TsukimiyaYukitoさんの「ひまわり」の感想

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**ネタバレ注意**

ゲームをクリアした人むけのレビューです。

これ以降の文章にはゲームの内容に関する重要な情報が書かれています。まだゲームをクリアしていない人がみるとゲームの面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。

 子供心を忘れなかった3人の大人がもたらした、希望と悲しみの物語。「ロリっ娘」との同棲だけに留まらず、SF設定を交えた謎解きと種明かしの妙は素晴らしかったです。惜しむらくは、テーマの明確な主張が弱かった所でしょうか。
1. 作品全体について(ネタバレ小)
 空から落ちてきたアリエスや幼なじみの明香との生活がとても楽しかったです。銀河や
ジョニーといった愉快なサブキャラクターたちも、時には笑わせ時にはお話を盛り上げて
くれました。

 ジャンル名とは裏腹に壮大なスケールで展開されるSF物語でもありました。RNAウィル
スをギミックに用いた舞台設定や、その情報開示のタイミングが非常に巧く、胸をときめ
かせながら物語を楽しむことが出来ました。攻略順序が固定されていることもあり、ルー
ト内のまとまりだけではなく、ルート間での調和が取れた物語が描かれていました。




2. 個別シナリオやヒロインについて(ネタバレ大)
 過去に囚われた人たちの物語。記憶こそがその人の本質であり、その記憶が現在の行動
を規定します。だからこそ、心から愛した初恋の人を忘れることが出来ないのでしょう。
その一方で、子供の頃からの夢は諦めるべきではないというメッセージも内包しています。

 また、サブテーマとして、「視点が変われば物事の関係も変わる」こともたびたび描か
れています。日本を中心とした世界地図、明香の名前の由来や、観測地による星座の見え
方の違いなどです。最たるものは、アクアルートにおける「あおい空の奇跡」にまつわる
シナリオでしょう。さらに、それは登場人物の性格的多面性においても同じ事です。英雄
と謳われる大吾の内面や悪役である明の理想、ポケポケしたアリエスの計算高さなど、多
くの場面で見られます。


2.1. アリエス(8/10)/ ロリっ娘宇宙人同棲ADV
 ポケっとしてプニっとした笑顔がとても可愛いアリエス。彼女を家族に迎えた2人の生
活はとても楽しかったです。部長やジョニーのトンデモ言動にもたくさん笑わせていただ
きました。無難な学園ノベルの体を取った「ロリっ娘宇宙人同棲ADV」だったと思います。

 2048年に起きた高々度旅客機SA-DAN080型墜落事故の責任を感じ続けてきたアリエス。
彼女の成果を示すために「ひまわり」の花火を咲かせたエンディングはとても綺麗でした。
ここで、アリエスが報われるという意味では、アクアルートからの派生エンドである
『向日葵』こそアリエスルートと呼ぶべきかも知れません。こちらでは、墜落事故の真実
も知る事が出来ましたし、TIPS36において彼女はついに葵の代用品ではなくなりました。
この終わり方がもっともその後の幸せが期待できそうです。

 『ひまわり』全体から見ると、この章は比較的あからさまな伏線を置いていくプロロー
グとなります。アクアの態度ならびにセリフは、その真意を知ってから読み返すとなるほ
どと思わせてくれます。『AQUA』をプレイした後に、すぐアクアルートへ進まないで、再
びアリエスルートを読み返してみても面白いでしょう。


2.2.second episode AQUA(7/10)/ どこまでも代用品でしかなく
 前章エピローグにおける妹の名前がない記念碑から2ndオープニングまでのシークエン
スには、とても引き込まれました。まさに、『ひまわり』はここからが本番のようです。
舞台を宇宙ステーション「ひまわり」に移し、物語のスケールも大きく拡がります。ここ
で語られる天文部3人組による夢の行く末や、アクアたちの出生の秘密やルナウィルス関
連の謎解きを大いに楽しむことが出来ました。しかし、惜しむらくは、大吾とアクアの同
棲生活にあまり面白みを見いだせなかった所です。42歳のエッチなおじさんを見てそれほ
ど楽しくなるわけもありませんし、アクアへの性的揶揄が度を超えていたのも要因の1つ
でしょう。

