ErogameScape -エロゲー批評空間-

t2さんのナツユメナギサの長文感想

ユーザー
t2
ゲーム
ナツユメナギサ
ブランド
SAGA PLANETS
得点
76
参照数
774

一言コメント

【新島夕は安玖深音が嫌い】最大のネタバレを見た状態で人はシナリオゲーを楽しむことができるのだろうか? その結果

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※開幕から最大級の◆ネタバレ◆があります。










『ナツユメナギサ』は2009年7月31日に発売しました。今から9年前ですね。
低迷していた「SAGA PLANETS」を浮上させたエロゲーであり、シナリオライター「新島夕」さんの出世作でもあります。

そして「SAGA PLANETS」や「新島夕」作品の長文感想で『ナツユメナギサ』のネタバレをよく見かけます。
「他作品のネタバレ注意」と書いてくれている人はまだ優しいほうですが、警告なしに他作品のネタバレをしている人もいます。
世の中には『ナツユメナギサ』をプレイしたことがないエロゲーマーもいるんですよ!

ということで「実は●は●●●いる」のネタバレを見た状態で楽しめるのか?の問題があり今までこのゲームを避けていましたが、
シナリオゲーがやりたくなったので崩してみることにしました。ライター6人のシナリオを纏め切ったという奇跡の作品をいざプレイ。




記憶喪失の主人公とちょっと不思議世界からスタート。ヒロイン達とコメディタッチの出会いから始まり最初の印象はまずまず良好。
「新島夕」さんの主人公はあまり良くないのですが、コメディパートのノリの良さと主人公への優しさを感じるので不快感はほとんどないですね。
噂の《羊》もめっちゃ可愛い。適当な部活を作ってメンバー集めて共通ルート終了。う~ん昔ながらの王道パターンとしか言えないです。


プレイ順は 《つかさ》→《はるか》→《羊》→《真樹》→《歩》 にしてみました。
《歩》シナリオは段階解禁型のようですが、1300人以上の先輩たちの声を聞くと「最後にまとめてプレイせよ」とのこと。



■■《青山つかさ》 50点

あれ…あれ…あれ…?シナリオゲーがやりたくてプレイしたのに。おかしいぞ???
最初2人は捨てキャラの萌えルートなのでしょうか?と最初は戸惑うもルート後半は一応シナリオゲーぽくなって一安心。
「木之本みけ」さん担当とのことで変態エロも期待しましたが、流石に2018年のエロスに慣れていると2009年の萌え系エロでは物足りないですね。
(私が同時期にプレイした別のエロゲー → http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/game.php?game=25031)

シナリオの内容自体は薄く、中身が面白いわけではありません。
でもラフ絵による超圧縮された過去回想はプレイヤーを騙すには十分で、ちょっとびっくりしたところも。

謎の妖精王は個別ボイス設定を弄ってみると正体が《大場音々》だと判明します。
この時点ではプロローグの情報しかなく、《大場音々》は過去編の素潜り部に登場した謎のキャラであることしかわかっていません。

また《つかさ》エピローグでは主人公が登場しなく、常夏の世界のはずなのに雪が降る冬になっています。
ここからゲーム世界は夢であり、主人公・ヒロイン達は何か過去の問題を抱えて夢世界に紛れ込んでいると推測できます。
仮想現実系の機械による集団催眠がよくあるパターンですが、『ナツユメナギサ』の作風からいってもう少しファンタジー色の強い夢設定を予想しておきます。




■■《遠野はるか》 72点

病弱少女の物語です。《はるか》は「自分の体調はわかっている」と言っていますが、無理に活動してはすぐに寝込むお決まりの駄目パターン。
またメイドの《アリア》が何をしたいのかよくわからないんですよね。お嬢様の身体を守りたいのか、意志を尊重して自由にさせたいのか。
この時代のエロゲーでは仕方ないことですが、物語が動き出すまでの日常シーンが長いです。

と《アリア》の使い方に強い疑問があったのですが、妊娠発覚直後の正体発覚は衝撃的でした。
ギャグシーンでしかなかった「おままごと」が伏線になっています。2ルート目だから《つかさ》程度だろうと油断していたので破壊力はありましたね。
ただ未来の娘の行動はいくらか理解できたものの、母親を救えなかったのか?という疑問も。過去ではなく夢世界なので歴史改変は出来ず「観るだけ」なのでしょうか?

