Sek8483さんの「夏雪 ~summer_snow~」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

淡々とした書き口がやさしい物語。各場面の描き込みはいまひとつ足りないため、キャラ心情が遠めになって臨場感に欠けてくる。ただ、その遠い観点ゆえに、夏ねーちゃんの細っこい腕に抱きとめられてた記憶だけ残せた気もしてます。

 コンセプトをよく順守した作品です。来る夏、行く夏のみでもって紡ぎ合わせた時間経過のなか、ヒロインの背丈が伸びゆくさまを眺めるうちに、かえって彼女たちの変わらぬ優しさが際立っていく。そうして淡く、淡く、夏のあの日を描きます。

 しかしテキストが淡白すぎて、ひとつひとつの場景には厚みが不足しがちです。とても生真面目にプロットを進めてしまったゆえ、感情の起伏にそったお話の緩急というものが無かったような。熱中させてくれない夏休み。びっくりする出来事がきても、何ごともなかったかのように話を進めてしまうのは難点でした。
 ただ、そのあたりが本作の味でもあります。例えば那有多などは、さばさばした語り口がキャラにほどよい光の当て方をして、読後の清涼感が生まれていました。

 ヒロインたちは一途すぎるほどの献身で足並みをそろえて、しとやかな作風を作ってくれてます。そこに桜沢いづみ描くキャラ絵はよく合わさってくる。子犬のように細っこい手足とか。雪のようにあどけないから首輪をはめたくなる首筋とか。こちらを見つめるその瞳は潤んで、ちょっと揺さぶるだけで、こぼれ落ちてしまいそうで。ああ、泣かせてみたい。
 冗談で首輪とか渡したら妙に受け容れてしまい、いそいそ身に付けて微笑んでくれそうなのが那有多。それでおのずと感きわまり半泣きになっちゃいそうな、彼女の愛情は根が深い。
 野山をかけまわってるのを捕まえ、ひらひら木綿のワンピースとか着飾らせてみたい純葉。似合うだの似合わないだのと言い合って、恥じらいのあまりうっすら半泣きにさせてみたい。
 その白魚の指でふれて、わたしの精通も導いて欲しかったよ夏ねーちゃん。……で、でも、いいからっ、汚れたパンツとか自分で洗うから、夏ねーちゃんはさわんなよ、嗅がないでよっ、話きけよっ、もうアッチ行っててよぉ!(半泣き)

 お嫁に行けない感じにされつつも、次のようなことを書きました。

1, 平板にイベントが進行してしまい、作中キャラへの距離が遠くて、俯瞰する読感だった。

2, 遠い読感ゆえに悲劇調にもなりえず、視野の広さや、揺るぎない姉キャラをたもったのが良かった。

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 1-1, "喜劇" の遠さ

 夏雪ルート終盤に、過去の亡霊たちに身体を奪われて、彼女のおまんこへ乱暴に挿入するエッチシーンがありました。アレ、いまひとつ良くないです。せっかくなのですから、あそこでは乗っ取られたまま那有多や純葉までも組みしいて犯してみたかった。
 ……いや、のっけから本作にたいしてあるまじき黒箱系の欲望を口にしてしまいました。すみません。

 責任転嫁しますと、桜沢いづみの絵というのが妙にドM感あふれてるのが悪い。やや首が長くなってしまう傾向があるのだけど、なぜかといえば、そこに首輪をはめるからだと思う。桜沢いづみキャラって、妙に首輪が似合うのですよね。本能的に相手への献身を求めているふうな絵柄であり、目にとくとくと涙を湛えたキャラ絵それ自体が「ら、乱暴にはしないで……?」って懇願してくるのです。たまりません。常日頃は、エッチはふたりで楽しもうねウフフとばかり優しげなわたしの下半身のジョイスティックですけど、桜沢キャラを目にするやいなや、海綿体のドS回路へと全身から血流がなだれ込みます。そのイチモツは黒曜石のごとく屹立すると、嗜虐という概念自体へと化してしまって。ククク、今宵のわたしのサディスティックは少しばかり凶暴ですよ……っ! なおサイズもSです。

