人権蹂躙が日常茶飯事のガンギマリ村で、独自のエロス因習を享受しながら幸いを探す残酷スケベゲーム。マイナー特殊性癖プレイを排し、和姦から輪姦凌辱、貪欲人妻交尾といったマジョリティ性癖に合わせたエロシーンを網羅する構成で、それぞれの質も非常に高かった。いっぱい出た。長文の最初は購入検討の方向けの微バレ。
まだ発売一月くらいなので一応微バレを書いときます。僕自身が購入前に気にしていた点に答えるような形で書いてみます。
Q:暗そう
A:まあ明るくはないですね。僕が思い出す限りでは、ギャグを言ったキャラは居ません。一度だけ主人公が軽口を叩こうとして、語彙が違い過ぎて通じずに微妙な感じになるシーンがありました。文化が違い過ぎるんですよね、冗句なんて言っても通じない。脱糞芸もやめてしまったので、明るい気持ちになるようなシーンは皆無に近かったです。
Q:臭そう
A:それはクサいですよ。性悪熟メスが隙あらばダルダルの乳を振り回して襲い掛かって来ますから。メッチャ治安悪い。着物の帯の辺りとか様々な汁が染み込んでるだろうし、そりゃ臭いよ。フローラル・フローラブとは何もかもが違うのです。っていうか、購入前にはオマケの母娘丼要員くらいの絡みだと思っていたら、意外なほど活躍がありました。
Q:抜きゲー? 非抜きゲー?
A:故に抜きゲーですね。浅生さんも明言している通り。立ち絵がある女性は基本濃厚エッチありますし、シーンとシーンの間もかなり短く作っています。70回も登録枠ありますからね。ちなみに参考までにユーフォリアが61回ですから、推して知るべしです。シナリオより若干エロを強めに楽しむつもりで買うのが正解でしょう。とはいえ、勿論シナリオ上の動機付けやキャラ付け、残酷描写が巧みだからこそのエロシーンへの感情移入度と膨張率ですから、結局はどちらも相互に高め合う感じになっていると思います。「メッチャ読み応えある抜きゲー」かな。
Q:ぶっちゃけ面白いのかね
A:シコリンピックと民俗学が好きな人は外れないと思う。異文化への寛容と自身の価値観の中で譲れない一線とのせめぎ合いの妙を、濃厚なエロを通じて味わえるかと思います。悪逆非道の限りを尽くしますが、どこか耽美でノスタルジックな雰囲気も持っている。シナリオがエロを、エロがシナリオを補い合うような18禁でしか書けない物語。暗く光の差さないドス黒い伝奇物といった風情で、8月に言うのも何ですが、恐らく今年の個人的ナンバーワンですね。
以上です。ここからはネタバレ全開なのでプレイ前には読まないで下さい。
グラフィック(19/20)
みんな美人ですねー。唇フェチとしては辛抱たまりません。塗りもまた素晴らしい。キャラデザは文句なんて無いです。個人的趣味では稀世良ちゃんと八千代さんが好きです。八千代さんの愛されパーマネンツ好き。しかし現代でも昔のオラついてた時分でも環境考えるとパーマかけるって難しくないかね? ……天パか。
一枚絵も素晴らしいクオリティなんですが、やはり抜きゲーの限界とでも言いましょうか、シナリオ上欲しいなと思う箇所で無いってことも何度か。せめて太歳の肉なんかは小物デザインみたいな感じで見せて欲しかったかなー。あと伝承を稀世良ちゃんが語り聞かせてくれているシーンなんかでも、例えば白黒の紙芝居調の絵があれば雰囲気出て良かったなとか。まあエロシーン優先で振ったんでしょうし、仕方ないとは理解していますが。
エロ(50/50)
