「俺、バカだからよくわかんねぇけどよ、恋愛強者や恋愛弱者なんて恋愛を強さで計る言葉は、本気で相手のことが好きで気持ちが抑えられないなら出てこねぇんじゃねぇの?」タイトルを見てこんな言葉が脳裏に浮かんだが、まさに恋愛の強度をテーマにした登場人物達の心情を深く描いた作品だった
※少しだけWHITE ALBUM2の内容にも言及します。未プレイの場合はご注意を。
【前置き】
恋愛強者、恋愛弱者、SNSなど若者を中心に近年になって聞く言葉にはなったが、個人的には違和感を覚える言葉ではあった。スポーツであれ、対戦ゲームであれ、競技性のあるものに対して他を圧倒するほどの技術を持つ者を強者と呼ぶのはわかる。しかし、恋愛の強者とは何なのだろうか?
「相手の懐に入り込む話術を持ち、素早く不特定多数の異性と関係を作れること」
性欲のままに生きている人間の価値観ならこれを強者と呼ぶのかもしれない。この価値観であれば10人の異性のうち1人が良いと思う人よりも、7人が良いと思う人のほうが強者ということになるので強弱は計りやすい。
しかし、恋愛とは例え10人のうち9人に好かれる強者であっても、自分に振り向いてくれない1人を本気で好きになってしまったのであれば、自分の思いを叶えることができない。どれだけ話術が上手く駆け引きの上手い人間であっても、その1人を別の相手に取られて永遠に相手を思い続けるしかできないなら、この価値観であれば敗者であり弱者だ。
疑問の多い恋愛強度という言葉をシナリオに落とし込み、登場人物達の心情を上手く描いたのが本作であったと思う。
【恋愛に強度があるとすれば。いざという時に勇気を出せるか以外にはない】
恋愛強者の彼女である星良、恋愛弱者である幼馴染の愛の三角関係。タイトルからは恋愛強者である星良が弱者で負け属性とされる幼馴染から主人公を寝取るような内容に見えるが、この主人公、美人の彼女がいながら特定の選択肢後でなければ愛のことばかり考えている不届き者である。
シナリオライターの描写が凄く、一つ一つの行動も含めて心の距離や、主人公がどちらのヒロインを優先しているのかが見て取れるようになっており、ビジュアルノベルとして完成された表現であった。
実際には勇気を出して受け入れられ、絆を育んできたにもかかわらず、彼氏の心の中心には常に別の女がいる苦悩を抱える星良が本当に不憫で仕方なく思えた。強者であるはずの星良が勝つのではなく、弱者であるはずの愛が選択肢まで主人公の心情においては常にリードを続けていることから、恋愛強度の意味を考えさせられた。
愛も自身が主人公に大切にされていることを自覚しながらも、いつまでも勇気を出せず、星良を羨み、嫉妬していくことで心が壊れていく。子どもから悪女へと変貌を遂げ、恋愛弱者から理想とする恋愛強者を演じるようになり、肉欲をもって主人公を篭絡していく。
子どもだった彼女が女へと変わり、狂っていくまでの心情の変化をミドルプライスの短い内容の中で描き切っていたのは素晴らしかった。主人公を奪われたはずの星良がそれでも主人公を信じ、愛に怒りをぶつけずに憐れむところで格の違いが見て取れ、恋愛強度の中で同じ土俵に立てば負けることは明らかということを思い知らされた。
このゲームに第三の選択肢はないが、仮に愛が最後まで諦めずに主人公が好きだった自分のままに勇気を出し続けていたなら、報われるエンドもあったのかもしれない。その結果として報われないとしても、いざという時に勇気を出して、自分の気持ちを正直に伝えられることが真の意味で恋愛の強者なのだろう。
愛のエンドではどこまでも理想的な彼女を演じた星良であったが、愛を振り、誠実であろうとした主人公に対して、これまでに吐き出したくても吐き出せなかった心情をぶつける姿は、星良が思う理想の彼女とは程遠い姿だった。
駆け引きもなく、ただ感情をむき出しにしてぶつける、恋愛強者とは程遠い姿だが、これを機会に主人公は星良のことを考えるようになっていく。共通ルートから考えれば本当に大きな進歩であったと思う。しかし、こうなった理由は、話術巧みに諭したわけでもなければ駆け引きでもない。ただ、自分の感情をありのままにぶつけた結果だった。
最終的に主人公は実際は異なることを自覚しつつも、星良が心の中心にいて欲しいと考えるようになり、それを彼女に伝えたシーンは星良の反応を含めて非常に良かった。恋愛は外野から倫理観が問われやすく、誠実であることが必要とされるが、それ以上に当人同士がどうしたいのかを伝えることが重要である。
蓋を開けてみれば恋愛に強度などという概念は存在せず、告白はもちろん、付き合っている中でも自分の心情を、報われないことや嫌われることを恐れずに伝えられる人間だけが本気で好きになった人と一緒になれる可能性があるのだと思わせてくれた作品だった。
【WHITE ALBUM2との類似点】
個人的に三角関係を扱ったエロゲといえばWHITE ALBUM2を思い出してしまうが、好きな相手に思い人がいるにもかかわらず付き合い、苦しい思いをしながらも一緒に前に進んでいく選択をするヒロインであることから星良が雪菜、先に好きだったのにもかかわらず、思い人を取られ、主人公にとって何を優先しても守りたくなるヒロインであることから愛はかずさのポジションであったと思う。
エンドは2つあるが、個人的には星良エンドは雪菜TRUE、愛エンドがかずさノーマルにあたる終わり方だった。
【最後に】
この作品のシナリオライターが妹と彼女と同じ間崎俊介氏であったことから、バッドエンドとビターエンドの2種類だと思っていたが、珍しくすっきりとした読了感のトゥルーエンドを用意していたので良い意味で期待を裏切ってくれたと思う。
しかし、それはあくまで主人公と星良の立場の話であり、愛の立場からみればバッドエンドとビターエンドしかないことを考えると間崎俊介氏らしさが感じられる。
妹と彼女と比較すると突き抜けたテーマではなかったとは思うが、ロープライスの短い中でまとめられていた内容だったと思う。