弓張り月に導かれ、ドラゴンと竜遣いは出会う―
◆概観
久々に他に何を差し置いてもプレイしたいぐらいのめり込んでた気がする作品。プレイ期間中はずっと少なくとも頭の片隅にはあった。
◆シナリオ・キャラクター
シナリオは禍の解決というよりは、竜使いとドラゴンの絆・つながりに重点が置かれていて(実際のところ、フレイアの禍はシナリオ中解決されず、ずっと付き合うことになるとの言及がある)、その観点から見るととても良い。
即ち、作中に登場する竜使いたちはそれぞれがそれぞれにパートナーとして互いに向きあう。幼竜から共に歩んできたフレイアとクロードは勿論ずっと作品の中心にいるが、ウィローとローリエ、ツーヤとマリン、ケイリーとシルヴィアの関係性についても十分な分量が割かれている。「空を仰ぎて雲たかく」からのプレイヤーとしてはツーヤには特に幸せになって欲しかったし、本作でマリンと出会えたことは、本当に心の底から祝福したいと思えるほどであった。指輪のシーンは涙なしで見られないよ。
しかし、敢えて難点を挙げるとすれば、フレイアの禍の話は、最初(幼竜期)は結構丁寧に描写されるのに、成竜になって以降、ほぼ触れられないまま、死竜病だ、祖竜だ、アリスだ、って流れてしまうのは、どうだろうか。禍の描写が乏しすぎて、最後に出てきたあたりで「そう言えばそんな設定があったような……」となってしまった。見方を変えれば、今後も覚悟を以て付き合っていかなければならないというのは、安易な奇跡で処理するより、遥かに重みのある事実とも受け止められるし、何より、ほんわかタイプのエンディングを考えると、恐らくそうするための意図的な方策だったのだろう。これらに加え、前述したように、絆に重きを置いたシナリオと受け止めたこともあって、この点については然程気にならない。
なお、「弓張月の導き雲はるか」というタイトルによく合致することを考えると、ほんわかタイプが正史となるのだろう。実は最後まで残していたルートだったので、「うわっそう来たか」と思った次第。ただし、個人的にはお嬢様タイプを推したい。相手に無茶振りを要求するのみならず、自分もそうした無茶振りに答えてくれるパートナーに見合う優れた人物にならんと努力する姿勢の高潔さには惚れ惚れとしてしまう。
◆戦闘システム
ADVシステムについてはいつものでぼの巣製作所のもので、ADVとして必要十分な機能が揃っているので、特に詳述しない。
戦闘システムは、基本的には「偽骸のアルルーナ」からダンジョン探索要素を取り除いたものとなる。即ち、攻撃目標を位置で指定し、攻撃により移動する敵の位置を想定しつつこちらの攻撃を加えることになる。ある種パズルと言ってもよかろう。アップデートによりノーダメージクリアも記録されるようになるので、こちらのチャレンジも楽しい。何より、連戦となる上に持って行けるアイテムの数が限定的なので、準備を入念に行い、常に最も効率のよい敵の処理法を考える必要がある点で、緊張感のあるシステム設計であると言えよう。
こうしたパズルチックな要素を楽しいと思えるなら、最初から最後まで倦むことなくクリアできるだろう。実際私は楽しいなあと思いながら最後まで出来た。勿論最初は結構苦戦するのだが、そのうちなれてくる。
しかし、スキルポイントを上限まで確保しても全部のスキルを上限まで引き上げられないのはどうだろうか?実際的には絆スキルはあまり使わないこともあるし、SPの再割り振りもできるから、間違えたとしても然程の問題とはならないが。
さらに、戦闘の長さに対して、絆スキルの発動に必要なポイントのたまりかたが悪いので、絆スキルを殆ど使わないまま最後まで行ってしまった。200%を必要とする絆スキル(ドラゴン化するもの)を習得したときには、もう通常攻撃で十分に一戦闘を終結させられるほどになってしまっていて、このあたりは若干アンバランスさを感じたところ。
◆最後に
「空を仰ぎて雲たかく」からのプレイヤーに限らず、ゆいにゃん演じるキャラクターが好きなら、間違いなくプレイして欲しい1本だし、そうでなくとも、ヒロインと共に歩み、ヒロインを取り巻くキャラクターの歩みを強く実感できる本作は、前述したような若干の難点があるにしても、十二分に面白く、やりがいのある作品ではないかと思う次第である。
さて、最後に。
プレイして、クリアしたときにエンディングムービーが流れる。ゆいにゃんの歌うTreasuresの間奏で、それまでのCG表示が一旦止んで、朝焼けの中に弓張月が映し出され、幾条かの流れ星が流れる。それにあわせて、ドラゴンと竜使いが順繰りに登場する。そして、エンディングムービーの最後には、バースンで見た雲海を眺めるフレイアとクロード。このムービーを見ただけで色々想い出が蘇ってくる。本当に素敵な作品だったと思う。このシーンを最後に書き留めて、このレビューの締めとしたい。