oku_bswaさんの「ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1-」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

これは『忠臣蔵』という形で歴史に名を残し、忠義の士として讃えられている赤穂四十七士が経験したもう一つの物語であり、決して公にされない「御伽話」である。
『忠臣蔵』を物凄く好きな人が書いた御伽話、夢物語というのが本作をクリアしてまず思ったこと。自分の予想以上に清々しいまでのハッピーエンドだった。

注目していたラストの締めの展開は、赤穂浪士全員(途中で脱盟・死亡した人も含め)が仇討ちを達成した後も切腹せず実は生きていて、江戸の平和を守るために裏で奔走する。全てを操っていた黒幕との決着後は、赤穂が見える離島で人知れず皆で幸せに暮らすというもの。

正直に言うと自分はこの終わり方にあまり納得がいっていない。『忠臣蔵』を題材にする上で赤穂四十七士の切腹による死というものは不可避の展開だと思っていたし、仮に生きている展開であっても、やはり現代を生きる直刃とは相容れない存在なのだからそこでの別れまできっちり描いて欲しかった。四章までは独自の展開を入れつつも所々はしっかりと史実に忠実で、内容も誰かの死が絡むシリアス寄りのものであったので、最後の最後で実は全員生きていて黒幕を倒して綺麗にハッピーエンドというのはやはり釈然としないものがある。(これは自分がハッピーエンドよりビターエンドが好きなせいもあるかもしれない。)


ただ、少し間を置いて色々考えてみると、『ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-』という作品はこの結末を描きたいが為に作られたのだと思うようにもなった。
本作のシナリオを担当した葉山こよーて氏が伝えたかったことは何か、『忠臣蔵』という歴史上の事実をわざわざ題材にしたのだから、それに対する何か重要なメッセージが込められていると考えるのが妥当だろう。

恐らくその主張は、刃・忠勇義烈編エピローグ最後の直刃のモノローグに集約されている。

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史実での赤穂浪士は宿敵、吉良上野介を討ち果たし切腹した。
だが、この世界では赤穂浪士は全員、生きている。
勿論、この事実は限られた者しか知らない。
結果だけを考えると。
最後の最後で歴史は塗り変えられたということなのだろうか。
それは誰にも分からない。
でも・・・・・・。
でも、それでいいと思ってる。
なぜなら、歴史は勝者が作るという言葉があるから。
だから、戦いの勝利者である赤穂浪士が全員、生き続けたという歴史があってもいいと思ってる。
だって、オレにとっての赤穂浪士は。
赤穂浪士は。
やっぱり英雄だったのだから。
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この想いはグランドエンディングテーマである『蒼穹』の一節
――学校の教科書には書いてない 君だけの歴史がここにあるから――
という歌詞にも強く込められている。


葉山氏は多くの映画・ドラマ・時代劇で語られる、切腹という避けられない死で締めくくられる『忠臣蔵』、赤穂浪士対吉良の勧善懲悪物として描かれる『忠臣蔵』ではない、それに留まらない新しい『忠臣蔵』を描きたかったのだと思う。

振り返るとこれまでの章では、仮名手本忠臣蔵編では奥野将監、江戸急進派編では高田郡兵衛・毛利小平太、百花魁編では萱野三平、仇華・宿怨編では橋本兄妹と、仇討ちまでの過程で脱盟、或いは非業の死を遂げた者にスポットライトを当ててきた。これは単に四十七士以外にも裏ではこんな壮絶なドラマがあったと思わせる演出・粋な図らい程度にしか思っていなかったが、最後に誰も死なない結末を描く為の布石だったのだろう。

また、三章までは赤穂浪士=正義、吉良=悪とする勧善懲悪物としての物語であったが、四章では清水一学との問答からその構図にメスを入れた。

浅野内匠頭が起こした刀傷沙汰は喧嘩ではなく病からくる乱心だったのではないか?
吉良上野介は被害者に過ぎないのではないか?
『忠臣蔵』は明治時代にプロパガンダとして利用されただけであって、その実態は違うのではないか?
正義は吉良にこそあるのではないか?