たった10日で《はるか》の妊娠が発覚したり、出産シーンをファンタジーにして逃げるなど、現実を見せるよりも綺麗な夢物語にしていますね。
病弱シナリオは他にも同じようなものをたくさんプレイしているので、《はるか》の死に対しての衝撃はほとんどなかったです。
逆に00年代泣きゲーを知らない、ハッピーエンド中心になった2017年の未来の人がプレイしたら、別の感想になっていたかもしれませんね。

やはりこの物語のキーは《アリア》だったと思うんですよ。正体発覚以降にもう一捻り、母親との会話など娘を上手く使っていればオリジナルティが出せたと思います。
3人の物語としてはあと一歩物足りないかなあ、と。メインヒロインはあくまで《はるか》のようですが、私には娘の《アリア》のほうが印象が強いです。




■■《美浜羊》 71点

Q.魔法が解けたシンデレラを愛し続けられますか?
A.無理。


普通に「姫ノ木あく」さん担当ですね。イチャラブや主人公の積極性、サブキャラの使い方など特徴が出ています。「新島夕」さんならもっとギャグを入れていたでしょう。
初期好感度が高く明るくて楽しいキャラ。ゲーム内で「いちゃいちゃ」の単語が目立ちイチャイチャをみんなに見せつけます。特に中盤が素晴らしいです。
飲食店でバイトしているのにウェイトレス服Hがないですが、代わりにサンタコスを入れたようです。

ヤンデレモードは双子説を考えていたんですけどハズレ。病院嫌いなのもあって隠している設定は《はるか》に近い病弱系なのは想像できます。
火傷、顔に対する強いコンプレックスがあるのはわかるのですが、
大樹の魔法で火傷が一時的に治ると明るいキャラを見せ、人前で歌うこと自体にコンプレックスはない等、
ちょっとスィッチの切り替えが極端すぎたかな?と感じました。猫を助けただけで主人公に一目惚れする辺りも該当しそうです。

「私のどこが好きになったの?」はエロゲーヒロインがよく言う台詞なんですが、
エロゲーの萌えは深い恋愛描写などがあるわけではなく薄っぺらい表面属性によるものです。面倒くさいリアル恋愛など求めていないのでこれでいいのですが。
だから対する主人公の台詞はプレイヤーの心に響かないんですよね。ただ主人公の一方的な思いをぶつける、まあそんなところでしょう。

それで「ヤンデレ《羊》も同一人物だよ」と言われても、無理ですかね。
シンデレラは魔法が解けた後でもシンデレラを演じ続けなければいけない、少なくともシンデレラであろうとする意志を見せなければならない。
これが二次元ヒロインのプレイヤーに対する愛であります。私は二次元がまがい物だとはっきり割り切れる人間なので。
《羊》の場合、一目惚れするくらい主人公を信用していたはずなのに「信じられないよ」と。
ED前でも鍵は受け取るものの「まだ、ここから、出られないよ」で終わっています。理由はあってもシンデレラを演じることは拒否しているわけですよ。
彼女の都合はわかっても、《渚》=プレイヤー視点の都合は無視して、クリスマスまででヤリ捨てされては、彼女の全てを受け止める気にはなれないかな、と。

