【処占厨は買ってはいけない】「計算通り」なのか「天然の悪意」なのか「偶然の奇跡」なのか。「破綻」と「詭弁」で描かれる七変化シナリオは読めば読むほど理解できなくなっていく。プレイヤーに「どうすりゃいいですか?」と思わせた時点で企画の勝利なのだろう。主人公ゲーです。美岬ルートのみネタシナリオで、他はがっつりシナリオをやります。 (共通83点 奈々瀬85点 礼88点 美岬70点 文乃78点)
※ネタバレあります。
インストール容量は4.37GB (Ver1.0.2)
●《片桐奈々瀬》
CG11枚 (通常CG8枚+HCG3枚) 回想3枠
●《渡会ヒナミ》
CG13枚 (通常CG7枚+HCG6枚) 回想5枠
●《畔美岬》
CG8枚 (通常CG3枚+HCG5枚) 回想4枠
●《琴寄文乃》
CG11枚 (通常CG6枚+HCG5枚) 回想4枠
●《冷泉院桐香》
CG4枚 (通常CG1枚+HCG3枚) 回想2枠
●《糺川礼》
CG5枚 (通常CG2枚+HCG3枚) 回想1枠
●《女部田郁子》
CG5枚 (通常CG2枚+HCG3枚) 回想2枠
●その他
CG11枚 (通常CG6枚+HCG5枚) 回想5枠(本編3+オマケ2)
SD絵はなし
合計CG68枚 回想27枠
BGMは33曲 ボーカル曲は3曲
※実妹の《橘麻沙音》は非攻略キャラでエロいシーンは皆無です。
画面サイズは1600×900。
CGはやや少な目。その代わりバトルシーンやカットイン素材は豊富にあるので不足は感じませんでした。
エロは全然ダメです。
バックログからのシーンジャンプ機能が実装されていません。
その代わり、シナリオ選択機能がついていて全シナリオを読み返すのが楽です。
まず、この主人公は自分で決めたルール=「矜持」を守ってないです。
愛のないセックスはしないと言っておきながら、《美岬》ルートでは積極的に不特定多数の非処女に膣出しをしています。
「誇り高き童貞」と言っておきながら、《奈々瀬》ルートではこの言い訳も苦しくなってきたと、矜持がただの詭弁であることを認めています。
この童貞発言はうんざりするくらい続きます。詭弁である=「《淳之介》の本心ではない」と判明しているのにも関わらずです。
ゲーム中にも出てくる「マッチポンプ」。あえて破綻した童貞理論をゲームキャラに言わせることで童貞にネガティブなイメージを植え付けようとしています。
『ぬきたし』スタッフさんは「処女厨」「童貞」「純愛」に対し強烈な敵意があるのは間違いないでしょう。
「いやいや『ぬきたし』は馬鹿ゲーだからそこは突っ込んじゃ駄目でしょ」という声はあると思います。
サブライターさんが書いた《美岬》ルートのみなら「わざと馬鹿設定にしている」の言い訳が通りますが、
本作のテーマは「マイノリティ」であり、少数派は心の底から本音で主張しなければテーマ性にならないのです。ギャグや皮肉や詭弁で逃げてはいけません。
他のエロゲーだと「動くな。童貞だ」「任天堂よりクロシェットだ」等があります(よりによってこの2つ)。
ライターもしくはキャラクターの本音がそこにあります。ネタ発言だとしてもポジティブな意味があり(一応)本気なんだと思います。
でも『ぬきたし』はほぼ全てネガティブ発言であり、《淳之介》の主張は破綻・詭弁であり本音ではない。つまりライターさんの本気の主張ではないのです。
動機 → 詭弁=間違っている
目的 → ドスケベ条例を潰す=結果として間違っている
このゲームは主人公の破綻した理念に自問自答を繰り返す物語です。
破綻を詭弁でどう繋ぐか、もがき苦しみながらも答えを探す。答えが間違ったものだとしても、という変なシナリオです。
だからこのゲームの「マリノリティ」の主張は心に響きませんでした。「本気でない」「破綻している」ですもの。
でも本当に破綻なのか?がプレイしていくうちに確信が持てなくなっていくんですよね。
例えば、誰もが最初に思いつく「《橘》兄妹は性乱島から引っ越したら?」のツッコミがあります。
過去のトラウマから、金銭問題やプログラムスキルを活かした仕事探し、さらにはあずき相場などを詳しく考察するまでもなく、島に住む理由は皆無です。
この設定は破綻しているはずなんです。
「何も考えていない」「お約束に突っ込んではいけない」「わざと確信犯でやっている」「ギャグの一環」「詭弁で設定補完している」などが考えられますが、
もしも「引っ越さないことに意味がある」としたらどうでしょうか?
