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t2さんのリアル妹がいる大泉くんのばあいの長文感想

ユーザー
t2
ゲーム
リアル妹がいる大泉くんのばあい
ブランド
ALcotハニカム
得点
80
参照数
664

一言コメント

【上級者向け】エロゲーのあるある・メタネタが詰め込まれた「エロゲー」らしい「エロゲー」。しかし真ルートが一番楽しめなかったのはどうなんだろうか?妹ゲー…いもうとゲー?なのかよくわからなくなってきた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

妹に定評のあるおるごぅるさん。とのことですが
「おるごぅる」さんと言ったらやっぱり寝取られですよねー。とパッケージを見て突っ込み。
本編にたっぷりの寝取られネタが入っていて(笑)、他社のライター過去作『うちの妹のばあい(はぁと)』を自らネタにする姿勢に感動しました。




インストール容量は1.00GBです。

大泉栞  CG20枚(通常CG16枚、HCG4枚) 回想2枠
大泉麻衣 CG20枚(通常CG14枚、HCG6枚) 回想2枠
妹尾美紀 CG8枚(通常CG2枚、HCG6枚) 回想3枠

その他 CG2枚
SD  なし
合計  CG50枚 回想7枠
BGM15曲 ボーカル曲は2曲

定価6090円のゲームなのでボリュームは値段相応です。
画面サイズが800×600というのを考えるともう少しCGがほしいかも。BGMも不足気味です。
シナリオは10時間程度でちょうどいい長さ。
エンデイング曲はTrueエンド扱いの《栞》エンドのみボーカルあり。《麻衣》エンドと《美紀》エンドはオフボーカルになっています。

エロは腐女子ライターらしく主人公受けシチュが多め。完全マゾゲーではなくヒロインも感度が高い仕様。
結構尺は長くねちっこいテキストでいい感じです。




●メタ

本作はエロゲーのあるあるネタが大量に詰め込まれたメタ作品です。

2010年当時はエロゲーを題材にした漫画や小説が増え始めた頃でしたが、それらの作品は「偽物」が多かったと記憶しています。
エロゲーへの愛が感じられず、どこかエロゲを小馬鹿にネタにしているように感じられる内容。
エロゲーを全くプレイしていない(もしくは数本しかプレイしていなく)、間違ったイメージのみで書いていると感じるものが多かったです。
例えば今なら「エロゲーって紙芝居のまま進化していないんでしょ?」と認識している一般オタは多いでしょう。
それが間違った認識なのはこのサイトを見ている人なら当然わかるはずです。
歴戦のエロゲーマーなら「本物」と「偽物」を瞬時に見分けられるでしょう。

『大泉くん』のばあいは本物です。本職のエロゲーライターが書いていて、
『うちの妹のばあい(はぁと)』や『死神の接吻は別離の味』などライター過去作をネタにしています。
何よりこの婦女子のおばさまはエロゲーマーの視点がよくわかっています。ほぼ全てがツボでした。《彰》のエロゲー愛には何度も共感させられました。
エロゲーへの本物の愛がこれでもかってくらい溢れたメタネタは素晴らしい。ブラボー。
本編には寝取られを酷く恐れるエロゲーマー達が描かれています。NTRのとてつもない破壊力を経験した人でないと何言っているかよくわからないでしょうね。

主人公の《涼》は空気で無感情に徹しています。何色にも染まりません。
プレイヤーにモニター越しでヒロインを見て欲しいから、寝取られにならないように主人公とヒロインとの恋愛を否定するメタゲームだからです。
エロゲーマー視点とゲームの中のヒロインたち。この関係は重要です。

エロゲーは2次元、リアルは3次元。2次元と3次元は決して移動できません。
《麻衣》はバーチャル妹。では《栞》がリアル妹なのか?と思われがちですが、違います。このゲームのタイトルをきっぱりと否定しなければなりません。
《栞》もバーチャル妹です。ゲーム内のエロゲーヒロインらしい属性たっぷりのキャラクターでしかありません。
仮想現実の世界からプレイヤー視点に呼びかける神様(おるごぅるさん)に作られたキャラクターで出来ています。
なのでキャラクターが無機質で平面的に感じられるでしょうが、最初からそういうコンセプトです。

