定められた死. 死ぬ恐怖. 人を殺さなければならない恐怖. 残された最期の刻をひたむきに生きる. このような言葉に愉悦を覚える人には全力でオススメするゲーム。ただし、シナリオの粗に目を瞑れる寛容性が必要です。
※ 私はこのゲームを評判を聞いた上で中古で購入しました。ですので期待して発売日に購入した人とは温度差があると思います。
◆ 攻略ヒロインと攻略順
攻略できるヒロインは、担任の栞先生、クラスの委員長・奏、幼馴染でクラスメイトの朝顔、転校生の晴香の4人です。
私は、栞先生→奏→朝顔→晴香の順に攻略しました。晴香は最後の攻略となるようにロックがかかっています。
◆ HCG, Hシーン
POVでも語られていますが、CGはとても綺麗です。特に夕焼け空の背景CGは全エロゲの中でもトップクラスに美しいと思います。
HCGは総計22枚(差分なし)。内訳は
・栞先生 5枚
・奏委員長 6枚
・朝顔 5枚
・晴香 6枚
Hシーンはエロかったかと聞かれたら、「あんまり...」でした。エロ目的でしたら他のイチャラブゲーをオススメします。ただし朝顔ルートは別。理由は後述。
Hシーンは各ヒロイン2つずつ、計8つです。
・栞先生 主人公を慰めるため(共通)/フェラ&騎乗位
・奏委員長 両手を縛ったプレイ/フェラ&正常位(アナル開発あり)
・朝顔 主人公の自室で正常位/神社の縁側で
・晴香 正常位/フェラ→69→騎乗位
また、早期予約特典でHシーンのアペンドディスクが付属します。これは本編のパラレルワールドで、本編クリア後に見ることができるHシーンが各ヒロイン2つずつ増加します。
・栞先生 パイズリ→背面座位/着物H
・奏委員長 拘束&スパンキング/目隠しH
・朝顔&夕顔 夕顔処女喪失&3P/サンタコスH&朝顔処女喪失
・晴香 スク水H/メイドコスH
◆ 物語の流れ
・栞先生, 奏, 朝顔ルートの場合 (晴香ルートは後述)
クラスメイトかつ朝顔の双子の妹で幼馴染の夕顔が怪人化し、主人公が彼女を殺害
↓
ルートごとに異なる問題がクラスに発生し、それをみんなで解決する
↓
解決し一安心したら、一組のクラス内カップルが同時に怪人化し、主人公がそれを殺す(朝顔ルートでは時間差あり)
↓
そのルートのヒロインも怪人化し、やっぱり主人公が殺す(奏ルートは変則的だけど、最終的に死亡)
↓
悲しみのあまり主人公の能力が暴走し、タイムスリップ
↓
怪人へと改造される前に自分やクラスメイトらを救出しようとするも失敗
↓
たまたま居合わせた晴香にメッセージを託し、主人公は死ぬ
◆ あらすじ, 背景
主人公とクラスメイトたちは謎の組織に拉致され、怪人へ変身する改造を施される。しかし、設備トラブルにより主人公とクラスメイトは脱出することができた。
改造が不十分だった主人公は行動の制約はなく特殊能力を自由に発動できるが、他のクラスメイトは行動に制約があり、また怪人へと変身すると体を自分の意思ではコントロールできなくなり、殺戮マシーンと化す。ただし、意識は元のままなので、意に反して勝手に動く体が人を殺そうとするという生地獄を味わうことになる。
部外者に事情を説明することは改造のためできなくなっており、唯一自由に行動できる主人公が怪人化したクラスメイトを殺害することがクラスで決定される。このことで、主人公はクラスメイト全員を殺す運命が定められ、クラスメイトは怪人化したら主人公に殺される運命が定められた。
そうして、一人また一人と主人公が怪人化したクラスメイトを殺していくようになる。
怪人化したヒロインを殺したとき( or 巻き添えでヒロインが死んだとき)、悲しみのあまり主人公の能力は暴走し、過去へとタイムスリップし、謎の組織へと拉致される日に戻る。
晴香ルートでは最終的に白スーツの首謀者(以下、白スーツと呼称)の元にたどり着くが、なんと首謀者は別世界から来た主人公だった。時空跳躍能力を持つとある並行世界の主人公が、世界を己の望む姿に書き換えようと画策し、戦力として数多くの並行世界の主人公を拉致・改造・マインドコントロールをして手下にしていた。さらに、支配下に置いた別世界の主人公も使役してネズミ算式に多くの並行世界を侵略していた。白スーツもそのようなマインドコントロールを受けた異世界の主人公の一人であり、主人公を改造したのも侵略の一環だった。クラスメイトを怪人へと改造したのは実験であった。