SSの人たちは金銭問題で仕方なく奨学生(not小学生)をやっています。島に住むしかない生徒も存在します。
《橘》兄妹の定住はネタのはずですがSSの定住はガチの理由があります。同じ設定の中にネタとガチを同居させているのです。
さらに《仁浦知事》はドスケベ条例を世界に広げると明言しています。今は島の中だけの問題ですが、もっと広い視点で見ると世界中で起きている問題かもしれません。
これは「考えすぎ」のような気もしますが、もしも引っ越しネタを計算して狙ってやったものだとしたら?恐ろしいことになります。
一番わかりやすいネタ→ガチの例は《文乃》ルートで「ユートピア」と「ディストピア」が逆転するところですね。ここは確実に計算通りでしょう。
インポは病気であり差別発言にも繋がります。
ところがこのゲームは「インポ」発言を平気で言います。《礼》ルートでは差別と書いてあるので、確信犯で禁句(タブー)を使っているようです。
ネタ発言に見える「ロリじゃないですけど!」も先輩にとっては身体的コンプレックスなんです。
「ロリじゃないですけど!」発言に『ぬきたし』のテーマ性が隠されている……そんな馬鹿な……!?。
プレイ中「この設定は多分こうなんだろう、このゲームが伝えたいことはこれなんだろう」と色々考えました。
そして次のルートで想定とは違う設定が当たり前のように出てくるんです。『ぬきたし』は設定やテーマ性の予想が何1つ当たらない困ったゲームです。
設定破綻の不条理ゲームなのか、私の考察が大間違いで実は整合性が取れているのか、隠れたテーマ性があるのか。もう完全にわけわからなくなりました。
何を書いても「この考察で本当に合っているのか……わからない……わからない……」となるのであと3つだけ書きたいことを。
■■冷泉問答
禅問答。
わざと主人公におかしなことを言わせて、敵さんに論破してもらう話は楽しかったです。《淳之介》の「誇り高き童貞」発言は苦し言い訳だと判明しています。
このゲームのテーマは「マイノリティ」より「コンプレックス」のほうが正しいと勝手に解釈しています。
少数派であることを自分でポジティブに感じておらず、ネガティブだからです。他のキャラ・設定も全部ネガティブな「コンプレックス」です。
さて《桐香》は《淳之介》の巨根コンプレックス(破綻したインポ設定はネタだと判断します)の解消方法を提案します。
他のキャラも巨根を狙っていますがそれには目的があり、個人的興味のみなのは《桐香》だけです。
「救済」や「融和」が《桐香》の主張なのです。エロゲーはストーキングしてお悩み解消のお手伝いをするのが定番ですからね。
それに対する《淳之介》の回答
>【淳之介】
>「俺たちにはな――!」
>【淳之介】
>「普通の人間には、隠しておきたい部分というものが必ず存在する!」
>【桐香】
>「秘密を作って、否定されることを恐れているのですか? そんなものがなければ、人は幸せになれると――」
>【淳之介】
>「そうじゃない! 内に秘めていることこそが大切で、守らなければいけないことなんだ――!」
>【淳之介】
>「だいたい誰にでも自分を理解してほしいなんていうのはなあ! 生まれたての赤ん坊が言うことなんだよ!!」
>【淳之介】
>「甘ったれが!! 大人じゃないんだよ!!!」
この主張は私の想像を遥かに超えるもので、かつ謎の説得力がある発言で大変感心しました。
誰もがネガティブなコンプレックスを抱えたまま生きていく――それは他者と決して相容れないものである。
この発言が出るまで私は完全に《桐香》持ちだったのですが、心が揺らぎました。
エロゲーのお約束「お節介」を拒否し「救われない」のが《淳之介》。《奈々瀬》にすべてを理解してもらうわけでもないです。
つまり《奈々瀬》ルートはエロゲー的に王道を外しているんです。この時点では「エロゲーの王道を知らないんだな」と勝手に考えていました。
ところが『ぬきたし』はこれで終わらないんですよね。ホントどこまで計算してやっているのか怖いです。
次にプレイした《礼》ルート(《ヒナミ》ルートではなく《礼》ルートと呼ぶべきですよね?)は、《奈々瀬》ルートとの対比が見事に出来ているんです。
・《奈々瀬》ルート
○コンプレックス持ち→《淳之介》
○《桐香》が《淳之介》の悩みを解消しようとする。ヒロイン枠は《奈々瀬》
▼《淳之介》は性行為を否定し反交尾勢力として活動する
▼《淳之介》の仲間想いの部分が強く描かれている
