oku_bswaさんの「LOVESICK PUPPIES -僕らは恋するために生まれてきた-」の感想

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ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

恋愛の先にある「家族」、家族の基になる「恋愛」…、本作は家族というのが一つの大きなテーマになっているので、必然的にその過程にある恋愛にも理由がある。つまり、単なる萌えゲーというよりも恋愛ゲーとしての色が濃い。関係の再構築を描いた有希ルートでは特にそれが顕著だった。また、家族という関係が最終的な話の到達点になるため、物語は各キャラクターの些細な日常描写・会話の積み重ねがメインになる。個別ルートに入っても劇的な出来事というものは用意されておらず、恋人という関係には変化するが、あくまで共通ルートの延長線上としてのやり取りが中心に描かれる。良く言えば変わらずに続く日常が心地良い。悪く言えば話に起伏がなく平凡。そのため、良くも悪くも共通ルート部分での予想の範疇に収まる作品であった。
『W.L.O.世界恋愛機構 未来のために、いま恋をしよう』でお馴染みの安堂こたつ氏が企画・シナリオを担当した本作。
世界観が共通しているということもあり、作中に前作キャラの血縁者や見知った名前が登場してきたり、BGMも前作のアレンジ仕様のものがあったりと、プレイ済みの人ならば思わずニヤリとしてしまう仕掛けが数多く用意されていた。

恋愛ゲーとして質の高い作品であるが故に、予想の範疇に収まってしまったというのが本作に対する率直な感想だ。登場人物らが織り成す日常は見ていて非常に心地良いものだった。これに加えて個別ルートでの盛り上がりといった更なるアクセントが加えられていたら…と思わずにはいられないが、そのアクセントは物語のバランスを壊してしまう可能性が高いので何とも悩ましい。文句無しに良作と言えるが、それ以上の評価にはならなかった。ただ、ヒロインの可愛さを思う存分堪能出来たので満足度はかなり高い。


◆「家族」というテーマ

本作のメインテーマが「家族」である。各個別ルートでも、家族に関わる問題を軸にして物語が進行する。(ソーニャルートだけは少し毛色の違うものになっているがそれは後述する。)
ヒロインは家族という関係に対して思うところがあるからこそ、家族という結び付きにより強い憧れを抱いている。つまり本作は主人公・崇村虎太郎と恋人になることが最終的なゴールではなく、その先にある家族になることが目標なのだ。彼らの物語を描くためには、恋人という”通過点”の段階が必要不可欠である。実際エピローグでは、結婚や子供の存在、子供を産みたいという会話から、彼らが恋人という関係を超えて家族になったことを証明する場面が描かれていた。
恋人という関係を介してこそ描けない物語であるので、自分は本作を萌えゲー、イチャラブゲーという括りではなく、恋愛ゲーと捉えている。(勿論イチャラブも凄く良かったですけどね。)

その中でも特に有希ルートは恋愛を描いた、恋愛でなければならなかった物語と言えよう。
幼い頃に虎太郎がカリユとの死別で激しく傷ついたのを見て、有希は虎太郎と「特別」な関係になりたいという想いを封印する。虎太郎の側にいるためには別に恋愛関係である必要はないし、今の腐れ縁としての幼馴染のままの関係でも良い。性欲を抱くこともあるが、それは一時的なものであってそこから恋愛関係に発展することはない。それは虎太郎も同様に感じていて、彼らは今の停滞した関係で十分満足している。

そこから恋愛関係に発展したのは何故か?それは互いの子供が欲しかったからだ。
今の家族のような関係から、子供を授かり生涯を共にする家族へと関係を再構築するために、彼らの物語にはその中間にある恋愛の存在が必要不可欠であった。この物語には恋愛関係でなければならない確固とした理由がある。
有希ルートは、腐れ縁としてのポジションにいる幼馴染を描いた物語として非常に完成度の高いものであった。


自分は性欲による身体の結び付きとかを抜きにして、恋愛関係であることに意味がある作品の方が好きなので、そこがきっちり描写されていた本作は非常に満足のいくものであった。こうした萌えではなく恋愛を描いた作品は貴重だし、個人的にはもっと増えて欲しいと思っている。

恋愛の延長線上にある家族をテーマに据え、恋愛関係であることに意味を持たせた本作は、恋愛ゲーと評するに相応しい作品であったと言えよう。


◆日常を丁寧に描写したテキスト

安堂こたつ氏のテキストの大きな特徴が描写の丁寧さだ。これは前作W.L.O.でも見て取ることができた。立ち絵の無いキャラにも名前を付けたりと、氏は登場人物が繰り広げる日常をできるだけ丁寧に描こうしている。これはキャラクターに愛着を抱きやすくなるし好感が持てるのだが、描写が丁寧過ぎるのはテンポの悪さ・冗長さも生みかねないので、やり過ぎはかえってプレイヤーの反感を買う原因になってしまう。
全体のボリュームが前作程ではなく、またヒロイン全員が可愛い、攻略したいと思えたので、個人的には冗長さをあまり感じることがなく、最後までプレイすることができた。

