houtengagekiさんの「ラブレプリカ」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

一見すると普通の学園ものですが、実際は重いテーマが扱われている近未来SF恋愛ものという感じでした。必要悪、死生観などのテーマが盛り込まれたシナリオはとにかく重苦しい展開が多く、登場人物の葛藤に見応えがあって、なかなか深みのある内容。とても重い決断を迫られて葛藤する主人公がヒロインとどういう結末を迎えるのか気になって、どんどん読み進めてしまいますし、シナリオから伝わってくるメッセージ性には考えさせられる部分も多く、読み応えがあります。ただ、設定が複雑すぎる上に説明も回りくどくて分かりにくいので疲れる。そこが難点ですね。設定がすごく作りこまれているので、凝ったSFが好きならわりとオススメできます。長文感想は体験版部分で語られる設定について触れていて結構ネタバレしてますのでご注意。
 この作品、公式HPでは世界設定に一切触れておらず、普通の学園ものであるように見せていて、
確かに序盤はそうですが、読み進めていくと不穏な設定が明らかになっていき、
シリアスな作品なのだということがすぐ分かります。

 序盤は主人公と幼なじみのみずほ、それに親友の影士や、他にも仲の良いヒロインたちが集まり、
そこに転校生の藍が加わって、軽音部でバンド活動をするという、
とても学園モノらしい流れになっています。
学園生活の描写はなかなかで、やたらとおっぱいにこだわるスケベな主人公の心理描写は
かなりギャグとして笑えるものになっていますし、
バンド活動の描写がかなりしっかりしていて、特に主人公がドラムの叩き方を教わっていく描写は
ライターさんが経験者なのかもしれませんが、すごくしっかり描かれているので見ていて引き込まれました。
なので、上手くなって充実感を覚えていく描写に説得力が感じられ、とても見応えがありました。
各ヒロインとのかけあいも小気味良く、学園での日常や合宿といった前半の共通部分の出来は
なかなかのものだと思います。
このパートで、各ヒロインの魅力はしっかり引き出されていたと思います。

 そして、平和な学園生活の中で、少しずつ世界観が明かされていくのがこのゲームの前半のポイントでした。
「GODS」という不治の病が全世界に蔓延し、人口がどんどん減少していること。
「GODS」の治療のためには病気になった臓器を「ラブレプリカ」という臓器提供用のクローンから
移植するしか方法がないということ。
これらが授業風景の描写でさりげなく説明され、それに関することを主人公たちも学園で学んでいることが分かると、
一見平和な学園生活を送っているように見えても、どこか不穏なものを感じます。
クローンの社会的な扱いや、クローン技術についての設定などが非常に細かくしっかりしていて、
知的好奇心が刺激されるし、果たしてこの設定で、どういった物語が展開するのか、先がとても気になってくる。


 シナリオの構成は、前半の学園編・合宿編が共通ルートとなっていて、後半が個別ルートになります。
正確には後半も序盤は共通ルートで、後半の途中から各ヒロインのルートに選択肢で分岐していきます。
選択肢の数はそこそこあり、バッドエンドも結構存在しますが、
設定を考えるとバッドの存在はあって良かっただろうと思います。

 で、このゲームのシナリオはとにかく重苦しいものになっています。
ラブレプリカが関わる衝撃的な事件が彼らの身近で起きたことがきっかけとなり、
特に、ラブレプリカの研究者を父に持つ、藍と鈴という双子のヒロインを中心に話が動き始めます。
臓器提供のために生かされ、人間の治療のために臓器を摘出されて死んでいくラブレプリカというクローンたち、
そうした、この作品の時代の社会システムに関する光と闇が描かれていくのですが、
これがもう読み進めるごとに陰鬱な展開が新しく出てくるような感じです。


 6人いるヒロインは、それぞれにラブレプリカの問題や事件に対しての立ち位置が異なっているため、
各ルートで異なった角度から事件の真相に迫ったり、ラブレプリカの問題に切り込んだりしていきます。
ハッキリと各ルートに役割があるため、似たような内容のルートは無く、
どんな結末を迎えるのか想像がつきにくいため、先が気になってどんどん読み進めてしまいます。

 この作品は、読み取ろうと思えば本当にいろいろなテーマを感じることができます。
自己犠牲、死生観、必要悪、二者択一、ほかにも感じられるものはいくつもあるでしょう。
およそクローンという題材を用いて、表現したいものを詰め込めるだけ詰め込んだという感じになっており、
この題材が好きならば、最後まで知的好奇心を刺激されつつ楽しんでいけるでしょう。

