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yknk_moiさんの冬のさざなみの長文感想

ユーザー
yknk_moi
ゲーム
冬のさざなみ
ブランド
ゆにっとちーず
得点
78
参照数
1682

一言コメント

突き放すようでいて肯定される。傷つくのも、救われるのも、自分次第。(長文ではこのサークルの過去作のネタバレもしてるので注意)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

フリーソフト。非18禁。
公式サイトの説明文に記述がありませんが、
同サークルの「夏のさざんか」「パコられ」の登場人物の物語です。
クロスオーバーみたいなもの?

明るい内容ではなく、今回は更にボイスなし(同じフリーソフトでもさざんかにはあった)、
立ち絵なし(イベントCGはある)と、
ある意味フリーソフトらしいといえばらしいストイックさというか…。
不要なものをそぎ落として「物語」を見せることに注力したような作りで、
必要以上のキャラクターの掘り下げ(魅力的なイベント)や、
「過去作をプレイしていればニヤリとできる」というファンサービスもないです。
(少なくとも過去作を全部プレイしている自分はそう感じた)

画面構成は「ナルキッソス」のような、
上下が黒いスクリーンで覆われたなんちゃってワイド。
曲数の少ないBGMと、印象的な効果音。
本編に登場するキャラクターにボイスはありませんが……油断してると多分ビックリします。


ネタバレ感想なので遠慮なく。
公式では書かれず、そして作中でも最後まで一度も名前が出てきませんでしたが、
主人公の「僕」はパコられの主人公「惇」です。
パコられのあの凄惨なエンディングの後に彼がどう過ごしたか、というところから始まるわけですが…。

海岸で出会う男(これは名前が出てますね)は、夏のさざんかに登場した四方木。
…この物語、なんと半分以上が主人公(男)と四方木(男)の語らいで作られており、
エロシーンがないどころか女性が…登場するっちゃするんですが、
「どうしてそんなことになってしまったの」と問いたくなるような感じで、お色気的な意味でもサービス皆無です。

休学し現実逃避するようになり、完全に自信を喪失した惇。
そこで出会った四方木の言葉によって安らぎを覚え始める。
…ここからボーイズラブじみた展開に行くのか…と思って、身構えたんですけどね。
そんな予想は、いい意味で裏切ってくれました。

…惇は、何もできませんでした。
パコられの時もそうでしたが、今回もそうだった。
が…その何も知らない、関わることが出来ない全くの傍観者である惇が、
「四方木とつばきへの同情」ではなく「自分自身が思った事」を、八つ当たり気味にわめいたことで、
なんとつばきは正気を取り戻し、再び四方木と二人で生きていく決心がついてしまう。
惇にそんなつもりはなかったのに、彼らは惇の羨望から出た言葉で勝手に救われてしまった。

これは、惇が言っているように、形こそ大きく違えど同じくらいやるせなかったはず。
どうにかしてあげたい、と思ってもすでに手の届かない場所へいた紗倉。
逆に「助けてくれ!」とすがったのに「それはできない」と拒絶され、その末に勝手に幸せになってしまう四方木。
どちらも惇は傍観者でしかない。
自分の言葉で他人が幸せになったとしても、それを心に余裕のない惇は喜べず、恨めしささえ覚える。
その末に「早まろうとする」わけですけど…この物語は、最後の最後ですべてを肯定した。

「君に救われた者として言う!生きろ!生きて、走れ!」

…惇が置かれた社会的な立場は何一つ変わらない。
けれど、惇は泣きながら答える。「生きる」と。
この先惇の人勢が順調に進む保証はどこにもなく、もしかしたらまた挫折して鬱病のような状態に陥るかもしれない。
そういうことを全部受け入れて、「生きる」。
この結末に共感できるかどうかでしょう。

