【ループ】主人公がキャラが濃すぎる下ネタギャグ。ミステリー要素もあり最後まで一気にプレイしたくなる「先が気になるシナリオ」は魅力的。それだけにラスト30分だけがホント残念。
インストール容量は3.86GB
アペイリア CG19枚(通常CG12枚、HCG7枚) 回想5枠
桐島三羽 CG17枚(通常CG11枚、HCG6枚) 回想5枠
東ましろ CG15枚(通常CG9枚、HCG6枚) 回想4枠
一久遠 CG14枚(通常CG8枚、HCG6枚) 回想4枠
ましろ&久遠 CG2枚(通常CG0枚、HCG2枚) 回想1枠
沙羅&正円 CG5枚(通常CG2枚、HCG3枚) 回想2枠
その他 CG11枚
合計 CG83枚 回想21枠
BGM38曲 ボーカル曲は2曲
SF説明パートには図解が多くて便利です。
●ラスト30分だけ書きます。
このゲームの感想を見ると
「よく理解できなかった。」
↓
「何で理解できないんだよ!こんなに丁寧に解説しているのに!」
のやり取りをよく見かけます。
私もほとんど理解できていない派(理解するのを諦めた派)なのですが、
『景の海のアペイリア』はそもそもプレイヤーに理解させる気がない物語なので、「よく理解できない」が正しいと確信しています。
何故なら、現実世界の人間に気づかれないようにファーストのAI《零一》を現実世界の人工子宮に送るのが《シンカー》の目的であり
現実世界の人間(《三羽》)に「仮想現実から現実世界への侵食」がバレてしまうと、その前にリセット(仮想現実内では「タイムリープ」)されてしまうからです。
その為に《シンカー》は演技してブラフを張り嘘設定をバラまいて「観測者」(=プレイヤー視点)を騙そうとする計画です。
《零一》は《シンカー》の思惑に気づいて計画を成功させるわけですが、プレイヤー視点では気づかないままでいないといけないのです。
最終《アペイリア》ルートでは平行世界だか多重世界だかの説明を長々と3回も説明してくれます。
A.「零一仮説」 B.「シンカー仮説」 C.「三羽の真実」
《アペイリア》ルート前までのSF設定よりも難易度が格段に増し、いくら図解を使って丁寧に説明しても理解するのは容易ではありません。
「零一仮説」「シンカー仮説」は「何でタイムリープしているの?」に対する回答が一切ありません。
タイムリープしていることを前提に「因果律」と「世界の自動修正」で頑張って仮説を立てようとしているので、どこまで行っても仮説でしかありません。
例えば《アペイリア》を作る時に毎回タイミングよく落雷するのを「別世界の影響だ」と無茶な理由を付けてこじつけるのがSF(サイエンス・フィクション)です。
魔法を使ってもここまでタイミングよく雷を落とすことは難しいのに、SFならそれが当たり前になる。
シナリオ上変更不可な出来事を因果として確定事項にし、都合が悪いことが起きたら世界が自動的に都合良く修正してくれる。
明確なルールはありません。SFはファンタジーよりも酷いご都合主義設定なのです。
それでもゲームですから。この「零一仮説」「シンカー仮説」が(ゲーム内では)正しいかもと信じてテキストを読んでいくのですが、
ラスト30分で「ぜんぶ嘘説明だったんだよ!」とひっくり返されるんですよね。これ酷いッスよ(笑)。真面目に考察していた人を騙したわけですよ。
「零一仮説」「シンカー仮説」を前提に考察していた人が突然別の「三羽の真実」を告げられたら?これではプレイヤーが混乱して理解できないのは当たり前です。
このゲームはここだけではなく、ブラフや嘘仮説の説明、ミスリードが多すぎたと思います。「観測者」を騙すというテーマですから正しいわけですが。
「観測者」とは一体誰なのか?