 さらに言い訳を重ねますと、「俺様は悪の神だ。殺せ。復讐の衝動だぜ」というあの伝奇設定というのは、どうにも陵辱ゲーを思わせるような薄さでした。過去の怨念にとりつかれた田舎町で、女たちの悲鳴が夜な夜なパコパコ響きわたるみたいな、伝奇もののテンプレート。
 そしてその悲劇的シリアスの組み込みようは、なんとも中途半端です。あそこでとってつけるくらいならば、いっそ初めから主人公に獣性を秘めさせておいたほうが、エロテキストが絵にマッチしたのではという疑いまでもってしまいます。
 那有多ルートで夏雪が失踪したときには、もっと自暴自棄に那有多の身体に慰みを求めていき、それでもすべて差し出してしまう彼女が「こんなふうにしても葛が辛くなっていくだけだよ」とか心を砕いてしまう。そんな痛ましいまでの優しさを掘り込んでくれても良かった。
 純葉ルートでの初エッチ未遂が互いにわだかまりになるときも、同じように獣性が表れてしまい、それから夏雪の顔が浮かんでの中折れとかでもシナリオの筋がもっとわかりやすくドラマティックになったような (……いやあの中折れイベントには個人的体験を思い起こしつつ心へし折られまして、大変ごちそうさまだったのですけど)。

 本作は、どうあっても悲劇になりえない遠さをたもった物語である気がします。
 あの過去話がどうにも他人事としか思えなかった遠さというのが、ある種の陵辱ゲーの間合いを思い起こさせるのです。スクリーンの向こう側で起こっている惨劇としての描き方。どうしようもない汚っさんが白濁液をまき散らす姿にほっこり頬がゆるんだり、高潔な女騎士のあられもないメスマンコ願望を暴き出してしまったり。人間なんてまぁ一皮むいたらみな同じだよねぇという、温かな共犯意識を覚えることのできる物語。
 つまり "悲劇" ではなく "喜劇" であるということ (面白おかしく笑えるという意味ではなくて)。どんなに苦悩にゆがんだ顔があっても、それを遠巻きにするならば個々の表情はもう読めなくなって、人間のどうしようもない性だけがそこへ浮き上がってきます。作中キャラから距離をおくことで、人々の営みを眺めるうちに、その卑小な地上のものものへと感じ入らせるお話づくりの手法。

 『夏雪 ~summer_snow~』には、そうした "喜劇" の雰囲気があったと思います。そのような遠さをもってそれぞれのヒロイン像が形づくられていき、神樹もトントン拍子で切り倒されていったように感じるのです。
 夏雪が親の突然死にも、自身がいなくなる恐怖へも差し迫った苦悩をこぼすことなく、おねーちゃんの顔をたもち続けたことも。純葉がずっと夢を追っていたと聞かされても、どうにも共感が追いつかなかったことも。那有多が「私、元いじめっ子だから」淡々と言って、自分は小さくて滑稽だと認めて、それで良いのだと笑い飛ばしてみせた清々しさも。いずれのシナリオの良さも悪さも、悲劇調になりきることがない (キャラ感情に読者を引きずり込むことのない) 淡々としたお話づくりがあればこそだったよう思えます。


 1-2, 平板な時間感覚

 より具体的な話にすると、それはダイジェストの読感があったお話の進行のことです。プロローグ・最初の夏は「――けれど幼い葛に、大人たちが垣間見せた機微は何一つ理解できなかった。」といった俯瞰している地の文からはじまり、やがてそれを一人称へと変えていく趣向のテキストとなっている。しかし本作では、この俯瞰視点の遠さというのが、最後まで根強く残りつづけていました。
 はじめの頃こそ毎年の夏を追っていきますが、そのうちに「およそ二年の月日が経過した。」とかイベント展開にあわせて時間をジャンプさせてしまいます。構成上の必然ではあるのですけれど、ちょっと時間感覚の扱いがぞんざいです。

