TsukimiyaYukitoさんの「初恋」の感想

ネタバレ感想を見たくない場合、文字を背景色に設定することが可能です。 → 設定変更

**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

72初恋
 果物の名前を冠するヒロインとの純愛はまずまず楽しめました。しかし、これが『初恋』を描いたものなのかと問われると、その特殊な状況にはかなり疑問が残ります。
1. 作品全体について(ネタバレ小)
1.1. 『初恋』をタイトルに冠してはいるが……
 本作はタイトルそのままに「初恋」をテーマに描かれた作品ですが、プレイ前に抱いて
いた印象とはどうも異なりました。確かに、自分の気持ちにみんな真っ直ぐであり、意中
の人に焼きもちを焼き、見ている側も恥ずかしくなるような甘酸っぱい場面も数多く描か
れています。しかしながら、お互いを意識してドキドキし、告白もなかなか出来ず悶え、
両想いになってから手も握れないといった、ステレオタイプな微笑ましい初恋をイメージ
していると、その齟齬に苦しむことになります。

 さらに、タイトルからは決して想像できない様々な設定が登場します。読者を驚かせる
これらの展開が悪いわけではありませんが、その背景説明がほとんどないことに勿体なさ
を感じます。ただし、透けた立ち絵で登場するヒロインがいるなどファンタジー色が強い
作品であることを冒頭から予告していました。そのため、リアリティの低さはそこまで気
になりませんでした。


1.2. 中学生の頃を思い出して
 実際のところ、10代前半までに初恋を経験する人が大多数だと思います。それに合わせ、
聖桜館学園に通う彼らを中学生として見た方が物語に入りやすいかも知れません。野々原
幹さんが描いた可愛くぷにっとした幼いヒロイン達も、その読み方を後押ししています。
それに対応させるためなのか、主人公も問題処理能力に欠けるとても頼りない人物として
描かれていました。

 ここで、稔ちゃんについて少し弁護しておきましょう。この主人公は、ひたむきに恋愛
し直情的な行動をたびたび見せます。しかし、初恋の初々しさを描くという意味ではそれ
ほど悪くないのでしょう。周囲の状況も主人公にとってかなり都合がいいように動くこと
は否めません。それでも、彼も女の子のために決意を見せているところを忘れてはいけま
せん。


1.3. その他(音楽やシステムなど)
 17曲の楽曲には綺麗な曲が多く、特に心が沈んだ場面で流れる「壊れやすい心」が最高
でした。システム面では、見た目のデザインは優れているものの、セーブ&ロード画面を
開くのにステップ数が多く、またその数も20しかないところが残念でした。




2. 個別シナリオやヒロインについて(ネタバレ大)
 主人公が恋を意識した後に出会った女の子は、特殊な立場の女の子ばかりでした。しか
し、彼らの拙い盲目さは、振り返って初恋と呼ぶに十分値するものだったと思います。お
そらくこれは、主人公の妹やその親友を中心としたグループの日常会話(およびその雰囲
気)を満喫しつつ、物語が破綻するギリギリのギミックを楽しむ作品なのでしょう。


2.1. 初島 杏(7/10)/ ワナを仕掛ける本当の目的
 お兄ちゃんをからかうことを生きがいとしている杏。彼女の「えへへ……ワナだよ、お
兄ちゃん」は、構って欲しさと好意の表れであり、自らの気持ちを素直に言動に表してく
れているとも言えます。怒ることで真剣に向き合っていることを示して欲しい杏と、これ
以上落ち込ませたくない稔のすれ違いも良かったです。

 ところで、2人の恋人関係が真っ先に母にばれて猛反対されることも、なかなか面白い
ところだと思います。そして、これまでの子育てや離婚問題にまで言及されました。兄の
決意表明と妹の説得により元通りとなりましたが、意外と現実的な論点を持ってきました。

 さらに、義理の兄妹であると明示しなかったことも注目に値する事項でしょう。2人の
関係をこのシナリオでは「同い年」「生まれた月だって一ヶ月くらいしか違わない」とし
か明らかにせず、周囲も実の兄妹として扱います。これは表現手法としてなかなか面白い
と思いました。(性的関係を結んでしまったとはいえ)最後まで仲が良すぎる兄妹として
の関係(距離感)を崩さなかったところもポイントです。


2.2. 高鷺 花梨(7/10)/ 名前が覚えられないわけ
 プチプチつぶしが大好きな花梨。記憶に無い恋する気持ちに戸惑い、他の女の子(妹で
さえ)と一緒にいると焼きもちを焼く彼女は可愛かったですね。屋上でお弁当をあ~んと
食べさせてみたり、他の女の子を名前で呼ぶと不機嫌になってみたりと、初恋らしさが出
ていました。

 終盤まで王道路線を貫いていたわけですが、それを覆すかのように緑色に透けるガラス
の腕を見せられた瞬間は、この作品の中で最も驚いたシーンでした。振り返ってみれば、
伏線となる事柄もいくつかありました。

