人助けを身上とする優等生と素行不良のギャル、本来交わりそうにない二人が恋に落ち、成就するまでを丁寧に描いた良作です。和泉万夜さんらしい書き筋で、ヒロインの家族も絡めながら、リアル寄りな女性描写を重ねることで、記号的な萌えゲーヒロインで終わらせなかったのが奏功したのかなと思います。
グラフィック(19/20)
初めましての原画さんですが、凄く良かったですね。ヒロインの絵を見てパケ買いしたくなるくらいには可愛かったです。クールビューティー感もありつつ、八重歯を見せて笑う幼い感じもありつつという絶妙な塩梅。唇も瑞々しくて良かった。服装差分は、制服、私服、ウェイトレス服。私服はもっとゴッテゴテのギャルファッションでも良かったかなと思います。背景絵に関しても質・量ともに問題なし。
ストーリー(35/50)
序盤は主人公とヒロインが友人関係になるまでを中心に。困っている人を無償で助けて回る、利他的で献身的な主人公が、他人を寄せ付けない氷の壁を張ったようなギャルを三度助けたことで交友が始まる。携帯紛失の件でくるみは恐らく主人公の存在を認識し「いつも人助けばっかり、ようやるわ」くらいの感想を抱き、二度目では自身の父が助けられ「学校の外でもやってんのか」となり、三度目で遂に彼に本格的な興味を抱くようになった感じですかね。そこでの問答で、もし彼が噂を真に受け、下心を少しでも抱いていたら仲良くなることはなかったでしょうね。しかしそこで返って来たのはただただ善意のみ。これで彼女としても猜疑心を抱いてるのも馬鹿らしくなり、多少なり仲良くしてもいいかなという気持ちになる。そこからは彼女の方から距離を詰めてくれるようになります。元は社交的な性格だし、本人も心の奥底では、彼女の孤立に踏み込んでくれる人を待っていたんでしょうね。ただ最初から恋愛感情ありきで来られたら信用できなかった。彼女自身、男慣れしているワケではなく、男の言う恋愛=体目当てと考えてしまう所もあったんでしょうしね。噂の事も相まって。なので主人公は打ってつけというか、少なくともあの時の彼女にはドンピシャの相手だった。細々と交友が続いている同性の友人は何人か居たものの、例の噂にも惑わされず、ただ人と人として接してくれる異性の友人なんてのは彼女にしても衝撃的だったでしょうね。
で、ただの友人関係で終わればそれで話は簡単だったんですが、ここから二人の関係は中々面倒に拗れていきます。まあ友人関係だけで終えられるとエロゲにならないので当然と言えば当然ですが。共に過ごす時間が増える中で、小さな嫉妬(本人もこの時にはまだ嫉妬とは理解していないような淡い感情だけど)からくるみが主人公にキスをしてしまい、あまつさえその後フェラまでしてしまうという事件が発生。直接的には他の女の子の胸元を見てしまったことで、対抗して自分の胸もという形でしたが、「あたしを見て」という主張の奥にはやはり寂しさが隠れているのかなと思いました。というのも、主人公くんは上述の通り誰にでも優しく、誰が困っていても助ける、いわば博愛精神主義者ですから。彼に執着(それが未だ恋ではなくとも)を抱いてる側からすれば彼が遠く感じる瞬間は多々あるでしょう。つまり、特別な感情を抱かれていないから始まった関係なのに、いつの間にやら特別視して欲しくなってきているという。面倒くさい子です、割と。まあ三度助けた時点でガッツリ惚れてくれて、向こうから告白してくれる程チョロいなら並の萌えゲーの記号的ヒロインと差別化できないワケで。
そしてくるみちゃんはフェラだけで収まらず、後日すぐに主人公の部屋で初体験を済ませてしまいます。僕はこういう体から入る恋愛はあまり好きじゃないのですが、今作ではある程度、彼女の思う所というのも分からんでもないんですよね。躊躇する主人公に「男と女ならできる」というような旨の発言をしましたが、この博愛的ですぐにもどこか別の困っている誰かの下へ行ってしまいそうな彼を、彼と自分ではタイプが違う(優等生とギャルなんて対極と言っても過言ではないかも知れません)と自覚してしまっている自分を、全部ねじ伏せる為の言葉だったようにも思います。憎み合っているワケでもないのに煮え切らない自分の両親への当てつけにも似た名状しがたい感情も少しはあったのかもしれません。そういった様々な感情・衝動が彼女を突き動かし、二人は男女の関係となりました。或いは……ファーストキスの後「だいぶ後になってわかったことだけど、アタシの初めての恋は、この瞬間から始まってたみたいだった」とくるみは述懐していますが、大抵「あとから考えると当時は」という事柄は、その当時も心の奥底、深層では気付いていることが多いですから、純粋に自分の気持ちを見つめて答えを出すのが怖かったのかも知れません。まあそりゃそうです。好きですと言って必ず上手く行くとは限りません。相手は誰にでも優しく、自分に特別な感情を抱いていないのを確認したからこそ始まった関係で、しかも自分のようなギャルはタイプではなさそうな優等生なので、これから先もそういう対象として見られるかどうか。両親を見て男女の関係の難しさも知っています。怖いですよね。電脳キャバクラ萌えゲーヒロインに慣れていると、フラれるかも知れない怖さなど見せず「好き好き」言ってもらえるのが当たり前になっていますが、本来はこういう感情を抱いて当たり前なんですよね。
