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yknk_moiさんのForestの長文感想

ユーザー
yknk_moi
ゲーム
Forest
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
95
参照数
970

一言コメント

「これは俺だっ(泣)」「この子はあたしの身代わりに死んだんだ!」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売当時にプレイしており、長いこと自分の中でこの作品の立ち位置を消化するのに悩んでしまった。
しばらく経って、DL販売開始の告知を見かけて再インストールしてみたり、
何かの節目には何度も何度もリプレイしていて、この作品を非常に貴重で、特別な物として見ていることに気が付きながら、
それを感想文に起こしてどこかに書こうとは思わなかった。
…訳は簡単で青臭い。誰かに感想を言う事で、この作品を形容してしまうこと、形を与えてしまうこと、
同時に誰かにこの存在を教えてしまうことを「もったいない!」と思っていた。

今ではメタ的作品、物語は沢山あるし、エロゲと童話モチーフ、というのもさして珍しくなく、
SNSや感想サイトが沢山あることで「謎」の考察もたやすい。
だから、この「Forest」も、プレイしていて理解不能だろう、一部の人にしか理解されない、とは思わない。
理解できずとも何かかしら感じることができ、そうなれば訳が分からなくても読み進めることが出来る。

それが、この作品の持つきわめて希少なエネルギーだと結論を出した。

パッケージ版からシステムが変わっていなければ、
多少古いゲームというのを考えても不便なところはいくつかあって、
特にオートモードがないことはこの作品にとっては一番の欠点。
というのも、このゲームに頻繁に演出として入ってくる、ト書きとは別の台詞をボイスが再生し、
ト書き(主人格)以外のキャラクターが勝手に話を進めて行く、という演出は、
マウスクリックでテキストを先に飛ばしてしまうとボイス再生も切れてしまうため、
「もうボイス終わったかな?」と思ってクリックしかけたらまだ次のボイスが残ってました!
ということが結構頻繁にある。
それがストレスといえば、ストレス。
あと、謎のフラグ?で一度クリアするとなぜか画面エフェクトがすべて右端に寄るようになる。
このバグはパッチも出てなかったはず。

…ただ、序盤の話のわけのわからなさ、クリックしたら音声が切れる、
そういうストレスがあっても、それでも気にせずに突き進んだ。
これが面白い作品であると確信していたから。

お恥ずかしながら、自分は恐らく登場する童話の元ネタ等を半分以上理解できていない。
そもそも存在すら知らなかったものもたくさんあって、色々考察している方々を尊敬するほどです。
膨大な量の知識が詰め込まれている。
…けれどもそれは、嫌味なひけらかし、与太話ではなく、この物語、
「アマモリの本棚(=幼い頃から夢見た、ファンタジーの世界の知識)」に没入させるものとしてきちんと意味を持っている。
知らなくても、意味が解らなくても、「自然と出てくる」元ネタの多さから、
アマモリの世界を嗅ぎ取ることが出来ればいい。

この作品は、見る者を映す鏡のようだと思った。
この作品の流れ、そして結末に何を感じたか、どう思ったか、
それ自体がこの作品の存在意義で、絶対的な答えが示されることはない。
プレイヤーは作品の解釈を通して、自分の中身と向き合う。

ひどく落ち込んでいるときにばかばかしいコメディで笑いものにされる役者を見て、
これは俺だ、と無性に悲しくなったり、
失恋から立ち直れない少女が悲劇的な映画や小説を読んで、
この子はあたしなの、あたしの身代わりに死んだのよ!と泣きまくるのとちょっと似ている。

…かと言って、じゃあこれはもともと、ユーザーへの問題提起の物語なのか?
というと、そうでもない。
アマモリ、アケル、マユズミ、ナガツキ、カリヤ、そしてカコ。
彼らはただの舞台装置ではなく、
強烈な自我とそれぞれの人生、物語があり、それが…なかなか面白いのだ。

曲者ぞろいの人物たちの交差する思惑を描きながらも、
それが新宿と言う箱庭の中で綺麗に成熟し、プレイヤーの言葉による補完を必要としない、
完璧な物語として成り立っている。
その綺麗さ故に何度も覗き込みたくなり、
強烈な、他者ほはねのけるキャラクターたちなのに、そこに自己投影したくなる。

内容を理解できるか、どうかではない。
なにを感じ取るか、が、押し付けがましい作品の「メッセージ性」ではなく、
「物語の完成度」によって、プレイヤーにゆだねられる。

もうこんな作品は出てこないと思う。
星空めておもTYPE-MOONに行っちゃったし。