挫折と成長の物語。学生時代から長らく忘れていた感覚を、再び味あわせてくれました。
メーカーの前作である「恋と選挙とチョコレート」の人気や発売する前からアニメ化が決定したことなど、良い意味でも悪い意味でも話題性に溢れた本作でしたが、蓋を開けてみれば、王道で丁寧に作られた非常に完成度の高い良作でした。
欠点がないわけではありませんが、それらを全て忘れてしまうほどに読後感が素晴らしく、すっきりした気分で終えることができました。
感想ですが、まず「フライングサーカス」という架空のスポーツを、ここまでの完成度を持って表現したことを賞賛したいです。
空を自由自在に駆け巡る、という誰しもが一度は夢見たことがあるのではなかろうかというステキ妄想を土台として組み上げられており、空という舞台にしたことで作品にさわやかで清涼感のある印象を持たせています。なおかつ、駆け引きや近接戦闘による熱さも取り入れていて、プレイヤーに「やってみたい」「見てみたい」というような興味を持たせることに成功していると思いました。
私は、正直に言って発売前はこのゲームに対してあまり興味がなかったのですが、話題作ということもありなんとなく予約してプレイしてみた結果、フライングサーカスを通して開始して数時間も経たないうちにこのゲームに惹きこまれてしまいました。まあ空を飛び回るという、それだけで絵になるような行為を美少女たちがエロい服を着て対決するとか堪らないんですよね(男もいるけど。
また、作中での説明を惜しまなかったのも良かったです。まあ架空のスポーツなので説明が足りなかったらそれだけでアウトでしょうが、フライングサーカスを違和感なくプレイヤーに受け入れさせたのは大きいですね。
次にシナリオ。
フライングサーカス(以下FC)では過去に天才と持て囃されたが素人に大敗北したことをきっかけに挫折した主人公が、
転校生である倉科明日香に空の飛び方を教えるうちに情熱を取り戻していき、FCのコーチという立場を取ってヒロインたちと勝利を目指しながら成長していくスポコンものです。
全ルートに共通して言える事柄として、さわやかな見た目とは裏腹に「挫折」や「敗北」、「嫉妬」といった暗いものをテーマにしており、最終的にはそれらを乗り越えて勝利するという展開。スポーツを取り扱う作品としては王道のシナリオ運びですが、FCの未開拓性や魅力的なサブキャラたち、主人公の役割等の要素がうまく絡み合っていて、この作品ならではの面白さを上手く出せていると感じました。
欠点を挙げるとするならば、ルートによっては特定のヒロイン(特に真白)が気の毒なほどに相手にされなくなってしまうこと、個別ルートに入るとみんなで楽しくワイワイやるような部活動らしさが薄れてしまうことですかね。
その他にも細かいところで描写や掘り下げが足りなかったりするところも見受けられました。そういったところはFDなり何なりで補完してくれるとありがたいのですが、恋チョコにFDが作られていないことを考えると望み薄ですかね。せめて我如古繭に活躍の場を与えてやってください。
以下ルートごとの感想。攻略順は莉佳→真白→みさき→明日香でした。
・莉佳ルート
主人公宅のお隣に引っ越してきた娘っ子。
頭が固く、楽しんでFCをやるということがいまいち理解できずに伸び悩む彼女がそれを乗り越え、かつての友人だがラフプレイを積極的に行い他人を傷つけるようになってしまった黒渕霞の目を覚まさせる話。
莉佳の弱点克服には黒渕霞というちょっと病んでる人間は絶好の相手であり、FCを楽しむということを理解し強くなった莉佳の主張により霞もまたFCを楽しむということを思い出し、改心する。
憑き物の落ちた霞ちゃんの変わり具合はまるで別人になったかのようでちょっと笑ってしまいましたが、まさに王道と言えるような莉佳の成長と霞を改心させるという熱い展開で楽しめました。
何より莉佳が可愛い。垢抜けた莉佳の甘えっぷりは撫で回したくなるほどの可愛さだし、フライングスーツでエッチしてくれるのもこの娘だけでした。
・真白ルート
みさき大好き後輩ちゃん。
みさきや明日香のような才能ある人間たち比べたら凡人であり、ただひたすらに努力することで才能の塊であるみさきに勝利しよう、という話。
努力しても報われずに、一人こっそり涙する真白が印象的で、部活動に限らず同じような経験をした人なら共感できる話じゃないかな。
練習試合でも一勝も上げられずに一人で泣いてる真白を見て自分も泣くおっさん(俺。うん、地獄絵図だね。
