コズミックホラーと火の鳥未来編を組み合わせた上で、ライター自身の味付けがしっかりまぶされた驚異の作品。純愛を浮き彫りにしていくグロテスクなシナリオは唯一無二。
喋る肉塊や内蔵の内側を思わせる背景などのグロテスクなイラストばかりが喧伝されがちな印象である。これは本作の宣伝がニトロプラスが普段と趣向を変えて純愛を描くというものだったからこそ、裏切られたという衝撃を与えられたからだろう。もちろん、そういうグロさをしっかりと演出している点や、中央東口氏のリアルなイラストによってしっかり支えられているからこそだ。そういうインパクトをしっかりと演出できているのを乗り越えた上でさまざまなことを言えてしまう作品である。
特に沙耶が主人公に寄せる感情と反対に主人公が沙耶にぶつける想いも純愛であると言わざるをえない。これほどまでに純愛を丁寧に描けている作品は類を見ないほどだ。
火の鳥未来編要素……重体となった主人公が治療を受けたら、見える世界が一変し、グロテスクなものになっていた。見える人の姿が肉塊にしか見えなかったのだが、ある日出会った沙耶という少女だけは人の姿に見えた。その沙耶と、化け物に満ちた醜い世界を主人公はどう生きるかという話。世界から疎外されている主人公がどれほど沙耶という少女を希望に思っているか、それが純愛になっていく。
沙耶という少女は外宇宙から来た名状しがたき者でもある。ここら辺がコズミックホラー要素。沙耶が人を襲う場面は怖い。思っていたよりも怖くて、「うわっ普通に怖いじゃん」とびっくりした。
この作品を特徴づけるのは3つのエンドだが、そのうち2つにだけ注目すればよい。
ひとつは病院エンド。主人公が沙耶と別れてしまう終わりだ。これは明確なバッドエンドだが、別れてしまうのは、主人公が望んだために沙耶が主人公が見える世界を元に戻してしまうからだ。沙耶は元の世界では名状しがたき姿に見える。そんな醜い姿を主人公に晒せないと沙耶は主人公に「あいしている」と伝えて去ってしまう。この終わり方、寂しさ、そして短いながらもほとばしる愛情は虚淵らしい徹底して残酷な終わり方で涙を誘う。
もうひとつは世界滅亡エンド。ただ、この終わり方は周囲が敵意を向けてくる世界で主人公と沙耶が戦い抜いた終わりだ。沙耶は世界を主人公がキレイに過ごせるように作り変えるやり方でプレゼントを送る。沙耶が孵化する姿が美しく、エクスタシーすら感じる。ハッピーエンドであるが、主人公は沙耶を失ってしまうのがなんともいえない味がする。
もっとも好きな終わり方はやはり病院エンドだろう。沙耶の愛情がもっともよく描かれているからだ。