 また田舎においても都会においても、そこに流れる時間の速さは一定で、物語はいずれでも一定のペースで進んでしまいました。一年目の夏雪との別れでは、「明日からは都会に戻るのだ。灰色の日常に。」とか悲壮なモノローグをしたものだけれど、その灰色の日常とやらが本編で描かれることはまるで無くて。はじめから那有多、美津、勇といったキャラがにぎやかで、那有多たちと関係を結んだり、美津を思いきりよく物語から退場させたりと、とても華のある展開を見せます。都市生活に閉塞感がともなうという一般論はわかりますけど、"この" 都会側が退屈だという葛たちの言いぶんは、実際の読感からすればとても信じがたいです。
 退屈な時間とかシナリオに無意味なものは、全編をとおして取り除いておき、とても生真面目に女の子キャラの可愛さを描いていく語り口です。主人公たちが都会側では受験勉強に追われるとか、必死に小説家の夢を目指すといった描写、"キャラゲーに必要不可欠ではないもの" というスパイスをまるで伴いません。そうして有意味なイベントだけをきっちりスケジュールどおりこなしていく語り口は、むしろ主人公が否定的にいう「予習に没頭するクラスメイトたち」のようですらあります。遊びの少ないキャラゲー制作となっており、ちょっとせせこましく感じます。退屈な時間がまるで無いゆえに、ヒロインそろいぶみする田舎側へと行ったときにも解放感はありませんでした。
 似たようなコンセプトをもったブランド関連作『雪影 -setsuei-』は、(都会側ヒロインごと) 都会を徹底的に寒々しくすることでプレイヤーの心を田舎の暖かな冬へと追いたててました。しかしながら『夏雪 ~summer_snow~』は両者ともに不快感がないようにと、やわらかな温帯気候の物語を目指したようです。であるならば、もっと小ワザの駆使しながらプレイヤーの心を田舎へと誘導して欲しかったところ。
 わたしとしては、もういくらか意味の無いシーンが欲しかったです。例えば、田舎に着くまでの三時間の特急電車のもどかしさをプレイヤーが肌で感じられるようなシーンを置くことで、都会と田舎のあいだの間仕切りにするみたいな。車窓に映り込んだ、線路わきの電線がはねてくだけの光景をぼんやり目で追う、ささやかに退屈な幕間があってこそ、早く夏ねーちゃんに会いたい、早く夏ねーちゃんに会いたいと待ち遠しくなってくる。そんな時間のタメみたいなものを、シナリオに少量だけ噛ませて置いてもらえたなら嬉しかったです。夏ねーちゃんに見送られる→「そして一年がたった」→夏ねーちゃんとの再会というスムーズな流れでは、作中キャラの時間感覚にわたしの時間感覚が追いついていけず、物語がダイジェストに見えてしまいます。夏にしか会えない少女の有り難みは、ひとことふたことだけで説明されてもよくわかりません。

 全般にイベントの進め方は性急だったと思うのです。プレイヤーがゆっくり感情を噛みしめたいところでも、プロットの予定表どおりに話を進めていってしまうから置いてけぼりになる。
 例えば、「葛ちゃんと会えるのは、今日が最後なの……」と夏雪がいって、自分たちが実の姉弟であったことを明かした場面。
>>
【夏雪】「ごめんね……本当にごめんね? ……死ぬまで、黙っていようと思っていたのに……ぐすっ……」
夏ねーちゃんは、止め処なく涙を零しはじめる。
 【葛】「…………」
俺はすぐさま事実を受け入れた。
夏ねーちゃんが、こんな嘘をつく理由はないからだ。
でも、俺たちが本物の姉弟だとすると……。
<<
待って。おねがいちょっと待って。すぐさま事実を受け入れないで葛ちゃん。わたしまだその新事実を受け入れられてない。シナリオ的にはなんの前フリもなかったし、あえてこのタイミングでそっちに話を転がしておいてどう組み立てるつもりかちょっと読めなくなって、今すっごい混乱してるの。ジャンル名「義姉ノスタルジックアドベンチャー」ごと変更になってびっくりよ。お話を読んでいるプレイヤーがびっくりしているのに、当事者の葛たちだけがそのイベントを非常に手際よく処理してしまいました (あたかもプロットを熟知したシナリオライターのごとく)。臨場感がおかしなことになります。

 個人的にいちばん水を差されることになったのは、那有多ルートで彼女が溺れたとき。大事な人を喪失する恐怖を再確認するというのがプロットの狙いです。けれど、そのプロットの狙いしか書いていない骨組みまる出しの状態をトントン拍子に見せられてしまうと、恐怖や焦燥の感情がまったく追いついていけなくて。それまで話に入れ込んでいたぶんだけ醒めてしまいました。この数年間にわたって、この田舎の海へと親しみ、夏雪から泳ぎを教わり、努力をつづけてきた那有多の時間というのも、シナリオにとってはたいして大事なものじゃなかったんですねそうですかと、八つ当たり気味に思ってしまいます。溺れた女の子を助けてエッチするイベントを、単発で配置しただけに見えます。
 ここはむしろ、夏雪の幻影にでもさそわれた葛を海の底に沈めてから、那有多にそれを必死に引き上げさせるほうが、シナリオの流れとしても素直だったような。あるいは、かつてプロローグで溺れているところを夏雪に助けられたことを、プレイヤーに自然と想起させるような仕掛けを利用しないのも、せっかくお話に厚みをもたせるチャンスなのにもったいないと思います。そうして愚かなわたしが夏雪と那有多のイメージを重ねたところへ、「私は……夏雪さんにはならないよ」那有多の当たり前でありきたりだけど良き言葉によって、それを蹴っとばす快気を見せてくれたのなら嬉しかったです。



