【“悪役令嬢系ヒロイン”の皮をかぶった、繊細で不器用な少女とのアナザーストーリー】
【総合評価】84点
【シナリオ】32/40点【原画】18/20点【音楽】18/20点【キャラ】9/10点【声優】7/10点
前作でサブヒロインだった聖莉々子にスポットを当てたファンディスク的な作品。
★良かった点
FDでありながら、ヒロインの「聖莉々子」の魅力を新たに引き出すことで『ハミクリシリーズ』の世界観を広げている。前作のファンはもちろん、初めてシリーズに触れる方にもおすすめできる作品。
ヒロインの漫画を描く能力が、本編の才能あるクリエイター達と非対称になっているのが凄くいい。
本編では敵陣営と言える立場の少女をここまで魅力溢れるキャラにできるのは素晴らしいとしか言いようがない。
◎キャラの魅力とこだわり
とにかく至る所に「り」が散りばめられており、ちょいちょい挟んでくる「りりりネタ」のセンスが良い。特にチャプター名とか面白すぎる。
そして、時折出る方言といちいち同調圧力を求める喋り方、歯ぎしりの「ぐぎぎ」が最高に可愛い。
しかも「ぐぎぎ」の言い方は、毎回似ているようでちょっと変えてるのもこだわりを感じる。
ヒロイン以外の魅力も相変わらず凄まじい。特に今作では詩桜先輩が大活躍する上に、新キャラで聖家の専属メイド「美倉礼良(通称ららら)」がめちゃくちゃいいキャラでいい味を出している。個人的にだが、特に詩桜先輩の株がうなぎ登りのように上がっていった。
◎システム面に関して
筆者は本編クリアから3日以内に始めているので記憶が新鮮だが、久々にハミクリ無印をプレイする人達のために冒頭から解説してくれる配慮がされておりめっちゃ助かりそう。突然のバッドエンドやわざとバッドエンドに向かうプレイヤーに対して一小ネタ挟んでくるのが大分シュールで面白い。
◎シナリオの展開と感想
まさかの公開ぷち告白。その後の初々しいやり取りと正式な告白シーンがたまらん。莉々子の描いた漫画の告白シーンと重ねているのがエモく、エンディングの「ロマンチックを叶えて」の歌詞やタイトルと告白シーンが重なって素晴らしい。そして、大分神曲。
そしてまさかまさかの、千玉学園生徒会の一員になるという展開に驚いた。さらに、その後に描かれる「ハミクリ無印」の“シンポジウム”の場面を巧みにリンクさせてきたところ、不登校の人間に対して莉々子が放った『堕ちるところまで堕ちればいい』という発言を回収するかたちで、彼女自身の変化や成長を描いているのが見事だった。
本作はシナリオの展開だけではなく、Hシーンもある意味存分に楽しめる。お嬢様育ちで性知識がまったくない莉々子を、主人公が一から調教していくHシーンは、本作ならではの独特な雰囲気があってよかった。また、調教という言葉に過激さを感じるかもしれないが、実際にはどこかコミカルでシュールな展開が多く、重さよりも軽妙さが際立っている。特に、選択肢でいきなり笑いを取りにくるパターンには不意を突かれた。キャラゲーとしての完成度だけでなく、エロにおいても“ネタと実用”を両立しているのはさすが『まどそふと』という印象だった。
そしてなにより、やっぱりこのシリーズは正体を打ち明けるシーンがいっちゃん面白い。
★悪かった点
シナリオ面で少しもったいなく感じたのが、莉々子の両親との初対面のシーンと祖父と父親が和解するシーン。序盤で、祖父と父親の仲が悪いというフラグが立っていたので、主人公との関係をきっかけにどうやって和解していくのかずっと楽しみにしていた。でも実際には、その和解のシーンがほとんど描かれずに終わってしまい、そこはもう少し丁寧に掘り下げてほしかったな、というのが正直なところ。