本作で強く感じたのが、些細な日常会話が物凄く丁寧に描かれているなということだ。
前作は展開そのものが二転三転してかなり長かったのだが、それに対して本作は展開は分かりやすくすっきりしている。それでも本作に十分なボリュームがあるのは、展開の流れの合間にある、物語の進行には影響を及ばさない日常会話が事細かに描写されていたからだと思う。

ここでは自分が印象に残っている、共通ルートのある日の朝食時の一幕を例に取ってみる。※少し長いので注意して下さい

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虎太郎
「納豆を入れる器がどうかしたのか?」
まるな
「・・・・・・え、これ、納豆を入れるための器
だったんですか?」
ひとりずつにスチロールパックのままで
納豆は配ってあるのだが・・・・・・。
虎太郎
「悪いな、器に入れ替える時間が無くて」
まるな
「・・・・・・入れ替えるんですか?」
虎太郎
「ああ・・・・・・って、もしかして、まるなは今まで
パックのまま掻き混ぜてたのか?」
まるな
「あ・・・・・・はい」
織衣
「ウチもそうだったわね」
虎太郎
「え――マジで?」
志穂
「うん、ウチもだね。
わたしも、別の器に入れ替えるようになったの、
ここに来てからだもん」
織衣
「移し替えたら洗い物が増えるでしょ?」
虎太郎
「いや、そうだけど・・・・・・。
ほら、パックのままだと穴が空いたりしないか?
そこから手についたりして手が汚れるというか・・・・・・」
織衣
「どれだけ力込めて掻き混ぜてるのよ・・・・・・」
虎太郎
「・・・・・・え、納豆を混ぜるときは全力じゃないのか?」
織衣
「それだとネバネバしすぎるでしょーが」
虎太郎
「それがいいんだよ!!
右に20回、左に20回、最後に右に10回だろ?」
織衣
「どれだけ混ぜてるのよ。その半分で充分よ」
虎太郎
「うわー、そうなのか。
納豆の食い方ひとつで大分違うんだな・・・・・・」
まるな
「あ、でも、こたろーさんの作り方だと、
気兼ねなくまぜまぜできますし、本当にネバネバして
これでもかというぐらい納豆な感じがしますよっ」
そういって、器に入れて掻き混ぜた納豆を見せてくれるまるな。
早速実践してくれたのか・・・・・・ええ子やで。
虎太郎
「あとはそれに醤油を掛けて、この刻みネギを入れて、
ご飯に乗せて、海苔を巻いて食べるだけだ」
まるな
「おお、すっごくぜいたくです!」
織衣
「ちょっと待って、醤油じゃ塩分取りすぎになるし、
そこはカラシじゃないの?」
虎太郎
「減塩の濃厚醤油だから大丈夫です!」
織衣
「そういう問題じゃなくて――」
志穂
「はいはい。
ご飯が美味しく食べられたらどっちでも良いよね?
私も納豆は大粒が好きだし――」
虎太郎&織衣
「そこは断然挽き割りだろ!」
「そこは断然挽き割りです!」
     ・
     ・
     ・
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当然だがこの一連のやり取りは物語の進行には全く影響を及ばさない。本作ではこのように、特別必要のない日常会話が殊更丁寧に描かれている。この部分を、キャラクターの些細な日常を垣間見ることができて嬉しい、特別意味を持たないやり取りが見ていて心地良いと感じるか、単にボリュームを引き伸ばしているだけ、テンポを悪くしているだけと感じるかどうかで、本作の評価は百八十度変わってくるだろう。


描写が丁寧なことに関連して本作のヒロイン像にも触れておく。本作のヒロインはあざとさを感じさせない、普通の人間としての色が濃い。テンプレ萌えキャラのように、初めから主人公に対する好感度がMAXで距離が近いヒロインはいない。また、主人公もヒロインに対してある程度距離を弁えている。

それは本作が関係の構築というところにかなりの重点を置いて、描写を割いているからだ。
出会いから友人関係の構築、そこから恋愛関係へと発展、最後にはテーマである家族へと向かうので、最初から距離が近ければテーマに背くことにもなるし、描写が丁寧であるテキストの良さもあまり活きてこない。
最初からヒロインが主人公に好意を隠すことなく向ける日常を延々と見ていて楽しいかと聞かれたら、答えは勿論ノーである。自分なら絶対途中で胸焼けしてしまうし、個別ルートでの変化も生み出しにくい。