「姫ノ木あく」さんも「新島夕」さんもテーマ性が得意なライターではないので、シンデレラのテーマ性を中心に見るとこのシナリオは楽しめません。



■■《老樹真樹》(+《歩》ストーリー1~3) 65点

天才少女らしい所はなく、子供ぽい喧嘩やり取りが中心のようです。伏線は貼るものの回収はせずBADEND。

この後に《歩》ストーリーを纏めてやりましたが、序盤から見られるエピソードだけあっていきなり真相を語るようなことはせず、
コメディタッチのゆっくり恋愛のみ。本作の恋愛パートはそんなに面白くなく、シナリオゲーを期待していると退屈に感じます。
二人の関係を見ると「You付き合っちゃえYo!」しか言えません。

《歩》ストーリーで《渚》の理想の彼女像を語っています。これはどう見ても《真樹》のことですよね?
普通にプレイすると見逃しそうですが、推奨プレイ順(《真樹》→《歩》ストーリー)ならすぐに気付きます。
ということで妖精王のペンギン着ぐるみ繋がりで《真樹》は《音々》の夢の中の姿なのでは?と予想したのですが
・・・
正体そっちかよ!(笑)。意表を突かれた正体にやられて少し悔しいです。

ほぼ伏線回で《真樹》本人のストーリーとしては弱かったのは残念です。




■■《七瀬歩》 84点

ネタバレしていたので大体は想像通りの結末。まあ収まるところに収まったんじゃないでしょうか?私はBAD ENDも好きですよ。
以下このゲーム全体に対する疑問点など。



●《歩》

「ナツユメ」の中に《歩》が登場しない理由。
「《渚》を慕う心」と「《渚》との出会いを否定する心」の2つが「ロビンソン症候群」を起こしていると書いてありますが、
この説明からは、「個別ルート方式は元カノを出さないほうが構成が容易になる」のエロゲー的理由しか見出せませんでした。
《歩》よりも先に、昏睡したヒロイン達の攻略しなきゃいけないのもエロゲー的な理由ですね。
特に《歩》ストーリー2の強い依存性を見ると「《渚》を慕う心」が強すぎて、「《渚》との出会いを否定」「《渚》の寝取られを許容」は考えにくいような。

主人公の真の正体は、ロケットに残っていた《郡山渚》の意識が見ていた夢らしいです。そんな馬鹿な!!
>「生者が死者の夢を見るように、死者が生者の夢を見ることだってあるんだよ!」
いやいやふつう死者は夢を見ませんって。


夢だから何でもありのご都合主義にするのではなく、ある程度ルールを作らないと読んでいるほうも考察しようがなくなります。途中でルール追加型は嫌いです。
私がエロゲーシナリオで禁止事項に挙げているものが「時間を巻き戻す」と「死者を生き返らせる」で、
エロゲーではよくある表現ですが、ある程度の理由を用意するか、ループや蘇生によって話を面白く出来ていないと駄目でしょう。
特に《真樹》ルートの「エンドレスエイト」は2人が超常現象をあっさり受け入れるので、特別性が減ってよりご都合主義だなあと感じましたね。

『ナツユメナギサ』の場合、《渚》のブラジル行きや事故死はストーリーの都合でしかなく必然性はありません。
「新島夕」さんが書きたいテーマは「人を殺して感動させる話」ではなく「《歩》の依存症」なのは誰もがわかることです。
では「ナツユメ」の最後の《歩》の依存症解消はどうなのでしょうか?

>【 歩 】「渚が傍にいなくっちゃ、笑えない……幸せになんてなれないよ……」

>ロケットを差し出す
>【 渚 】「俺の気持ちを受け取ってほしい」
>【 歩 】「ぅ、ん……」
>歩は小さく頷いて、歩はロケットを受け取ってくれた

エア・セックス へ

約1分でこの事件の元凶を説得することに成功(性交)しました。
この手の「お 前 が そ う 思 う ん な ら そ う な ん だ ろ う お 前 の 中 で は な」系シナリオは
2018年現在最も人気のあるジャンルらしいですが、私は好きじゃないです。


