oku_bswaさんの「私のリアルは充実しすぎている」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

ゲーム内容も勿論面白かったのだけれど、初めて乙女ゲーらしい乙女ゲーをプレイしたことで、エロゲーで表現されているのとはまた違った、女性ならではの恋愛観や女性が描く(理想の)男性・女性像が朧気ながら見えてきて、個人的にはそちらの方が興味深かった。
乙女ゲーはこれまでにも何本かプレイした事があるのだけれど、そのどれもが設定やストーリーに惹かれたのが理由で、例えば『蝶の毒 華の鎖』は大正時代という時代設定、或いは同サークルの過去作『桜哉』も「アンドロイドと人間」というSF的なテーマに惹かれてプレイしたし、乙女ゲー本来の目的である「男に萌える」ということを意識したのは一度も無かった。

ところが本作の場合、舞台は至って普通の学園だし、主人公は周りから慕われる優等生ながらも実はオタクという特別珍しくもない二面性を持ったキャラクター。攻略対象も主人公の義弟、昔は親しかった男友達、憧れの生徒会長の弟と、状況だけを見れば普段自分が女の子に萌える為にプレイする萌えゲーと殆ど差異が無く、違いは性別によるものでしかない。本作は男に萌えるにはうってつけの正統派乙女ゲーとでも言うべきか。

そのため今回ばかりは自分も「男相手に胸をときめかすかもしれない…」と期待半分恐れ半分の心持ちでプレイすることになった。
結論から言うと「男に萌えた」と感じたのは一度も無かったが、初めて乙女ゲーらしい乙女ゲーをプレイしたことで色々と考えさせられる点があった。以下プレイした順番で軽く書いていく。


・穂積ルート
そもそも主人公がオタク、隠れオタという設定が綺麗に成立するあたり、乙女ゲーの女性視点は素晴らしいと思う。これがエロゲーの女性視点だとまた少し違ってくるし、男主人公の場合は同族嫌悪というか色々言いたくなってしまう。男主人公がエロゲーについて熱く語るのなんて見たくも無いが、希美がヴァルト様への愛を叫び床ローリングするのは素直に可愛いと思える。これは男性エロゲーマーならではの感覚かもしれない。

女性というフィルターを通して見ているせいか、作品には澄んだ空気が満ちていて、男性キャラも皆どこか上品さが漂っている。特に瑞穂なんかは顕著で思わず「こんな男現実にいないだろ」と突っ込みたくなってしまったが、それを言ってしまうと「エロゲヒロインみたいな女なんて現実にいないだろ」と強烈なカウンターを食らってしまうので黙っておく。理想は理想のまま大事にしたい。

穂積ルートの中心になるのは誰が誰を好きかの四角関係で、題材自体は珍しくもないけどそれを女性視点で追うのはやはり楽しい。恋に揺れる女の子を見るのはいつだって良い物です。エロゲーでありがちなドロドロした雰囲気やまどろっこしさとは無縁の、爽やかで後味の良い終わりになっていたのも印象的。自分の感覚だと乙女ゲーの女性視点は主人公の目線と言うよりもエロゲヒロイン一人の心情を終始見ているような感じがする。


・歩ルート
歩ルートでは唯一希美のオタク趣味が周りに露見する。その告白がクライマックスであり、これまで隠してきた素の自分を曝け出した希美は精神的に強くなったと言える。歩ルートは主人公の成長物語の側面がある。ここでは男女が理想とする成長物語・精神的強さの違いについて少し考えてみる。

男主人公の成長物語と言えば挫折を味わったり周りの人間に手痛いしっぺ返しを食らったりと、外的要因が契機となりそこから這い上がるパターンが多い。これはエロゲーに限らず少年漫画などにも言える。男性はそういう物語に理想や憧れを抱くのだ。
ところが女性の場合は対照的に、全て自身の内面の中で決着を付け、颯爽と行動に移す強さに憧れを抱いている(ように思う)。希美が歩の窮地において、自分のこれまでを見つめ直し、このままではいけないと思い行動に移したように。あとは昔見た女性の強さを描いたドラマもこんな感じだったような…。

「男性より女性のほうが精神的に強い」とはたまに聞くけれど(その論調に対して自分は必ずしもそうは思わないが)、歩ルートをプレイして女性が憧れる女性の強さについて少し理解が広がったような気がする。


・隼ルート
隼ルートはニヤニヤした回数が一番多かった。「これが男に萌えるということなのか…」と一瞬錯覚しそうになったけど、冷静に考えたら違うことに気付いた。
このニヤニヤの根底にあるのは「隼君可愛い!萌える!」という感情ではなく、隼や有に言い寄られる希美に対して生じた感情なのだ。頬を染める隼を可愛いと思うのではなく、頬を染める隼に言い寄られる希美を可愛いと思う。

乙女ゲーは主人公の名前を変えられるのが一般的で、それは主人公の境遇に自分の身を置きやすくする為なのだろうけど、男性でエロゲーマーの自分には勿論そんな事は出来ない。
つまり自分にとって乙女ゲーは「一人の個性を持ったヒロインの物語」としかなり得ないのだ。着眼点が攻略対象となる男性キャラの行動ではなく、それに主人公がどう影響されたかである以上、自分の感情もそこからしか発生しない。

これまでにない正統派乙女ゲーをプレイしてこうなのだから、これから先どんな乙女ゲーをプレイしても、ヒロイン(主人公)を差し置いて男に萌えることはまず無いだろうと今は確信している。
(本作の主人公は個性がかなり強い方だけど、これが顔グラ無しの無個性でも自分の着眼点は変わらないと思う。)


ちなみに本作はどのルートも想いを伝えた・付き合った段階でエンディングロールが流れるが、これは男女の恋愛観の違いを表わしていると思う。エロゲー(男性)の場合重要になるのは付き合った後の物語(デートしたりエッチしたり困難を共に乗り越えて更に絆を深めたり)だが、乙女ゲー(女性)の場合は付き合うまでの物語が重要になる。ドキドキしたりモヤモヤしたり揺れ動きながらも最後には恋を成就させる、言うなれば映画・ドラマ的なラブロマンスを求めているのだ。だから乙女ゲーにおいて濡れ場はそこまで重要な意味を持たないし非18禁が占める割合も多い。


・まとめ
乙女ゲーの場合どうしても作品に入り込むのではなく一歩引いた目線で眺めてしまうので、感想も何だか味気無いというか分析に近い感じになってしまった。それでも「姉崎希美」という一人のヒロインを巡る物語としてどのルートも楽しく読ませて貰った。
フリー公開もされているし、乙女ゲーに縁が無い男性エロゲーマーが試しに手を出しても損は無いと思う。

ちなみにパッケージ版に収録されているブックレットにはキャラ設定にまつわる面白い裏話(穂積は初期の段階では存在しないキャラクターだったなど)が載っているので興味があったらそちらも是非。

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