むしろそれは規則や努力と言った社会的に普通とされるものから解き放たれる行為であり、ある意味好感が持てる。
やってることもなんというか(終わってみれば)全然許容範囲内だしむしろ楽しそうだし。

エピローグではペンキの掃除をしたりする生徒たちが実は普段よりも生き生きしてそうだなという描写があることから、
なんとなく社会批判っぽい、自分たちの社会に反する行動には意味があったんだということを感じさせるような漠然としたメッセージ性がある。
決して強いメッセージが残るわけではなく事件性もなあなあな感じで終わってしまうが、暗くも明るくもない絶妙な感じで終わっているのが良い。
今しかできないやりたいことをやってちょっとはスッキリしたかなって程度だろうけれども、描写不足なりに綺麗な締め方だなと思った。




余談① 空恋 (Summer memories Ver.)について

空恋という曲はソラコイという作品のそれもソラというキャラクターのために作られた曲だと信じ込んでいたが、
今作のユリ√との当てはまり具合は正直ぞっとさせられるレベルで凄い。勿論失恋とか皮肉とかそんな感じの意味で。

タイトルの意味も決して明るいイメージではなく、空恋(空を掴むような恋)と言えるだろうし、
「主人公はずっとユリのことを見続けているのに、ユリが自分と向き合ってくれる日は決してこない」というような皮肉めいた解釈が取れる。
歌詞を考えてみると、特に「指切りした約束」「思い出にはしないでよね」「あれから何度季節が過ぎただろう」といった歌詞が突き刺さってくる。
ソラコイではこれらの歌詞がプラスのイメージで使われていたが、今作では全部が全部ネガティブなイメージを持っているようにしか見えない。
題名のsummer memoriesという文字列もまた、この一連の出来事がひと夏の思い出に過ぎないことを強調してくるみたいで、何とも性格が悪い。

空恋という曲は曲調から歌詞から何もかも非常に綺麗で、それこそ本家ソラコイでは何度も泣かされた。
こうして別の作品と組み合わせてみて、新しくこの曲の負の可能性を感じることができた気がする。



余談② ユリ√と恋×シンアイ彼女終章との比較(恋×シンアイ彼女のネタバレを含む)





大変個人的な話だが、プレイして最初に思い浮かべた他の作品の物語がこれだった。
別にどちらかが上だとかそういう話をしたいわけではないのだが、とりあえず比較して考えてみたい。

まず2つの作品で大きく一致しているのが、「主人公がたった一人のヒロインを追いかけてボロボロになる」という点である。
その点だけで言うと、恋×シンアイ彼女の終章には救いがあり、今作のエピローグでは全く救いのないものになっている。
その違いを分けているのが、ヒロインの対応と描かれ方で、

恋×シンアイ彼女:主人公のことが好きだという姿勢は崩していない、失踪は彼女の創作に関係するもの
カサブランカの蕾:主人公の気だけは引き続けるが、あくまでも他の人と付き合っている

前者に関しては、最後に出会えている出会えていないの両方の解釈があるし、主人公の物語として描かれているので希望はあるが、
少なくともこの作品は、主人公がユリに出会った上で最悪の終わり方が描かれているので、大変後味が悪い。

この2つの作品の決定的に違うところは、恋×シンアイ彼女の主人公は自分の中にヒロインを追う目的を昇華出来てるのに対して、
この作品の主人公はまるでユリがいないと生きられないかのような、ユリの肉体そのものまで求めているということにある。

要は描かれ方の問題なのだが、最後に出会えるという希望を持たせたかのように見えて最後の最後で突き落とすという今作の展開は、
本当に容赦のない完璧なまでの鬱展開に仕上がっていて、このご時世にここまで勝負した作品を出すということそれ自体が既に尊敬できる。
だから自分はこの最悪の後味を感じながらもユリ√が一番好きである。
何も知らない状態であの終わり方を見た時の、驚きと恐怖が入り混じったような落ち着きのない気持ちをいつかまた感じたい。

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