 14歳のアクアは、自分のことを(研究材料ではなく)初めて1人の女性として見てくれ
た大吾に恋し、自らの居場所と考えるようになっていきます。「ひまわり」に侵入したテ
ロリストや明から大吾に身を守られた彼女は、ひまわりを脱出しました。これも綺麗なエ
ンディングではあるのですが、この希望的終幕を覆すのがひまわりの手法。英雄は互いに
想い合っていた明香里のことしかしか頭にありませんでした。エピローグで大吾がアクア
のことを忘れ、明香里として認識している事が明らかになった瞬間にはとても大きな衝撃
を受けました。スペース・プレーンの墜落を止めることも適わず、ただ名前を最後まで思
い出してもらえないことに打ちひしがれる悲劇はとても重いものでした。


2.3. アクア(8/10)/ 奇跡を起こし続けなければならない2人
 強気を装って必死に内面の弱さを隠しているアクア。どこか遠くを見ているかのような
アクアの横顔がとても可愛かったです。全てに決着を付けるアクアルートは、まさ
に『ひまわり』の山場でした。宗一郎がルナウィルスを根絶するために、500人の感染者
もろともスペース・プレーンを墜落させたことが分かった時には戦慄が走りました。続く
アリエスのアオイおねーちゃん復活要請と、アクアへの「幸せにならないでください」宣
告まで目が離せませんでした。

 代替であり偽物であった二人の恋愛は、いくつもの奇跡を経て本物になりました。しか
しながら、アオイの代用品としてではなくアクアを受け入れた陽一に対して、アクアが大
吾のことを忘れられたとはとても思いません。初恋を超えるため、この2人が仲睦まじく
時を過ごしていくためには、今後も奇跡を起こし続けなければならないのでしょう。


2.4. 西園寺 明香(8/10)/ 全てを覆い隠したフィナーレ
 2年前に知り合った幼なじみこと明日香。ロリっ娘ではありませんが、何かと陽一の面
倒を見ようとする彼女が1番好きでした。それにしても、明香が高校2年生にして20歳であ
ったことには相当驚かされました。『AQUA』を正確に読み取っていればすぐに分かること
なのですが、全く気付いていませんでした。お酒を飲むこと、そして、煙草を吸うことが
20歳まで"生き延びられた"喜びとして描かれていることは興味深かったです。

 明日香ルートの好きな所は悪役であった明の深層部分が露わになるところです。宇宙を
当たり前の世界とするために、大人になりきれないまま夢に向かってきた彼は悲劇の主人
公でした。愛した明香里を失い、親友の大吾と分かれ、協力者の日向先生は離れていきま
した。彼の理想の高さと不幸には同情を示したいですし、明香たちへの不器用さには「萌
え」に似た感情を覚えます。

 この物語はあくまでも「ロリっ娘宇宙人同棲ADV」でした。ルナウィルスの事も、明香
とアクアたちの血縁関係の事も全て忘れ、陽一(と明)が夢に向かって進んでいく希望を
描いて、物語は大団円を迎えます。彼らに、人類を救うことは出来るのでしょうか


2.5. ひまわり
 作品タイトルの『ひまわり』は、ジャンル名「ロリっ娘宇宙人同棲ADV」に相応しく可
愛い名前です。向日葵という花からは一般に太陽を想像しますが、いつも太陽に同じ面を
向けるという名前の由来から、むしろ月を象徴するものとして扱っています。主人公の妹
(日向葵)、宇宙ステーション、月を目指す自作ロケットなどがその名を冠しているのは、
なかなか面白い所です。

 物語は、陽一の夢や想いがいっぱい詰まった名前「ひまわり」を娘に与えた所で閉じま
す。ラストの秋桜とひまわりの会話は、最後まで読者を引きつけてくれました。この含み
を持ったエピローグは、続編をすぐに読まないわけにはいきません。


3.1. 心にとどめておきたい言葉

怪談とはな、知ってる知らないではないのだよ
単に自らの経験の中でもっとも恐ろしい体験を話せばよい
ただし300%ほど脚色してな
                                ―――雨宮 銀河

ヒトは自らが生きた証として、子供を残す。
そして同じように、言葉を残す。
言葉とは、ヒトの生きた証。
言葉とは――個人の記憶。
そして名前とは――ここのヒトを定義する言葉だ。
                                ―――アクア

少なくとも俺は自分の遺伝子を残すために生きているつもりはない。
俺が残したいものは――軌跡だ。
俺の歩んだ場所までやってきてくれる誰か。その場所から先を目指してくれる誰か。
そんな誰かを、俺は求めている。
                                ―――雨宮 銀河

偽物だから、僕たちは夢を見ることができる。
夢を見ることさえできれば、僕たちは夢に向かって歩いて行くことができる
たとえそれが、どんなに遠くの場所でもね
                                ―――日向 陽一

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