最終ルート「ナツユメ」より


>【 歩 】「……私。夢を、見ていました」

>【大河内】「ほう。どんな夢だい?」

>【 歩 】「えと…………」

>【大河内】「…………」

>【 歩 】「…………あれ?」

>【 歩 】「……覚えてないです」

>【大河内】「なんだいそりゃ」

>【 歩 】「えへへ。ごめんなさい」

>【大河内】「ふ。まぁ、夢なんて、そんなものだ」

>【 歩 】「はい……」

>【 歩 】「でも……きっと。素敵な、夢でした……。そう思います」

>【大河内】「そうかい」


他の人も指摘していますが、このゲームを決定付ける最後の台詞なので引用します。

《歩》のストーリーは本人が覚えていない、つまり中身があるわけではなくすぐに忘れてもいいくらいどうでもいいものなのです。このゲームは「夢」ですからね。
覚えていないでも素敵な夢だと思う、エロゲーは中身を覚えていなくても「なんとなく素敵な話だった」というインパクトさえ残せればOK。
「新島夕」さんの夢オチ=逃げの主張はここで終わってます。

記憶は忘れることができますが、記録は残すことが出来たりします。
もうほとんどの人が忘れているでしょうが、プロローグに出てきた「素潜り部の活動日誌」があります。恋のにっきなら忘却を打ち消すことが出来ますよ。きっと。



「新島夕」さんのシナリオの魅力は構成力やトリックにあり、
《アリア》の正体、《真樹》の正体などプレイヤーを驚かせる部分があり、バレバレではありますが実は夢世界の中だったオチも見せ方はいいほうです。
《歩》を感動路線ではなく記号的+ご都合主義にしたことで、よりトリックゲームの要素を強めていますね。






●《はるか》

他の人の長文感想を読むと「アリア=有田」と書いている人が結構いますね。あれ?もしかして物凄く重要なところを読み飛ばしちゃった?


《歩》ストーリー4より

>【大河内】「いつまでも、そのことに囚われていてはいけません。あなたがそんなことでは、お母さんも心配してしまいますよ」

>【???】「わかっています。けれど時々、考えてしまうんです。私さえいなければ、生まれてこなければ、母は死なずに……」


あーこれですか。たった2行の会話で《はるか》ルートの前提が全部崩れますね。
今考えると、《アリア》=《有田》説が70%以上、ただミスリードの可能性もそこまで低くはないでしょうね。
そして、それ以外の部分は状況証拠が「無い」ので考察しようがありません。どこまでいっても推測しかできません。


《はるか》ルートを推測しようとしてもさっぱり文章がまとまらず、他の人の感想のほうが素晴らしい考察しているのでそっちで十分のような気がしてきました。
以下の箇条書きで《はるか》への供養とします。理由・根拠を書くといつまでもまとまらないのであえて書きません。
「おそらくこうだろう」という推測です。《はるか》ルートは『ナツユメナギサ』の中でかなり異質で、「ナツユメ」編と方向性が大きく異なり判断に困るんですよ。


▼現実世界の《有田》=夢世界の《アリア》である。《アリア》は現実世界の記憶を持たない。

▼夢世界の《はるか》は現実世界のサナトリウム入院患者で実存する。

▼夢世界の《有田》はフェイクである。《羊》が夢見た妄想もしくは夢世界のNPC扱いで、夢世界の《有田》と《アリア》の繋がりは一切ない。

▼現実世界の《有田》は《はるか》の担当看護婦である。

▼《有田》=《アリア》と《渚》《はるか》との血縁関係は一切ない。

▼《有田》の悩みと《はるか》の悩みの方向性がたまたま一致したので1ルートにまとめて配役を割り振られただけである。

▼患者《はるか》視点では担当看護婦《有田》との関係はあまり良好ではない。《はるか》は《アリア》の話を聞かない。(《はるか》ルート最大の欠点)