メタゲーを楽しむにはまず2次元のヒロインは2次元でしかないことを、作り物だと認識することが必要です。悟りを開きましょう。


日常系に属する本作は起伏が少なく少々眠いところもありますが、メタネタがどれも面白く退屈するところは少なかったです。
尿検査や生理ネタなど生々しさがあるのも女性ライターならでは。



●妹尾美紀

逆寝取られの話です。親友視点で親友の妹を寝取るとどうなるかを実験しています。
恋愛の過程なんてありません。主人公は透明でありヒロインはモニターの向こうの攻略エロゲヒロインですから。最初から発情しているのがコンセプト通りなのです。
何でこんなに寝取られ連呼しているのか?それはライター過去作を知っているととても楽しめます。
『うちいも』を調べると何故か『うちの妹のばあい 純愛版』なる怪しいタイトルもあることはわかると思います。当時はいろいろありました…ええ色々あったんですよ。
寝取られタイトルと純愛タイトルの両方を経験した「おるごぅる」さんは、プレイヤーの寝取られ限界点がどこだか理解しています。
なのでギリギリまで攻めても大丈夫な線引きがちゃんと出来ていますね。寝取られ独特のイヤな空気はしっかりと消しています。



●大泉麻衣

バーチャル妹。ゲームの中のゲームの中の妹のはずですが、それっぽさは低め。少し違和感あり。
天使のような性格の割にたまに毒舌会話があったりとライターの癖が出ています。
あくまで義妹、本当の妹でないことを強調し線引きができています。ここは徹底していましたね。

たまに感じる違和感のある会話や、
入れ替わり時に《栞》が謎のデレデレっぷりと何事もなかったかのようにスルーする主人公に疑問を感じたのですが、思いっきり伏線でしたね。
《麻衣》の面白さは《栞》ルート前半で補完されます。入れ替わりにもう1つの意味を持たせたり、ゲームの中から出てきたヒロインはこういう意味だったり、
義妹設定や親戚の《大泉麻衣》を名乗ったことなど、伏線回収は完璧ですね。《麻衣》アフター(《栞》と《月吉舞》視点)は読んでみたかったかも。



●大泉栞

さて問題の真ヒロインであり、私が合わなかったガッカリした実妹。
まずリアル妹ではなくこの子もバーチャル妹の一員なこと。《麻衣》とは別の距離感はちゃんとできています、途中までは。
ホモネタが五月蝿くなった辺りからシナリオが崩壊していきます。

このゲームは妹ゲーだと言われますが、プレイして妹ゲー失格だと感じました。

お兄ちゃんが出来ていないんです。寝取られ回避のためのモニターの向こうの無機質な主人公は妹愛が足りていません。
部分的には妹愛を感じられるパートはありますが弱い。連続性のあるシナリオでない日常系の本作の特徴も影響しています。妹愛が強烈な《彰》がいますしね。
エロゲーの兄貴はシスコンすぎるくらいで丁度いいんです。理由があってあえて距離感を作っている設定が兄妹の絆を消しています。
兄と妹だから分かりあえる特別な関係がなければ妹ゲーにはなりません。

そして妹は「実はすでに攻略済みだった」との内容。即デレですらありません、ゲーム前に主人公以外に攻略されている非処女みたいなものです。
過去編を深くやるわけでもなく、なんとなく「わからないままキスした」だけで妹との恋愛になるんでしょうかね?

《美紀》→迫られているうちに好きになっちゃった。恋愛動機が弱いから恋愛描写も薄い
《麻衣》→迫られているうちに好きになっちゃった。恋愛動機が弱いから恋愛描写も薄い
そして「リアル妹」ポジションの《栞》も全く同じパターンです。
《栞》が本性を現した後はエロゲ的ツンデレキャラが酷く、エロ前後まで来ると《栞》《麻衣》の差がほとんどありません。
2種類の妹の差は血縁だけなのでしょうか?キャラクターの差別化はできていたのに、エッチ時は同じになるのはどうなんでしょうか?