 2-1, 那有多は自分の小ささを笑った

 シーン展開の性急さは不満だったのですが、そのあたりからも生まれている "喜劇" の読感、キャラクターへの湿っぽい感情移入によらない面白みは好印象でした。
 とりわけ、そのような遠目にしたときの美しさがあったのが那有多シナリオ。彼女の愛情をわたしの全身で味わいたいというよりは、彼へと愛を注いでいる彼女の横顔に見惚れてしまうようなヒロインでした。泣かないけども、感動をするセグメントのお話。

 わたしの場合、那有多に関するシナリオの中盤に、不快感を覚えてしまった箇所がありまして。葛や勇がことあるごとにイジメをしていた過去を蒸し返してきて、それに那有多が落ち込み、慌ててジョークだからとフォローする展開が苦手でした。辛い記憶に真正面から向き合わさせるなよというか、臭いものには蓋をしておこうよというか、もっと巧いからかい方を覚えようよというか。年がら年中、しかも何年にも渡ってアレをやられていた那有多の心境を想像すると、いくぶんキツいものがありました。
 ただ、これはどうもわたしのボタンのかけ違いだったようでして。シナリオに書かれない春秋冬の時間にまでこまごま想像を及ぼすのは、どうも本作の読み方ではなかった気がしております。そこまでおおげさに、わたしが受け取るためのお話じゃなかった。もっと鷹揚にかまえて、夏がやって来るたびたびに煩悶してしまう那有多の、その律儀さを見守っていけば良かったようです。ひとりだけあの頃の記憶を風化させず思い悩み、おおげさに反省し続ける那有多というのは、作中の時間感覚においては滑稽なのです。しかしながらプレイヤーの時間感覚からしてみれば、たかだが数十分前にあったばかりのイジメのことですから、彼女の姿勢はごく誠実に感じられました。

 そんな葛藤の末に、那有多は自分の小ささをやさしく笑ってしまえるくらいに、大らかな心境へたどりつきます。語り口にあった淡々とした視野の広さは "喜劇" の読感を生み出すことになりましたが、ヒロインたち自身もまた視野の広さを自然とそなえていったよう感じます。
 例えば、那有多であれば失踪事件後に葛を慰めるさい「男の人って、そういうとき、痩せ我慢しがちだから……」とか言ってくれるのですよね。視野がよく引かれています。エロゲの甘いイチャラブ文法においては、ヒロインが男性一般について話すことを避け、そのような可能性そのものを忌避する傾向がありますから、このセリフであれば「葛って、そういうとき、痩せ我慢しがちだから……」が常道だと思います (……あなただけを見てる)。那有多のような言い方というのは、世間が広くて、やや頭でっかちに生真面目で、それだけに密室の危うさが生まれてきません。

