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walnutさんの空に刻んだパラレログラムの長文感想

ユーザー
walnut
ゲーム
空に刻んだパラレログラム
ブランド
ウグイスカグラ
得点
80
参照数
209

一言コメント

さまざまなところで惜しい。下剋上を描く作品として保たれていたのは共通までだろう。葛藤を抉り出す心理描写がいい。ウグイスカグラ作品ではやはり異端だろう。伏線回収を見たかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品がウグイスカグラ作品で遊んでいない最後の1作だった。冥契のルペルカリアで惹かれてからひたすらに追いかけていた。ルクルの心理描写はやはり卓越している。
今作ではそのルクルの能力とブランドの持っている、シナリオ以外の能力が釣り合っていないのが明らかにされた。ブランドの持つ力が明らかに不足している。特に演出面が足りていない。

空のスポーツ「テレプシコーラ」が題材である。作品内の比喩を用いれば、「テレプシコーラ」とは飛ぶバスケらしい。3人の選手がヘイローという特殊なボールを奪い合い、点を取り合う。そのためキャラクターたちは縦横無尽に空を駆け巡り、駆け引きする。それをわかりやすく伝えるにはテキストだけでは足りない。視覚的にCGなどを用いて教えて欲しいところだ。その技術が明らかに足りていない。

共通まで
第二という過酷な環境の中で苦しみながらも空を目指す学生たち。第一の人にいじめられても明るく頑張ろうという具合だ。屈辱に塗れながらも空を目指す。
そういった中で主人公やヒロインの柚たちは努力して第一の人たちに噛みついていく。華々しい「ダンスマカブル」のステージを夢見て。

主人公たちの学園にあるテレプシコーラ部は、第一と第二別れている。優秀な人が第一で、落ちこぼれが第二。第二の人は蔑まれることで第一の人にプライドを高め、努力させようとする。この構造は『暗殺教室』のE組の構造と同じだろう。

本作は空のスポーツという点で、『蒼の彼方のフォーリズム』と似ている。それだけでなく、センターヒロインの柚が赤髪であるという点でも似通っている。
センターの柚は明日香であり、ほたるという青髪のヒロインはみさきと言えるだろう。ヒロインの属性こそ違えど、試合における立ち位置には近い所にある。
以上の理由から、本作が「あおかな」のパクリゲーと言われるのには一定の理解がある。

しかしながら、「あおかな」はある程度才能がある人間を描き、凡人に関してはある程度の諦めがあった。「ぱられろ」は凡人たちが努力して成り上がろうとする話である。苦しみながらも、顔を上げて頑張ろうという感じだ。
劣悪な環境の中でも希望を見失わないで、ひたむきに努力し続ける。

一方で天才たちはどうだろうか。別に天才でなくてもいい。ある程度の才能があり、評価されている者たちだ。
こういった人たちはもっと努力しているだろう。しかもより効率良く、だ。

差が埋まることはなかなかない。悲しい話だ。

やめてしまいたくもなるが、空を飛ぶという夢は諦められない。そういった葛藤がつぶさに描かれていく。そこがこの作品の魅力だろう。


そういった中で、第二の人たちは第二の中で切磋琢磨していく。

主人公はかつては有力な選手であったが、今は身体の怪我でもう空を飛べない。選手生命を絶たれてしまった。「あおかな」の主人公がトラウマで飛ばなくなったのとは対比的だ。飛びたいのに飛べない。だから今彼は、人を教えるのを覚えた。有望な監督になろうとしている。学園を休学していたが、復学する。復学したら、第一でマネージャーの立ち位置につき、教える立場に就くことになっていた。が、ヒロインたち(特に柚)を指導するために第二に落とされた。

さてヒロインたち。
柚は転入生。どんなに自分が敵わないと知っても、頑張り続ける人だ。しかし、頑張りすぎである。若干アスペ気味だ。でも頑張り続けていき、ときに光を掴む。
理亜は飛ぶのに必要な力がとても少ない子だ。どうにもならないので、飛ぶ効率をよくしようと、体を鍛えたりする。
ここまでが最初から第二にいるヒロインたち。
玻璃は主人公の妹。努力して中等部ではもっとも強かったらしい。高等部でも活躍を嘱望されていたが、しかし彼女は主人公と一緒に頑張りたくて第一にきた。クソガキである。
ほたるは天才肌だ。しかし真の天才にはまったくなれない。すぐに頭打ちになってしまう。途中から第一をやめて第二にくる。かわいそうであるが、仕方がない。


共通部分の話は、そういった環境の中で、第二の人たちでトーナメントをする話が主軸だ。夢のステージに立つために、仲間たちを蹴落としていかないといけない。そういった中で、勝ちたい思いをぶつけていく。より思いが弱い方が負けるとかそういう話にはならない。どれだけのことがあろうと強い方が勝ってしまう。

そうして第二の中で優勝するまでの話が共通だ。

選択肢が出てくる。夢を目指す気持ちはどれだけ本気なのか。楽しければそれでいいなら個別入り、本気でいくならトゥルーエンドへ。
個別に関してはあまり述べることがない。短い上にヒロインとイチャイチャするのが主だった内容だからだ。

トゥルーエンドは第一の人たちとの勝負が主軸だ。
ここまでくると、下克上の話が真に迫ってくるとなるだろう。いや、実際はそうはならなかった。
第一の人たちとの戦いはヒロイン4人でということだ。しかし、上で述べたように、玻璃とほたるはそもそも第一級の戦力である。どうにかなってしまって当然ではないだろうか。
個人的には、堺率いるエアロパーツ戦がいまいち納得いってない。もっと何かあってもよかったのではないだろうか。
そういうこともあり、共通が終わった後はインパクトに欠ける。

キャラクターに関して。
主人公、いる? いらない。不必要だ。監督という立場に必然性がない。監督のような立ち位置にくるのはサブキャラで良かった。話の中で、試合などで見る関係性の中で、主人公の立場はどうにも弱い。もっと作品の最深部にまで関わってほしかった。

紅という主人公の過去の女が最高にかわいかった。しかし既に亡くなっている。それが痛々しくて、泣けてくる。どうにもならん。
境さんは最強の人だ。そして紅にも因縁がある。

もっと主人公と紅と境の関係性を深掘りして見てみたかった。


色々な意味でウグイスカグラらしくない作品だった。そして惜しい作品だ。もっとかゆいところに手が伸びない。