amaginoboruさんの「メルクリア ~水の都に恋の花束を~」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

点数は亜泉ルート単体のもの。筆談キャラの魅力を極限まで表現した、同属性の最高峰とも評すべきヒロインでした。
お話自体はいたって普通です。異世界に飛ばされた主人公達が、戻るまで向こうでの
生活を満喫するシナリオ。リアはシナリオ主導のオールドスタイル、日未子と亜泉は
ヒロイン個性で話を進める近代スタイルですが、いずれも典型的なキャラゲーです。
リアの重めなシナリオにトーンの違いこそ覚えるものの、そつなく作られた良作と
いっていいでしょう。

ゆえに独創的な要素もありません。おにゃのことラブ関係になり、あるいは悩みを
解決して親密になり、恋人になりエッチしてもう一山越えてエンディング。
キャラゲーのそれ以上でもそれ以下でもありません。世界設定に驚愕ギミックがある
わけでもなく。過去に類を見ないクライマックスがあるわけでもなく。

グラもBGMも決して悪くない良好なレベルですが、やはり特級品と評すまでには
至りません。なのに高得点をつけた理由。それは王道を丁寧に書いているから。
何百年と使われ続けてきた物語のセオリー中のセオリー。多くの読み手に愛され続けた
王道の魅力を、エロゲノベルゲーの強みを用いることで十二分に引き出しているのです。

そしてもう1つ。「属性」という登場人物を作るに欠かせない要素を引き出した作品
でもあります。「声が出せないヒロイン」って、エロゲギャルゲーだと基本サブヒロイン
なのですよね。筆談が多くなるから自然と地の分が増えますし、キャラ同士の掛け合いも
テンポが合わず面白くないことも多い。何より声が出せないこと自体、近年のエロゲと
しては致命的です。

その様々な制約をマイナス要素として扱うのではなく、ヒロインを豊かにする魅力と
して用いたのが亜泉ルートでした。



◆筆談ヒロインの魅力
かくいう私も最初は全く期待していませんでした。いきなり魔法の使える異世界に
飛ばされて「声を出せる魔法あるよ!」ときたらもうエンディング見えるじゃない
ですか。あー声出せるようになって告白するのね、ラストは戻るか戻らないかの二択
かーって。見た目も脇役っぽいし最初に選ぶかーみたいな。

けど読み進めてみるといつもと違う。筆談ヒロインがズバズバ会話に混ざってくる。
声を出せないヒロインは基本、あまり会話には入れてもらえません。書き手が会話の
テンポを維持できない、なんて理由もありそうですが、大体は性格が原因かなと。
引っ込み思案だったり、寡黙系だったり、不思議ちゃんだったりと、会話をしない
性格でキャラが立てられがちなんです。

しかし亜泉はよく喋る。基本的に短文ですが、要点だけを書いてズバッズバッと話に
混ざってきます。豊かな表情やお茶目な性格もあって、声のあるヒロインに引けを取る
ことなく魅力を振り撒いてきます。

筆談だからこそのメリットも生かされています。書くのに時間がかかるから短文が
多めなのですが、それゆえ物言いがストレートで自分を隠さないんですね。とても素直。
主人公への行為も隠さないし、怒る時もちゃんと怒る。悲しい時も楽しい時もちゃんと
言葉にする。喜怒哀楽が明確で、表裏がとてもわかりやすいんです。

筆談ヒロインは「喋らないから本心がわかりにくい」みたいに寡黙系と個性が混同
されがちです。そこを本作は「それは思い込みだ!」といわんばかりに積極的に心を
見せてきます。それこそリアのような、天真爛漫なおてんば姫に近い個性ですよね、
亜泉は。強気そうな日未子やエルナの方がよほど引っ込み思案という。

「書くのが大変だから言葉が少ない」ではなく「短い言葉だから素直で感情が豊か」
なわけです。声が出せないことを欠点として表現するのではなく、書いて伝えるから
仔そのメリットを前に出してヒロインの魅力としている。そんな自己紹介を共通ルート
から見せた亜泉は、この時点で十把の筆談ヒロインとは異なる魅力を振り撒いて
いました。

ロッドでの飛行シーンにおいても声無しのメリットが生かされていました。主人公と
亜泉、2人とも声なしで会話をするから結果としてSEが明瞭に聴こえるんです。
真っ青な海を背景に、風の音を聴きながら、文章で2人の会話を楽しむ。それは他の
ヒロインでは味わえないインブルーリアの景色です。やはり声無しがメリットとなる
ワンシーンです。