>【栞】「なんでわたし、初体験のあとからずっと放置されてるの?」
この主人公を象徴する台詞。告白した初体験しても「恋愛前後で空気主人公(モニターの向こう)のキャラは変化しません」
記憶も過去回想が足りないくらい、そして現代の恋愛も足りないですね。無駄なホモネタ削ればミドルプライス容量のエロゲでもちゃんと恋愛の過程は書けます。

なのでこの主人公はお兄ちゃん失格で、妹はバーチャル妹だと見ます。
「おるごぅる」さんが書く主人公は腐女子視点では格好よく見えPOV投票でも上位ですが、
エロゲ主人公とヒロインの恋愛描写が極端に薄いように感じます。私には合わないようです。

この手のメタゲーは画面の向こうのゲーム的キャラになりどうしても薄くなってしまいます。開き直ってシナリオの犠牲にすればいいのですが、
妹シナリオとなるとキャラの濃さが求められます(主人公も!)。そこで失敗していますね。メタの副作用は強いのです。

両親の離婚問題に振り回され「俺たちは子供なんだ」と別れを受け入れてしまいます。
受けエロシチュが多いですし、この主人公はヘタレ成分強めなんですよね。
ホモとのバスケ練習や、妹ビンタなど決して妹を甘やかすだけではなくだからと言って格好いいわけでもない。
離別シナリオはエロゲーあるあるの1つでこの発売時期に猛威を振るったシナリオタイプですが、正直面白くない。
普通のエロゲーなら「一度別れて妹を迎えに行く」の選択肢を選んだからバッドエンド一直線になるような気がしますが。
この《栞》ルート後半だけ「メタゲーの特徴が突然に消えて凡エロゲーに成り下がっている」のです。落差が酷かったですね。
こんな普通にダメなシナリオを最後に持ってきて欲しくなかったです。それでいて空気主人公とバーチャル妹要素だけはしっかり残していますし。


《栞》ルート5/31のHシーンよりより

>【涼】「……栞のこと、妊娠させてもいいか?」
>【栞】「にん……し……? お兄ちゃん……の?」

>俺は亀頭を膣奥に押しこみ、栞の子宮口に粘着する。
>本気で妊娠させようとは考えていない。
>これから先も、俺がそれを考えることはないかもしれない。

>【涼】「このまま、ふたりで赤ちゃんを作ろう」
>【栞】「はぁはぁ……うん、ちゅくる……あかひゃん……いっぱいっ……いっぱい、ちゅくるぅぅぅ!」

>どんなに愛し合っても、俺はこの子をお母さんにしてあげることはできない。
>だからできもしないことを口にして、それで自分を納得させている。

あれだけ「妹を孕ませる」と言っておきながら、安全日に逃げ《涼》は子作りを否定しています。主人公の意思の弱さが見えます。
実妹と性行為することがバーチャルで、孕ませないことはリアルへの線引きです。ライターさんが書きたいのはあくまで「リアル妹」のようです。
バーチャルの中のリアル。それは普通によくあるエロゲーでとてもつまらない妹シナリオの典型です。


1つ仮説を立てておきます。
「おるごぅる」さんは攻略できないサブキャラクターの使い方がとても上手い。でも攻略可能になると主人公とヒロインの恋愛描写の薄さから途端にダメになる。
検証したい人は氏の他の作品もプレイしてみてくださいね。

《麻衣》システムや恋のキューピットとしての役割を明確化しればよかったのですが、
そもそも攻略済みのカップルだったので球技大会の時点で《麻衣》の役目は終わっていてあとは消化試合です。
噂になっていたALcot伝統の《舞》のタイトル画面も、メタ的に《月吉舞》は攻略できない妹が他のヒロインを応援し見送るゲームの設定通りに戻ります。
この子だけは最後の最後までバーチャル妹だった。やはり「おるごぅるさん」は攻略できないサブキャラを書かせたほうが上手いと思います。




エロゲー50本以上プレイしている上級者向けです。初心者プレイヤーではメタネタの全てを受け入れられないと思われます。
《麻衣》ルート終了時は90点overの殿堂入り・名作認定するつもりだったのですが、《栞》ルートが普通に駄目すぎてすっかり冷めてしまいました。
このゲームをやって私みたいな、実妹を否定、《栞》ルート「だけ」が嫌いって人どれくらいいるんでしょうかね?
データ数1300の超有名ゲームなので感想もたくさんあり、後で読ませていただきます。