そうして、この宙ぶらりんのセフレのような関係をズルズルと続けて行ってしまう二人。仲良しグループ内の特に仲の良い男女がいつの間にか体の関係になっているとか、やたら生々しいよね。しかしまあ両親の煮え切らない様子に忸怩たる思いを持ちながらも、自身も同じように不安定な状況を作ってしまう辺り、血は争えないというか。ただそんな或る日、潮目が変わる出来事が起こります。酒に酔った主人公が不意に本音をくるみに語るというイレギュラーですね。「一番可愛い」の「一番」という部分が確実に彼女に響いたでしょうね。博愛の、悪く言えば八方美人の彼が、一番は自分だと言ったのですから。気分が盛り上がった二人は再び体を重ねますが、ここでも付き合うという話にはならない。いやもう答え出てるでしょう、と苦笑してしまいました。そして確か、ここら辺くらいからくるみちゃんが、とある言葉を多く使うようになったんですよね。即ち「男らしい」やら「男らしくない」やら。一番と言われ、また少しゴールまで距離を詰めた所で、これはどういうことなのか。くるみちゃんは実は卑語を言うのも無理をしていたくらい内面は結構女の子してたりして、自立心の裏側に、男性の頼り甲斐を求める面も隠しているんですよね。気軽に会いに行っているとはいえ、親父さんと離れて暮らしているのも少しは影響しているのかな。ともあれ、主人公をパートナーとするなら、もう少し頼り甲斐が欲しいという無意識下での要請が、ああいった言葉を吐かせるようになったのではと推察。そして主人公もそれに答えるように男気を見せる事件が発生。過去の因縁からしつこくくるみに絡む不良に立ち向かい、見事に窮地を救うという、まさに「男らしさ」の極みのような行動をやってのけたのでした。最高にドラマチックな雰囲気で二人はまたも体を重ねます。いやー、ついに恋仲になるのか、と思ったら、まだお預け。個人的にはここが趣味に合わなかった。もうこの辺りが限界でしょう、引っ張るにしても。流石に溜息が出てしまいました。
同級生の誤解を解くための奔走や、くるみの家族問題への介入は、いくらなんでもただのクラスメートでは踏み込み過ぎと言うか。特に後者は家庭の問題ですからね。踏み込むだけの資格、つまり彼女の恋人としての立ち位置が欲しかった。夜道で「ただのクラスメート」の母親を待ち伏せとか、ぶっちゃけキモイっす。ビックリして減点してしまった。ただ僕と違って御母堂はドン引きすることもなく、通報することもなく、両親の交流も復活し、大団円の誕生会となったワケですが。そしてこの誕生会の成功を以って、彼女が完堕ちとなり、屋上での告白を経て、両想いでゴールインという所でエンディング、という流れ。個人的にはこのパターンも好きくなくて、何故ならこの構成だと、お付き合い後のイチャラブが書けないからなんですよね。やっぱ名実ともに好き合う同士になってからのイチャデートが見たかった。
という感じで、体から入る関係も、〆の展開も好きではなかったんですが、それでもまあまあ良い点数をつけられたのは、ヒロインのキャラ造形とそのバックグラウンドの説得力が大きかった。それに個人的に好きじゃないだけで、丁寧は丁寧だったと思いますから、こういう展開が苦にならない、むしろ好きだという人ならもう少し高い点数をつけられるかも知れませんね。萌えゲー然とした女性側が強く歩み寄ってイニシアティブを譲ってくれるような簡単な女の子ではなく、等身大の女の子が、積極的になったり消極的だったり、シーソーのように心を揺り動かすのを眺めて楽しむのが正解のゲームなんでしょうね。
エロ(15/20)
7回(本番は5回)ということで、4000円ほどのミドルに片足突っ込んでいるロープラだと、どうだろう、微妙に食い足りない感じもするよね。夏の計画を立ててる辺りで終わったし、アフターストーリーでもう1枠、水着エッチなんかあったら嬉しかったかな。シーン内容はオーソドックスの極みで、奇抜なものは無し。卑語無修正かつ、かなりの頻度で言ってくれるけど、割とヤケクソ連呼気味というか、あまりエロスは感じなかった。巨乳ヒロインながらパイズリは無し。胸を弄っているシーンも極少でモヤっとした。
音楽(7/10)
ボーカル曲は2曲。EDの方がやや暗めで微妙だったけど、OP曲は凄く良かったですね。くるみちゃんの心情をガッツリ歌詞にしていて、まさに彼女のための曲といった様相でした。ただ歌手の方があまり抑揚をつけずに歌っている感じで、イマイチ感情が乗らなかったのは辛い所。BGMは可もなく不可もなく。
合計(76/100)