チンコに聞いても脳に聞いても、不満も改善点も出てこないので満点で良いと思います。僕のキンタマ年齢も考えると、この項目で満点つけるゲームはもう無いかもね。わかんないけど。共通11、稀世良ちゃん編が16(正妻)、十子編が12、サエ15、取り替えが5、廻暦11の合計70の大ボリューム。ひとつひとつ本当にクオリティ高いし、和姦と凌辱のバランスなんかが完全に俺にフィットしててヤバかった。有体に言ってシコり散らかした。個人的にはエロの間隔を相当短く作ってくれたのも嬉しくて、忙しい時にパッと起動してパッと輪姦できたので本当に助かりました。命を救われたと言っても過言ではあります。ひとつだけ微小な不満としては、主人公と八千代のセックスが無かった点くらいですかね。
ストーリー(18/20)
昏い伝奇モノの王道、過去から繋がる醜い憎悪の連鎖と、息を吐くような自然さで行われる人権蹂躙を、ガッツリと描いています。最後の方がクシャクシャになってたので減点してしまいましたが、それでも十分でしょう。濃厚なエロシーンを支える淫靡な空気感を保持させながら、伝奇物としてもパワーがあり、人間造形も素晴らしい。超絶面白かったです。
以下はキャラごとに分けて感想を書いていきます。
・永見 稀世良:ガール御稜威ボーイ。
物語は幸仁が彼女に魅入られ、村へと誘われた所から始まります。稀世良は後に「誰でも良かったワケない」と述懐してくれますが、ここに偽りは無く、言わば一目惚れに近い感じですね。そしてその場で彼女に望まれるまま体を重ねてしまう。彼女と幸仁との関係は、ほぼこの時点で決したと言っていいでしょう。主導権は稀世良ちゃん。彼女の最愛のかけがえないオモチャが幸仁。マヨイガに引きずりこむ人ならざる何かのような。そんな妖しい魅力に満ちた彼女は、どこか底が知れず、幸仁は中々彼女の愛情を信じられない。だというのに業を煮やすでもなく、嫣然としているのみ。そんな彼女にますます恐怖を募らせる幸仁、という構図が暫く続きます。
そんな関係が変化するのが、嫁御前に選ばれた稀世良ちゃんから御稜威を貰うという段。彼女の渡す御稜威というのは、まあほぼ残虐性とイコールで、お育ての甲斐があるお兄様は彼女自身や他の女への凌辱行為を唆され、それを経るうちに祭を乗り越えるメンタリティを得る。飴と鞭の使い方が秀逸で、お兄様を追い詰めるのも、お兄様を母性で包むのも稀世良その人という、まあ掌の上でコロコロですわ。
祭を無事に乗り越えた主人公は、稀世良への依存の正体を「恋」と定義します。本当の恋愛感情かどうかは分かんないです。ちなみに婚儀の後のセックス中、幸仁は「好き」という言葉を伝えてみます。稀世良はその瞬間絶頂しました。彼女の偏愛はガンギマリ過ぎていて、千の言葉でも信じ切れていなかった彼が、偽りようの無い体の反応を以って、ようやっと彼女の愛情を真実と認められる。今作の和姦の中では、このシーンが一番好きです。言語ってのは不完全ですから、セックスするんですよね。
続いては、自身のルート外の稀世良の動きを追ってみます。まず十子ですが、彼女は人間ですから(しかも曲がりなりにも御三家という確かな家柄の少女)、自分ではなく彼女が選ばれた際は、諦めがつきます。ほぼ対等な相手に負けたわけですから言わば普通の失恋ですね。当てつけかのように乱交パーティーにも参加します。「選ばなかったクセに独占しようなんて少々身勝手ですわ、お兄様」みたいな。或いは聡明な彼女の事、選ばれなかった方の末路を悟っているんでしょうか。明言されてないので分からないけど、可能性はありそうですね。どうせ食われる命なら操など立てても仕方ないしね。