そして図書館前で亜泉の百面相を眺めるシーン。ここは本当に凄かった。

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俺たちは喋った言葉を全て覚えておくことはできない。

何気ない言葉は、どんどん忘れていく。

けれど、亜泉は違う。

スケッチブックに亜泉の言葉が全て残されている。

だからページを開いたとき、その言葉を交わしたときの思い出がよみがえる。

亜泉にとって、それは文字で綴られたアルバムなのだ。

使い終わったスケッチブックは全部残していると言っていた。

亜泉の言葉のアルバムだ。

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筆談がメリットといわんばかりの表現です。普通はこんな書き方はしないんですよね。
「声がでなくていいなぁ」といわんばかりですから。可哀想な子に対してなんてことを
いうんだ!と憤る方すらいらっしゃるのではないでしょうか。だから一般的には、
いかなる理由があれど、身体的欠点から評価するようなことはしないんです。

なのにこのシーンを見て不快にならず納得できてしまうのは、それまでの亜泉の
振るまいが、筆談が長所であることを証明しているからでしょう。共通シーンで声が
出ないのをハンデと見せず、筆談のメリットを実際に押し出していたから、上述の
主人公の所感にも素直に同意できる。実に独創的な筆談キャラの表現です。

といってもライターさんや製作陣は、別段難しいことをしているわけではありません。
キャラ属性を見る角度を変えて、その視点に説得力を持たせるだけの挙措を亜泉に実行
させただけ。それだけなのに、まるで新しいヒロイン像を見たかのような気持ちに
なりました。セオリーに捕らわれることなく、しかし発想を変えてセオリーを表現した
見事なキャラ立てでした。


かようなヒロイン像ですから、筆談キャラ必携アイテムのスケッチブックも必然と
意味合いが異なってきます。短所を補う道具ではなく、長所を表現するためのアイデン
ティティとして扱われるのです。だから失った時はそれこそ、ボールが投げられなく
なった野球選手とか、走れなくなった陸上選手とかのレベルで落ち込むわけで。

ゆえに喪失した際の絶望に共感することができました。筆談用スケッチブックを失った
気持ちは、健全である我々には共感しにくいものがあります。しかしアイデンティティを
失ったと考えるなら絶望的な心情にも得心が行きます。それもアルバム代わりともなれば
殊更です。一般的な筆談ヒロインなら「新しいのを買えばいいだろ泣くな」なところが
「そりゃ泣きじゃくるよね...」になる。ヒロインに対して入れ込めるのです。

それだけ大事なスケッチブックだからこそ、新品を買った時真っ先に書いたものにも
深い意味合いを感じ取ることができます。まず最後のページに例の言葉を書いて、
次に書いたのが最初のページに「ティアラだいすき」。それまでの会話の脈絡を無視
してまで書いた行為が、どれだけティアラのことを深く思っていたのかを伝えています。

スケッチブックの重要性が丁寧に描写されているからこそ、会話で「2人は親友です!」
と宣言されるよりよほどストレートに伝わってくる。すなわちヒロインを深く掘り下げる
ことに成功しているのです。それも本来ハンデであるはずのスケッチブックで、です。

筆談を欠点ではなく長所として見せる亜泉ルートは、自分がいかに筆談ヒロインの
固定概念に縛られていたかを徹底的なまでに教えてくれました。それほどエロゲ本数を
こなしているわけではありませんが、自らの未熟を叩きつけられた気持ちでいっぱい
です。キャラ属性を引き出す。その意味を改めて認識させられたヒロインでした。


一方でエロゲらしい視覚的な属性付けも万端です。本作は題字こそ青がテーマカラーの
ように見えますが、プレイすると他の色も同等に扱われていることがわかります。

その最たるが赤。夕焼けに染まったインブルーリアの背景は、それこそ日中の描写と
大差ない枚数で用意されています。振り散る花びらの色もピンクで、水上や空を青と
赤で彩っています。そして日未子は赤で亜泉は青。赤青の対象が本作では徹底されて
います。

その両色に挟まれるのが金。リアの髪色でもある金は王室のトレードマーク。
インブルーリアの中心に王城があるのも、王女がメルクリアとなり世界のバランスを
コントロールするのも、赤と青を調和する金の役目だから。リアが王族としてふるまう
1枚グラにしても、ドレスの青とカーテンの赤にはさまれるようにしてブロンドヘアーが
たなびいています。

