peacefulさんの「霞外籠逗留記」の感想

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遍く活字愛好家に捧ぐと云う名目で綴られるジブリ風(千と千尋)な雰囲気と、「今ここではない、何処かに行きたい」と云う題目で語られる旅路の果てを描く展開に興味がある方へお勧めしたい、文学エロゲーの最高峰
記憶を失い導かれるまま辿り着いた巨大な旅籠を舞台に、次から次へと繰り広げられる怪異譚と人情噺。 
その舞台に上がるは、青年と令嬢・琵琶法師・司書・渡し守・お手伝いさん’S、他エキストラ数人……。
複雑怪奇な感情の渦と人間の美醜が入り混じる世界観は、さながら幽かな蜉蝣の羽の隙間から覗く別世界とも言えよう。
人生に頓挫した人達への休息と発奮を目的に描かれたとも見て取れるシナリオであった。

さて、この物語を、いや、このレイルブランドを語る上で外せないのが、エロゲー内で他に類を見ない作者(希)の存在感を匂わせるテキスト表現。
過去に『信天翁航海録』の感想でも似た様な事を書いたが、津波の様に押し寄せる文章の連なりは正に圧巻。
中毒性極まるテキストを構成する隠喩や言い回しの妙。また、本筋を補足しながらの脱線染みたトリビアもご愛嬌だ。 
数少ない視覚で補完できる描写を最大限に活かす文章。その時々の情景が脳のイメージを膨らませる。
また、全体を通じ古典文学染みて難解ながらも、辞書を通さず自然と意味が通じる文章の羅列には思わず脱帽。
ノベルゲーとして名実共に相応しく思えてくる、正に文学エロゲーだ。

だが、その影響で人を選ぶ古風な字体なのは間違いなく、特に膨大な文章を読むのが苦痛な方には正直厳しいだろう。
それに前口上が長く、自然と焦れてしまうのは玉に瑕か。
そんなこんなで活きている、もしくは生きているかの様な字体を、絶妙な塩梅で整えようとする作者の存在感は、
この物語を構成する登場人物の一人として数え上げられても何ら不思議はないと私は思う。

駆けずり回りながら物語を紡ぐ者。彼らの世界を俯瞰して心情を慮る者。裏方で話を綴る者。
つまりは読み手の代弁者たる作者である希(マレニ)。
まるで書き手の手から離れて、登場人物達が勝手に物語を紡いでいるかのよう。
それとも頭の中で勝手に動いたキャラクターの行動を、作者が本当に把握出来ていないのかも知れないが……。
まぁ、それを含めて、これだけ作り手の存在を主張する文章は非常に珍しいと言える。
読み進める毎に、上段から落語を囀るかの如く、下段の読み手である観衆を惹き付ける様子がイメージできるよう。
特徴として、作中の登場人物(主に主人公)とリンクし、あらすじを知り得ぬ風を装いながら、
時折、肯定や否定、そして疑問符や推論、または狭窄した視野を捨て、普遍とも云える客観的、時には主観的な意見を差し伸べる。
そんなリアルタイムの干渉を、活字を通して読み手と供に物語を楽しむ解説役が、彼に相応しい役割と云える。

あと、偶に主人公に叱咤激励しながらも総じて甘いのは、世に出した作り手としての愛ゆえか?
もしくは真面目で礼儀正しい好青年だが、意志薄弱で優柔不断の気あり、
御堅い朴念仁でありながら好色という性格は、作者の自己投影も少なからず含まれるのではと推察できる。

そんな主人公である青年が翻弄される懊悩と惑乱の数々。
「人間というのは、失敗に失敗を重ね見苦しくあがいてもがいて生きていくもの」と作中で語るように、
旅籠での女たちの出会いと別れが彼を成長させていく展開は好感触。
個人的な意見だが、令嬢→法師→司書の順での攻略が一番ピタリと嵌る気がする。

(ここから重度のネタバレに入るので御注意を)











【本題の感想】
令嬢・琵琶法師・司書のルートの感想は、申し訳ないがここでは省かせてもらう。
無論どれも読みごたえのある、特に司書関連の怪異譚の数々は好物でもあった。
だが、やはり本作で重要なのは、渡し守の物語であるのは相違無いと思いたい。
それにタイトル画面で通常の物語とは別に表記されているのもにくい演出だろう。
最後の物語に、根本である主人公の紐解かれていく過去と銘打つ伏線回収をもってきた構成手腕は、
ありきたりで平凡ながらも、魅せる腕前は作者の非凡な才覚が伺えるというもの。
また、どの√における最後の選択肢に読み手への配慮が伺えた(霞の外or現実)。

耐えられない現実に躓いた、情けなくて、いかにも俗でありながらも共感と同情を呼ぶ境遇。
旅籠の女達を打ち捨てて辿り着いた重みと痛み、心の淵に確かに残った強い想い。
そんな過去の一人の女性による柵や呪縛を断ち切り、トラウマを清算するシナリオは中々のものに思える。
最もこれでは語弊があるので、理解という過去への巡礼の旅路、彼女の想いを彷徨う軌跡の方が相応しいかも知れない。
世界を想像し、創造する心と愛が如何ほどかは、あのあまりに深く重い偏愛を垣間見れば少しは理解できるかと。
心に関しては、仮託された各々のペルソナの顕れが証明できる気がする。
執着と依存、愛したい・愛せないの二律背反、禁忌故のパラノイアであり、
どちらの立場も鑑みて、狂してしまう恐怖にそこはかとない畏怖を感じる心理描写であった。

総じて、上質なカタルシスを味わえたことにプレイ後の満足感が募る一方で、予想を外れない結末だったのは少し残念でもある。
また、全体を通じて話の流れが弱く、起伏も少なくて平坦に感じる要素があるのは惜しい点。
描写不足や演出面での工夫の乏しさも含め、読み手をもっと驚嘆させる展開を披露できたのならば90点以上は付けただろう。
その為、本作は物語の質云々よりかは、登場人物を含めた旅籠の全体の雰囲気を味わう文学作品の方が上等であると評価した次第。
それに結局、旅は旅でしかなく、モラトリアムを終えた時、自分がどう変わるかが重要なのだろう。
そんな題目を消化し終えたエロゲーとして、本作は異端な作品でもあった。

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