▼《淳之介》は「救済」を受け入れない
・《礼》ルート
○コンプレックス持ち→《礼》
○《淳之介》が《礼》の悩みを解消しようとする。ヒロイン枠は《ヒナミ》
▼《淳之介》は性行為を否定するがSSとして活動する
▼《淳之介》の裏切りの葛藤が強く描かれている
▼《礼》は「救済」を受け入れる
実は2ルートで同じテーマ(性的コンプレックスと救済)をやっているんです。
《奈々瀬》ルートは王道に見せかけた邪道シナリオ、《礼》ルートは邪道に見せかけた王道シナリオになります。
私はやっぱり「救われる」王道エンドのほうが好きです。ストラップの伏線や《礼》が告白するところも良かったです。
このゲームで最も感動したパイプ椅子のシーンは、「冷泉問答」を受け入れた場合のif結末ではないかと推測します。
《奈々瀬》ルート終盤から《礼》ルートが終わるまで、私の考察が何度も揺らぎこのゲームがわからなくなって大変でした。色々考えさせる謎の魅力に敬服します。
■■《美岬》ルート
このゲームがただの馬鹿ゲーなら正しく、テーマ性のゲームなら許してはいけない設定「愛のないセックス」。
購入前は「どうせ言い訳を作って愛のないセックスするんでしょ?」と思い込んでいました。
《美岬》ルートは最初のイメージ通りではあるのですが、3ルートはがっつりテーマ性シナリオやってますしね。このルートだけ浮いています。
なので私は「能動的な愛のないセックスを認めたらこのゲームの根幹が崩れるから駄目です」と野暮な事を書くのですが。
《美岬》ルートはサブライターの「神近ゆう」さん担当とのこと。
1つのゲームでルート毎に設定が変わるゲームは良くプレイしているので普段はツッコミ弱めにしてますが、それでも「愛のないセックス」の詭弁は……う~ん。
「酢豚の中のパイナップル」理論にしましょうか。人にはどうしても許せない設定もあるのです。
『Qruppo』さんはドスケベセックスとマイノリティーのゲームだと宣伝していて、『ぬきたし』をシナリオゲーだとは言っていません。
《美岬》ルートの設定を肯定する場合、他のルートが間違いだということになり全体の点数は下がります。
『ぬきたし』のぶっ飛んだ設定は大したこと無いです。
ドスケベセックスや淫具を使ったバトルは特に何とも思わず受け入れられます。むしろ「はっきゃけがまだまだ足りない」と思うくらい。
《美岬》発言はクスっと笑ったところも少しありますが、まあ大したこと無かったです。
『ぬきたし』内では《淳之介》と《麻沙音》のボケツッコミの応酬が一番楽しかったです。このゲームは主人公ゲーですしね。
>【手嶋】
>「ぐ、がっ……ド畜生が! なんだこのイカれた車両は!? どうやってここまで来やがった……!!」
>【美岬】
>「愛ですよ愛ぃっ!!」
「神近ゆう」さんへ。設定は守らなくてもせめて「物理法則」くらいは守ってください。
このルートは酷評する予定だったのですが、《短小包茎》とのラストバトルの《淳之介》の《美岬》愛で腹筋崩壊しました。
>【淳之介】
>「世の中には、二種類の人間がいる」
>【手嶋】
>「何――?」
>【淳之介】
>「美岬と――――美岬以外の人間だ」
>【手嶋】
>「あっ…………悪役かテメェはよぉおおおおおおお!!」
>【淳之介】
>「俺は、美岬以外の人間には容赦しない」
>【淳之介】
>「そして、この子は美岬ではない」
>【淳之介】
>「理由は――――それだけで十分だろう?」
ごめんちょっと何を言っているかよくわからない(笑)。
常に予想を裏切る、私の想像の遥か斜め上を行く。『ぬきたし』とはいったい……うごごごごごごご。
■■共存は無理無理かたつむり
ここは酷評します。
《防人老人》の行動はそんなに間違ってないと思うんですよね。復讐劇という意味で。
ただ《文乃》を無駄に傷つける必要は無かったですが。
「倉骨治人」さんはリョナ、迫害、コンプレックス、不幸属性など、自分で作り出したキャラ達に優しくないです。
一時は「《淳之介》はライターさんに嫌われている説」まで考えました。
また《防人老人》が島に来る意味もあまりないですね。さっさと《麻沙音》の処女膜を破壊して絶望する「NLNS」メンバーを虐殺しておけばよかったのです。
このゲームだけでないですが、敵さんが手を抜くバトルは個人的には嫌いです。
そして《仁浦知事》は結構好きなキャラです。彼が語るエセ「空想」政治論は胡散臭くて面白かったです。ネタ屁理屈は嫌いですが理屈ある屁理屈は好きです。