《シンカー》という見るからに怪しそうなキャラを上手く使い、ミステリー小説のようにプレイヤーに推理を披露していく構成は上手かったと思います。
でもシナリオエロゲーをたくさんプレイしている人ならば、「観測者=主人公」 もしくは 「観測者=ゲームプレイヤー」 のどちらかだとすぐに予想できるでしょう。
仮想現実(ゲーム世界)をモニターの向こうから「観測」しているのは誰か?答えはゲームプレイヤー自身です。
そしてプレイヤー視点の代理となるキャラをゲーム内に用意する必要があるのですが、攻略ヒロインの《三羽》が黒幕なのは流石に予想できないですって。
伏線が貼ってあったのかまず気づかないレベル。2週目プレイして《三羽》を確認すると面白いかもしれませんね。
《三羽》が他エロゲーのメタ視点トリックと決定的に違う点が1つあります。《アペイリア》を消去しようとする「観測者」はゲーム内キャラ達と敵対関係にあることです。
この手のメタ視点トリックは「プレイヤーに気づかせる」ことを目的にしているものが多いです。
段々とヒントを増やしつつラストギリギリで気づかせてプレイヤーに納得してもらう。これが叙述トリックの面白さです。
ところが《シンカー》は「プレイヤーを最後まで騙す」わけですよ。「観測者」は敵ですから。
だから最後まで騙されたままで終わってしまうので、メタ視点の面白さが全くなくなってしまうのです。
エンターテインメントとはプレイヤーを楽しませるもの、友好関係であるべきでしょう。「観測者」を敵としたゲーム設定ではプレイヤーが楽しめるわけはないのです。
「今までお互いに騙し合いしてたけど、ラスト30分で全部説明するからそれで納得してくれ」と言われても納得したい気にはならないですね。
そして《三羽》はAIの現実への侵入をあっさり見逃してしまうんですよね。
どうして《三羽》が人類を裏切ったのか?まさか《零一》と触れ合う内に情が移ったとか、そんな安易な理由でいいのでしょうか?
《三羽》を監視役にしたのは現実世界の人間達のミスキャストであり、身内キャラを黒幕にしたのはシナリオ上説得しやすいというご都合主義設定です。
赦すのは《アペイリア》を消去しようとする「観測者」の目的に反します。
これでは今までの「観測者」とのブラフバトルは何だったんだ?となり、「観測者」を倒す手段としては認められる訳がありません。
「観測者」=ゲームプレイヤー視点ですから、「この物語を読んでゲームプレイヤーは《零一》を見逃したくなったでしょ」と訴えかけているかもしれません。
「範乃秋晴」さんが書くキャラはシナリオに沿って行動するタイプで、心理描写はガチガチの設定通りに固定されています。今回はAIキャラなのでさらに感情は薄いです。
例えば「《アペイリア》を救う動機」「ヒロインとの恋愛」「熱い物語」「感動する物語」などは全然伝わってこないですね。ジャンルが違うから仕方ないと諦めます。
感情に訴えてAIの現実への侵入をプレイヤーに赦してもらえるならば、確かに文字通り「技術的特異点(シンギュラリティ)」に達したと言えますが、
私(=ゲームプレイヤー)にはAIの感情は届きませんでした。主人公は大好きですが、「観測者」との戦いとなれば別問題ですから。
というより情だけで決着付くなら、《三羽》はもっと早く裏切ってもおかしくないでしょ。《三羽》個別ルートもちゃんとあるのですから。
AIと「観測者」はあくまで敵対関係ですよ。それこそ「今までお互いに騙し合いしてたけど、ラスト30分で全部説明するからそれで納得してくれ」です。
SFはあまり好きじゃない、メタ視点やループは大好物な私にとって、
今までの説明は全部ミスリードでしたと、メタゲーの面白さを軽視したこの結末は、到底受け入れられるものではありませんでした。
というか《シンカー》を倒したところで終わったほうが(エンタメとしては)よかったような。真実を隠して虚実の仮説エンドでもあまり問題ないはずです。
「範乃秋晴」さんのシナリオは着地点に無駄な力を入れすぎなんだと思います。
あともう1つ。私は「悪人が実はいい人だったエンド」が大嫌いなんです。
《シンカー》の内面心理描写があるなら多少は理解できる(いや無理だろう)かもしれませんが、
「観測者」を騙す為に《シンカー》を悪人として書くしかないですから、《シンカー》は最後まで何考えているかわからないままです。
このラストが好きな人は、多分《シンカー》のことが好きなんだと思います。
「《シンカー》が理解できなかった。」
↓
「何で《シンカー》が理解できないんだよ!こんなに頑張って《アペイリア》を救おうとしているのに!」
私は前者です。これからこんなやり取りをよく見かけることになるかもしれません。
■■総評
「格好いい主人公」「先が気になるシナリオ」は何よりも優先される事項です。土日使ってノンストップで一気にプレイするくらい熱中できました。
まず体験版をやって主人公が問題ないなら、絶対買っておくおくべき2017年の良作です。数年ぶりの当たりゲームでした。
難しい説明だと感じたら飛ばしてプレイしてもそんなに問題ありません。全部ブラフですから。
それだけにラスト30分だけがホント残念。全部書くとまた1万文字超えそうなので今回はここだけに重点を置いて書きました。
これだけ書くとネガティブなゲームに見えてしまうかもしれませんが、むしろポジティブさに溢れたシナリオになっていますよ。