▼現実世界の《はるか》は妊娠していない。夢世界の妊娠は想像妊娠扱いである。

▼《はるか》エピローグは夢世界の《はるかの娘》か、《有田》が見ている夢のどちらかである。《はるかの娘》と《有田》の意識共有が示唆されている

▼「ナツユメ」後に一度目を覚ました《はるか》は手術を受ける?ことを拒否して死(幸せ)を選ぶ。

▼「ナツユメ」後に《有田》はエピローグで夢見た母親のエピソードを《はるか》に話す。《有田》も《はるか》の死を受け入れる。

▼《はるか》【死を受け入れる】→【死を受け入れる】(変わらない) 《有田》【死を受け入れられない】→【死を受け入れる】(変わる)


※小説版で《はるか》ルートの補完があるようです。






●《羊》

『ナツユメナギサ』最大のミステリー。
「姫ノ木あく」さんの《羊》ルートが、「新島夕」さんの「ナツユメ」によって主人公が死んでいたことにされ、エンディングが全く別の解釈になってしまうことです。
発売から9年経っていますが、この謎に無謀にも(軽く)挑んでみます。



《美浜羊》エピローグより。


>【 美浜 】「これが夢なら、絶対に覚めませんようにって、猫の美浜は願うの」

>【 美浜 】「もし目が覚めて」

>【 美浜 】「どこか冷たい路地の裏に1匹でいたことを思い出してしまったら」

>【 美浜 】「すごくすごく悲しくなって」

>【 美浜 】「もうきっと、1人ぼっちで、旅は続けられないと思うから」

> ……

>【 美浜 】「でも夢だから。やっぱり覚めちゃって」

>【 美浜 】「美浜は猫の気持ちのままで、すごく悲しくなるの」

>【 美浜 】「だけどね。横に寝てる先輩を見つけて、ほっとするの」

>【 美浜 】「美浜も、猫も」

> そっか。


《羊》と腕を組んでいる男がいますが、誰なんでしょうか?《渚》は既に死んでいます。

▼1.《渚》は実は生きている。
▼2.《羊》の夢はまだ覚めていない。
▼3.別の男でNTRである。現実は残酷である。
▼4.猫は既に死んでいた。



▼1.《渚》生存説

このエピローグのみを見るなら「だけどね。横に寝てる先輩を見つけて、ほっとするの」の通り1番目の生存説が自然に見えます。

しかし、このゲームはヒロインの悩み解決が目的です。
主人公は既に死んでいるのに、《羊》の悩みを解決するためだけに《渚》を生存してたことにするのはとても都合よいように思えます。
そして「ナツユメ」編では、《歩》の依存症解消のためだけに主人公を殺して二度と帰ってこないようにしています。
《羊》ルートの「依存」と、《歩》ルートの「依存解消」は完全に相反するテーマなのです。

この生存説の場合、《羊》エピローグと「ナツユメ」編は繋がっていない、とするしかありません。
1つのゲームの中に複数の設定があり、《羊》ルートのみ例外的にグランドエンドの設定が適応されない、と解釈を捻じ曲げることで生存説にたどり着けます。



