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walnutさんの車輪の国、向日葵の少女の長文感想

ユーザー
walnut
ゲーム
車輪の国、向日葵の少女
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
75
参照数
286

一言コメント

哲人国家を形にするために歪んだ形となった国で、主人公が人間らしさについて考え、ヒロインたちが地に足がついた人となる物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初のるーすぼーい作品。車輪は叙述トリックがすごいと聞いていた。実際に叙述トリックはすごかった。この叙述トリックを土台にして、終章への入りを盛り上がりを演出したのは本当にすごかった。ただ、そこが作品のピークになってしまったようにも感じる。

この作品が話題に上がることは多く、「国のあり方を問う作品」という評判が多かったが、私にとっては人が人を支配し歪める国で、どのように人間らしさを獲得するか、という話のように思えた。というのも、ヒロインたちは罪を犯した故に人によって支配される存在となり、その更生が人(特別高等人)に委ねられてしまったのだ。その更生の仕方は必ずしも真の更生を目指したものではなく、格差の再生産を生み出すような仕組みのものだった。そのような圧力の中、人が人を支配し、支配される側は人らしさを奪われているなか、どのようにその人らしさを取り戻していくかが、更生および主人公がヒロインと共に成し遂げる課題となっている。

《さち》
最初に更生の対象となるさちは1日の時間が半分になる子だ。薬を飲んで体を半日眠らせる。ただ眠るのではなく、その間は悪夢を見せられたり、けっして疲れが回復するような睡眠ではない。残った半日の中で再び睡眠を取らなければならない。
何度も何度も楽をしようとする彼女が、ついに楽をしないで努力するという展開は、自分のことを見ているようで胸が痛かった。私も時間を無駄にし続けているから、思うところがいろいろあった。
ヒロインとしてはかわいいよりむしろ苛つかせるという感じだったが、そのストレスをバネに良い終わりがあった。

《灯花》
大人になれない義務の少女。母親がいて、その母親の言うことを聞かないといけない。
この章でしんどいのは、灯花もその母親も最悪な子供らしさで、ずっとイライラさせられるところだ。
母親は実は義理の花で、真の夫婦がいる。その真の夫婦のもとに灯花が引き取られるかどうかが話が揺れるポイントになる。
終わり方は、灯花が義理の母親のもとに残ると決めたが、義理の母親が真の夫婦のもとに行けというのを、健気さでうちくだくというもの。子供らしさを押し出したような章で好きになれなかった。

《夏咲》
暗い子。異性との接触が禁じられている子。で、主人公と幼馴染みで、唯一主人公のことを信じている子。過去あった事件のせいで引っ込み思案な性格になってしまった。
主人公に好意を持っているが、義務を解消するには恋しないことが大事な焦点となるため、どうしようもない状況に立たされてしまうという風。
しかし、主人公が必死に夏咲と仲良くなろうとして、段々心を開いていく。しかし、夏咲がどうしようもなくなってしまい、主人公がそれを止めようと身体接触をしてしまう。が、夏咲が意志を見せつけて自分の罪だと言い張ることでh主人公を助ける。
もっとも健気とも言える子で、一番好きになれた子でした。立場的にも正妻ポジに近かったなと。

《お姉ちゃん》
過去回想でめちゃくちゃSっ気を発揮して恐怖したものだが、いざ登場して主人公とコミカルな会話をしてみると可愛げのあるヒロインだなと。夏咲と同じくらい好きなヒロイン。
革命に失敗した父に代わって、再び国に革命を起こそうとするヒロインであった。かわいいよりむしろ、おちゃめだけどかっこいいという二面性が良かったヒロインだったかなぁ。

《その他》
この作品でよく話題に上がる存在、とっつぁんこと法月将臣。彼は主人公に対して父であり、同時に悪役でもある。冗談が冗談に聞こえないほどの固い雰囲気と、イケボと、正論でぶん殴る姿があってこそ、車輪という作品がよくできたモノに感じる。とっつぁんは作品において、それこそ正しくあろうと努力する正の姿と、その歪んだ正しさで暴力的にあんる負の姿を同時に演出し、車輪のように作品を回していく。車輪の国を象徴する存在であり、向日葵の少女たるヒロインたちと対比される、印象的な悪役だった