 ヒロイン三者いずれもが、あらためて考えてみると、ちょっと愛の重たい娘ではあったのですよ。めくらめっぽう献身的すぎる (……あなただけを見てる)。そのキャラ気質と、それを淡々と語るようなシナリオにはズレがあるのだけど、ジメジメとひとり抱えていた後悔を笑い飛ばすのを着地点にした那有多などでは、そのズレがうまく働いていたと思います。自分を吹っ切れずこちらばかり見つめていた那由多だったけど、葛たちのほうへ向いてゆくその横顔が、実に良い表情をしていました。
 那有多シナリオでは、イジメの罪悪感、姉の失踪、失意と慰めなどなど、はちみつ漬けのズブズブ依存関係にひたれそうなくらい "悲劇" 的な材料がそろっていました。実際に「葛は私に依存していいの。」とかいってエッチではそれを土台にしてもいる。けれど、下半身がはちみつ漬けになっていても、頭をはちみつ漬けにしきれないところが、なんというか那有多です。例えば、葛が夏雪とのアルバムを視界から隠そうとしたとき。
>>
  【葛】「それ、さ……近い内に物置にでも放り込んでおくよ」
【那有多】「どうして……?」
  【葛】「今の俺には、那有多がいるわけだから。過去は過去……だよ」
【那有多】「だめだよ」
     「このアルバムには、大事な思い出が詰まってるんだよ?」
     「物置に放り込むだなんて、とんでもないわ」
     「葛は勘違いしてるよ……」
<<
"悲劇" に甘く酔ったふたりだけの関係を築こうとした主人公を叱咤しながら、当たり前のつまらない倫理観にならおうとするだけの芯の強さがあります。
 そのように依存と自律のいずれにもどっぷり漬かりきることなく葛藤したから、彼女はひとつ大局的にものごとを見られるようになって。自身の過去をしまい込むでもなく、断罪するでもなくて、ただ、思ったよりもそれは小さかったねと穏やかに笑ってみせる。そうしてやがては、小さな夏雪に愛を注ぐための日々へと向かってゆく。時をまたぎ夏だけが流れてゆくなか、彼女たちの背中を気持ちよく見送ることのできる物語でした。


 2-2, 純葉の変身ぶり

 シナリオに抑揚がなくて、平板に時間を流していってしまう本作でしたが、それゆえ、あれよあれよとばかりに背が伸びていくヒロインを眺めるのが目に楽しくもありました。あんれまちょっと見ねえうちにめんこくなっちゃってぇ純葉ちゃん今年からもう高校だっけか? そんな親戚のおっちゃん感覚。

 幼少期の立ち絵では、純葉のTシャツの襟口がだぼだぼだったり、夏雪のワンピースの肩紐がだいぶ余っていたりと、"ワンサイズ上" を着ている造形がいかにも無邪気です。
 幼い夏ねーちゃんの腰回りには麦わら帽子の白いリボンだけがひらひらしていたのだけど、やがて束ね髪がそこに追いつきならんで、あれよあれよと豊かな黒髪は伸びていき追い越してしまう。思ったよりも背丈が伸びてしまった彼女にはもう麦わら帽子がアンバランスで、画面には窮屈なくらいに幅を取り過ぎなので、ちょっと野暮ったいです。だから個別ルートで初めてお披露目してくれた制服姿とか、同居の室内着姿とかの、麦わら帽子を脱いだ姿こそがすっきりおさまってくるという。変身をまだ一回残していたのがずっこい。さすがおねーちゃん。

 そうはいっても夏雪はビジュアルコンセプトがほとんど変わらなかったし、那有多もなおのこと一貫しています。
 ただひとり、山猿のすがたから女性への劇的な変身をみせてくれたのが純葉でした。成年期になった途端おしとやかになってしまい、キャラ絵の輪郭がまるみを帯びて、ツンツンと男の子みたいに跳ねまわっていた髪もすっかり撫でつけて。でもその名残からちょっと癖っ毛だから、なんとかいなすべく、毎日毎日100回と櫛を通してるのまで想像できてしまう。これはもう、天然素材っぽい夏雪のさらさら髪よりもいっそう褒めてあげたくなっちゃいます。可愛い。
 挨拶が体当たりだった幼少期から、「ブレーキっ!!」とか叫びつつ距離感を覚えはじめた年ごろをへて、やがて成年期になってみると勇の再会の抱擁を「はいはい」ひらりかわす身のこなし。その立ち絵はというと、フリルいっぱいのワンピース (夏雪リスペクト) ながらも、丈は短くしてスパッツ着用という活発さを残しています。夏雪も那有多も、立ち絵がぴしぃっと姿勢よく直立しているからお人形さんの綺麗さをも思わせるのだけど、純葉は体軸からしてリズミカルです。こちらへと半身に構えると、右膝を軽くあげていたりと動作なかばを含んでおり、それでもなお上半身がブレることない。かつての山猿パワーをぜんぶバランス感覚へと転換したかのような安定感です。子供の頃は "0か100" の加減のみで動かしていた表情もまた、しなの作り方を覚えはじめて、やや伏せつつのジト目がほんのり女らしくてよい。眺めていて楽しいキャラ絵へと成長しておりました。
 いっそう艷やかに変身したのがCVで、純葉役・春日アンだけは成長時に声づくりを思いきり方向転換させてきました。ハスキーに落ち着かせた声がとても気安く、耳触りもまるくなりまして。あのきゃっきゃと叫んでいた山猿がいったいどうしてこうなるのかという、甘く、熟れた声すらもときに聴かせます。昔なじみだから口調がはすっぱなのだけど、ときおり自然と媚びがのぞくようになって、化粧・身づくろいを覚えたての純葉の、変わりはじめた今この瞬間をよく声にしていたと感じます。