しかし、この世界の主人公はマインドコントロールを受け付けない「真の不適格者」という希少な存在であり、最終的に白スーツを倒し、囚われていた過去の主人公やクラスメイトを解放する。未来から来た主人公はここで命が尽きる。
◆ ルートごとの感想(点数は参考までに)
・栞先生ルート 60点
婚約者がいた先生は事情を説明せずに一方的に婚約の破棄を婚約者に伝えたため、元・婚約者と彼が雇った探偵が身辺調査を開始する。その目を欺くためにクラスで一芝居うつ過程で、主人公と先生は惹かれ合い... という内容。
べったべたなラブコメなのですが、クラスメイト全員を殺さなければならない状況とのギャップが酷く、気が削がれました。
・奏ルート 73点
近い将来死ぬことが定められているために恐慌状態に陥る桑田さん(女)と豊島くん(男)。前向きにピアノの練習を続ける奏さんの姿が彼らの心を解きほぐして行きます。
このルートでは、前を向き歩み続ける強さとその美しさを見せつけられました。遠からず死ぬからといって投げやりにならず、逆に有限の生を精一杯生き、思い残しのないようにひたむきに過ごす姿は本当に美しく、輝いていました。
前向きな強い女の子だなと思っていたら、主人公のことを2年以上も前から密かに思い続けてながら、一切その素振りを見せなかった奥手ちゃんでした。奥手でありながら「主人公に綺麗な自分を見て欲しいから」と髪や肌のケアを欠かさなかったり、初HでのソフトSMが被征服感があって嬉しいと言ったり。この娘ちょっと怖いです。
・朝顔ルート 83点
[純との友情]
主人公と同じサッカー部である純との殺し合いがあるこのルートでは、彼らの友情の深さが光っていました。純が怪人化し主人公と殺し合うときは、サッカー部の思い出の試合になぞらえて主人公を鼓舞し続け、主人公も同じくサッカーの言葉でそれに応え、2人で勝利を掴みとりました。主人公と怪人が戦っている状況でありながら、2人で協力して敵に立ち向かっていると思える熱い展開でした。
そして、自分にとどめを刺すときも、安らかにその背中を押す彼の台詞が、2人の友情の深さとかけがえのない友を殺さなければならない悲劇を際立たせました。
[Memento mori; 死を想え]
双子の姉妹である朝顔と夕顔。姉の朝顔はスポーツが得意で活動的な女の子で、大雑把なところがあります。妹の夕顔はピアノが得意で家庭的な性格です。2人とも幼馴染の主人公のことが好きだけれども、互いに遠慮しあって好意を言い出せずにいました。
そんな中、夕顔が怪人化して主人公に殺されました。
妹が死んだことで悲しみの淵にいる朝顔と、幼馴染を殺した上に朝顔まで悲しませていることで負い目を感じる主人公。最初は避けあっていた2人でしたが、クラスメイトの助けもあり2人は最終的に結ばれます。
2人の初Hですが、主人公も朝顔も死んだ夕顔のことに思いを馳せ、夕顔のことを話しながらセックスしていました。そして、事後の余韻が残る中、朝顔は自分が死ぬときのお願いを主人公にし、主人公はそれを受け入れます。セックスの最中に死者について語り合い、『いずれ自分は彼女を殺す/自分は彼に殺される』と互いに思い合い、事後にその話題を出す。初Hなのにも関わらず死者の影が付き纏い、死者の思いを想像し受け入れ、自分の死を想う。性の営みと死が一体となった素晴らしいHシーンであり、とても甘美でした。
朝顔ルートに2回目のHシーンでは、朝顔の額にマークが現れた後のことです。朝顔は自分が死ぬ恐怖、最愛の人に殺される恐怖に慄きながら、主人公は最愛の彼女を殺さなければならない恐怖に震えながら、セックスをします。殺す/殺される ことが決定づけられた男女がその運命に涙しながら、体を重ね求め合う。
死者を想い、自身の死を想う。この2回のセックスは狂おしいほどに愉悦でした。
死を想う, memento mori, なセックスというのは、まさに18禁ならではの物語であり、これほどまでに甘美で愉悦なHシーンにこのゲームで出会えるとは露も思わず、喝采しました。
・晴香ルート 70点
タイムスリップした主人公と3回出会い、主人公の状況を全て理解している転校生。彼女が新しい風をクラスに吹き込み、クラス全体を明るく前向きにさせます。
彼女の献身っぷりはなかなかのもので、何度天使に見えたことか...!