▼2.夢の中説

《歩》ルート「ナツユメ」より

>【 歩 】「それでももし……もし私が迷いそうになったら。その時は……」

>【 渚 】「あぁ」

>【 渚 】「その時は、この夏のことを思い出せばいい」

>【 渚 】「夢に見ればいい」

>【 渚 】「歩も俺も…。ここで、いくつもの夏を過ごしたはずだ」

>【 渚 】「俺がいた夏を思い出せ、そして俺たちの約束を」

>【 渚 】「そうしたら……」

>【 渚 】「やがて新しい夏が来る」

>【 渚 】「今とは違う。けれど、もっと楽しい夏が来る。」

>【 歩 】「そう、だね」

>【 歩 】「きっと……そうなんだね……」


ラストの台詞で「あれ?」と思った部分です。《歩》の依存解消のはずなのに、挫けそうになったらまた夢世界に戻ってもいいよとのこと。


>【 美浜 】「美浜は猫の気持ちのままで、すごく悲しくなるの」

一度起きて現実を見て悲しくなり


>【 美浜 】「だけどね。横に寝てる先輩を見つけて、ほっとするの」

再び夢を見て「横に寝てる先輩を見つける」。《羊》の妄想の中の《渚》です。


合鍵は受け取ったけどまだここから出られない発言で《羊》ルート本編終了したのは上で書いた通りです。
《羊》の闇は深く他人を信用できずにいます。《羊》にはもう夢の中しか残されていません。
一度は意識は取り戻しても、思い出すたびに夢世界に逃げる日々を送るという解釈ですね。この場合はBAD ENDになります。



▼3.NTR説

>【 渚 】「やがて新しい夏が来る」

>【 渚 】「今とは違う。けれど、もっと楽しい夏が来る。」

ここにヒントがあります。夢世界に逃げ込んで夏を思い出したら「今とは違う楽しい夏が来る」とのこと。
《羊》にとっての「夏」は「せんぱいせんぱい」の依存なわけです。つまり新しい先輩が来る=NTRとなります。

特に、《歩》ルートと《羊》ルートが同一設定として整合性を合わせる場合、最終的には《羊》も依存からの脱却を目指すことになるでしょう。
サナトリウムの《羊》は目覚めており現実世界で腕を組んでいるとしたら、そこに死んでいる《渚》はいません。
新しい彼氏ができた、信用できる《渚》の代わりの者が傍にいるとなります。夢の中説の続きはNTRの可能性が待っています。
少し発展しすぎかもしれませんが。

この場合、ヤンデレキャラがあまり好きでないことから、私はNTRのダメージを最小限に抑えられそうですが、《羊》大好き派にはご愁傷様でしたとしか言えません。

ただNTR説は《羊》の強すぎる人間不信と、まだここから出られない発言で終わったことで、しばらくは主人公以外信用できないでしょう。
《羊》エピローグでいきなり精神病が治るところまで時間が飛ぶのも少し無理があります。
ただし、エピローグ後に時間が経てば「やがて新しい夏が来る」と《渚》の予言通りになる可能性があるのも事実です。


では《はるか》妊娠説と同じように、《羊》は元々現実世界に別の彼氏がいたよ説ではどうでしょうか?
現実世界で恋人がいた2人が、夢世界で《渚》と浮気するように設定を変えられ、夢世界の恋愛経験を経て現実に戻る設定です。書くだけでも嫌になりますね。

《羊》の場合、夢世界で突然《渚》に一目惚れするわけですよ。
「彼氏あり」+「人間不信」に加えて「一目惚れ」まで追加したら、《羊》はどれだけビッチなんだ?という話になります。
現実世界から記憶は引き継げませんが人格は共有です。やはり助けてもらう=惚れるは恋愛経験なしとみるのが自然でしょう。
ただ《羊》はメンヘラなところがあるからなあ(笑)。

また別ルートでは《真樹》が恋心を成就しているので、クリスマスの大樹の願いではNTR等の酷いことはしないような気がします。
《はるか》妊娠説を否定している理由も同じです。というかNTRに強い根拠がなく、あるなしどちらでもいい状況なら、より面白そうなほうの設定を支持したいです。




▼4.《羊》の正体は猫で死んでいるよ説

《羊》ルートより

>【 美浜 】「美浜は、あの時先輩に助けられた猫なの」

>【 渚 】「いや……」

>【 渚 】「何を、言っているんだ…」

>【 美浜 】「実はあの後ね……。可哀想なあの子は死んじゃった」

>【 美浜 】「けど、優しくしてくれた先輩にもう一度会いたくて」

>【 美浜 】「お礼がしたくて。神様にお願いして、一時、人として命を持つことが出来たの」

>【 美浜 】「クリスマスまでの、魔法をもらえたの」

>【 美浜 】「だけど、今夜クリスマスを迎えて、美浜は可哀想な猫に戻るの」

>【 美浜 】「今はもう、この世にはいないはずの猫になるの」


クリスマスイブのラストセックス直後の台詞。嘘設定だと思わせて実はこれが真実だった説です。


まず《羊》は猫で現実世界でも事故で死んだと仮定します。そして「ナツユメ」編で死者の意識でも夢世界に入り込める設定があります。
ここで障害となるのは、猫=《羊》と仮定すると「サナトリウムにいたキャラは誰なの?」ってことです。
猫に盗聴器をつけた別のキャラがいることになります。