◆事件ベースではなく日常ベースで動く物語

「家族」というテーマ、日常会話を丁寧に描写したテキスト、主人公との距離感を重視したヒロイン像から、本作の個別ルートに起伏がない、劇的な出来事が用意されていないことにも理由があるのが分かるだろう。

家族になるために必要なのは、日々繰り広げられる些細な会話、共に過ごした時間の積み重ねであって、突発的に発生した困難な出来事に立ち向かうことではない。つまり、彼らの物語には劇的な出来事など必要ないのだ。あったとしても日常から大きく枠を外れたものではなく、共通ルートの段階で予想の付くものに留まっている。

そのため、本作は事件が物語のベースにならず、日常でのやり取りが主軸になるので展開の面白さはそこまでではない。事件ベースであったのは共通ルートの序盤、ソーニャが引っ越して来るところまでだろうか。以降はその非日常が日常に変わっていく様が丁寧に描かれ、個別ルートでは日常の延長線上としてのヒロインとの恋愛が描かれる。個別ルートで問題になる出来事はそれまで積み重ねてきた日常から十分予想の付くものである。イチャラブは十分に楽しめたが、驚きといった展開に引き込まれた感情は、残念ながら殆ど抱くことなく終わってしまった。

日常の積み重ねから家族になることを描いた作品であるので、話に大きな起伏を求めてはいけないと理解はしているのだが、それでももう少し展開の面白さも欲しかったというのが正直なところだ。アパートの取り壊しによるコミュニティの崩壊というのが一つの大きな山場になると思っていたのだが、そこもあっさり終わってしまった。展開に山場という山場がないので、人によっては物足りなさ、飽きを感じる可能性も十分にある。この辺りは体験版をプレイして確かめて欲しい…と言いたいところだが、体験版部分は事件ベースで物語が進むので判断が難しいかもしれない。以降は体験版部分のように次々と非日常的な出来事が舞い込んで、それに振り回されながら物語が進むものではないと思っていて欲しい。


・ソーニャルートでのテーマとのズレ
ソーニャだけは唯一、家族が軸に物語が進行しない。メインになるのは志穂の問題であるし、これは共通ルートで予想ができるものではないので、唯一事件ベースで物語が進行しているとも言える。(もっともその事件もかなり平坦であっさり終わってしまうのだが。)
自分はこのズレが悪いと言いたいわけではなく、むしろ他のルートとは違った感じで楽しめたのだが、もっと変化を付けても良かったように思う。家族に問題を抱えていない、縛られていない彼女だからこそ、もっと個別ルートでやれることがあったのではないだろうか。


その他感じたことを幾つか一言で
・ヒロインは全員可愛いし、個別に入ってからのイチャラブでは一つ一つの台詞に悶絶。特に有希との互いを分かり合ったやり取りや距離感は非常に心地良かった。こういうニヤニヤが止まらない作品は本当に良いですね…。
・個別に入ると♡マークが多用されてくるので、そこに煩わしさを感じる人もいるかもしれない。
・有希・織衣ルートであったメールを介したやり取りは、離れていながらも同じ世界を共有しているような感じがして心地良かった。
・システム面での不満はスキップが少し遅いことぐらい。「次の選択肢に飛ぶ」があれば尚良かった。
・はぴはぴぱぴーうぉーううぉーうぉー!


◆総評

家族になることを描いた、「恋愛」ゲーとして非常に質の高い作品でした。それ故に、日常の積み重ねがベースになっているので劇的な出来事というのは用意されておらず、展開の面白さを期待する人にとっては物足りなく感じるかもしれません。
逆に言えば、登場人物が織りなす日常を気に入ることが出来れば、最後まで心地良くプレイできる作品になっていると思います。イチャラブ度も高いので気に入ったヒロインがいれば買って損なし。前作同様に良い幼馴染キャラに出会えて大満足です。


最後に前作W.L.O.との比較を。どちらも「恋愛」を描いた作品であるが、そのアプローチの仕方は大きく異なっていた。W.L.O.は世界恋愛機構という「非日常」な存在に振り回されながら、主人公が成長して恋愛していく過程が描かれていた。
その反面、本作は家族という帰着点が明らかになっているので、最後まで彼らの「日常」をベースに物語が進む。待ち受ける出来事も日常の枠を大きく外れたものではなく、共通ルートの範囲内である程度予想の付くものに留まっている。主人公も最初から人間として完成されている。

世界観は共通しているのに、登場人物が繰り広げる恋愛劇は全くの真逆のものであったので、そこがなんだか面白かった。
気の早い話ではあるが、安堂こたつ氏が次回はどんなアプローチで恋愛物語を手掛けてくるのか非常に楽しみである。

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