バグゲー・クソゲーと聞いて不安に思っていたら、嘘屋佐々木酒人氏のテキストが大好きな自分にとっては傑作でした。
本作のシナリオ担当である嘘屋佐々木酒人というライターを知っているでしょうか。
批評空間によると1995年からエロゲライターをしており、20年以上のキャリアをもつ息の長いライターです。自分は、lightの「さかしき人にみるこころ」シリーズやINTERHEARTの「愛妹恋愛」などをプレイして、芯を感じさせるキャラが軽妙な会話を繰り広げる嘘屋氏のテキストが好きです。嘘屋氏のシナリオのゲームを積極的に買うほどの熱心なファンではないものの、「シナリオ: 嘘屋 佐々木酒人」と表示されていると気になって確認する、程度には好きなライターです。
さて、本作「タンテイセブン」もシナリオが嘘屋氏なので注目しており、体験版をプレイした感触も悪くなかったので発売を楽しみにしていたのですが、発売直後に聞こえてくるのは、進行不可・バグゲー・クソゲー・フラグ管理がダメ・シナリオの整合性がとれてない、等の悪評の数々。公式も連日のように修正ファイルを公開しており、未完成品を見切り発車で発売したことが明白でした。絶賛修正中のバグだらけのゲームを急いでプレイする必要もないので、一通りバグを潰し終わったらプレイしようと悠長に構えていたら、半年以上積んでしまいました。思ったより長く積んでしまいましたが、お蔭で最初から最新パッチ(Ver. 1.60)を適用してゲームをプレイすることができました。
発売から半年たち、バグゲー・クソゲーと悪評が聞こえていた本作のバグはVer. 1.60の最新パッチで直ったのだろうか、と不安を抱えながらプレイを開始しました。結果、一部シナリオに不整合が残るもののバグはほぼ解消されており、嘘屋氏のテキストが元々好きな自分とってはクソゲーどころかメチャクチャ面白いゲームで、どっぷりタンテイセブンの世界にひたって楽しくプレイしました。
以下、タンテイセブンで面白く感じた点を挙げていきます。
1. 下町のチャキチャキした駄会話
元々、嘘屋氏のテキストはどこかおっさん臭く感じます。主人公の考え方が「それは男の仕事」というように古風だったり、おっさんのような下ネタギャグをかましたりしているからかもしれません。その嘘屋氏のおっさん臭いテキストで書かれた学生の恋愛模様のエロゲシナリオを読むと、正直、「若い学生がどうしてこんなおっさん臭い会話するのかな~」と、ちぐはぐな印象がありました。
今作の舞台は、下町・浅草。江戸っ子気質が残り、さらに現代でも職人が生きている(イメージのある)街です。
そこの住人として登場する脇役たちは、車引屋のおやっさんに定食屋の名物店長、地上屋の社長など、一癖も二癖もあるおっさんだらけ。さらにそのおっさんたちのキャラクタが濃いこと濃いこと。若い職人に「ばっきゃろぅ!」と喝を入れ、豪快に「デはははは!」と笑い、「全責任を持つ!」と高らかに宣言するおっさんたちは、見ていて読んでいて痛快でした。
そのようなおっさんたちに囲まれていれば、若い学生である主人公たちもおっさん臭い会話をしていても不思議ではありません。むしろ、おっさん臭い会話をしていると、若い学生にも染み付く下町の濃さ感じさせ、また、下町の濃さを吸収して育ってきた学生たちの下町ネイティブさを感じさせる効果がありました。
普通の家庭に育ったはずの学生がおっさん臭いセリフを言うと違和感が出てしますのですが、舞台を下町・浅草に設定することで、おっさん臭い学生が地元に密着して生きる学生へと魅力的に変化しました。
また、主人公は車引屋でバイトをして職人たちに囲まれて可愛がられ、ヒロインは名物定食屋の看板娘として早くも厨房に立ち、また、クラスメイトの家はパン屋に弁当屋、お寺、漢方薬屋と、どれもこれも下町・浅草のDNAを受け継いだような学生ばかり。彼等は家の商売を背景に、テンポよくチャキチャキした会話を繰り広げている日常会話シーンは、嘘屋氏のおっさん臭いテキストが活かされて、とても読んでいて楽しい会話劇でした。
2. 声優・手塚りょうこさんのマシンガントーク!
本作のメインヒロイン、露梨子かすみは強烈でした。お節介焼きで人を引っ張る力があって、ネアカでよくしゃべる。作中の言葉通り、まさに「おかん」。下町感が凄まじい「おかん」。
それを演じるのは声優・手塚りょうこさんなのですが、それがまぁよくしゃべること!ノリノリでマシンガンのように次々とセリフを言っていきます。アップテンポのBGMに合わせて、息継ぎなしで長台詞をこれでもかとまくし立てる手塚りょうこさん。これまで手塚さんが出演するゲームを何作品かプレイしましたが、大人のおねえさん役が多かったように思います。露梨子かすみのような強烈にしゃぺり倒す役は珍しい気がしますが、案外はまり役に思えました。
3.メインヒロインによる創作料理!
嘘屋氏のテキストの魅力の一つは、読んでいるだけでヨダレが出る、創作料理の描写です。嘘屋氏の過去作品にも、ヒロインが創作料理を作る描写があるものがいくつもありました。
さて、本作のメインヒロインは定食屋の看板娘、露梨子かすみ。彼女が主人公に振る舞う創作料理がどれもこれも本当に美味しそうで、夜プレイすると夜食を食べたくなって仕方ありませんでした。また、下町のクラスメイトにパン屋や弁当屋、燻製マニアがいて、彼等も創作料理や新作メニューを披露します。焼きそば的な麺バトルやカレーバトル、創作燻製は読んでいてホントにお腹が減りました。
嘘屋氏の得意な創作料理がこれでもかと楽しめる本作は、嘘屋テキスト好きにはたまりませんでした。
以上の点で嘘屋テキスト好きの自分には本作は傑作でした。
ただ、本作のホームページなどでアピールされていた探偵要素やミステリー要素は皆無に近いので、それを期待して買った人にとっては詐欺にも等しいでしょう。
ということで、探偵要素やミステリー要素を期待している人には勧めませんが、嘘屋氏のテキストが好きな人や下町のチャキチャキとした駄会話を楽しめる人には全力で勧めたい作品です。