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wakaepicさんの俺たちに翼はないの長文感想

ユーザー
wakaepic
ゲーム
俺たちに翼はない
ブランド
Navel
得点
100
参照数
210

一言コメント

息苦しさを感じる貴方に捧げたい名作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品の特徴として、世間では所謂「浮いている人」ばかり登場するが、その造詣がとにかく深くて驚いた。
大幅にデフォルメされているとはいえ、本作の登場人物でも、大半のはぐれ属性を網羅できるではないかと思ってしまう。
集団に馴染めず日々の生活に息苦しさを感じながらも、それぞれの居場所を見つけて、懸命に足掻くキャラクター達が尊くて心がうたれた。

主人公は解離性同一性障害という重いテーマながらも、暗い雰囲気は少なく、終始コミカルな調子で進む。しかし決して病気をおちょくっている所はないので、気持ちよくプレイできた。
最終的にバラバラの人格が、各々の経験を経て、小鳩√にて統合される構成は素晴らしい。その統合後の鷹志の話が一番笑える点も驚き。元の人格が1/5になる訳で、小鳩以外のヒロインには悲しい展開が待ち受けるかと思っていた。しかし、最初は戸惑いつつも、最終的には良い形におさまってしまう。ライターの力量に恐れ入る。

プレイヤー自身が人格のひとつとして見守っていく点も面白い。主人公の人格分離はノベルゲーだからこそ輝くシステムだと思う。渋谷という大都市を舞台にしているからこそ、交代システムが機能している点も見事。都会の喧騒の中から、はぐれ者たちが出会うエモが味わえる。OPの映像も都会で足搔く雰囲気が表現されていて好き。

また、主人公は最終的に翼を得て、心地よい居場所から卒業していくが「自分の中に閉じこもるのは、逃避じゃなく探索」というセリフがあるように、逃避期間を否定している訳ではない点も好感がもてる。

キャラクター同士の関係性も素晴らしい。大きな出来事があってガラリと変わる訳ではなく、基本的には掛け合いや小さな体験を通じて、じわじわとつめていく方式。よって面白くなるまで、時間がかかるタイプの作品と言える。噛めば噛むほどわかる味わい深さが増す作風。

ヒロインの中では、明日香が印象的だった。今でも珍しいタイプの拗らせたクーデレで完成度が高い。CVも最高にハマっている。
そして妹ゲー好きとして、やはり小鳩は外せない。すぐ恋人にならない主人公の決断は誠実で好感がもてる。
また、鷹志×森里、伽楼羅×翔と言った男キャラ同士のカップリングも熱い。とくに翔は仲間内では姫と呼ばれていたり、本人のキャラ性も含め、裏ヒロインといえるキャラクターになっている。最初は伽楼羅だけ、ヒロイン不在なのかと思っていたが、まさかお前だったとは…最高の展開だ。

『俺たちに翼はない』というタイトルは秀逸としか言いようがなく、内容にこれ以上なく沿っている。日々の生活に息苦しさを感じている(いた)人には深く刺さるであろう名作。それだけに万人受けはしない作風かもしれない。

コーダインが攻略できない点が惜しいので、次回プレイする際はPS3版をプレイしてみようと思う。