四章ではこういったこれまでの前提を覆す新たな視点・解釈を持ち出してくる。ここで赤穂浪士と吉良側のどちらにこそ正義があるのかと結論付ける流れに進むのではなく、満を持して黒幕の目的を明らかにし、赤穂浪士と吉良が互いに協力する流れへと持ち込んだのが従来の『忠臣蔵』にはない、斬新かつ大胆なストーリー展開であった。ここではもはや赤穂浪士と吉良の対立、一方が悪で他方がそれを討つ勧善懲悪の物語に留まっていない。

最後は本物の吉良上野介はまだ生きているし、赤穂浪士も切腹せずに幸せに暮らす、一見すると何とも荒唐無稽な終わりである。しかし、これまで史実を丁寧に扱い、それを元に多角的に表現してきたからこそ最後はそれに留まらない、「有り得ないかもしれないけどこういう誰も死なない幸せな歴史があっても良いじゃないか」という、葉山氏の『忠臣蔵』に対する一つの願望を反映した終わりなのではないかと自分は推測した。

そして、タイムスリップして以降歴史の荒波に翻弄され続け、懸命に足掻きながらも失敗に終わり、時には耐え切れず絶望した直刃が報われる為にも、本作のように最後には歴史の改変に成功して皆が生きて幸せになる展開は不可欠だったのかなと思う。(自分がそれに納得出来るかどうかは一先ず置いといて。)


ここまでライターの主張を汲み取る形で色々と考えを書いてきたが、結局のところ個人的にはどうしても綺麗に纏まり過ぎという印象が強いし、赤穂浪士との別れが描かれていないのは納得がいかない。そのためラストは減点対象になっているし、全体の評価としても残念ながら発売前の期待値に応えたものにはならなかった。
それでもこうして色々考えた結果、賛否両論の意見は出るだろうけどこの終わり方もこれはこれで悪くないなくらいの気持ちに変化した。

・各章ごとの点数
仮名手本忠臣蔵編 85点
江戸急進派編 85点
百花魁編 80点
仇華・宿怨編 80点
刃・忠勇義烈編 80点
最後の締め 70点

・追加シナリオである四・五章について
仇華・宿怨編はこれまでとは違う導入から始まり、内容も吉良側の視点ということで興味深かった。やや難しい語句が飛び交うが丁寧に説明されているので特に気にならなかった。橋本兄妹の結末は分かっていても辛いものがある。一学役の御苑生メイの熱演にも注目。

刃・忠勇義烈編は三章までと同じくコミカルなやり取りがベースになりながらも、中盤以降は右衛門七の成長、長助との死別、小夜との別れなど見所が満載。首切り役人の異名を持つ山田浅右衛門も良いキャラ。これまでの章ではラストに直刃とヒロインの別れが描かれていたが、本章の場合はそれが無かったのが点数としてもうひと伸びこなかった理由だと思う。ベタだけど別れのシーンというのはそれだけ心に響く。
最後の締めについては既に長々と書いたので割愛。

シナリオの中身については大体書いたので次は各要素についての軽い感想を。


◆シナリオ構成
全五章から構成され、ジャンルとしては所謂ループ物。ループ物は調理の仕方が悪ければ同じ展開を何度も繰り返すので途中で飽きられてしまう可能性が高い。本作の場合も刀傷沙汰から仇討ちへと向かう流れは変わらないが、その過程を山科、江戸急進派、国許、吉良側、上方と異なる視点・場所から描くことで、逆に話に幅や厚みを生み出すことに成功している。テキストの軽妙さもあり終始没頭してプレイできた。

また、繰り返すことで得た主人公の視野の広がり、そこでのヒロインとの対比関係も面白い。
仮名手本忠臣蔵編では歴史の流れに翻弄されるばかりで、人を斬ることを恐れ、内蔵助に教えを請うばかりだった直刃だったが、刃・忠勇義烈編では歴史を変えるために大局を見据えて動き、必要とあれば嘘も付くし内蔵助に対しても大胆に意見する。そしてヒロインである右衛門七に対しては修行を見守り、江戸下りの際には自分で行動を選択するよう促したりと、成長を見守り教える立場へと変化している。この構図の変化も巧いと感じた。


◆伏線について
同人版から散々引き伸ばされてきた伏線だが、一応全ての筋は通っていると思う。黒幕・丹羽赫夜は浅野家に所縁のある者だったので、扱う呪いによって使役された大蛇に対しても同じく浅野家に縁のある「千鳥」が通用した。主人公の苗字である深海にも意味があったのは予想外。下の名前は赤穂四十七士の中で唯一「刃」の字を持たない寺坂吉右衛門を意識したものだと思われる。(仮名手本忠臣蔵編で直刃が用いた変名が寺坂吉右衛門だった。)

赫夜の目的だった元禄大地震を利用した江戸の転覆で赤穂浪士の武勇を地に貶めることも、実際の史実でも元禄大地震が起こった際には赤穂浪士の恨みが元で起こったと噂され、その噂を取り締まるお触れも出されている。そのためこれまで同様史実をアレンジした展開と見ることが出来る。とは言え予想以上に話が飛躍して少々面食らったが。
朔夜の立ち絵はこれまで何度か出てきていたようだが全く気付かなかった。

