【惜しい】BGMが無音になる場面が多い。サウンドノベルの音楽はゲームの基礎部分であり、本作は重要シーンでも無音になるので盛り上がらない。シナリオは状況描写もキャラ描写も設定も激薄だが、構成・伏線回収・後半の演出も含めた内容は素晴らしい。それだけに無音演出は勿体ない。
※ネタバレあります
※この感想は個人の妄想です
ネタバレすると楽しめなくなるタイプのゲームだと思うので、未プレイの人は長文感想を読まないほうがいいです。
インストール容量は3.84GB
ハル CG15枚(通常CG10枚、HCG5枚) 回想3枠
コトセ CG15枚(通常CG10枚、HCG5枚) 回想3枠
ユキナ CG14枚(通常CG9枚、HCG5枚) 回想3枠
レン CG5枚(通常CG3枚、HCG2枚) 回想1枠
その他 CG7枚
SD 8枚
合計 CG56枚 回想10枠
BGM23曲 ボーカル曲は2曲
●本編(5時間強)
プロローグ→コトセ編→ユキナ編→ハル編 の(ほぼ)完全一本道シナリオです。
●エピローグ(2時間弱)
ヒロイン4人の個別ルートでエッチするだけのアフターストーリーです。
定価7344円のミドルプライス。
エロゲーにボリュームを求める人は買わないほうが無難でしょう。
短いということは、無駄な水増しテキストは(ほぼ)無いということです。
コトセ編までは少しだけ恋愛要素を入れようとした形跡がありますが、ユキナ編後半からは遊びなしのスピード感のある展開になります。
私は「長いエロゲー」でも「短いエロゲー」でも面白ければどっちでもOK派です。
『枯れない世界と終わる花』は短くても「これは面白い!」と感じさせるだけの内容がありました。(どうしても許せない点もあるのですが)
■■無音について
商業アダルトゲームの約8割は「選択式ADV」「サウンドノベル」の紙芝居だと言われています。ゲーム性のない文章を読むだけでのゲームです。
BGMはエロゲーの基礎となる要素で、ほぼすべてのエロゲーでほぼすべてのシーンで音楽が流れます。
私も数多くのエロゲーをプレイしてきましたが、BGMありが標準の業界ではBGMなしのゲームはもはや考えられないくらいです。
『枯れ花』では過去回想シーンや天使が街の住人を花にしたシーンなど、いくらかのシーンでBGMが途切れ無音になります。
他のエロゲーよりも無音の割合がかなり大きいです。体感3割くらい?は音が無いシーンになります。
音楽はゲームを盛り上げるとてもとても重要な要素で、無いと物語が物足りなく感じるのと、違和感があります。
体験版(OPムービーまでのプロローグ部分)ではほぼ問題なし。OP後から無音パートが増えてきます。
プレイ中はこの無音問題が私の頭の中にずっと残り、色々余計なことを考えながらマウスホイールを回していました。
「スクリプトを組んだのは誰だろう?」とか「ミドルプライス低予算でBGMが足りないのだろうか?」とか「1ヶ月延期しているので制作が間に合わなかった?」など
スタッフロールのスクリプト担当の名前が何よりも気になる、こんな状況でプレイしてもシナリオに集中できる訳がないですね。
結局、企画・スクリプト担当が「雪仁」さん。スミレ/CLEARRAVE(ぱれっと等)系のゲームでで無音中心のスクリプトだった記憶はないです。
ゲームエンジンもいつもの吉里吉里Zで環境依存バグの可能性は低め。BGM以外のスクリプト作業は頑張りすぎたくらいで演出がいいゲームと言えます。
BGMは23曲あり数は十分、OPムービーから1人音楽担当が増えているのが怪しい?
悲しい世界・微鬱/泣き・雰囲気ゲー系統であえて無音演出にすることで無常観を出したのでしょうか?いや雰囲気ゲーなら音楽は重要でしょう。
無音になった理由は結局わからないままです。
シナリオゲーの名作は素晴らしい音楽に恵まれているものがほとんど。音楽の重要性をもっと理解してほしいですね。
■■シナリオについて
「雪仁」さんのシナリオは薄いです。
キャラが薄く掘り下げません。ゲストキャラの《ユウ》は軽くキャラ紹介したところでいきなり殺されます。
天使の三姉妹にしたって、病んでいる感情を持っているのにその重みはない。
《コトセ》を救ったのは《マヤ》の言葉で、《ユキナ》を救ったのは《アカリ》オバチャン。主人公が直接救う訳ではなく最後においしいところを持っていくだけです。
また世界設定にしても薄い。説明は本当に最小限だけでダラダラとした説明はありません。
おそらく最もキャラが立っていたのが《マヤ》で2番目は《ショウ》。他のキャラは全員薄いです。
ただ「雪仁」がキャラが書けないシナリオライターなのは過去作などから知っていることで、体験版をプレイして薄味のゲームなのもわかっています。
薄いことをポジティブに捉えましょう。がっつりと心理描写をやるとテキストが長くなりますし鬱度が高くなります。
不要なテキストを削った短時間の雰囲気シナリオゲー、人の命を奪う描写をあえて軽くすることで生まれる無常観もあります。
花びらが吹き荒れる狂った世界の雰囲気を薄いキャラ達で描いていくのが『枯れない世界と終わる花』の特徴です。
《コトセ》《ユキナ》を救う描写がいまいちなのは《アキト》との絆がないからですね。この世界のルールは不変でどうしようもできないです。
