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ubuさんの家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)の長文感想

ユーザー
ubu
ゲーム
家族計画 ~絆箱~(家族計画 ~追憶~)
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
90
参照数
360

一言コメント

笑って泣ける万人受け作品に見せかけて、実際は特定の個人にぶっ刺さる系だと思われる。おバカで楽しい日常の影で、常に寂しさと不安に怯えてる。でもちょっと期待もしちゃう。そういうどうしようもなさとか、もどかしさが至る所に滲み出てて、沁みる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

末莉√で出てきた、「相手の好意を曲解する中国人」の話。
あれ、個人的にはまったく他人ごとじゃなかったんですよね。
本来なら「最低だなそいつら」くらい言えなきゃいけないところなんだろうけど、でも実際そういう、好意を素直に受け取れない、無駄に裏を読もうとしちゃうこと、あるよなと。
あんまり親しくない人と話をする時、「この人俺と話しててもつまんないだろうなー」とか、「なんか気使って話してくれてるなー」とか考えるけど、それに近いものを感じる。
実際に彼らのような境遇に置かれたことがあるわけではないし、軽々しく「分かる」とか言えないけど。
でも根っこの部分は同じじゃないかなぁと。
相手に不満があるわけじゃなくて、自分自身がまず信用できない。
だからそんな自分に優しくしようとする相手も信用できない。
すごい自己中心的で迷惑な考え方だけど、でも弱い人間ってみんなそんなもんだよな、とも思う。

で、それは司にも当てはまる。
なんだかんだ言いながら、疑似家族が崩壊しないよう奔走しちゃうあたりに、弱さが滲み出てる。
まあ設定勝ちというか、主人公として当然の行動が、初期設定のおかげでそれっぽく見えるって部分もあるかもしれないけど。
それを差し引いても、彼の言動がこの作品の中では最もリアルに感じられた。
だから一番印象的だったのも、各ヒロイン√ではなくて”家族計画解散の日”での彼の言動。
裏切られるのが嫌だから一人でいたんだって、弱さを見せちゃう場面。

劉楓がわざわざあんなタイミング中国人の話をしたのは、以前の司に重なる部分を感じていたからだと思うんだけど。
彼が言っていた通り、それは寂しさの裏返しなわけで。
そんな器用な人間たちが"疑似家族"なんて形成したところで、そりゃうまくいくわけないよなと。
契約だなんて割り切れないからね。
家族にいい思い出が無い人間ほど、やっぱり幻想を抱いちゃう。
本物の家族はもっと温かいはずだって。
人間だって捨てたもんじゃないはずだって。
そういう幻想を抱き続けていたいから、裏切られたくないから、逆に人を遠ざける。

実際はそこまで綺麗ものでもないというか、貸し借りがどうとか、そういうめんどくさいことを考えなくていい程度のものだと思うし、本人達もわかってるはずなんですけどね。


……でまぁそういうこじらせた人間って、すげーちょろい人間でもあると思うんですよ。
ヒロイン勢だと真純が一番象徴的なんですけど、やっぱ必要だって言われたら嬉しくなっちゃう。自分が損するってわかっていても。
お金が絡むとさすがに躊躇うだろうけど。
多少の損失なら、気持ちが満たされる分でプラマイゼロ。むしろプラスなくらい。
「人ためにやったんだ」って気持ちでめちゃくちゃポジティブになれる。ちょろいから。


そんな痛々しい人間達が必死にもがいてる姿には、感動せずにはいられなかったわけですよ。
準√終盤とか、上手くいきすぎじゃね?って気もしなくはないけど。
でもこじらせた人間なんて意外とあんなもん。
気の持ちよう一つで、あっさり変われちゃったりする。

気の置けない、いちいち行動の裏を読む必要の無い関係性を家族と呼べるならですけどね。
少なくとも準にとっては、高屋敷家はそういう場所になってた。
よくいう「血の繋がりだけが家族じゃない」みたいなのも、奇麗事にしか聞こえないかもしれないけど。
でもあの瞬間、肉親よりも司たちのほうが、準にとっては家族と呼ぶにふさわしい存在だったことは間違いない。

というかそもそも"家族"って言葉にそこまで意味を求めてない気がする。
「やっぱり家族はいいなぁ」とか「なんだかんだ言っても他人は必要だよな」とか「結局は傷の舐め合いにしかならないよね」とか、受け取り方は様々だろうけど。
あんま押し付けがましくないというか、結局は人間関係の一つ、くらいの雰囲気。
そのへんがこう、「血が繋がってるから何……?」とか野暮なことを考えちゃうイタい自分でも受け入れやすかった。
普通に考えれば結婚は幸せなことだろうし、家族が大切なんてのは当然のことで。
それを素直に受け入れられない自分のほうが歪んでるって、その自覚はあるけど。
自分はクズだなと思いつつも、それでもやっぱり変だと思わずにはいられない。
フィクションだとわかっていても、人間関係を軽々しく扱う作品は受け付けない。

そういうどーしようもない人間でも、生きていくことしかできないような人間でも素直に泣けちゃう、とんでもない作品。

まあずるいところもあるけどね。
演技をしたまま分かれる準とか、寛の「私がもっとも信頼できるところに預けようではないか」とか。
そら感動するわなっていう。