欲を言えば一学と赫夜の初接触時の場面、赫夜視点での回想が欲しかったがそれくらい。
直刃の幼馴染である莉桜との再会など幾つか語られなかった部分があるが、それに関しては今後FDなりで回収されるのだと思う。


◆キャラクター
登場人物の多さに負けないくらいどのキャラクターも個性的で濃い。その個性的な性格が独自の世界観に上手くマッチしている。時折入るパロネタも自分は面白いと感じた。破天荒なキャラ付けが目立つが、その中で内蔵助が鉄砲で雉を狙ったり、数右衛門が討ち入り時に持ち場を離れたりと実際に伝えられている逸話も違和感なく交えている。
そして待望のフルボイス化により戦闘シーン時の迫力が増し、表情差分以外にも声でキャラクターの感情の機微が分かるようになった。この辺りは声優陣の迫真の演技、キャスト選択の妙が光る。

好きなヒロインは堀部安兵衛、ヒロイン以外だと新八、お初、新六、小夜辺り。ビジュアル面の影響も大きいが、サービスショットの多いキャラがそのまま人気に繋がる気がする。また新八は百花魁編の追加要素でHシーンが入る展開が用意されたが、あの展開には度肝を抜かれた。(ああいう形で締めるしかなさそうだが。)


◆Hシーン
シナリオ重視の作品故の弊害か、Hシーンの実用度は総じて低い。シナリオの流れを極力阻害しないよう、あくまで必要最低限の尺・回数に留めたという印象。テキストに関してもやや拙い印象を受ける。とは言えそこに期待してプレイした訳ではないし、事前に分かっていたことでもあるので個人的にはあまり気にしていない。


◆演出
豊富な立ち絵・表情差分を駆使してキャラクターのその時々の「瞬間」を描く。一枚絵より立ち絵の方に力が入れられている、あまり見ないパターン。
とは言え立ち絵はプレイ中に最も目にする時間が長い箇所なので、そこに楽しみや飽きさせない工夫があるのは非常に有難い。一回きりの立ち絵も数多く用意されており、そこから些細な手間も惜しまない作り手の心意気も窺え好印象。

そして本作の見せ場が討ち入りを始めとする戦闘シーン。ここでも立ち絵を目まぐるしく動かし、カットインを多用して臨場感を演出している。特に最終戦闘での演出はアニメーション技術を用いない、立ち絵を駆使した演出技法では最高レベルにあると断言出来る。
スタッフロールでも確認できるが、このレベルの演出を僅か二人で手掛けているのは驚異的と言わざるを得ない。


◆その他
回想シーンで各章の討ち入り、重要な戦闘シーンをいつでも閲覧できるよう配慮されているのは有難い。プレイ時間が長い作品程こういう見せ場の場面の回想があると助かる。各OP・EDムービーに関しても。
ただ残念だったのはBGMの名前が「BGM-0001」のように数字で表記されていたこと。同人版の頃からずっと聞き慣れていたBGMばかりなので、やはりちゃんとしたタイトルを知りたかった。


◆総評
『忠臣蔵』の面白さを存分に味わえる、歴史エンターテイメントとして非常に質の高い作品になっていると思います。『忠臣蔵』を知らない人でも楽しめるように史実に関した丁寧な説明もなされており、またその中でも独自の色も出ているので既に知っている人でも問題なく楽しめるはずです。最後の締めに納得が行かずケチを付けてしまいましたが、それまでは本当に面白くぶっ通しでプレイしてしまいました。
演出も非常に高水準、キャストも超豪華とシナリオ以外にも見るべき点が多々あり、ボリュームも十二分にあるのでまさに「大作」と呼ぶに相応しい作品です。

もっとも直刃が赤穂浪士の無罪放免の為にした行動、最終決戦までの空白の十ヶ月(恐らく現代で過ごしたのでしょう)、エピローグのその後などまだまだ引き出すべきエピソードはあるし、これらの少々あからさまな続きの匂わせ方は、同人版から追ってきた人なら最早お馴染みと感じているかもしれません。
とは言え元々これだけ魅力的なキャラクターが居るのに本作一本で終わるのは勿体ないと感じていたので、続編が出る可能性があるのは嬉しい限りです。
(ついでに同人版の告知で出てきた『三姉妹!いけないぬるぬるご奉仕大作戦!』『小夜の小さな蕾。お兄ちゃん、そこはダメダメ!』も出して欲しいですね…。)

同人サークル「れいんどっぐ」の商業デビュー作でしたが、同人時代の実績そのままに更なるクオリティアップに成功した作品だと思います。
終盤の展開・締め方的にFDが出るかもしれないので、その時は本編で明かされなかった細かいエピソードを全て纏めて、2011年から始まった『ChuSingura46+1』シリーズを有終の美で飾って欲しいですね。

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