答えを書いてしまうと、《美浜羊》と《美浜千尋》は別々のキャラクターであるとする説です【4.1】。

猫→《美浜羊》
飼い主→《美浜千尋》

彼女は自分のことを《美浜》と呼びます。名前欄もずっと苗字の【美浜】です。ここもヒントになってそうです。
もちろん《有田》さんは患者を「《美浜》さん」と呼びます。


さて、猫と人間が別個体だとすると意識はどうなるの?という問題が発生します。特に猫の恋心と《千尋》の恋心はそれぞれどうなるのでしょう?
意識について色々考えてみました。最初は《羊》→明るい性格 《千尋》→暗い性格 で精神分離路線で考えてみたのですがどうも上手くいかない。
ここがとても難解でつじつまが合う説にたどり着くまで苦労しました。

そこで思い切って設定を単純化してみる事で解決しようと試みました。


▲《美浜羊》と《美浜千尋》は別々の個体を持つ
前者は死んでいる猫、後者はサナトリウムで眠っている患者です。

▲《美浜羊》と《美浜千尋》は同一の意識を持っている同一人物である
猫と人間で完全意識共有している、と定義するのが最も適当であると考えます。


エピローグで猫の死者《美浜羊》は冥界(夢世界)を旅します。そして同じく死者である先輩《渚》を見つけます。

>【 美浜 】「でも夢だから。やっぱり覚めちゃって」
夢から覚めて《美浜千尋》は現実世界に戻ります。

>【 美浜 】「美浜は猫の気持ちのままで、すごく悲しくなるの」
《千尋》は猫の意識を共有しているので「猫の気持ちのままで」すごく悲しくなります。

>【 美浜 】「だけどね。横に寝てる先輩を見つけて、ほっとするの」
同時に、冥界の部屋で《羊》の横に寝ている先輩を見つけて、ほっとするのです。

>【 美浜 】「美浜も、猫も」
《美浜(千尋)》も、《猫(美浜羊)》も。


猫=人間=意識のみ融合説【4.2】は強引すぎないか?と自分でも思うところはあるのですが、完全別人説【4.1】よりも説明が遥かに容易になります。
「2.夢の中説」に近い説ですが、大きな違いは《美浜千尋》が「死者であり生者でもある」ことです。2つの個体を使うことで夢であり現実でもあるのです。
彼女の「依存性」を保持したまま、生者としても目覚めることができる前向きなHAPPY ENDだと解釈することが可能になります。


「別個体+意識共有」の実現性は「《はるか》の出産と《有田》の関係」でも示唆されているかも。
現実世界の《有田》は夢世界の《アリア》であり、同時に《はるかの娘》と意識共有している可能性が高いです。


▲1.生存説の場合
美浜【生】⇔【生】渚

▲2.夢の中説の場合
美浜【生】⇔【死】渚

▲3.NTR説の場合
美浜【生】⇔【生】別の先輩

▲4.1.完全別人説の場合
美浜【生】≠猫【死】⇔【死】渚

▲4.2.意識共有説の場合
美浜【生】=猫【死】⇔【死】渚


まだまだ穴はありそうです。
でも、いかにも正解っぽい答えを見つけることが出来ました。


※小説版は読んでいません。小説版にあっさり答えが書いてあるとかだったらすみません。




▼5.サナトリウムは現実世界だよ説

現実世界のサナトリウムは《歩》の能力の暴走が始まった場所であり、夢世界では近づくのが困難な場所です。
夢世界と現実世界を繋ぐゲートの役割があり、夢世界から直接行ける現実世界なのでは?とする説です。
現実世界《千尋》=夢世界の猫の意識がスムーズに繋げられるのが一番の根拠でしょう。