次にサエ編。マジギレですね。ドン引きするレベルで怒り狂います。それもそのはず、人間でもない肉袋などに大切なお兄様を渡せるワケがないですから。そんな汚濁を愛するというお兄様もお兄様で作り替えなきゃいけません。彼女的にはラブドールにハマる旦那を引っ叩いてドールもブチ捨ててやるって感じでしょうか。まあ何にせよ、全く諦める素振りすらありませんよね。最後、森の奥で待ち受けていたシーンはやっぱ一枚絵欲しかったなー。マヨイガから追いかけてくる人ならざる何かのような。そんな妖しい魅力を感じられるような。ただ、彼女は村の外までは追いかけられないんですよね。マヨイガの中でしか生きられない、幸せを掴めない、そう定められている。儚く悲しい子でもありますね。だから物語後半、村の中から離れてしまうと退場せざるを得ない。彼女と居たいなら、引き摺り込まれたまま出てきてはダメ。「壺中桃源」というのが彼女のエンディングタイトルでした。
・永見 美壽々:永海千年の集大成は、憎悪に狂った「くなど神」
赦されるワケないし、赦すワケないし、赦す高潔なんて一番赦さない。憎悪に狂った岐の神の道案内は、全て地獄行きでした。いやぁ凄まじかった。義姉妹が「昔はああではなかった」と評していますが、確かに彼女は昔は完璧でした。だけど彼女の周りの全てのモノが、彼女の完璧を寄ってたかってボロボロと剥ぎ取ってしまった。夫を喪い、子も消息不明。義理の姉妹は責任放棄。苛烈を極める輪辱に失われていく貞淑と高潔。千年守ったアイドルの枕営業は醜悪極まり、所詮は餌と快楽を甘受するだけの意思の無い異客でしかなかった。それでも尚、心の拠り所として、永海の誇りとして守りたかったソレの肉を食らわされた絶望は筆舌に尽くしがたいモノだったでしょう。かくして「ヒト」として死ぬ権利すら奪われた後に残ったのは、村すべてを覆う極大の憎悪。最大多数の最大苦痛を常に考え続ける妄執は、ついに伝統すら捏造する。コレが村の真実でしたね。真面目一徹で高潔と正義の才女をダークサイドに落としたらマジヤバい。憎悪全振りで有能なアンチヒロインの出来上がり。
彼女にとって最大の皮肉にして僥倖は、既に半神の域に達していた永海の技術が、守るべき珠の姫を食らう事で完全なる「くなど神」へと昇華した事。長生を得て、禁域の洞窟を迷わず赤に導かれ進めるようになった。推測ではあるのですが、永海の知識の吸収を怠っていた義姉妹は太歳の肉が洞穴内にあることを知らず勿論御三家の男たちも知らず(和比古が太歳が出たと聞いた時、血相を変えていた事を鑑みるに)、肉を独占しているのでしょうね。そして姫の肉も(彼女以外は姫の生まれ変わりを気付けないらしい)当然独占している。その上で御三家の人間には嫁御前に選ばれなかった女の肉でも寿命を延ばす事が出来ると嘘を教え、食人の罪悪感を紛らわせておいて、何年、何十年後かに、嘘を明かし、今まで自分たちは何の効力も無い少女の肉を徒に食み、しかも寿命はもう尽きるという絶望をプレゼントしたいらしい。特に強い憎悪を抱いた彼らには、特大の絶望を与えたいらしい。まあ見事にその昇神した力を復讐に使い倒してます。いっそ清々しいわ。
残虐性をも併せ呑んで初めて神は完全となるという荒態の設定を盛り込んだのは、上述のような自身の経験からも来てるんだろうね。でっち上げでも、完全に無から作り出したモノでもない。彼女の哲学が入ってる。そういうトコ、少しだけ人間残ってるよね。
・サエ:手遅れのシンデレラ
王子様おっせーよ。もうとっくに百人斬りのガバガバマンコになっちゃったよ。ただ美壽々が十子の命ひとつで手打ちとして逃がしてくれたのは、そのように十分に彼女については憎悪を晴らせたという判断もあったんでしょうかね。それとも平穏で幸せな日々の中でこそ消せない古傷の痛みはいや増すという残酷な判断でしょうか。……後者だろうなー、赦すとかもう無いだろうしね、彼女の辞書に。入れ替えも多分知ってるんだろうけど、クソ妹の娘なんて苦しめるだけ苦しめたいよね。仕方ないね。