日未子とパメラが火花を散らすシーンも同じ構図です。パメラが青い炎をゆらめかせ、
間に挟まれたクラリィ先生はやはり金髪。学生間をとりなす調和役として、やはり
金色が置かれています。そして両者が認め合うダンスシーンでのパメラは、金髪に緑の
ドレス。青が一切なくなり、わだかまりが消えたことを視覚的に表現しています。

では亜泉はというと、やはり日未子とは逆の表現がなされています。親友となり終始を
共にするティアラは亜泉と同じ青のキャラクターです。空を飛んでも、水上を歩いても、
夜になっても青と青。二人の親和性をやはり色彩で表現しています。

会話で仲良くさせるだけでなく、筆談キャラがゆえの表現方法で相手を信愛し、
色でもって親和性を表現する。そのいずれもがエロゲとしてはスタンダードな手法
ですが、表現一つ一つの意味を理解し十分に配慮しているからこそ、出会って2ヶ月
にもかかわらず、亜泉とティアラの関係を親密に見せていたのだと思います。



◆最高の告白シーン
かようにヒロインを丁寧に表現しているからこそ、王道の物語もより映えるシーンへと
変じます。告白はドラマティックに、別れは悲しみを、それでも最後は前向きに。
そんな夢の世界を書いた古典は、その一つ一つを丁寧に表現して初めて真価を発揮し、
唯一無二の物語へと昇華されます。

例えば告白シーン。声を出せる魔法「風の声」を習得した後もボイスを聴かせて貰えず、
告白するのその瞬間で初めて耳にできるかの場面は、それだけを切り取ったなら凡庸な
ワンシーンです。実にお約束で目新しいものは何もありません。

しかし上記のとおり、亜泉は筆談を長所とするヒロインであり、声を出せないことが
欠点になっていません。だから告白シーンで声を聴いても「失ったものを取り返した」
的な雰囲気にはなりません。「今のままで十分魅力的なのに、更に声まで手に入れた」
なんです。プラマイ0ではなく、プラスの上に更にプラスされているんです。

これ文章だと「なにいってだコイツ」状態ですが、こればかりは見て体験するしか
ないと思いますし、プレイ済みの方ならある程度共感いただけるのではないでしょうか。
「ヒロインとして十分立っていた亜泉が更にパワーアップした!」ってのを実感
できるはずです。しかも声かわいいし!

と声を聴いた時点で熟練エロゲーマーであれば「あ、この方か」と判断できたのでは。
しかしキャスティングを見ると別名義で隠されている。別段珍しくもない対応ですが、
こと亜泉ルートに関してはありがたい配慮ですよね。聴いたことない亜泉の声を事前に
想像しなくて済んだわけですから。

共通から告白までの積み重ねで筆談を長所として表現し、同時に声なしをデメリットと
しては一切表現せず、告白のここ一番で更なるメリットとして声を用いる。「声を
出せないヒロインが見せる、一番の見せ所である告白シーンでの演出」としては亜泉
以上のものは滅多に見られないと思います。属性を限界まで引き出したシーンです。

演出はまだまだ続きます。花吹雪の中で階段キス、そしてテロップ。こちらも単体
なら他のエロゲでも比較的見られる綺麗な演出です。しかし亜泉ルートは直前のシーン
から2段3段とサプライズを用意し、一気に畳み掛けてることで殊更印象付けています。

テロップが舞台のベースであろうイタリア語でもなく、我々の馴染んだ日本語でも
なく、あえて英語を使用しているのもまた上手い。日本人の一般的な美意識ですと、
筆記体英語は並んでいるだけで1つのオブジェとして成立します。加えてイタリア語
より親しみが深く意味も理解しやすい。亜泉の心情とグラフィカル表現の両方に
配慮した言語起用です。

これらが全て計算され噛み合った亜泉の告白シーンは、私が覚えているかぎりの
告白シーンでもっとも印象に残りました。
女の子の一大イベントである告白の瞬間。亜泉の叶わぬ願いだった、自らの声による
告白。魔法という人々の願いを叶える優しい幻想。魔法で願いの叶う日。
その全てがぎゅっと詰めこまれた、美少女ゲームのヒロインを見せる舞台として
最高のワンシーンがそこにはありました。



◆王道の見せ方
筆談ヒロインへの配慮は最後まで途切れることなく続きます。元いた世界に戻る際の、
2つの悩み。そのいずれもがほろ悲しく、しかし明るく前向きに書かれていました。

