1割の幸せと9割の不幸の人生で、他の人よりも不幸の度合いが多く、一度は逃げ出してしまった5人の成長の物語。
・はやてルート
親との不仲が原因で、反抗する為に夜間学校に入学。晴生と似た者同士で、はやてに言葉をかける度に自分にも当てはまり、はやての成長が自分の成長にも繋がり父を理解しようとする。
自分の中で区切りをつけて問題を解決するのではなく、お互いに心の扉を開ける必要があるがその先の結果を受け止める覚悟と勇気をそれぞれが持てずにいた。だけど、少し開けた扉の隙間から覗く暖かさに惹かれて開けて、そこで今まで一人で生きていた気になっていたが支えてくれた存在に気付き、幸せを感じる。これは、はやて、晴生、はやて父共に同じ問題だった。
一人で生きていけない事に真剣に向き合い、認めることで少しでも扉を開ける事が出来て、それが一番重要だと。そして心の棘は全部は抜けないけれど、その痛みを抱えながらでも前に進まなければならない。
立ち直った晴生は、死んでもなお導いてくれていた母の様に誰かの心を導いていける教師を目指す。
最後の幸せな風景は、全てを認め支え合っていかなければいけないという弱さがあるが、それを含めての美しさがあった。
・きなルート
一番生々しく、本人だけでは解決出来ないどうしようもない問題。
自分を卑下する防衛方法で、嫌われないように心の籠っていない謝罪の言葉を繰り返し、嫌われることに敏感。
恐らくイジメの前から人の感情に良い意味で敏感で、その後に自信の無さが加わってしまった。でも、人並み以上に努力家で真面目で心が強かった、だからこそイジメが始まっても毎日学校に登校していて親に心配をかけないようにしていた。学生にとって学校は何故か異常に特別な場所だが、自分だったら速攻で不登校になっていただろう。感情移入しすぎて、悲しいを通り越して殺意を抱くのを共感してしまった。
だけど、リコの様に自分を殺そうとせずに、歪んでしまっていたが確固たる自分を持っていたのは持ち前の心の強さ所以の様に思える。その歪みも、真面目さでこのままでは良くないと分かっていてだけど、何の為に生きているのか理由を持たなければ、心の重さに耐えられずに諦めてしまいそうになる為自分を騙していた。
確固たる生きる理由を、真面目で弱くなってしまった自分を立たせる為に求め続ける。
今回の晴生の場合は、復讐する人生から愛する人生へときなを導いた。
一つ気になる点としては、キナの大学の合否が不明瞭で、後日談もなんだか淡々としていたように感じて、諦めてしまっているように感じた。もちろんハッピーエンドの筈だから、今までのイチャイチャと比較して何気ない日常の朝というシーンだからこそ冷めているように感じたのかもしれないし、大人になって落ち着きを得たのかもしれないが、もし、大学に落ちて晴生が支えて立ち直らせたが、そこで心が折れてしまったのではないかと深読みしてしまう。もう少し、キナらしい笑顔を見せて欲しかった。
「生きていれば良い事があるかもしれないと希望を抱く事は悪い事じゃない。」この言葉に非常に心を動かされた。過去を顧みても未来もどうしようもない、また、希望を抱けるような努力もしていないじゃないかと諦めてしまっていたが、そこに理由を求めずに抱いて良いと認められた気がした。
・リコルート
愛のかたち。
綾子さんは一度は手放そうとしてけれど出来なかったリコの為に頑張って生きている。逃げ出したい時でもリコの事を想ってあと一歩、一歩と前に進める。その様は傍から見れば不格好で、リコにとっては痛ましくて、だからリコは自分が居なければ綾子さんは楽に歩ける様になると思い、自分を消す事を探す。
だけど、晴生から心は消せない事を教わる。この時の晴生は教師としてか、社会人としての動機か分からないが確かに引き留めた。直接の解決は親子二人で胸の内を明かし合い悔恨を無くす事だったのだろうが、晴生の言葉はリコに響いていた。
親子の繋がりが安心感を伴う強固なものになり、リコの為に自分の意見をハッキリ言えるようになり、またリコは我儘も言えるように、まだ少し変わっているが普通の親子より親しい親子になった。それを見て、晴生は羨ましさと妬みを抱いてしまう。そして、自分の中の親子像と目の前の理想の親子から目を逸らして、冷たい自分を作り出して弱い自分を消そうとした。だけど、助けられたリコがみつけてくれて逆に手を差し伸べて、受け止めてくれたから立ち直れた。どんな要求でも認めてくれて受け止めてくれる、そんな包容力がリコから感じられて、バブミというと簡単だが非常に深い愛情を感じた。
世界に自分しかいなければ分かり易いのかもしれないが、自分を見つける事は出来ない。別々の人間だからこそ相手を認識できてそこに感情が生まれる。いい方向に繋がらないかもしれないがそれでも世界は繋がっているほうが輝きや驚きを見つけれれて、生きている事を実感できるのかもしれない。ハヤテルートでも、人と繋がっているからこそ自分が確立されると言っていた。中々難しいけどね。
キャラクターが、非常に印象深い。
はやては、制服太腿素股は最強だった。はやてというキャラを完全に捉えていた。
きなの言葉のどもり方、切り方が完璧。擦れた声が唯のようだった。
りこは、今まで見た中で一番のバブミを感じた。主は子供なのだけれど、子供ながらの無償の愛情が心地よい。
綾子さんは、バッドエンドだが、親子丼ENDで晴生に対しても母親を見せてくれたのは良かった。ただ、リコの母親としてこれからどうなるのかの描写が欲しかった。
立ち絵の種類は少ないが、口パクは非常に面白い。少し動いているだけでもキャラが喋っているように感じられた。
エロシーンも、シナリオに力を入れていると思っていただけに動くと思わなかった。どれも完成度が高いが、特にリコのおまけの下から見上げるシーンで垂れてきた液体が溜まりになっているのは、拘りを感じた。
OP.ED.BGMは話題になっていたが、やはり素晴らしい。やっとFULL版が発売されたが、初回盤のCDを持っていても直ぐに予約するほどに聞き入ってしまう。
リコルートで言っていた、人の心の器は壺みたいなモノでそこに不幸や苦痛は石でできた状態で入り、幸せや喜びは水の状態で溜まっていく。
勢いよく不幸が壺に入ると壺を割ってしまう。そうしてまずは幸せから零れだして最後に不幸だけが残ってしまう。
そういう説明があったが、それに倣って説明すると、このゲームは壺の中の苦痛を取り除くことはできないが、今まで壺の上からのぞいていた不幸を裂けた隙間から見ることでまた違う一面もあるのだと気付かせてくれるゲームだった。
そう考えるとその傷も、あって良かったそう思える。プレイして良かった。