マサが今際の際に放った特大のウンコはマジで最悪最低でした。スッキリしたのは本人ばかり、周囲には悪臭を撒き散らし、健気に世話を焼いてくれていたサエは特にゼロ距離でウンコ汁ごと顔面に浴びる事となります。「死にかけの狂ったババア」とかキャラ崩壊の極限みたいな暴言も……そりゃ出るよ。そうだな例えるなら。超絶ブラック労働の人が宝くじを買おうと列に向かいます。同じくらいのタイミングで反対側からやってきた人と少しお見合い、その後相手の方が「どうぞ」と譲ってくれました。会釈をして先に並ばせてもらいます。二人ともバラ番で買ったとしましょうか。で、相手の人が見事1等を当てて今は労働から解放されて豪勢に暮らし趣味人まっしぐらと。コレ、知りたいですか? って話ですよね。知ってしまったらもうダメ。もう戻れない。相手が悪いわけではない事なんて頭では分かってても止めようもない。見たこともない顔してましたからね、サエちゃん。この絶望を前にして、相手の善性に縋るだけの薄っぺらい甘えを言い放った幸仁がノータイムで捨てられるのは当たり前でしたね。当選籤を目の前で掻っ攫った女の王子様など「ならば死ね」だよね。中途半端な優しさの仮面が剥がれた幸仁を、思考放棄の奴隷の仮面が剥がれたサエが突き落とす。来待村は今日も醜悪です。
・みどり、八千代、正彌:手遅れのシンデレラ
「右の頬を打たれたなら、左の頬を打ち返しなさい。いけそうなら前歯を全部へし折ってやりなさい」ありがたいお言葉ですが、コレを実践するのはとても難しい。しかし天パは見事やってのけました。庶民とは違うのだよ、庶民とは。腐っても永海ということでしょうか。流石です。そのエネルギーを少しでも巫女の修行に向ける事は出来なかったのでしょうかね。
まあ冗談はさておき。彼女の居た時代は今よりも更に男尊社会でしょうし、そんな中で女同士の団結、仲間意識というのは重たかったのでしょう。外敵(男)に手酷くされるより、内側(女)に裏切り者が出た方が余程憎い。ただでさえ悪感情てのは弱い者へ向きやすいしね。処女を散らされた恨みは凄まじく、恐らく抱えた憎悪の大きさは美壽々に次ぐものでしょう。まあ彼女の場合は直情径行が過ぎるので、憎悪の対象は村全体へは行かず、みどり一人で留まっているワケですが。
彼女の王子様は、何の因果でしょうね、みどりの息子でした。そしてやはり遅きに失しました。推測ですが、彼女が正彌を犯した時、彼は童貞だったんじゃないかな。(失敗に終わったとは言え)女達を窮地から救ってくれた善性と強さの塊のような彼が女性をみだりに犯すような卑劣漢な筈もなく、さりとて妻帯とも書かれてなかったと思うし、清らかなままなのでは。もしその前提なら、天パの精神ダメージは中々キツイ。彼に晒した自分の体は汚濁まみれ。しかも彼の母は怨敵。恋心を認めたら発狂してたかもね。実際、出会い方が違えば結婚していたらしいですからね。最初は身分の違いを笠にオラついてたパーマネンツだけど、彼の実直な人柄に次第に惹かれていき、村での世話役を彼に申しつけるようになり、やがて彼と彼女は互いの初めてを捧げ合う。そんな未来があったかもしれないのに。現実は何だ? 汚い爺の肉棒で処女を散らし、幾多の男の肉棒を咥え込んだ後、王子様に出会ってしまった。母娘二代、血は争えんね。つーか上手過ぎだろう、ここら辺の書き方。プロットどうなってんの? 浅生さん見せてw