ティアラとの別離はむしろ、主人公とのシーンよりも丁寧に綴られていました。
というか主人公は基本空気なのですよね。ヒロインの魅力を伝えるために存在する黒子。
メインは女の子です。これは亜泉に限ったことではなく、全ヒロイン共通ですね。
エロゲ、わけても2000年代後半の作品では珍しいことではありません。

ただ本作に関しては主人公の黒子ぶりが徹底されています。例えばダンスパーティ後に
亜泉が弱音を吐くシーンも、弱さを受け止める主人公はかっこよく書かれていません。
ヒロインが涙を見せて、それでも前を向いて進む強さを表すことだけに執心しています。
『メルクリア』は女の子を魅力的に見せるエロゲなんです。

だからティアラとの別れが、終盤におけるクライマックスの1つとして書かれています。
何をするにも2人一緒で、ずっと寄り添い続けた二人が別れるシーン。ピーターパンの
ウェンディとティンクが親密なIFであるかのような関係は、別れるまではもちろん、
エピローグにまでおよびます。

それがスケッチブックの最後に書かれたティアラの絵。一番最後に書かれた
「だいすき」の意味を知る主人公とプレイヤーだからこそ、想いの深さに理解が
およびます。別れる際も綺麗な1枚CGバンバン差し込まれますしね。ティアラとの
関係は亜泉ルートもう1つの魅力といっても差し支えないと思います。

そして声を失うという、もう1つの悩み。こちらは個別後半の日常を通して、静かに
しかし確実に迫る終わりの日を表現できていたと思います。とはいえリアルートほど
重苦しいことにもならず、亜泉の魅力を楽しみながらふと最後を想起するような、
絶妙な塩梅で書かれていました。

しかしその真価はエンディングが流れ、エピローグも終わった最後の最後にあります。
亜泉ルートを読了することで開放される「風の声」習得前にも亜泉にボイスが付与される
仕組みです。

得られる恩恵自体は本当におまけレベルで大したものではありません。むしろ再プレイ
の時は邪魔にすらなりそうですし。その事実より、プレイヤーが亜泉の声を思い出せる
ようになることが重要なのです。

インブルーリアから元いた世界に戻る際、亜泉は「私の声を覚えていて」と主人公に
懇願します。スケッチブックに描き置くことのできない、声という媒体だからこそ
記憶に頼るしかないわけで。そしてエピローグでスケッチブックを見せてもらった時、
亜泉の「だいすき」という声が流れて物語は終わります。

声がなくても亜泉は自らを素直に伝えますし、インブルーリアから戻った後は
ゼスチャーを交えて表現がより豊かにもなりました。それでも長年の夢だった、
大好きな人に声を届けたいという想いは、達成された後も褪せることなく、亜泉の
願いとしてあり続けるのです。

その想いを受けて、共通(&亜泉)ルート限定とはいえ、いつでも思い出せるように
してくれるその配慮こそ、筆談ヒロインに対する最大の配慮であるように思うのです。


こうして振り返ると、亜泉ルートの内約はどうということはありません。古式ゆかしき
メルヘンファンタジーです。いってしまえばピーターパン。魔法が使える異世界に
飛ばされ、魔法で夢をかなえて、しかし最後は現実に戻り目を醒まして、それでも異世界
での思い出は心の中に。ごくごく普通の、とてもとても王道なメルヘンです。

だのに心ゆくまで堪能できたのは、ひとえに基本がひたすらに洗練されているからです。
現実で諦めていたこと、魔法を使ってできること、努力して魔法を習得すること、魔法で
夢をかなえること、しかし最後は目が醒めること、醒めた後も心に残っていること。
その一つ一つを、声を持たない亜泉というヒロインで丁寧に丁寧に表現しているから、
ここまでの感動が得られたのでしょう。

だから亜泉ルートには美少女恋愛エロゲとしては自身初の、全年齢を通しても2作目の
傑作評価を出しました。1つのヒロイン属性を極限にまで洗練し配慮を行き届かせ、
古くからの王道シナリオに乗せることで唯一無二の筆談ヒロインを生み出したこと。
非常にじみでわかりづらい魅力ですが、それは何よりも評価されるべきものであると
思います。

以上。
「王道のシナリオで、最高の筆談ヒロインを生み出した美少女恋愛ノベルゲー」
それが私の本作に対する評です。

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