くるくすさんの「明けない夜が来る前に」の感想

ネタバレ感想を見たくない場合、文字を背景色に設定することが可能です。 → 設定変更

**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

イイ話に持って行こうとし過ぎたのか、少し嘘くさい感じがする。
 主人公・蒼矢の生前の横顔は明らかにされていません。ヒロイン・夕実と比較してみましょうか。夕実には病弱なお母さんと、まだ幼い弟妹がいて、家族のために頑張っている夕実の様子がすぐに思い浮かびます。あまり社交的な性格ではないようですが、それでも親切なクラスメイトは何人かいて、バイト先ではオッカナイ先輩祓魔師に厳しく指導されているらしいw 一方彼はどうでしょう? 生前の彼のイメージがさっぱり湧きません。どうやらマンガやゲームが大好物のようですが、家族構成とか交友関係とか、つまりは彼の社会性がよく分かりません。
 蒼矢は出逢ったばかりの夕実とデートごっこに勤しみます。もうすぐ彼は成仏するのにもかかわらず、です。ゲーセンに行ったりマンガを立ち読みしたりと、出会ったばかりの少女との擬似デートは続くのですが、知己との別れを惜しむ姿は一向に見られません。
 邪推するようですが、生前の蒼矢は孤独な境遇にあったのかもしれません。もしそうだとしたら、彼は特記するほどの人間関係を生前に築けなかったのでしょうし、親兄弟や知人との別れを惜しまずともよいのでしょう。彼の自認するように、少なくともあまり実のある人生とはいえなかったようです。

 美少女が哀れな蒼矢に救いの手を差し伸べる、というのが本作の基本的な構造です。彼はどうやらカノジョを作って交際してみたいと密かに願っていたらしく、夕美と一日だけ恋人気分を味わいます。そして夕方までデートもどきを繰り返しながら、彼女の純朴さに心惹かれていきます。そして一通り甘い時間を過ごして満足して、もう成仏してもいいかと観念するわけです。
 夕美の純朴さが基本構造を下支えしているといえます。彼女が幽体離脱してしまった蒼矢と懇切丁寧に対話したのも、一日カノジョを請け負ったのも、デートもどきに付き合ったのも、全部彼女の優しさゆえ。もし彼女がマニュアル通りに首を刈り取っていたら、あるいはもしデート云々を気味悪がって拒絶していたら、そこで本作はゲームオーバー。
 もし読者が「夕美ちゃんマジ天使!」と受取れるのであれば、本作を楽しめそうです。確かに蒼矢と夕美の過ごした数時間は「デート『もどき』」でしたが、交わされた会話は決して「もどき」ではありません。孤独な彼があっけなく人生を終えた後、ロスタイムに入ってやっと僅かばかりに救済される様子が儚げで、読み手の胸を打ちます。トドメとばかりにエピローグで伏線を回収してホロっと泣かせてきます。
 しかし私はどうも夕美の純朴さを信用し切れなかったので、物語全体を嘘くさく感じてしまいました。いくらなんでも彼女はお人好し過ぎる! 幽霊に感情移入しちゃうのは駆け出しの祓魔師として致し方ないとしても、お願い事を聞いてあげたりとか、デートしたりとか、キスもどきを交わしたりだとか……ちょっと、ありえない。(ついでにいうと、祓魔師業(?)の設定も優し過ぎる。彼女のような感受性の強い人物は祓魔師には多分向いていません。作中では彼女は優しい性格をしているがゆえに採用されたと説明されていましたが、納得できません。例えば心理カウンセラーは意識して公私の区別を付けていると伺います。さもないと患者の抱える闇に飲み込まれてしまいますから。)

 要するに本作は優し過ぎる。少し嘘くさい感じがします。


■2016年6月14日 書き改め

くるくすさんの長文感想へのレスは許可されていません。

コメントデータ

このコメントはだいたい131回くらい参照されています。