初恋を吹っ切る為に、そして怨敵に絶望を与える為に考え付いた悪意ギュッと盛りみたいな近親相姦は、今作の強姦シーンの中で一番好きです。あれだけ御自慢だった息子の御自慢のムスコで孕んだ子を、だけど言祝いだみどりはそのまま絶命。まんまと上首尾の八千代は、満面の笑みでその忌み子を育てます。この激熱の悪意ラリー。だからプロットよ。相当緻密に組んだんだろうね。本当いやらしい。
ちなみにだけど、八千代無線は多分だけど美壽々ほどには子供の事を割り切ってないと思います。サエ編で意地を張る娘を説得しようとするし、稀世良編で消された息子(義理でも)について少々心を痛めていた感じでしたから。まあ良くも悪くも単純というか、おバカというか。悪感情も良感情も深いのかもね。僕は結構好きだったりする、この人。ただその単純さ故に、サエ憎しで余計な事(荒態の提案)をして娘のルートで面倒を起こしてしまうという。真相編からの因縁がスーッと伸びて一番最初の個別ルート(しかも因果応報とも言える自身の娘のルート)へ繋がってるんですね。マジ綺麗。いや、汚いんだけどね、醜悪なんだけどねwていうかこんだけカッチリ組んでて、そん中でキャラの性格(このパーマなら絶対やるよね、憎きクソみどりの娘なんて痛めつけるチャンスがあったら後先考えないだろうね、という性格)もキチンと生きてる、ただの駒にしてないって、相当ムズイと思うんだけどね。デジタルに組んでる途中に感情ありきの非効率・非合理な行動を入れるんだから。しかも一番最後から、親子三代の因縁を絡めつつ糸引っ張て来て、一番最初に張るんだからね。キャラ造形、憎悪の描写、伏線回収、どの観点から見ても秀逸以外の言葉が出てこないよ。
幸仁との相性は……あんまり良くないでしょうね。だからこそ逆にエロシーン(出来れば一対一での絡み)見てみたかったですが。まあ、恐らく彼女は千鶴江に対するようなイラつきを幸仁に感じるでしょうね。自分では決め切れない意志薄弱。善性はあるものの、その旗手として先頭には立てない。十子にも正彌にも、手を引っ張られる事を求めた。そんな彼は、多分、タイプではないでしょう。強い男が好きって感じはする。
・阿式 十子:恋せぬ自己犠牲の乙女
一言で言うと、公人ですね。公益、利他、善性、正義。基本的には彼女の目は村全体を見ています。故に個人間でする恋愛というシステムには絶望的にそぐわない精神性だったりします。恋なんて言わばエゴとエゴのシーソーゲームですからね。だけど彼女は多分、シーソーに跨っていても、公園で親とはぐれた迷子を見つければ立ち上がって走って行ってしまうんでしょう。シーソーの駆け引きの埒外。最初の寝取られシーンで、「何の相談もなく決めてしまった十子」というようなモノローグがあったと思いますが、幸仁の価値観では到底受け入れられないのも当然です。愛を囁き合い、けれど体は供出してしまう。愛してはくれるけど、恋してはくれなかった。幸仁は最大級に誤解してたんですよね、彼女を。なまじっか、自分の居た世界の価値観にも理解がある為に、自分の考えを共有してくれると思っていた。けれど実際の彼女は村への真なる奉仕者であり、赦す高潔だった。恐らく美壽々が、一番、反吐が出るクラスで嫌いな人種でしょうね。十子が全ルートで輪姦の憂き目を見るのは、村のシステムが高潔から食い散らかすように組まれているからですしね。過去の高潔なる自分が穢されたのと同じようにしたいというババアの切なる願いが強すぎる。ババアが十子編において例の八千代の失態に乗じて介入し、幸仁に残虐の御稜威を注いでおいたのは、十子の精神性なら必ず稀世良の代わりに鬼役を買って出るだろうと見越し、その際に全力で責め苦を与える為だったんでしょうね。美壽々にしては強引な割り込みをしてまでこのようにしたって事は、やっぱ十子の高潔は一番ぶっ潰してやりたい物なんでしょうね。そしてそれを百も承知で貫くのが十子という少女ですね。