以下の点で破綻を引き起こすのでボツにしました。

A.夢は現実に干渉できない。
このゲームの大前提ですが、夢世界で何か起きたからといって現実は変化しません。夢と現実の線引きはしています。ただ精神的に救われるだけです。

B.死者は現実に干渉できない
《渚》が(例外的でも)現実に干渉できる設定は、このゲームの根本を揺るがしかねない。
現実世界に浸食を始めたらどんどん広がっていって夢世界を破壊するでしょう。だから絶対にあってはいけない追加設定だと思っています。

C.《美浜》は《渚》以外に心を開いていない
死者が現実世界に行けないとしたら、クリスマス以降は主人公交代だよ、死者ではない主人公が別人にすり替わった説は、
《美浜》の人間不信はかなり深刻でクリスマス直後は特に酷く《渚》すら信用していません。
この時点で《美浜》は他の誰を信用できるのでしょうか?の点から相当無理があると判断します。

D.《美浜》がサナトリウムから数週間いなくなった理由
《有田》さんが証言しています。《美浜》さんがいなくなった。電話連絡はあったと。
サナトリウムパートが現実なら彼女はどこに消えたのでしょう?この矛盾からサナトリウムパートは夢世界だと判断しました。






■■総評

どこかで見たことある「奇跡が起きる」系統のシナリオを再構築したものです。
また個別ルートは1ルート=1ライター担当方式なので、各ルートで主人公の性格や文体は変わります。「姫ノ木あく」さん担当の《羊》ルートが一番文章力が高い。
そういう「寄せ集め」を上手く組み立てて、最終シナリオでひっくり返すことを目的とした面白い構成になっています。
オリジナルティは低いです。日常パートの尺が長くシナリオ開始まで時間がかかるのはありますが、それ以外は「新島夕」さんのシナリオ全体の構成力が光っています。

各ヒロインが悩みを持っている王道パターン。
「夢と現実」がテーマですが、テーマ性の部分はあまり上手くなく、ヒロインが適当に答えを見つけて自己満足して終わり、という内容です。
シナリオの内容自体は予想しやすく、最終シナリオまで伏線を引っ張った割には普通だったなーという感想。私がプレイ前にネタバレを見てしまっているのもありますが。

鬱ゲーや感動ゲーではないですね。世界観とトリックを楽しむ人向き。
「夢オチ」のゲームで結構ファンタジーに逃げる場面が多いので精密な設定などは期待しないように。
それでも、プレイヤーを驚かせようとする構成の工夫がたくさん見られたので、満足度はそこそこ高めです。


シナリオゲーをやりたくてのプレイでしたが、思ったほどの神ゲーでもないが、楽しめた部分も結構あったかなーという感想です。
《羊》ルートの考察は楽しかったです。



←殺意   可愛い→
□□□□□ ■■■■■ 美浜羊(クリスマスまで)
□□□□□ ■■■□□ アリア
□□□□□ ■■□□□ 青山つかさ
□□□□□ ■■□□□ 老樹真樹
□□□□□ ■□□□□ 山口夕実
□□□□□ □□□□□ 大河内夢

□□□□■ □□□□□ 大場音々
□□□■■ □□□□□ 美浜羊(ヤンデレ)
□■■■■ □□□□□ 遠野はるか
■■■■■ □□□□□ 七瀬歩





【新島夕は安玖深音が嫌い2 ~悪霊の神々~】最大のネタバレを見た状態で人は電波女を楽しむことができるのだろうか? その結果 →
もそのうち書かないとと思っているですが、エロゲー屋に行ったら売ってませんでした。残念。