喫茶店モノなのに買い出しシーンが多いのが少し気になりました。二人きりの場面を作らないと会話パートを作れないようです。
また三姉妹に微妙な距離感をあえて作っています。三姉妹同士の会話を減らすことでコトセ編やユキナ編で攻略ヒロインのみにスポットを当てることに成功しています。
全ルートで全ヒロインの出番を作ろうとすると無駄な会話が増えてしまいます。『枯れ花』の本編は5時間で無駄を省いて密度を高めています。
泣きゲーぽい内容でゲーム中のヒロインはわんわん泣きまくるのですが、私には全然泣けませんでした。キャラへの感情移入ができないのが原因です。
上手いと感じたのは過去編の使い方です。
過去回想と現代パートを混ぜています。それなのに時系列がわからなくなる場面は一切ありませんでした。
「雪仁」さんのテキストは本当にわかりやすい。文章中でも"ここが伏線ですよ"と強調してプレイヤーに教えてくれます。
《アキト》と《ショウ》のトリックも難易度が低めで、無駄にネタを引き伸ばすのではなくわかりやすさを重視しているように感じました。
びっくりしたのは過去《ユキナ》が「シスター」と呼んだところでした。伏線の張り方は絶妙というほどではなくこの緩めの難易度としっかり伏線回収することで、
現代プレイヤーにも優しくわかりやすいテキストになっていますね。キャラ薄めで鬱軽減といい、シナリオゲーなのにプレイヤーへの優しさを感じる内容です。
伏線回収とは伏線を説明することではなく、プレイヤーに気づかせることが重要です。
そして演出の多彩さ。花びらが舞う演出が世界観を象徴していますね。
過去編はセピア色のCG、文章では狂人の感情を再現し、テロップ演出も多い。花になった人の声が溢れるシーンには驚きました。
背景もCGも綺麗で月虹花の絵やグラフィック演出で魅せるシナリオになっています。
ユキナ編後半からの無駄のない怒涛の展開と演出で完成度の高い終盤になっています(※ただしBGM問題を除いて)。
結末が超ご都合展開ハッピーエンドでもそんなの気にならないくらいいい終わり方でしたね(※ただしBGM問題を除いて)。
《レン》の声優は「秋野花」さん。実はここにも「花」の伏線があったりします。
例えライターの実力が不足していても
構成が良く練って、しっかりと伏線を回収して、終盤になるほど盛り上がっていく展開と、演出をものすごく頑張れば
プレイヤー満足度の高いシナリオを書くことができるいい例になったと思います。
『枯れ花』は、25時間以上もテキストを引き伸ばすだけの構成の悪いシナリオゲーへの挑戦状かもしれません。(※長くて面白いゲームもあります)
ボリュームあることが必ずしも良いわけではないです。短くてもプレイヤーを楽しませようとするゲーム、そんなゲームがこれから増えてほしいところです。
■■エロについて
《コトセ》を選ぶとコトセ編ラストにエロ1回。本編ではそれ以外全く変化しません。
《ユキナ》を選ぶとユキナ編ラストにエロ1回。本編ではそれ以外全く変化しません。
変わった仕様なので戸惑う人もいるでしょうが、1週目に《ハル》or《レン》を選んで、本編エロなし+オマケエロのゲームだと思えば違和感はないでしょう。
キャラも薄く恋愛も薄い。エピローグはオマケ程度でらぶらぶ恋愛はほぼ無し。
あくまでシナリオゲー/雰囲気ゲータイプと見るべきで恋愛要素は諦めたほうがよさそうですね。
そもそも家族ゲーなので姉や妹とエッチするのはおかしいです。本来は個別ルート方式よりハーレムエンドのほうが正しいです。
さてオマケ程度のエロのはずなんですが、実はエロは濃いんですよね。シナリオゲーだろうとエロが濃いのは嬉しいものです。
「雪仁」さんの「スミレ」は萌えゲーブランドから抜きゲーブランドに移行して成功しました。
実は「雪仁」さんはキャラ萌えがダメで、濃いエロが得意なライターだったことが最近になって証明されました。
全シーンが2回戦以上。射精回数と絶頂回数が多く短時間で淫乱にイキまくるのが特徴です。汁描写も濃いので汁ゲー好きにもオススメ。
なお《レン》は生理がまだ来ていません。胸は膨らんでいてそんなにペドい身体ではないのが残念なところ。
■■総評
一見萌え系に見えて恋愛要素がほとんどなかったり、ミドルプライスとはいえ極端に短いシナリオとキャラを掘り下げないテキストなど
普通のエロゲーとして見るとネガティブな部分がある挑戦的な本作。
それらの批判をポジティブにとって、構成・伏線回収・演出でゲーム内容の密度を高めたシナリオになっています。終盤の世界観と綺麗な終わり方を見せてくれました。
プレイヤー視点をよく理解しているエロゲー。
それだけにBGMの無音パートが多すぎたことが本当に勿体ない。エロゲーマーとしてどうしても80点以上はつけたくないのでこの点数にしました。
まず体験版をプレイし「雪仁」さんの特徴を知った上で、
現代エロゲーが長すぎると感じる人、シナリオを求める人にオススメしたところですが、BGM問題のせいで自信をもって薦められるエロゲーでないのが痛いところ。
シナリオゲーと雰囲気ゲーの中間のようなタイプです。(BGM問題を除いて)こんなゲームを待っていたんだと言える一本でした。