最後のルートで、風呂敷が回収されなかったことが露呈したのでこの点数になってしまいました。
◆ シナリオ
【良かった点】
1.悲惨な殺し合い
主人公が闘い殺す敵は、怪人化したクラスメイトです。彼らは特殊能力を発動させて、主人公を殺そうと襲ってきますが、意識は人間だったころのままです。つまり、体は操られて襲い掛かるのですが、心は普通の生徒。殴られれば痛いと叫び、負傷し血を流す主人公を本気で心配し、怪人化した自分を止めるように主人公に懇願します。
そのため、バトルシーンでは
・自分の攻撃の意図を主人公に伝える
・自分のせいで負傷した主人公を気遣う
・殴られると絶叫して痛がる
・自分に激痛を与える主人公を鼓舞し、さらに攻撃するよう促す
という非常に悲惨な展開になります。
そこには、燃えゲーに見られるようなバトルの爽快感も酩酊感も熱い展開もなく、望まない殺し合いをしなければならない悲劇しかありません。
加えて、「クラスメイトを殺さなければならない」という運命を背負わされた主人公が、優しすぎるのもまた悲劇です。クラスメイトを殺すのが最良の方法だと理屈の上では理解していても、彼は非情に徹することができません。
主人公は殺し合いの最中でも、殺すことでしかクラスメイトに安息を与えられない自分の無力さを悔やみ、死に瀕していても自分を赦してくれるクラスメイトの優しさに申し訳なさを感じ、激痛に苛まれ血だるまになるクラスメイトに涙します。
このような状況の殺し合いは全ルート通して11回(たしか)あり、その悲惨さは私に強く印象づけました。私はこのような悲惨な状況を愉悦をもって消費し楽しむので、多くの悲劇があり愉しめました。一方で、人によってはクドいと感じるのも、11回もあるのでやむかたなしとも思います。
2.死を想う若人たち
自ら手を下す必要がある主人公は大いに苦悩し、殺した直後は自暴自棄になり感情の制御ができなくなることもしばしばでした。
それに対して殺される側のクラスメイト達は、一時死の恐怖に取り乱すことはあっても、最期には静かに死を受け入れているように振舞っていました。怪人化する運命が明らかになると、クラスメイトに別れの挨拶をし、遺される者を気遣い、励まし、先に旅立つ不義理を詫びます。また、自分を殺す役割を担う主人公を気遣い、恨んでいないと安心させ、躊躇なく殺すようにその背中を押します。カップルで怪人化するときは、死に瀕していながら互いに声を掛け合い、愛の言葉を囁いていました。
周囲に掛ける言葉にも、主人公を安心させる台詞にも、カップルで怪人化したときの互いの気遣いにも、クラスメイトと先生の計10人それぞれの人生が映し出されていました。彼ら彼女らの最期の言葉と行動は、その人生を象徴しているようで見ていて美しいものでした。
また、クラスメイトが一人また一人と減っていく状況では、自分の生も有限であることを意識せざるを得なくなります。そのようなときにこそ、前を向き日々の生活を大切にして、後悔しない生を全うしようとする彼らの姿は、ひたむきで儚く感じました。有限の生を精一杯生きようとする彼らの姿勢は、死を意識することでより鮮烈に輝いていました。
【不満点】
1.エンディング後の主人公はどうなるのか? (考察を含みます)
白スーツは、時空跳躍能力を持ちながらもマインドコントロールされていない、即ち”真の不適格者”である主人公を「希望」と呼んでいました。「希望」とは、真の不適格者が生き残り、能力が開花する前の元凶の異世界の主人公を最終的に殺すことで、数多の並行世界の主人公(とクラスメイト?)を悲劇から救うことを指していると想像できます。しかし、この世界の主人公は目の前の敵である白スーツを殺すことが精一杯で、この世界の主人公とクラスメイトを魔の手から救い出して力尽き、死亡してしまいました。その結果「希望」は達成されず、この世界には改造前の主人公が残りました。
さて、そこで私はエンディングを迎えた後の展開を3つ想像してみましたが、残念ながらどれも明るい未来ではありませんでした。
1つ目の可能性は、次のエージェントが派遣されて、結局主人公とクラスメイトは改造されてしまうことです。白スーツによる改造は、未来の主人公が介入していたために不完全だったのですが、未来からの介入のない状態では完全に改造されてしまうでしょう。作中で主人公がマインドコントロールを受け付けなかったのは、改造が不完全だったためなのか、生来的にマインドコントロールを受けない体質だったのかは明言されていません。もし前者であれば主人公は敵の手先となり BAD END. 後者であれば主人公は"真の不適格者"として覚醒しますが、おそらくクラスメイトを全員殺さないと助からないでしょう。後者であれば「希望」が達成される余地はありますが、主人公はゲーム本編での苦しみを今一度
