「そうです。ロリコンです! えぇ、ロリコン上等です。 むしろ幼女が好きで何が悪いんでしょうか? 幼女なのに好きなんじゃない。幼女だから好きなんですもん」
この作品は、愛する者を喪い、失うことを恐れるようになった主人公が、それでもまた人を愛することができるようになるまでの物語。
だからルート分岐は途中下車式で、ヒロインが定まった時点で本筋から離れてエピローグを紡ぐのみ。またその順番も面白い。この作品の推奨攻略順はパッケージを見た通り、2章から分岐する晶、3章で分岐するひな、4章で分岐する遊離、そしてメインヒロインの姫風露だ。
私はロリコンなのでひなを目的にこの作品に手を付けた。そして作品を十全に楽しむには攻略サイトに頼らず思うままプレイするのが一番という主義なので、選択肢ごとにセーブをとりつつ最初はひなから攻略した。続いて遊離、姫風露と進み、最終章が開放され、晶を攻略していないことに気が付いた。なんと驚くべきことに2章から分岐するのだ。
以下ネタバレ感想
確かに晶レッドはいい台詞も多いが、それと同時に危険に生徒を巻き込み、協力する以外に選択肢はないと深みに引きずり込む悪い大人だ。正義の味方かつ教師でもある大人ならば、危険に巻き込まれた生徒がそれ以上深みにはまらないよう護るべきではないか。まあヒロインである以上は対等な関係を築かなければならないのもわかるが、それでも晶に好感を持つことはできなかった。そこにルート分岐の選択肢が姫風露の理解を得ずに晶の元へ駆けつけるだ。ありえない。姉を喪った悲しみを癒やされ2年の時を家族として過ごした姫風露を蔑ろにするなどありえないのだ。気持ちよく晶から攻略に入れない点は減点せざるをえない。ここは残念な点だった。
さて、ひなホワイトの話。エロ担当でおにいちゃんの精液で真っ白なホワイト(大嘘)
まあ私の趣味的には間違いでもないのだが。生まれが良家のご落胤かつ病弱で医学の発展のためのモルモットに供された自称いらない子である。そんな「かわいそうな子」なひなに『カラマーゾフの兄弟』を贈り、さらには唯一の依存先でありながらひなを置き去りにした鬼畜はやはり好きになれない。正直ひなが自殺しなくてよかったと思ったぐらいだ。
そしてひなは治療のため身体のほとんどを義体に替えており、その継ぎ目、また自分の本当の身体でないこととコンプレックスを多く抱える。そんなひなに普通の女の子のように夢を持ってほしいと「普通」を求めてしまったことが問題の始まり。
普通の女の子を目指し正伍と付き合い、いざ性交渉…を前に意識に上るコンプレックス。
こんな身体でおにいちゃんに嫌われたくない。両親にいらない子として扱われ、唯一の支えだった晶さんには置いていかれたひなの胸中はいかなるものか。いかに寿命を天秤にのせたとして、その程度の悩みと切り捨てることなどできようはずもない。彼女にとってはなにもかもが初めての未知なのだ。ずっと病院のベッドの上で本で読んだ物語と晶さんの話が彼女の世界の全て。理想的な「普通の男女の恋愛」という夢に溺死したとして責めることはできない。だからこそ説得ではなく、体験させるしかなかった。
なのでストーリーに関して不満はない。しかし4章で浴衣の話題を出すのならひなにも浴衣を用意してエロシーンもつくってほしかった。つまりエロシーンが足りない。
遊離ブラック。敵か味方かという感じの小悪魔系ツンデレキャラ。めんどくさかわいい。初見は優灯だろうと考え、ついでDCの正体だろうとシナリオにまんまと思考誘導されてしまった。とはいえさすがに2章、3章と遊離との付き合いが深まると4章以降は騙されることもなくなる。そうなると正伍とプレイヤーの間で認識の差が広がり、主人公に共感できなくなり、この主人公成長しないなあと冷めた目で見るようになってしまったのは残念なところ。そんな主人公にも尽くしてくれるマジいい女の遊離。
4章はまさしく遊離の独壇場で、この流れで遊離を友だちとしか見てないとかありえないだろうと思いつつも姫風露ルートに進むためにはそうせざるをえない鬼畜選択肢。最終章の姫風露と同じく自己犠牲により正伍と姫風露の未来を照らそうとしてくれるが、なにが凄いかってそのやり方。姫風露の代わりに正伍を護ることで自分がオートマタの下位互換たる旧世代ではないのだと証明し、失敗し死んでも優灯と同じく正伍の聖域に入れる。そして姫風露にかけた呪いがクロスリンクをただの手段から男女の営みを意識させる儀式に変える。自己犠牲がただ相手のためだけでなく、自分自身の勝利条件にもなりうると証明してみせた。ただ自分に優灯を上書きしようとした姫風露とは格が違うと言わざるをえない。そしてこの台詞。
「報われなくたって構わない。私は無様に惨めに誰にも知られずに、
だけど笑って死んでやる」
それはエリーゼや散桜花にできなかったこと。この時本当にオートマタの下位互換でない、エディテッドの、遊離の生き様を見た。本当に遊離はかっこいいし、かわいいし、いい女としか言いようがない。序盤に姉コスでHしてくれないかなーとか下衆な考えを持ってた自分を恥じるばかり。
そんな彼女の個別はチェスがおおいに関わってくるわけだが、チェスのルールを知らない私でも、全部読んだあとは正伍のやったことがわかってとても感心した。とにかく遊離は可愛い。
姫風露ピンク。ラストでロリボディになって後日談なし!?と思いきやアペンドファイルでロリボディHシーン追加。やったぜ。細かく語るまでもなくかわいい。
で本題。この作品の本質、テーマ…
「知性があろうとオートマタは人間ではない、本当にそうか?」
人間離れした身体能力を持つ晶、身体のほとんどが義体のひな、容姿から知性に身体的な成長の全てまでが遺伝子で設計済みの遊離、そして知性を持ち人間から感情を学習するオートマタの姫風露。言い方は悪いけど、だんだん人間離れしていくといえる。だからこそ、姫風露のようなオートマタはもはや人間と変わらないのか、いやオートマタはあくまで人間とは違うものか、と考えた時に、ではエディテッドの遊離は?ほぼ全身義体のひななら?さすがに晶は人間でいいだろう?と疑問に思う作りになっている。
身体のほとんどが造りものでもひなは人間だ。たとえ遺伝子の設計図通りに造られたモノでも遊離は人間だ。なぜなら彼女らには魂がある。器を愛したのではなく、その中身を愛したと繰り返されたのもその証拠。だからこそ姫風露もまたヒトであると言えるだろう。最後に全身義体のボディでより人間に近づけたのもそうした意図があったのだろうと思われる。
「人間の魂は肉体(ジーン)ではなく、言葉(ミーム)によって生まれいづる。
肉が血を通じ受け継がれてきたように、心は言の葉によってつながり継承される」
最後の最後でクロスリンクを失った姫風露。だからこそ言葉が必要になる。そして言葉こそが人間の魂を形作る。単にボディを人間に近づけた以上に、姫風露の魂を人間そのものにしたという意味づけを見いだせるのではないか。そしてタイトル画面に戻り余韻に浸る。いい作品だった。