《淳之介》は最初から色々間違っているキャラです。矜持も目的も。
ドスケベ条例を潰した後にどうなるかくらい考えないで行動していたのです。だから《防人老人》の復讐劇は一応納得できるんです。
マジョリティがマイノリティになる展開を可哀想に描いていますが、これおかしいんですよね。この展開を皮肉と捉えて楽しんでいました。
歪んだ復讐を見て過去を振り返っていけないと知り、今まで嫌っていた非処女と性乱島を受け入れる。やりたいテーマはわかるのですが、
その根拠が仲間想いという「王道」に頼り切っているんですよね。非王道のマイノリティのゲームのはずなのに都合よく「王道」を使っているんです。
《礼》ルートは《礼》の物語ですから『ぬきたし』の世界観に合った「王道」が使えましたが、
《淳之介》中心の「邪道」シナリオを書いてきた《奈々瀬》ルートと《文乃》ルートは「王道」を使ってはいけません(もしくは部分的使用に限る)。
結末を《文乃》に委ね自分の主張ではないのは大変残念でした。男なら答えは自分で出さないと。誰かに相談してもいいです。
男3人とも「娘の仇」「嫁の望み」「恋人の理想」と自分の行動を他者のせいにしています(笑)。これは酷い。
ここからもこのゲームのキャラが本気の発言をしていないと感じます。自分の矜持は自分の言葉で言いましょう。
>【淳之介】
>「なぜなら世の中は、それほど完璧にできているわけではないと、皆が知っているからだ!」
>【淳之介】
>「そして同時に――真なる世界は、やはり美しいものであってほしいと誰もが願っているんだ!!」
真・ラストバトルではこの台詞が印象に残っています。
いや、世の中の完璧を語る前に自分で作った『ぬきたし』世界の設定破綻をどうにかしようよ、とライターさんに言いたいです。
共存は理想的ですが、このゲームで一番頭良さそうな《仁浦知事》は共存ではなく強制を選んでいます。
それは私が好きな「冷泉問答」で答えが出ていることで、コンプレックスは他者に理解されず救済も拒否しているからです。
『ぬきたし』ではマジョリティとマイノリティは分かり合えないと定義しています。SSはよく裏切って仲間になりますが、歩み寄りを見せたわけではありません。
両者が共存する意味はあるのでしょうか?ゾーニングしようとすぐにトラブルが発生するに決まっています。これこそ「後のことを考えない行動」なのです。
三者バトルも分かり合えないものを一緒にするとどうなるかを示しています。
だから共存を選ぶくらいなら、それこそ島から引っ越して住み分けを選んだほうがずっといいでしょう。
そもそも性乱島自体が隔離施設なので、条例違反者に強制ではなく追放するのが普通です。
《文乃》ルートは特に引き渡し後の展開が雑に見えました。《文乃》の奪還イベントや《短小包茎》師匠との修行等がシーン飛び飛びで入れ混じり構成が悪いです。
きっと開発終盤でシナリオを書く時間が無かったのでしょう。
■■総評
面白かったです。
ですが、手放しで褒めてはいけないゲームでもある気がします。
テンポのいいテキストと掛け合い、パロティのセンスなどが光ります。
主人公の《淳之介》のゲームであり、謎理論と行動力のある主人公、そしてコンプレックスで悩み苦しむ姿は(論理破綻しているので感動はないですが)良かったです。
恋愛描写はそこまで悪くないですが、エロシーンは軽視しています。
一方で設定は大きく破綻しています。でも設定無視の純100%馬鹿ゲーではないシナリオ展開があります。
破綻を詭弁で無理矢理通すパワー、本当に設定は破綻しているのかわからなくなる展開、馬鹿なのか本気なのか、プレイヤーを悩み考えさせる異次元シナリオです。
プレイするごとに印象が変わる、考察が変わる、本当に自分でもよくわからない七変化シナリオでした。
間違いなくシナリオゲーなのですが、「倉骨治人」さんのシナリオとテーマ性をどう受け止めるかはプレイヤー次第です。
なお「処女厨」「童貞」「純愛」への攻撃が凄まじいです。処占厨には核地雷なので神経質な人は買ってはいけません。
最後に謝罪。このゲームを完全に侮っていました。すみませんでしたm(__)m。
全編《美岬》ルートみたいなノリだと勝手に思い込んでいたんですよね。
エロゲーはやはり自分の目で確かめないと駄目ですね。
このゲームは長文感想を書くのがとても大変でした。書きたいことがちゃんと書けたかわかりませんが、
もしも誰かの参考になってくれれば幸いです。