従って十子に関わると、この高潔を受け入れ、思うようにさせてあげられるか? それとも子供じみていると言われようが、異文化への不寛容と罵られようが独占したいか? というせめぎ合いの妙が常に付きまとってきます。最後の選択肢ですらそれでしたからね。独占をすれば心は手に入りません。高潔を壊すということは、彼女のアイデンティティを否定する事でしかなく、「俺が壊した俺だけの十子」は二度と「幸仁さん」とは呼んでくれませんでした。供犠の宴へ出せば、愛する幸仁さんが自分を見限り村を出やすいように共有妻のような立場に自らやつします。心か体どっちが良いですか? ……どっちも寄越せや性悪ババアが。何だその浮世絵みたいな眉毛は。閑話休題。まあ男心というか独占欲の使い方が上手いよね、やっぱ。しかも皮肉っぽく使わないからあんまり嫌味に感じないんだよね。
さて。十子ちゃんの秘密を知った上で物語を見返してみると、考えようによっては、彼女もまた御廻様のような存在なのかもしれません。輪廻転生を繰り返し、村に生まれてくる姫の生まれ変わり。また自身の体を食わせてでも衆生を救うアンパンマンみたいな習性も引き継いでいます(あの姫が実際は何を思い考えていたのかは人の身では分からないですが)。醜悪な来待村にあって、一人だけ異質、掃き溜めに鶴と言うか、まさに異客というか。定期的に産まれ来る異文化=御廻様みたいな。村の外へ帰っていくか、村内で地産地消されるかの違いだけですかね。
村の中だけで完結し、輪廻し、食われて、また廻る。愛と勇気だけが友達で、恋より優先すべき高潔がある。寂しい子だよね。
・楡井田 幸仁:空っぽの器
「電話をするのは面倒だった。仕事以外で誰かと話したくなかった」「便利で綺麗な場所から逃げ出したようなものだ」この二つの彼のモノローグを見るだけで、親近感を覚えてる人は沢山いるでしょうね。まあザ・オタクって感じの精神性ですよね。反論ある人はゴメンw精力的に生きてね、煽りとか抜きに。でも恐らくきっと、ここまで読んでくれてる人は大丈夫だと思う。いや全然大丈夫じゃないんだけどね。そして、その大丈夫じゃないってのが今の時代より更に大丈夫じゃなかったんだろうと推察される、彼はそんな時代の人でした。えーっと、要するにバブル経済期に抱えた稀有な空っぽなんだよね、彼。現代のオタクが共感できる精神性を、あの希望に満ちた時代に抱えていたら、そりゃ生き辛いだろうよ。そして仕事を辞めて「緩慢な自殺」のように地図にない村を探し求めた。物語中盤くらいには普通の人っぽくなってるけど、実際この起点はヤバいですよね。彼は民俗学研究もしていた人ですから、山の危険さは重々に知っているでしょうに、それでも彷徨うってんだから、そりゃまあ自殺志願者以外の何物でもない。まあ勿論、この時代だって自殺志願者は沢山居ただろうけど、多分わけても先進的な空っぽだったんだろうね。実際は稀世良ちゃんに聞いてみないとサッパリ分らんけど。
