【夢を諦めた社会人に贈る、もう一度前を向くためのビジュアルノベル】
【総合評価】90点
【シナリオ】38/40点【原画】19/20点【音楽】20/20点【キャラ】7/10点【声優】6/10点
「人生をやり直す」ために集められた青年たちが“リスタート教育機関”で心の傷と向き合いながら再生していく、静かで切ない群像劇。心のリハビリをテーマにしたエモーショナルなシナリオゲーで、重めの設定ながらもどこか温かく、プレイヤーの胸に静かに刺さる作品。「試してみるんだ、もう一度」これが物語の全て。
★プレイ時間
現在の合計時間
20時間
共通ルートまで
4時間
日向子ルート
約4時間
ももルート
約3.5時間
流花ルート
約3.5時間
アイルート
約5時間
全体を通して
★良かった点
地の文の描写力が非常に高く、多少難解な単語やテーマが出てきても、語り口でしっかり補完してくれるため、全体として読みやすく、没入感が高い。
導入から高品質なCGやBGMで作品の世界観に惹き込まれ、プレイヤーの期待値を自然と引き上げてくれる。
序盤から目を引くのは、クオリティの高いCGとBGM。背景美術や演出も含め、同価格帯の作品と比べても一線を画す完成度。色彩のトーンや構図のセンスもよく、立ち絵の差分も豊富でキャラクターの感情が丁寧に拾える。
BGMは金閉開羅巧夢氏(後のえびかれー伯爵)が手掛けており、全体的にレベルが高く、演出との相乗効果で感情の波を的確にコントロールしてくる。特にピアノ主体の楽曲が印象的で、静かな感動シーンや切なさを際立たせる場面では特に力を発揮していた。
シナリオ面では設定に驚かされた。序盤から「若返り」や「過去改変」というテンプレに頼らず、大人がそのままの年齢で“高校生活をやり直す”という設定は非常にユニークで、「ReLIFE」や「オレンジ」といった作品群とも一線を画すオリジナリティがある。
冒頭から挿入されるノイズ演出や不穏な空気が、単なる学園青春モノではないという伏線として機能しており、ミステリー的な魅力も同時に持っている点が優秀。
プロローグではまさかの日向子視点から物語がスタートし、彼女がなぜこの「トライメント計画」に参加することになったのか、その内面の揺れや過去の挫折が丁寧に描かれることで、プレイヤーとしてもより感情移入しやすくなっている。主人公交代後は一転してボイスなしの典型的ギャルゲスタイルに戻るのも安心。
過去の回想との繋ぎ方が自然でキャラの掘り下げも上手く、伏線の張り方も非常に計算されている。物語が進むごとに、主人公・司の過去や家族の秘密などが各ルートに断片的に明かされ、プレイヤーがパズルのピースを集めるように物語の全体像を理解していける構造も秀逸。
また、登場人物以外のモブ(島民や店員、生徒)に一切の会話シーンがないという違和感を持たせたうえで、それが“人工知能の島”という舞台設定の布石になっている点も非常に上手い。
★悪かった点
物語の舞台が近未来なのか現代寄りなのか、時間軸が曖昧な点はやや引っかかる。
また、各ルート単体の結末が少々曖昧で、TRUEルートを見ないと物語としてのカタルシスが不足しているように感じる。
モヤモヤを抱えたまま終えるルートもあるため、やや評価が分かれる部分かもしれない。
AIがテーマの時点で、「アイ=AI」という正体はある程度予測できてしまうのも惜しい。
【日向子ルート】評価:A+
社会で挫折し、失意のなかで島に来たヒロイン。
彼女が徐々に心を開き、未来に向かって一歩一歩歩みを進めていく様は非常に丁寧に描かれていた。
特に、司との距離が少しずつ縮まっていく描写が秀逸で、感情のグラデーションをリアルに感じ取れたのがよかった。
彼女が「疎外感を抱える司に対して、自分が居場所になりたい」と告げる場面は、このルート屈指の名シーン。胸が熱くなる展開であり、日向子の“母性”と“自己肯定感の回復”というテーマが交錯し、物語の核心が垣間見えた。
また、普段は物静かで控えめな日向子が、Hシーンでは積極的にぐいぐいと距離を詰めてくるギャップも魅力的で、単なるファンサービスに留まらず、彼女の心の変化が現れているのも非常にGood。
また、視点が時折日向子に切り替わることで、主人公である司のことも外から見る視点で描かれ、プレイヤーとしての理解が深まる構造も巧妙だった。
ただ一点、物語の終盤がやや平坦で、期待したほどの盛り上がりを見せずに終わってまった印象。もう一段深い“決断”や“別れ”のようなエモい山場が欲しかったというのが正直なところ。
【ももルート】評価:B
表面上は天真爛漫な少女・ももとの青春ラブコメ風に進むルートだが、実際には“普通の生活”ができなかった者たちが“普通の学園生活”を手に入れるという、シンプルながら普遍的なテーマ。
AIのトトちゃんが、ももと司の関係にやきもちを焼き、意外にも毒舌キャラとして活躍するのもポイント。感情を持つAIという本作の核心に触れる存在であり、単なるマスコット枠に収まらず物語を動かす一員として機能している。
裏設定の匂わせが随所にあり、ルート単体では完結しない印象を受けるが、それがかえってTRUEルートへの興味を引き出してくれるのは良かった。
【流花ルート】評価:A
流花は「仕事に生きてきた元社会人」らしい冷静さと責任感を持ちつつも、実は甘えたい気持ちを抱えた少女という多層的なキャラ。
“姉属性”に見せかけて実は“妹”というギャップも魅力で、さらにグイグイくるアグレッシブな性格かと思いきや、恋に関してはとことん乙女という一面といった点に魅力を感じた。
声優の演技に関しては好みが分かれる部分だが、正直キャラクター性との齟齬を感じた。
“二人の秘密”として始まった恋愛が、あっさり周囲にバレてしまうという軽妙な展開も、重くなりがちな本作の中では良いバランス調整になっていた。
また、流花が自分の限界を認め、司と「一緒に歩むこと」を選ぶ瞬間は、本作のテーマである“再生と再構築”を体現するものとして非常に印象深く、感動的です。
【アイルート】評価:S
AIというテーマの本質に最も深く迫ったルートで、各個別ルートやこれまでの伏線や謎が綺麗に回収されていくTRUEルート。
アイは単なるボクっ娘かと思いきや、「ボク」という一人称の裏には、複製前の存在「ユウ」が過去に使っていた一人称だったからという伏線があるのが非常に良かった。AIとして生まれた“感情を持つ少女”が、「人間と同じように愛し、悩み、そして別れを選ぶ」までの過程が非常に丹念に描かれており、プレイヤーの多くが涙したであろう名ルートだった。
“血が繋がっていなくても家族になれる”“AIであっても心を持てる”というテーマは、現代における孤独や多様な家族観に鋭く切り込んでおり、思想性も高いと評価できます。