ErogameScape -エロゲー批評空間-

t2さんのキミのとなりで恋してる!の長文感想

ユーザー
t2
ゲーム
キミのとなりで恋してる!
ブランド
ALcotハニカム
得点
79
参照数
760

一言コメント

キャラ描写がとても良い。ヒロイン3人(+2)の内面を丁寧すぎるくらいに描いていて、幼馴染のバランスが取れた関係が素晴らしい。「普通」のシナリオを面白く書けるライターの実力は本物。欠点は中身が無いことと構成の悪さ、それと妹システム。「いいゲームなんだけど・・・」止まりで期待しすぎるとがっかりする。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※ネタバレあります
※この感想は個人の妄想です

サントラが無いとED曲が聞けません。初回版にサントラがついているのではなく、初回版予約特典にサントラがついているようです。
購入するときはサントラ付きかどうか確認することをオススメします。





「普通」
普通のシナリオ、普通の萌えゲー。『となこい』はストーリーの中身だけで言えば中身は空っぽです。
普通を面白く書けるキャラ描写がよいテキスト。どんな物語でもキャラクターがいいものは高く評価したい。

《莉奈》はライターさんのオススメ!なだけあって一番魅力がありキャラが書けていたように見えました。
他に《瀬古》と《先輩》の会話も好き。
《なぎさ》は一番キャラが薄くシナリオの大半が主人公の物語。単体ヒロインの魅力より3人の幼馴染の関係が良かったです。



ライターの「おるごぅる」さんは腐女子です。とても腐っています。
男性ライターと異なる点はいくつかあるのですが、その中で気になったのは

<<<『となこい』にはゴールが存在しない>>>

ことです。
キャラは濃くブレることもなく、設定が濃い本作ですがストーリーの中身は何もない。
シナリオに「起承転結」という概念は存在しません。盛り上がるイベントで終わりとか区切りが一切存在しないのです。
例えば陸上部がテーマなら競走するバトルシーンを入れて熱い展開に持っていくこともできますが、このゲームでは一緒に走ることはあってもバトルはしません。
「何かに決着をつける」ことはしません。問題をスッキリ解決することはしません。

キャラが良くエロテキストもいい(絵と塗りは微妙ですが)。いいゲームなのに何か足りないのは、物語の締りの悪さではないでしょうか?
《なぎさ》の物語としても、《秋人》の物語としても、幼馴染達の物語としても足りていない。まだ1つのゴールに辿りついていないからです。
最後までプレイしても「何か物足りないなあ」と感じてしまいます。



さて、このゲームの最大の問題点。妹システムについて。
前作が妹ゲーなこと「おるごぅる」さんが妹が得意なこと。「ALcotハニカム」=妹ブランドのイメージがついています。
ですが本当に妹は必要なのでしょうか?「ALcotハニカムは妹を押さなくっちゃ」に捕らわれすぎてないでしょうか?

というのもこの兄貴のシスコン度は高くないからです。
女子陸上部マネージャーとして、幼馴染として、全キャラにいい顔をしている理想を固めた主人公になっていて、妹のことは特別ではないのです。

《恵》は「兄の乳首を触る」「おっぱいおっぱい」「下ネタ」「ゲームをねだる」などコメディキャラ扱い。婆さんもですがブラックコメディばかりです。
たま~に少しいいことを言うこともありますが基本「ブラック」なのでそこまで感情移入はできません。
妹ゲーでは「兄と妹の関係が重要」だと思っています。このゲームでは幼馴染の関係のほうが明らかにメインで《恵》がいなくてもストーリーに支障はありません。
《なぎさ》ルートですらクラスメートの前で恋人関係を告白した時点でストーリーは終わっています。
主人公の陸上復活も、深刻なトラウマを抱えているとかでもなく、《恵》無しでも復活する直前くらいまで行きます。

シリアスシーンでも《恵》は常にボケ続けます。そうすることでお腹の痛いシーンを軽減しているのは分かります。
でもその役目は《莉奈》も担当していて、ボケつつも最低限のシリアスをこなしています。
出来るだけプレイヤーに優しいシナリオにしようとしても、決めるところはちゃんとやらないとダメ。《莉奈》のほうがずっといいですね。
また《恵》のボケにツッコミを入れないことが《恵》の妹度を高めているように見えますが、《恵》に甘いのは全キャラ共通事項です。
《恵》は「みんなの妹ポジション」であって《秋人》との兄妹の関係の特別性は不足。

《恵》不要説。ヒロインルート後半になるとウザイだけの《恵》は必要ないのでは?それが《なぎさ》ルートクリア直後の感想でした。


――それでも「おるごぅる」は妹ライターだ
――ALcotハニカムは妹ブランドだ

このゲームの一番最後のエピソード、本編クリア後の一番最後のサイドストーリーに「妹の失恋」を持ってきたのはスタッフの妹愛でしょうね。
恋を自覚して初めてタイトル画面で隣に並びます。『キミのとなりで恋してる!』――ゲームタイトルのもう1つの意味に気づいた時は鳥肌ものでした。
最初のタイトル画面では《恵》は1人だけ後ろにいて隣に並んでいません。全クリア後では主人公に見えない位置でひっそりと隣に並んでいます。
振り向いている《秋人》と《莉奈》。ずっと後ろにいた《なぎさ》と《恵》が隣に並びますが表情は見せていません。この対比構図も面白いです。

ゲームは妹から始まり、本編ラストは妹離れ、サイドストーリーで妹の失恋。
ただそれでも本編で《恵》がネタ要員だったこと、兄との特別の関係が足りないキャラなのは変わりません。エロ無し4人目の攻略ヒロインにはなっていないはずです。
《恵》をどう評価するべきか?妹愛の暴走をどう捉えるべきか? プラスもマイマスも両方あってすごく判断に困る「妹システム」でした。