 わたしの場合、最初に入った那有多ルートで、こうした純葉の変身ぶりを目の当たりにして鮮やかな印象を受けました (那有多ルート世界の純葉と恋がしたい)。
 ただそのぶん余計に、その後プレイした純葉ルートについては残念に思ってしまいました。時の移り変わりのなかでも不変なヒロインの愛情を描いていた本作ですが、そのあたり、純葉はどっちつかずのシナリオになってしまったような。
 田舎側と都会側いずれにおいても最序盤から足場を固めたヒロインがおりまして、夏雪は最初の出会いを描き込んでおねーちゃんキャラを確立させましたし、那有多は最初のイジメ事件への後悔を軸にすえるシナリオをたずさえていました。そのふたりに対して、都会生まれで田舎育ちの純葉は、中盤での告白をきっかけにキャラ絵やボイスが思いきり変化をつけてきたわけです。その変貌ぶりは印象的でとても良かった。
 なのにシナリオ側からは、夏雪へのコンプレックスを明かしながら「無理に変わることはない」とブレーキがかけられて、夏ねーちゃんの口から「純葉ちゃんは最初の最初から想っていたのよ」と保証させて、純葉の不変なる愛情を描こうとします (他ヒロインと足並みをそろえさせるかのように)。キャラ絵やボイスでいったん変身させたのに「はじめからずっと」路線にシナリオを無理やり押し戻してしまったため、純葉の成長はちぐはぐになったように見えます。せっかく彼女は髪型かえたのに、なんだか素直には褒めてもらえなかったような。あるいは漫画家の夢も追い続けていたのか、いったん筆を止めていたのか、シナリオの説明がしどろもどろで混乱しています。
 そもそも、この作品のコンセプトにかんがみると、夏雪を純葉ルートから退場させなかったのも意外でした。制作者にも何かしら青写真があったとは存じますが、夏ねーちゃんという大きな庇護者ありきのシナリオでは、純葉もやや窮屈そうに見えます。那有多と同じように殻を破らせての成長を着地点においたほうがやはり無難であり、また、キャラ絵やボイスの変身ぶりとも一体となるシナリオができあがったのではと考えます。純葉の変身ぶりをベタ褒めに祝うような物語がきてくれていたなら嬉しかったです。


 2-3, 夏ねーちゃんは話を聴かない

 シナリオに臨場感がなかった本作。夏雪ルートなどは他人事のような伝奇設定をもってきたから、プレイヤーにお話を聴かせようとはしないまま、立て板に水とばかりプロットだけ喋っていたかのような印象もあります。描写が浅いから夏雪の感情の動きがわかりにくくて、キャラに結びつかない弱いシナリオとなってしまう。
 ところが見方を変えてみると、そうして夏雪の姉キャラばかりが強く押し出されることになったのも面白かったような。

 夏雪は、かなりキャラクターの頑固な姉でした。両親が亡くなっても、落ち込む様子をわたしの前では見せようとしません (「人目も憚らず泣きつづけ、ついさっきまで、鼻をぐずぐず言わせていた」といった過去形の説明文しかない)。実の姉弟であることを明かした後も、態度がまるで変わることありません。肝試しのお化けは怖くても、過去の悪神とはあっさり対話をやってのけ、葛ちゃんが関与するいとまもなくお話を片付けちゃいます。神樹についてもタイム・ゴーズ・オンと伐採されるにまかせます。夏ねーちゃん、ぶっちゃけ、シナリオが何を言ってるかとかほぼ聴いちゃいません。お話の流れにかまうことなく、始めから終わりまで、ただひたすら優しい姉としてのみ在り続けてました。