それはそうと、このルートは他のルートよりも恋愛要素に力を入れていました。他のルートではあまり報われない真白ですが、自らのルートでは本気を出しちゃうぜと言わんばかりの真白のデレっぷりが素晴らしい。
最初は主人公への敵意が剥き出しだったけどデレて主人公への恋を自覚し、主人公に褒めてもらうと自分の部屋で悶えちゃう真白が堪らなく可愛いです。
イチャラブ描写も多く、恋愛ゲームとしての満足度はこのルートが一番高いかな。
ただ何故エロシーンでニーソを脱がせた。
・みさきルート
才能があり、周りからもエースとして期待されていたが、さらに上を行く天才である明日香の登場により自尊心とアイデンティティが崩壊しかけ、そして挫折してしまったみさきが主人公の説得によって立ち直り、そこからすさまじい努力を重ねて明日香を打倒しようとする話。
とにかく序盤はみさきに感情移入しすぎてしまい辛かったです。圧倒的強さを持ち、憧れの存在だった真藤さんを完膚なきまでに叩きのめした乾沙希、そんな沙希と初心者にも関わらずかなりの接戦を繰り広げた明日香。そんな「才能」を見せ付けられてしまっては、みさきでなくても打ちひしがれてしまうでしょう。
どんな状況でも決して折れることなく、急成長を遂げていく明日香の姿を見て”バケモノ”と思ってしまっても無理はありません。
しかし、だからこそこうして挫折を味わってしまったみさきが主人公のためにと立ち上がり、「勝ちたい」と願いながら天才を打倒するために必死に努力する姿は熱くならざるを得ませんでした。
この泥臭さがスポーツものの醍醐味だと個人的には思っているので、このルートはプレイしていて感動しっぱなしでした。
みさきというキャラクターのクセの強さも面白さに一役買っていたと思います。普段は飄々としていながらも、自分の才能を疑わず、才能だけで今までやってきたために
それ以上の存在があらわれてしまうといとも簡単に壊れてしまう。そんな面倒くささが彼女の欠点でもあり魅力でもあると思います。
主人公の挫折の原因となったみさきの挫折、そこから二人で助け合うという関係性もよかったですね。主人公についてを一番掘り下げていたのもこのルートでした。
あとクンニが素晴らしかった。全キャラエロが2回だと思っていたので3回戦目に突入したときは嬉しかったです(けどそれなら莉佳の私服エッチも欲しかった。
覆面さんを攻略させてくれてもいいんですよ!
・明日香ルート
いろいろと規格外である沙希を打倒するべく、その上をいく規格外に明日香を育てよう、という話。
共通やみさきルートのおかげで完全に”バケモノ”という印象を持ってしまった私は明日香ルートを楽しめるのかと不安だったのですが、きちんと向き合えば明日香だって人間だった、ということがわかります。まあ当たり前なのですが、共通での明日香が笑顔で沙希と真藤さんの試合を観戦するシーン、あれにはマジもんの恐怖を覚えました。
FCをただひたすら楽しむことができる明日香はどんなことがあっても決して折れないけど、ことプライベート戻ってしまえばただの恋する女の子で、そんな事実に衝撃が
走ってしまうのは果たしてライターさんの思惑なのかそうでないのか。
最初から強者である明日香のルートなだけあって、戦う連中も強者ばかり。そんな人たちとの試合や特訓でかなりの成長を遂げた明日香と沙希のラストバトルはやはり規格外でした。
正直このルートは最後に攻略できるようロックをかけた方がいいと思うのですが、そうしなかったのには何か理由があったりするんですかね。
・FINALE
主人公がFCを始めるきっかけを与えてくれて、そして挫折した後も優しく見守っていてくれた葵さんとの決別が描かれています。
短いながらも、このシナリオを最後に持ってくることでさわやかな読後感を与えてくれました。
楽しめた順で言えば
みさき>明日香=真白>莉佳
でした。とは言っても全ルート一定水準以上には楽しめたので、大満足です。
ビジュアル面はかなり安定していました。思った以上にヒロインの表情がころころ変わるので見ていて楽しいですし、一枚絵には凄みのあるものや緊迫感の伝わってくるものもありとても良かったと思います。
システム面で特に不備はなかったかなと思います。このくらい充実させてくれれば文句はありませんね。
エロゲではあまり見ないスポコンものとして非常に良くできた一作でした。テンポよく進むためダレずにプレイすることができますし、波長が合えばかなり感動し熱くなれる良作だと思います。FDが出たらもちろん買いますので、spriteさん是非ご一考くださいお願いします。