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walnutさんのイハナシの魔女の長文感想

ユーザー
walnut
ゲーム
イハナシの魔女
ブランド
フラガリア
得点
75
参照数
271

一言コメント

いろいろな要素を取り込み、考察の余事などを残しつつもなお、人間に焦点を当てた物語を編んでくれた。温かい作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

突如主人公は家を追い出されて沖縄へ引っ越すことに。引っ越し先にいるはずの祖父は不在。どうしようもなくてあたふたしてたらリルゥという美少女と出会い、共に生活することに。という内容。
最初のうちはテンポがいい会話に惹かれて楽しい。そのまま読み進めていくと、民間伝承要素が顔を出し始め、伏線あ張られていく。気になってぐいぐい読まされる。そして終盤になってくるとセカイ系を思い出す展開に。最終的には夢の世界でいろいろあって解決するという感じ。EXTRAに考察とか、舞台背景設定とかが収められている。それを読むとなおも楽しい。

《プロローグ》
リルゥなる褐色美少女と出会い、犯罪すれすれに生活が始まる。リルゥの魔法要素が便利そうでうらやましかった。ムフフな展開になりそうでならないバランス感覚がうまく、コメディ調でテンポよく導入される。ちょうどいい辺りで話が次に行く。

《アカリ》
選択肢が出てくるから分岐するかと思った。実質一択だった。アカリ編へ。
アカリの印象はうざかわいい。ボケまくる。そこに主人公の光くんがツッコむ。アカリは声優になりたくて、オーディションを受けている。最終選考のために東京に行かなければならないが、親に黙ってオーディションを受けているため自力で口実を作って行かないとならない。なので地元ののど自慢大会で優勝してディズニーランドに行く権利を獲得して行きたいらしい。
普段から自信の高い彼女だが、実際は本番に弱いらしい。ちょっとギャップがある。
そこで表れる民間伝承要素。
アカリは名家の生まれなので、ちょっとした祭事に巻き込まれてしまう。どうやら祝女にならないといけないらしい。そのための身代わりにリルゥがなる。キリコっていうライバルの金髪ロールがハゲになってるのもビックリ。
あとはアカリが光を媒介に親に思いを打ち明けて仲直りする。そして声優事務所に所属できることに。

《ツムギ》
サンプルCGに写っているビールを飲んだくれる女さん。保険販売員編って言ってるけど、保険販売員だったのは序盤だけだった。あとはめっちゃ頭のおかしい女さんだった。自己啓発本からの引用をノートにまとめて、それにのみ従って生きる狂気。問題は、そのノートのためだけの狂いならいいのに、あきらかに根本から狂ってるところだ。ガラスを綺麗にするのにクレンザーは使わないよ。サーフボードを正拳突きで叩き割らないよ。
そんなキャラクターになってしまった背景に、祖母の姿がある。そんな祖母のためにお金を稼ごうというので失敗してしまったのが大きな原因。そんなツムギがリルゥの魔法によって祖母の霊と会話して立ち直るという展開はとてもよかった。

《リルゥ》
作品の根幹部分にて本質だった。メインヒロイン。
彼女が異世界の神様の器にならなければならないこと、その過程にあるために徐々に身体が弱っていってることが話の筋にあたる。そういった過程でリルゥはいつも強くありつづけた。主人公の光はどうにも踏ん切りが付かなくてヘタレっぷりを見せていた。
でも、そんな光とリルゥが閉じ込められた末に、ついに光がリルゥを求めるシーンは良かったなぁ……
動けない光と守られるリルゥを、超越的な存在と大人の事情が襲う。そうして引き裂かれてしまう2人。
そんな2人をもう一度引き合わせようと、男友達、アカリ、キリコが大人の事情担当こと地元の名士に立ち向かう展開はジーンと来た。
そして夢の世界でリルゥと再会しようとする主人公。しかし生と死の境目が立ちはだかる。色んな人の力を借りて、その境目の壁を打ち破り、呪いを解放して終わる。最後にはしっかりリルゥを笑顔にしてくれた。

《その他》
背景設定の資料集、真相編はやっぱり読んでて面白かった。これを本編に組込むと話が錯綜すると判断して、こういう風におまけに入れた作者の英断が光る。
決断できないキャラたちにリルゥが「あなたは何をしたいの」と問いを突き付けていく。テーマは「人生観」らしい。その決定に、変わっていく人生観が描かれているのかもしれない。