 そして、エロゲーでもありますから、物語の中心にはやはり恋愛が据えられています。
クローンや死生観といった要素を交えた、この作品ならではの重みのある恋愛が描かれ、
主人公とヒロインは悩み苦しんでいくことになります。
ただでさえ、この作品のヒロインは重い事情を抱えている人物が多いので、
個別ルートの雰囲気はとにかく重苦しいことになる、というわけです。
その上、すごく重い三角関係が展開したりするルートまであるし。

 とはいえ、ヒロイン全員からそれぞれのテーマを感じられ、
それがヒロインのキャラクターとしての深みになっていて、味わい深いシナリオになっているので
読み味は良好でした。
ハッピーエンドであっても、どこか寂寥感が心に残るような読後感のルートが多く、
味わい深かったです。



●キャラクターについて
 主人公は、設定が設定だけにものすごく葛藤することになり、人間的な弱さを見せることが多いです。
一見、情けないシーンも多いのですが、この作品のシナリオを読み進めていると
こんな重い状況なら、ここまで苦しみ悩むのも仕方ない、と納得してしまいます。
むしろ人間らしい姿が描かれていると感じました。
格好いい主人公ではありませんが、見ていて納得のいく主人公ではありました。

 ヒロインは、6人いる中で個人的に特に気に入ったは、幼なじみのみずほ。
彼女は小さい頃に起こったことをきっかけに、主人公に対して特別な想いを抱いているのですが、
個別ルートでは、その想いの深さがすごく強く伝わってきて、思わず感涙してしまうほどでした。
ちょっと照れ屋で、主人公に対してピコピコハンマーでツッコミをする普段の描写も可愛いし、
とてもいい幼なじみヒロインだったと思います。
従妹の千佳などもそうなんですが、幼い頃からの主人公との深い繋がりが描かれることで
日常や恋愛の描写にとても重みが出ていて、ヒロインの印象がとても強くなってましたから、
このゲームは幼なじみ系ヒロインたちには強い魅力を感じました。

 また、鈴ルートから派生する咲子のシナリオは、この作品にとても深みを与えてくれていました。
先生キャラとしても、主人公をさりげなく見守ってくれるような大人としての頼りがいを感じられ、
魅力的なキャラクターでしたし。
千佳と咲子のルートは外伝的な位置づけなのか、多少短めではあるんですが、
どちらもシナリオとしてはしっかりしていて出来は悪くないです。
特に咲子ルートは読後感が非常に味わい深く、このゲームで特に出来のいいルートの一つだと思う。



●欠点などについて
 この作品は非常に設定が作りこまれているため、
とにかく何もかもが複雑怪奇に絡み合っていて、真相が説明されても理解するのが大変です。
特に藍と鈴が絡む事件の種明かしについては、真相がすごく複雑でわかりにくかった。
正直、説明中に図解でもあればありがたかったんですが……
あとテキスト自体も遠回しな表現が多めで分かりにくいと感じるシーンが多く、
話を理解するのに時間がかかるので、理解が不十分なまま読み進めてしまうことになることも結構あって、
その結果、せっかく深みのあるストーリーなのに、充分に感情移入できないまま
エンディングを迎えてしまったこともありました。
もう少し、せめて事件の真相や登場人物の過去に起こったことについてなどは
理解しやすいようになっていてくれたら、と思います。

 怜ルートやみずほルートでは、やや説明不足だと思えた部分もあり、
ただでさえ複雑な話が、よけい理解しにくくなっていたのもマイナスポイント。

 あとは、この作品、重苦しい展開が続くせいか、それを中和するためなのか
日常風景のタイミングで軽妙なセリフ回しのギャグが、たまに挿入されたりします。
主に主人公によるセクハラやエロ思考が中心のギャグが多く、それらは見ていて面白いので良いんですが、
とあるルートでは、話が重いのにギャグのノリでエンディングが締めくくられることがあり、
それがちょっと違和感がありました。



●攻略順について
 自分は
藍→みずほ→怜→千佳→咲子→鈴 でプレイしてしまいましたが、
これだとみずほルートで少し混乱する。
藍と鈴の正確な関係が、みずほルートでは詳しく説明されないのに、
プレイヤーが理解している前提で話が進むから、あれ? って思ったまま最後まで行ってしまうことになる。
個人的には、みずほの前に怜を攻略できたら良かったと思うんですが、
怜ルートは多分最初はロックかかってるから先にはプレイできないし、惜しいところです。

