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walnutさんのBLACK SHEEP TOWNの長文感想

ユーザー
walnut
ゲーム
BLACK SHEEP TOWN
ブランド
BA-KU
得点
90
参照数
550

一言コメント

気高い黒い羊たちの街Y地区が舞台の群像劇。ダークな雰囲気と残酷な展開が魅力です。多くの味があるキャラクターたちにとても惹かれました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

日本にある仮想の都市Y地区が舞台。そこはYSという大きなギャングが支配している。
そこを舞台に大別して3つの人物が作品の渦中にいる。1つはYSの若頭である謝亮。次に連続殺人事件を犯人コシチェイ。最後にコシチェイを追う探偵路地邦昭。
次に大きな要素として特殊体質がある。超能力を使えるAタイプ、精神的なハンデを負うが肉体が強くなるBタイプ、最後にBタイプをより強化したような不死身の特殊Bタイプ。
このような複数の陣営と色んな特殊体質が入り乱れて多種多様な人間が出てくる。

読み始めて最初のうちは、増え続けていくキャラクターと特殊体質に混乱して読むのがとても大変だ。瀬戸口の文章は読み易いが、それがあっても少し読みにくかった。しかし、人物と設定が頭に入ってくるころにはイベントが起き始め、先が気になって読む手が止まらなくなる。

アングラな作品はもとから好きなので、Y地区の雰囲気をあびる浴びるだけで気持ちよくなれた。更に、ギャングの内部抗争(粛清)が1つの物語になる。残酷な展開が続き、しんどい気持ちになる。過酷な状況に置かれたキャラたちがとつとつと死生観を語り始めたりするのがまた良いんだ。

キャラの数だけ物語があるといっても良いほどで、しかし物語たちは互いに交わりあっている。複雑だが、段々とキャラたちの行動が重なりあっていく。また、ときどき挟まれる過去編が伏線回収を果たしたりもして、一定のカタルシスを得られた。

しかしながら、不満もいくつかある。特に終盤で大きなカタルシスがあると思っていた。意外にも事件や困難は静かに解消されていった。とくにYSの対立していた八龍会との抗争が大きな戦闘なく終わってしまったのは肩透かしだった。でも、その終わり方もこの作品らしいと感じた。謝亮の物語は、過去編で描かれる父クリスの物語と対比的かもしれない。父クリスが1つの組織を潰すのには大きなイベントがあったが、謝亮にはなかった。そういうものだ。

お気に入りのキャラクターもたくさんできた。主役の一人謝亮。謝明の懐刀となる馬世傑。暴れまわり場を掻き乱した灰上姉妹。灰上姉妹は江梨子が特殊化して一人称が変わったりするのが良かった。怖いじいちゃんかと思ったら、人の気持ちを誰よりも見てしまう人情溢れる太刀川医師、あるいは「ドクター」。特殊Bタイプの代表のようで、亮の妹みたいな汐松子。蕎麦屋の娘だが、空を飛ぶ能力とかいろいろあった結果YSの人たちに巻き込まれていく熨田さくら。最初のうちは妖艶で受け付けられなかったミス・ホワイトは、アサヒであり、ベルーハであった過去が明かにされて一気に好きになった。返し切れない恩といつまでも過去に囚われて、手に入りきらないのに努力をする彼女はとてもよかった。まさか好きになると思わなかったキャラに内田広美がいる。彼女はBタイプでそのために精神科にいれられていた。が、Bタイプを解放する集団により治療されて正気に戻ってしまう。そして忘れていたかったことを思い出し、自身を正気に戻したやつらに復讐をする。たまたま軍人が助けてくれたために復讐が成功する。軍人は人を殺してしますとすべてのものが無価値になってしまうと言う。それを聞いてもなお復讐を成し遂げた彼女は人の命の価値がわからなくなる無価値な世界に足を踏み入れた。最終的に内田広美は助けてくれた軍人とタッグを組んで、ゲリラ的に活動する犯罪者になる。師弟タッグになっていくその過程とかもろもろに、成長していく前後を見ると感慨に耽ってしまう。最後に謝亮を殺したのは彼女かもしれないってのも中々に感じ入るものがある。

最終的に殺されてしまった謝亮だが、ベルーハにより不死身となって甦った。文字通り第二の人生を菅原亮として送ることになるってオチが、おなじく甦った汐松子と共に演出される。長い物語が終わったのを告げる。
ここで亮が復活するのはちょっとびっくりした。亮は父クリスと同じように一度切りの人生を大事に考えていたからこそ、安らかに眠らしてほしかったと思った。

群像劇としてとても質が高く、魅力的なキャラクターが多かったのでとても満足した。もっとY地区の空気を味わいたかった。