 これぞ姉の真髄だとは思うのです。なべて姉というのは、アレは、話を聴かない生き物なのです。こちらの話を聴かずにテレビのチャンネル変えますし、都合も聴かずに勝手にものを片付けますし、文句を聴かずにピーマンを小皿に取り分けてきますし、言い訳も聴かずにケンカした友達に謝りに行かせようとします (悪いのはアッチなのにーっ!)。
 エロゲ姉もそうです。こちらの話も聴かずにひそやかに自己犠牲へ走っちゃいますし、話も聴かずに妹ヒロインとの仲人役に徹しようとおせっかい焼いてきます (いや姉さんのことが好きなんだけど……)。こちらの説教も聴かずにソファに沈んでビールに溺れていたりします (そのくせ仕事はデキる)。こちらの釈明も聴かずに汚れたパンツを洗ってしまいます (もう余計な事までして、もうっ)。おねーちゃんって話もまんぞくに聴かないまま、ボクのため何かしようとしてくるんですよね。

 夏雪はといえば、話の内容を聴く前からずっとニコニコしている姉です。おっとりワンテンポずれている。出会いのときからしてそうでした。
>>
【女の子】「もしかして……家出してきたの?」
  【葛】「そんなんじゃないよ」
【女の子】「じゃあなぁに?」
気が付けば、相手のペースに絡め取られていた。
またしても勝てないという思い。
けれど、悔しくはない。不思議とそれが心地よくさえある。
今までになく素直な気分になっている自分が不思議だった。
  【葛】「逢いにきたんだ。この町に住んでる従姉弟に」
【女の子】「独りで……? すごいねえ」
好奇心に大きな瞳を輝かせる少女。
<<
テキストはあくまで生真面目なのだけど、夏雪のする仕草がそれにはお構いなし。「逢いにきたんだ」のタイミングで一枚絵はもう表情を切り替え、そこですでに彼女が目を細めて笑ってしまうのがすごい。本来であれば、「すごいねえ」で笑いかけていくのが会話内容にあわせた感情表現ってものです (E-moteとかならタイミングを的確に合わせそう)。けれども、おねーちゃんは一段抜かしでもって喜んでしまう。ボクが口を開くか開かないかのうちに、もう笑みがこぼれ落ちちゃってるのです。

 たとえば日常を描くエロゲといったとき、そこに面白い日常会話テキストを敷きつめようとするのは、どうも見当違いかと思います。それじゃドラマティックすぎる。ありがたいのは、たどたどしい話ぶりでもおねーちゃんが楽しそうに聞いてくれるということ。おねーちゃんは話題・シナリオがつまらないとか面白いとかを飛び越え、ボクそのものに興味をもって耳を傾けてくれている。会話内容をちゃんと聴かないまま会話を嬉しがってくれる様子こそが、切っても切れない姉弟の関係を表わしてしまうのです。
 「それは興味深い話ですね」という相づちは会話術としてしばしばNGとされるけど、「それ」という目的語でトピックを指定すれば、じゃあさっきまでの話題のほうは興味深くなかったのかと話し手が不安になる。興味深い話とくだらない話を聞き分けようとしてる鋭い知性を前にすれば、話し手は、次にはもっと興味深い話をこさえなくちゃいけなくなるインフレーション。それでは間をもたせるのにも一苦労です。有用な話と無用な話を聞き分ける知性だとかはやっかい者であり、話し手にとって安心できる聴き手というのは、なにより "私" に興味をもってくれている人です。
 それだから、ゆるやかな時間・日常のなかにプレイヤーを囚えようとしたとき、シナリオの目的にそった会話を組み上げていくことは毒となります。「これは興味深いシナリオだ」と満足するときには話にオチがついてるから、次にはもっと興味深いシナリオがこなくちゃいけなくて、日常は途切れていってしまう。おねーちゃんがいついつまでも一緒にはいてくれない。
 夏雪ルートシナリオは "悲劇" な筋立てだったはずなのだけど、やけに距離の遠い語り口でシナリオが進められるために、夏雪のキャラはちっともそこへ絡んでいかず、ただいつまでも優しいおねーちゃんをやってるだけのようで。悲しいシナリオの内容なんて聞き流しながら、彼女はとても姉らしくニコニコしていた。話を聞き流しながら、弟の世話焼きばかりに掛かりきりでいる、なんとも純粋に姉の顔だけを印象に残していったキャラでございました。

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 ErogameScapeの『夏雪 ~summer_snow~』感想を参考にして書きました。特に影響を受けた感想を挙げさせていただきます。

amaginoboruさん{
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15133&uid=amaginoboru
}

houtengagekiさん{
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15133&uid=houtengageki
}

omochiさん{
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15133&uid=omochi
}

tama1000さん{
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15133&uid=tama1000
}


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