(たとえが適切かわかりませんが)
アクションゲームなどが、プレイヤーへの自由度を高めれば高めるほど難易度が上がり、
「パーフェクト」を取るのが難しくなるように、
ある程度明確な回答と規制、ルールがあった方が、共感しやすいんです。
そのルールが自分好みか否か、ルールに沿った末のエンディングが自分好みか否かで、
プレイヤーはゲームの評価を決めるわけです。
…あのエンディングの後、惇が本当にきちんと「日常」へと帰り、立ち直ることが出来たか、
この作品は、描いてくれない。
ハッピーエンドか否か、その判断をユーザーに任せてる感もある。
「これがいい」「これがダメ」ということを、ちっとも決めてくれない。
作中で示してくれないんですね。
四方木だって、「死んではいけない」という様々な作品で当たり前の考えとされることを口にしない。
止めただけ。「僕が嫌だから死なないでくれ」と。
その「幸せとは自分の感じ方次第」という結末を、よいことだと取るか、
「結局なにも解決してないじゃないか!もっと具体的に幸せのビジョンを描いてくれ!」と不満に思うか。

…あとの特筆点は、四方木と惇の語らいの独特の雰囲気でしょうか。
内向的な青少年の暗い感情の吹き溜まりとでも言いますか、そのへんを上手く会話にしてる感じ。
BGMにしても、効果音にしても、枚数の少ない(フリーにしては十分か…)CGにしても、
使いどころをバシッと決めている、サウンドノベルの元祖的な演出もなかなかよかった。
序盤「拾った」とされる遺書、その後偶然開く週刊誌とそこに載っていた小説、
そして電子書籍で読む四方木の書いた小説。
あの一連の画面演出もちょっと気に入っています。
出来ればあの小説を読んでみたいんですけど、そういうファンサービスも作中にはなかったな…。
おまけモードで出てくるかと思ったんですけど…。

淫夢みるさなぎ、夏のさざんか、パコられ、冬のさざなみ。
(おれまにあは体験版しかやってないんですが)
この一連の、ぱっと見どれもバラバラなジャンルの作品に一定して敷かれているのは、
「幸せとは人それぞれだ」という訴えな気がします。

淫夢みるさなぎのまひるルート(久しぶりにリプレイしました)にて、
あやめがアキに今後の生活を相談したときに、こう言われる。

「アヤメにとって…アヤメの中で、一番大事で、離したくなくて、ずっとずっと持っていたいものは…なに?」
「それを…考えればいいと思うよ。……ボクは、そうしたよ」

八雲に屋敷を出ていくと告げるときには、こう答える。

「今までどんなことをしてきていても。私に見せてくれる顔が、私にとっての真実なんです」
「それ以上何か必要なのですか?この気持ちさえあればという熱い想いがあれば、私はどこへだって行ける」
「幸せになりたいんじゃないんです。私はただ、あの人と一緒にいたい。あの人の望むままの形で」
「ずっと…何も見ないで閉じこもり続けるよりは、ずっと、いいです」

夏のさざんかで、つばきは幸せをかみしめながらこう想う。

「……この先に何が待ち構えているかはわからない。
それでも。
それでも今は、宰さんと一緒にいたい。」

宰は、つばきにこう語る。

「人生、なんでもありです。どんなことでも起こる、決してなんでも不思議じゃないんです」
「それが、自分にとって悲しいか嬉しいか。感じ方の違いだけ」

パコられでは、逆説的に樹里が語る。

「死になさい、って言ってるわけじゃないわよ。死んでもいいって肯定してるのよ」
「変えようと思えば、いくらでも変わるのよ。変えたくない、変わらない、変えられない……そんなふうに諦めたのは誰よ」

そして、冬のさざなみでは……四方木が語り、惇が受け止めて走っていく。

自分はその結末に、未来への可能性を見た。

フリーソフトだし、個人的にいろんな人にプレイしてもらいたい。
過去作を知らないとダメなんて敷居が高いよ、なんて人も、一度プレイしてみて惹かれるモノがあれば、
そこからさかのぼって過去作に手を出してみてもいいんじゃないかなあ…と、応援の気持ち。