味わうことになります。
2つ目の可能性は、別世界の”真の不適格者”がこの世界の主人公に接触し、元凶を殺す戦いに巻き込むことです。白スーツは主人公の額のマークを一目見て、「そのマーク、不適格者か!」と不適格者であることを見抜きます。ここから、不適格者のマークやその存在には前例があることが分かります。その前例である人物が別世界からやってきて、共に元凶と戦うように働きかける可能性があります。一人で戦うよりは徒党を組んで挑んだほうが勝率が上がりそうですから。この場合が最も「希望」が達成される可能性が高いと思いますが、永い戦いに主人公が身を投じることに他ならず、平和を望む主人公にとっては悲劇でしょう。このような展開になったら続編が作れそうですね。
3つ目の可能性は、この世界だけは永久に侵略から逃れることができることです。その場合は、確かにこの世界の主人公とクラスメイトは普通の一生を送ることができますが、それ以外の世界では引き続き元凶による侵略が展開されるでしょう。白スーツが「希望」と呼び望みを託したのも虚しく、当の本人は何も知らず能力を眠らせたままで、周囲の世界では侵略され続け真の不適格者による救済を待ち続ける。こんな皮肉な結末になるでしょう。
侵略者に再度襲われるのか、侵略者に立ち向かうのか、侵略者から無視されるのか。いずれの道があるにせよ、無限に広がる並行世界で侵略が進んでいる以上、ゲーム本編で掴みとった勝利は侵略の全貌から見ると一戦闘でしかなく、勝ち得た平穏は一時の安息に過ぎないことが分かります。
ゲーム本編の最後は「全ての問題が解決しました!」感があふれていますが、冷静に状況を分析してみるとそんなことはありませんでした。むしろ設定のせいで「全ての問題は解決できないんじゃないの?」とさえ思ってしまいます。大きな風呂敷を広げておいて畳まずにエンディングを迎えたゲームには「考察の余地がある」とも「投げっぱなしのシナリオ」とも言えますが、私には後者のように感じました。
2.粗だらけの設定
全寮制&担任が隠蔽工作をしていたとはいえ、クラスメイトが次々に失踪していても学校側が気づかないのななんで?とか、どうして改造途中で脱走した主人公やクラスメイトを敵は襲わなかったの?とか、事情を外部に話せないのなら文書で伝えればいいんじゃない?(夕顔の日記帳のように)などと疑問は尽きません。批評空間の他の長文感想でも指摘されているように、このシナリオは穴だらけです。
中でも私が最も理解できない不備は、「額のマークが出た段階で殺害すればよかったのでは?」というもの。作中では、額にマークが出て怪人化することが分かった後、変身するまで数時間の猶予がありました。主人公は怪人に変身するまで大人しく待ち、変身して特殊能力を発揮できるようになってから初めて戦いを挑みます。
人としていられる最期の時間を長く取ってあげたいという配慮は分かりますが、変身が学校のチャイム = 変身する特定の時間が分かっているのなら、その数分前に殺しておけば主人公も無駄に体力を消耗することはなかったでしょう。変身した後殺害しても、結局とどめを刺す時は元の人間の姿をしているので、罪悪感はさほど変わらない気もします。
この穴に一度気づいてしまうと最期の別れのシーンも「変身前に殺しておけばよかったのに...」と冷めた目で見てしまい、興が削がれてしまいました。
以上のように、このゲームの欠点は畳まない大風呂敷と粗い設定に尽きます。特に、ハッピーに見せかけて全然ハッピーじゃなかったエンディングは、物語の収束を望んでいた私にとっては大きな痛手でした。
一方で、上記の考察をしたうえで偽りのハッピーエンドを眺めると、その虚飾性もまた大きな愉悦をもたらすのですが、さすがにシナリオの粗を愉悦に変換することはできませんでした。
◆ 総括
Memento mori. 死を想え.
死を想いながら精一杯生きる姿、死を前にして恐慌する姿、殺し続けなければならない慟哭。
これらに愉悦を感じる私にとってとても愉しいゲームでした。
一方で、投げっぱなしのシナリオと穴だらけの設定が目につきすぎる、なんとも残念なゲームでした。