・名前を覚えられないなど、強い興味があることや習慣しか記憶に残らない
・肝試し中の人体模型や人形の怪談
・恋愛に対する常識の欠如
・ピアノが上手く引けなくなる(→恋煩いだけではなかった)

呪術による人形という手法は全くもって反則の感が強いですが、結末に繋がるエピソード
が十分に盛り込まれていたので、それほど抵抗感はありませんでした。最後の指輪につい
ては、彼女の意地悪な性格も反映していたため、それなりに気に入っています。


2.3. 椎名 柚純(7/10)/ 嫉妬相手のパラドックス
 しゃっくりが可愛いボクっ娘の柚純ちゃん。論理的担保が一切無いのは残念ですが、幽
体離脱していた自分自身に嫉妬していた結末はとても興味深かったです。

 徐々に幽霊状態の柚純に惹かれていく描写がよかったこともあり、急に彼女がいなくな
ってクラスメイトとして転入してくるのは面白かったですね。他人の空似ではごまかしき
れない彼女にストーカーまがいな事をしてしまう主人公は、確かに褒められたものではあ
りません。しかし、彼も自分勝手な振る舞いを反省しており、初めての恋に前が見えなく
なっている描写で許せる範囲には収まっていると思います。


2.4. 桜井 小桃(7/10)/ ようやく実った初恋
 大福が大好きでたまらない小桃先輩。彼女が全ての記憶を思い出している状態で稔と接
していることを念頭に読み返すと、再開からラブレター、肝試しまでの一喜一憂する気持
ちがよく分かります。転生を性格や記憶の上書きではなく、無意識下で惹かれあった後に
前世の記憶を思い出すという手順で描かれているところも好印象。しかし、現在の(転生
後の)彼/彼女の何処が好きになったかを表現し切れていなかったのは残念に感じます。
それでも、どうしてこんなことに……と感じるエピソードが連続は十分に楽しめました。

 転生後の小桃については、もはや予定調和でありご愛敬な要素にあふれています。とは
言いつつも、大正時代から長い輪廻を経て3度目の初恋にしてようやく一緒になれた2人を
応援せずにはいられません。ひとまずは、卒業後まで派手なことは我慢してくださいね。

 なお、このルートでは二木の暴走が顕著でした。親友(であったはず)の稔への暴行や
小桃先輩への迫り方はストーカー以外の何者でもありません。杏ルートにおける彼の「振
られたくらいであきらめるようじゃ、ひとすじって言わないんだよ!!」といった言葉は、
初恋ゆえの想いの強さを表していて好きでした。だからこそ、前世の(無意識下の)記憶
により盲目的になり、ここまで嫌な人物となってしまったのは正直残念です。転生にそれ
こそ命を懸けた二木が小桃と最後まで結ばれなかったのは可哀想にも思えますが、やはり
自ら死を選んだ制裁というものなのでしょう。


・西村 陽子 / 初恋は実らない
 親友の兄を一途に想う陽子ちゃん。好きな人の恋を応援できるお人好しな彼女は、とて
も損な役回りを務め上げました。妹の昔からの親友という「ごく普通のクラスメイト」で
ある陽子ちゃんのシナリオがないのは、初恋は実らないものであるという一般論を暗に示
したいのでしょうか。

 小桃先輩と二木の死後に、身体を開いて初島を慰めるのは唐突かもしれません。しかし、
極端に落ち込む彼を見て、もしかすると彼も死んでしまうのではないかと考えることはそ
れほど不自然ではないでしょう。陽子ちゃんはお互いの傷を舐め合っているだけと自覚し
ていましたので、けじめを付ける日まで描いて欲しかったとは思います。


2.5. ココ・夏野・パルフェ(6/10)/ 母の想い出を訪ねて
 無邪気で純真すぎるココちゃん。母の想い出を見つけるために、学業とメイドを頑張る
彼女がとても可愛かったです。

 彼女のお話は高鷺家でのアルバイトや屋上での調理実習など、他キャラクターの意外な
一面を見られるエピソードもありました。全体としてはやや都合の良すぎる展開が続くも
のの、ファンタジーにあふれた本作ではドタバタ喜劇として楽しめるものでしょう。ただ
し、ココちゃんとの交際出来るようになったのは、王城から彼女が再び脱走する賭けのお
かげというのは少しだけ心残りです。稔が国王(父親)に母親について説教したことが大
いに効いているとはいえ、やはり主体性に欠けるのは残念でした。

長文感想へのレスを書くには
 ・ユーザーIDを有している
 ・COOKIEが有効である
 ・COOKIEを有効にした状態でログインしたことがある
 ・5つ以上一言コメントを書いている
 ・長文感想を書いたユーザーが長文感想へのレスを許可している
の5つの条件を満たしている必要があります。

コメントデータ

このコメントはだいたい576回くらい参照されています。