そんな彼も淫蕩な日々で少女たちの体温に触れているうち、次第に変化していきます。遭難して躁なんですよ。童貞捨てたら世界が変わったとか書くと身も蓋もないけど、人生案外に単純なモノだったり。ただサエちゃんの項でも書いたけど、生来的なアレさ加減もついぞ消えなかった人です。多分、全く満たされないんじゃなくて、彼は乾くのが早いんじゃないかと思う。注いだウチから乾いて、また空っぽになっちゃう。だから絶えず自分を満たしてくれる、自分だけに気持ちを注いでくれる稀世良が一番相性が良かったりするんだよね。怖い怖いと彼は言うけど、一番最初に手を引いて、キスをして、必要だと言ってくれたのは彼女ですから。ガンギマリ偏愛と愛情暴食マンの相性は完璧だったりします。次いでサエちゃん。シンデレラを救い出したようで、実際の所、可哀想な彼女を愛する度量を持つ優越感と彼女から返ってくる崇敬と愛情で満たされているのは幸仁。と、流石に意地が悪すぎる書き方ですね。勿論サエちゃんにしても救いだったし幸せだったでしょう。自然な互恵性を悪辣に書くモノでもないですね。で、まあ最悪の相性なのが十子でしたね。詳しくはもう上で書きましたので割愛しますが。「死なない体になって、人間以下の生を生きて、人間のようなさみしさだけが残った」とか言い出すくらいには愛情飢餓状態に追い込まれるアンパンチでしたね。来待村限定生産のお弁当(意味深)により無間地獄を強いられた彼は、最後の最後に十子の高潔をトレースする。或いは、やはり何も変わらず、十子をただただ欲しがる。この二択を迫られます。前者を成長とはあんまり呼びたくないな。というのも、実は僕は十子ちゃんの精神性があんまり好きじゃなかったりします。同時に後者を惰弱とはあんまり呼びたくない。「軽々しく渡した薄っぺらいすべてが…君の中で美しい宝石になって…そして君を不幸にした」と悔いた彼が、明確に「欲しい」と声高に言ったんだから。ワガママでも薄っぺらくはないんじゃねえの? と思ってしまう。さかしくスマートにまとまるより、汚くても本音をぶつける方が好きなんだけど、十子ちゃんの精神性はそこにあまり対応してなくて、だから彼女チョット好きじゃないんだろうな。とはいえ幸仁も褒められたモンじゃないし、お互い様とも言えるのかね。
まあ個人的な好き嫌いはともかく、ラストにおける幸仁の対応は既述の二つに絞るべきだったと思います。僕はバッドエンド賛成派だけど、ラストのラストにクシャクシャと置くのは好きじゃない。というのも、バッドとは言えエンドですから、回収したらタイトルに戻っちゃうワケです。映画館の上映が終わり、照明が点く瞬間に似た感慨が、エロゲにおいてはエンド後のタイトル画面だったりします。それをバッドで二回消費してしまうのは勿体無い。どうしても、独占と利他との対比は入れたいだろうし、二つに分かれちゃうのは仕方ないけど、残りのバッドの内容はもう少し前で消費しておいた方が良かったかな。洞窟内の夢で見たりね。
主な減点になっちゃったのが、ここですね。他にも説明が舌足らずだったり、描写不足な箇所はあるんですが、まあエロの尺の方に大分回ってるんだろうし、仕方ないかなと思ってます。こういう点を含めても、傑作という評価は覆らないですね。本当に面白かった。クリアして少し経たないと感想書き始める気も起きなかったくらいです。大作ロストです。多分、今年(或いは数年)は和風のゲーム何やっても心がこのゲームに飛んで来てしまうんだろうな。素敵な時間をありがとうございました。
音楽(9/10)
ボーカル曲は一曲だけですが、完璧に近いですね。歌詞にリンクしたようなムービーもセンスの塊で購買意欲ガン煽りでした。BGMに関しては、太鼓の音を本当に上手く使っていたのが印象的でした。祭の非日常感と高揚感をエロシーンと上手く絡めてましたね。開戦の合図のようでもありました。良かったです。
合計(96/100)