 とにかく、最初に藍を攻略して、その次はみずほの前に鈴を攻略しておいた方が
いいのだろうと思います。それ以外は自由で大丈夫な気がする。



●グラフィック、システムについて
 絵については癖のある絵柄ですが、エロシーンなどではかなり肉感的でエロい体が描けているので
個人的にはかなり気に入りました。
全体的に立ち絵よりイベントCGのほうが出来がいいと思います。
エロシーンは基本的に純愛シチュのものばかりですが、一部、バッドルート内に爛れた内容のものもありました。

 システムは普通ですね。快適にプレイできます。
体験版ではクリックでボイス停止するように設定することができませんでしたが、
製品版ではちゃんとできるようになっていますので安心です。



●まとめ
 選択肢が多く、悲惨なバッドエンドも存在する本作は
鬱ゲー的な一面もあるわけですが、
このゲームの主人公は大きな決断が必要な状況に追い込まれても、
葛藤しつつ抗おうとするので、重苦しいけど決してネガティブなシナリオではないので
読後感には気持ちの良さもあり、鬱一辺倒のゲームでは決してないですね。
テーマをじっくり掘り下げている、深みのあるシナリオで、とても読み応えのある作品でした。
先の気になる内容でもあったので、買ってから一気に読み進めてクリアしてしまいました。
読み手を没頭させるぐらいの面白さは確実にあるゲームだと思います。

 すごく尖った内容のゲームですが、合う人にはすごく合いそう。
終盤のラブレプリカの説明のくだりでは
DNA関係の専門用語や知識を交えた、とても本格的なクローン技術の理論が出てきます。
こうした理解するのが難しい内容のことが、ストーリーやメッセージ性に密接に関わっているので
理解しないわけにはいかないので、難儀なところですw
でも、知識欲が刺激されるのは確かなので、インテリな内容のシナリオが好きなのなら、
このゲームはすごく楽しめるんじゃないでしょうか。

↓すでにネタバレしまくっている気もしますが、以下、さらに致命的なことを交えた感想を書くので
 スペースを開けておきます。







































 ラブレプリカ自体は架空の設定ではありますが、それを通して語られるテーマ自体は
現代の人間社会が抱えている闇と共通する部分が多くあり、
この作品は、ラブレプリカとそれと関わって葛藤する少年たちの姿を通して
プレイヤーに死生観や倫理観について問題提起している、みたいな狙いがあるのだろうと感じました。
何しろ、臓器提供のためだけに人間のクローンを作るというのは、技術的には現代でもおそらく夢物語ではなく
そういうことも近い将来できてしまうのでしょうし、この物語の世界の問題は実感として理解できる。
それに、家畜などに置き換えて見せることで、クローンの犠牲がどういう意味を持つのかを
分かりやすく感じられるような表現もあり、
現代人でも、このゲームのメッセージ性は身近に感じられるようになっていました。
だからこそ、メッセージに重みが感じられるんだろうなあと思います。

 メッセージ性が際立って多く詰め込まれていた咲子ルートは、たぶんDNAやクローンについて専門知識のある人なら
興味深く読めるんじゃないかなあと思いました。
完全に素人な自分としては、エンディングあたりで咲子が言ってることが難しくて、ちょっと理解に時間がかかったw
でもテーマは重いけどキャラが葛藤しまくってるから、それほど説教くささがないのがいいですね、このゲーム。

 しかし咲子ルートはバッドエンドの続きのような形でルートインするので新鮮な読み応えでした。
悲惨な経験をした主人公が、その後どう生きていくのか、というストーリーになっていて
咲子と深く繋がる流れに行くには、他のヒロインたちとの可能性を全てなくしてしまわないと
いけないんでしょうけど、そのせいか読後感にはかなり寂しさがあった。
主人公の元から多くの友人たちが去っていった後なのに、さらに別れが描かれているわけですからね。
でもこのルートは内容は難しいけど、主人公がラブレプリカたちへ抱いた願いはとても好ましいもので、
なかなか心にくるものがありましたから、かなり好きです。


 ところで、グランドエンディングを見た感じでは
このゲームの正規ルートは怜ルートなんじゃないかと思ってしまうんですが、
怜自体は分かりやすいぐらいサブ格のヒロインなのに、なぜシナリオは正規ルート的な位置づけなのか……
怜ルートに藍と鈴についての重要な情報がまとめて詰め込まれているので仕方ないんですが。
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